142話
「・・・何か疲れてる?」
「・・・気のせいだ」
「いや明らかに草臥れているが。そうまでして見送らなくても大丈夫だったのだがな」
「いいやそういうわけにもいかんし。一応客だし・・・まぁすぐに戻ってくることになるだろうが」
「だね」
「うん?」
アルカナは知らなくていいことだ。
アカリ達はトラックなどの準備が整った次の日にすぐにこうして出て行った。
とりあえず非常食何かも積んだから、最悪一年はどこかの街に寄らなくても問題は無いだろう。
まぁ先に封国に行くからそんな心配はないのだろうが。
あちらの対応はサトハさんにすべて任せることに。
アルは俺と一緒にモルトン王国まで向かうからな。
だがアル曰く、そこまで時間を掛けずに海魔の位置は特定出来るそうだ。
「海魔はとても大きいですから。それに応じて周辺に与える影響も大きいです」
「そらまぁだろうな」
「わずかに動いただけで海が荒れる。
故に、彼の者は動くだけで魔力を大きく消費します」
「ん?魔力を?」
「既に自力では動けないのですよ。あまりにも大きくなりすぎて」
何ともアホな話を聞かされたと思ったが事実らしい。
精霊ではないから、魔力を取り込んでも肉体の成長しか出来ない。
そもそも肉体の成長に使えることすら初耳だったが。
「ある一定以上の力を持つ存在は、皆同じことが出来ますよ?」
「マジか」
「アルの様に自由自在なのは例外ですが」
これはこの世界に生きる生物と魔力との関係性に深く関わる問題らしい。
だがそれを聞いている暇はないので割愛してもらった。
こういった理由から、アルが海魔を見つけるのならそこまで時間は掛からないらしい。
儀式まで一年をきっているとなると、もうそろそろ動き出してないと間に合わないだろうという予想もたてた。
あまり国に近すぎても問題があるからな。
海上を行く船たちに悪影響を与えたら、そもそも儀式が成り立たないからな。
そしてアルが調べた、モルトン王国が何故儀式をしているかも聞いた。
「元々あの国には、力のある乙女を海に捧げるという習慣があったそうなんです」
「何だその習慣」
「コウの世界ではありませんでしたか?」
「そういうお祭り的な感じでやるのはあったけど」
「それと同じです。あくまでもそう言う体で行っていただけの、ただの習慣だったんです」
実際にその乙女が命を落とすわけでもなかったそうだ。
十数年に一度、一人の乙女が選ばれて海に跳び込む。
そうすることで、海の安全祈願としていたらしい。
だがそれがある怪物のせいで大きく変わった。
その怪物は言った。
「二十年に一度、我に力のある人を捧げたならば貴様らの願いを叶えよう」
当時、モルトン王国は度重なる不運があり国が大きく傾いている状態だった。
数年に渡り海は荒れ続け、まともに航海が出来ない状態だった。
「これはその怪物が起こしていたというのが我々の調べで分かりました」
「そんなところだろうな」
当時の王は、その怪物の提案に乗った。
まさに藁にも縋るといった感じだったのだろう。
その時に捧げられた生贄は王の娘だったそうだ。
国一番の魔力の持ち主である彼女が海にその身を投げた。
体が海に沈んだその瞬間、今まで荒れに荒れていた海が、嘘かの様に静まった。
こうして、モルトン王国ではこの儀式が始まったらしい。
「まぁ大体予想通りだな」
「愚かな事です。自らの娘を犠牲にして得た物に何の価値があるというのか」
「国の為ならーってのは、俺達には分からんことだろうよ」
アカリも、そしてアルカナも分からないだろうな。
あいつらのやってることは、国益に真正面から喧嘩を売る行為だ。
これで本当にあいつらのせいで国が被害を受けてみろ。この先二度とあの国には足を踏み入れられないだろう。
まぁその辺気にして俺が頑張ってるんだが。
「んで?肝心の今も儀式を辞めない理由は?」
「一つは、かつて儀式を中止しようとした結果海魔によって大きな被害を受けたことがあります」
「それはアルカナにも聞いたな。だけどそれ、お前らみたいなのに頼らなかったからだろう?」
「そうですね。他の国にバレないようにという前提があったからでしょう」
「一応バレたらやばいって意識はあるのか」
「そもそもモルトン王国以外の国は、誰かしら私の知り合いがいますから」
「ん?そうなのか?」
「そうですね。リアの様に貴族になっているのは珍しいですが」
とか言ってるアルは封国では貴族以上の扱いなんだがな。
あそこは正式には国ではないからいいのか?
「まぁいいか。二つ目は?」
「・・・正直、そんなことがあるのかと始めは耳を疑いましたが」
「・・・そっちも予想ついてるんだよな」
こっちが、俺が気にくわない方だ。
「「一人の命で利益が出るなら、辞める理由が無い」」
「・・・」
「まぁだよな」
「はい。国王も周りの臣下達も同意見の様です」
「止める気も、罪悪感も無いと」
「ええ。かけらも。むしろ生贄を増やすなんて提案もしているようですよ」
「はぁ?正気か?」
「そこが恐ろしい所です。正気だからこそ恐ろしいのです」
馬鹿げている。
いや、腐っているという方が良いか。
俺が前に、アルカナ達の行動が無駄に終わると断言した理由はこれを予想していたからだ。
どれだけアルカナ達に正義があったとしても、それは全て握りつぶされる。
何せ脅されて儀式をしているわけではないのだから、むしろ嬉々として協力していると言える。
「そこで、一つお願いがあります」
「・・・え、ここで条件付けられるのか?」
「大したことではありません。コウは、今回の生贄に選ばれた少女の話はご存じですか?」
「アルカナ達の友人ってことは知ってるけど」
「ではほとんど知らないということでよさそうですね」
「・・・何かあるのか?」
「あると言えばあります。まず、彼女が生贄に選ばれたのは齢4歳の時です」
「・・・随分とまぁ」
「故に彼女は、外の世界を知らないのです」
「生贄になってからは幽閉生活ってか」
「最低限の保証がされているのが救いです。私のお願いとは、彼女の救出です」
「・・・まぁ何となく分かったけどさ」
だが何故アルがそんなことを頼むのだろうか。
境遇に同情してるのはわかるが、それだけでは理由としては弱い。
そもそもアル達みたいな大きな力を持つ存在は、人の社会への関りを最低限にしている。
リアは貴族だが、それも理由があってのことだ。
基本的に、人間に対して肩入れしないという基本方針がある。
それを曲げてもらって、今回の事とゲル商会の事に協力してもらっているのだが・・・これは本当に裏技みたいなものだ。
そこだけでも十分なのに、更に救助までするとは。
「何かあるのか?」
「いえ。あの国の儀式を完全に止めるのに必要かと思ったので」
「あ、そういう理由か」
割と普通な理由だった。
だがそういうことなら率先して救助しようか。
・・・問題は救助後はどこで匿うねんという話だが。
「・・・そこもお願い出来たりは」
「やっぱり?」
だろうと思った。
まぁそれはそれで問題ないだろう。
モルトン王国の事が解決すれば、アカリ達は恐らくすぐに戻ってくる。
そこで友人に出会えれば、あいつらも嬉しいだろう。
「ついでに直接的に被害出してみるか」
「いやそれはあまりにも無実な市民への被害が大きくなるのでは・・・」
「知らんとは言え、アホみたいな儀式の恩恵を受けてるんだからちょっとくらいいいと思うんだけどな」
アル的には駄目だそうだ。
ここはアルの意見を飲んでおこうか。あまり押し通す気も無いし、押しすぎてアルに協力を拒否られる方が面倒だ。
「んじゃ。やることの整理をするか」
「まず私は海魔の捜索。その間にコウが生贄の少女の救出」
「その後海魔を発見次第殲滅・・・まとめると簡単だな」
「言うだけなら簡単です。特に人の救出・・・それも国の最高機密とも言える儀式の要になる少女をです。
並大抵なことではないでしょう」
「いや。正直そっちは問題視してない」
「そうなんですか?」
「まぁな。アルは影の軍勢って知ってるよな?」
「え?ええまぁはい。私は直接見たことないですが」
アルは結構最初からバイオティラノの方にかかりきりになっていたそうで、他の厄災に関してはあまり知らないらしい。
だが名前とどういう相手だったかを知っていれば問題ない。
「俺、その軍勢相手に気づかれないで中心部に潜り込んだことあるんだわ」
「・・・地平線を覆う程の数だと聞いたことがあるんですが」
「そうだな。俺、それ全部に気がつかれないのよ」
『無影』の完全にステルス行動というやつだ。
スニーキング用に作った機体ではあるが、まさかあそこまで上手く行くとは思わなかった。
尚当時それを行った戦闘映像は公式サイトに上がってたりする。
全ランナーがお手本とすべき最高のステルス戦闘と言うので掲載された。
報酬で珍しいスキン貰ったし、あれはいいことしたなぁと。
「何なら見てみるか?」
「む?水の精霊である私相手に良い度胸です」
「関係あるのかそれ・・・?」
「か、影も形も見えませんでした・・・」
「さっきの自信は何だったんだよ」
アルの背後にプリンを置いて、それを俺がステルスで盗むという形式で数戦行った。
結果全戦全勝。かけらも気が付かれずにプリン数個を奪った。
「とりあえず食べるか」
「いただきますぅ・・・」
「いやどんだけショック受けてんだお前は」
さっきの自信の理由は、水のありかを感知出来るからこその自身だったようだ。
だが『無影』に施された耐魔力コーティングやら何やらでアルの能力が完全カット。
そのせいで何も感じ取れず、俺にプリンを奪われたと。
「そもそも私でも気が付かないってどういうことなんですか?」
「魔力を断絶する何て技術、この世界には無いか・・・まぁ俺も使い道見つけられてないけど」
「なるほど、それで私の感知を逃れたと・・・あれ?いつのまにそんなことが?」
「いやこれ自体は結構前から出来てたし」
『無影』に応用するのだって別に何となくだったし。
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