最終話・ラマナテイル[5]
戦闘の結果が出たのは、まもなくの事だった。
本来なら米軍の方が強いはずだった。彼らは優れた武器をもち、結構な数の兵隊で下田沖に来ていたのだから。
だけど結果は彼らの惨敗となった。
理由?簡単なことだ。
つまり彼らは、ラミアや人魚族などの混成部隊への対応を間違えたんだ。
「ラミアも人魚族の女も、女の部分だけ見たら一見、普通に女の人だしなぁ」
「武器どころか服も着てないしね」
「なんで僕を見るのマリ?」
「なんでもない」
なぜか視線をそらすマリに首をかしげていたら、マオが笑った。
「マリは、ユーが他のメスに近づくのが気に入らないの」
「なんで。異種族でしょ?」
「なんでも」
「理不尽だなあ」
「メスは理不尽なのよ」
「いや、そんなこと堂々と言われても」
何を今さらみたいに言われて、僕はためいきをついた。
そんな話をしていたら、彼らの大型船に変化があった。
こちら側の手に落ちたはずなのが、沖合に向かって離れ始めてる。
そしてなぜか、ゆっくりと沈み始めた。
「む、ちょっとまった、なんだあれ」
「え?」
マオも大型船を見て、そして「あら?」という声を出した。
「沈んでるね」
「沈んでる?」
「ゆっくりとだけど」
「……たしかに」
さすがマオだ、わずかな変化に気づいたらしい。
「これってもしかして」
「沖に沈めるんでしょうね」
「あらら、再利用とかしないのかな?」
「危ないからのう」
「!」
突然に響いた声に、振り返ると母様がいた。
びっくりした。
ドラゴンなみの巨体なのに、なんで気配消せるんだ?
「エキドナ様」
マオが頭をさげた。マリも追従した。
「挨拶はよい、それよりユウのように母と呼んでくれぬかのう?」
「おたわむれを」
マオとマリが臣下の礼をとるのが母様は気に入らないらしくて、だから毎回文句を言う。
でもマオはソレを拒否して丁寧にお辞儀をする。
マリは礼儀についてはマオをお手本にしているので、彼女も一緒におじぎをした。
母様はそれをちょっと寂しそうに見て、そして僕を見て苦笑した。
僕はあえて、その静かな戦いに突っ込まずに質問する。
「母様、仕込まれてるってどういうこと?」
「あくまで用心じゃがな。
精霊に調べさせたが、彼らの機械は構造だけで割り切れぬ怖さがある。
たとえば、ぷろぐらむ、というやつで何か仕込まれていると危険じゃからのう。
ま、海水に漬けて機械類を壊し、時間をかけて漁礁にしてしまうのがよかろう」
「ああいう船って油とか、悪いものがいっぱい使われてるんでしょ?海が汚れない?」
「確かにある。
それは今、解毒・中和を進めておるが……とりあえず沖合に沈めて封印状態で中和する事になってのう」
え。
解毒?中和?
「使われてるのって、石油ってやつだよね?あれ中和できるものなの?」
「石油製品だけではないぞ、他にもいろいろまずいものが入っておる。
じゃが、向こうの世界の船でも規模の大小こそあれ、おかしなものを積んで沈むケースはあったのでな、こういう時の対応法は心得ておるさね」
「なるほど」
そういや、異世界ってとこにも機械文明があって、それらの遺産みたいな道具や機械もあるんだっけ?
そんな会話をしていたら、ラミアの伝令さんがやってきた。
やってきたんだけど。
「あの」
「なあに?」
「伝令ですよね?」
「ええそうよ?」
「なんで、僕らを抱きしめて、撫でてるんです?」
なぜか真っ先に僕らを捕まえ、頬ずりしたり撫でたりしてるし。
「んー、殺伐した戦いのあとには、やっぱり可愛い癒やしよねえ?」
「……はぁ」
エルフ族といいラミアといい、なんでこうも猫好きが多いんだろうか?
好意的なのは悪い気はしないけど、僕たち猫族は愛玩動物じゃないぞ。
どうしようか困っていたら、母様が僕の頭ごしに自称・伝令さんに声をかけた。
「して?ユウを撫でながらでよいので、伝令事項とやらを伝えてくれぬか?」
「はっ!失礼いたしました!」
さすがに返答は伝令さんっぽい。
……ただし、僕らを手放すつもりはこれっぽっちもないようだけど。
ちょっと脱出を試みたんだけど、逆にガッチリ抱え込まれてしまった。
うう。
「さきほどの戦闘による捕虜なのですが、いくつかの情報がとれましたので、エキドナ様や『皆様』に是非とも検分をお願いしたいとの事です」
ホントに僕らを撫でつつ伝令さんは言い切った……皆様、のところをなぜか強調して。
ああ、うん。
僕らもこいって事ね。
「しかしのう、それだけなら別に伝令はいらぬのではないかえ?
事実、わらわたちも今から向かうところなわけじゃからのう。
ならば。
わざわざ伝令にきたということは、癒やしとソレ以外にもなにかあるのではないかえ?」
「あ、はい、これは正式な伝令事項ではないのですが。
捕虜の中に『適合』できそうな者がいたので、古き儀式をやりたいとの話がありまして」
「はぁ?」
なぜか母様は絶句した。
「ラマナテイル……ラマナテイルと申したかえ?」
「はい」
母様は驚きと呆れの入り混じったような顔で伝令さんを見た。
……ていうか、ラマナテイルってなんだ?
マオの方をみたけど。
「……」
あ、無言で首をふるふるしてきた。マオも知らないらしい。
なんだろう、それ。
「よりによってラマナテイルかえ……そんな野蛮なマネをせんでも、わらわがおれば解決するじゃろうが」
「僭越ですが、よろしいでしょうか?」
「かまわぬ」
「は、ありがとうございます。
代表の者たちの会議を横で聞いていたのですが、このような論旨になっておりました。
エキドナ様は現在、予定が埋まりきっている。たかが捕虜のためにその胎をお借りするのは申し訳ないと」
「……確かに、わらわはここ三年近く、身ごもりっぱなしではあるが」
「それともうひとつ。
ラマナテイルをこの世界で行ったことは一度もないので、試す意味もあるそうです」
「ああ、そういうことかえ」
ふむ、と母様はなにかを考えて。
「よかろう、ただし、わらわたちも見物するぞえ」
「え……この子たちもですか?」
思わず伝令さんは、腕の中の僕らをまじまじと見た。
「マオはともかくユウも、そしてマリも転生の際に種族変換をしておる……記憶は持ち越しておらぬがな。
立場は違うとはいえ、見ておいて損はあるまいよ」
「そうですか……わかりました、ではこちらへ」
「うむ」
移動の途中、母様にラマナテイルについて質問してみた。
「母様、ラマナテイルとは何ですか?」
「ひとことで言えば、昔行われていた種族変換法の一種じゃ」
あまり楽しくなさそうに母様は言った。
「わらわは今、そらたらの産みの母となっておるが種族が違うであろう?
それは、わらわが転生を司り、種族変換を行える特殊個体であるためなんじゃが……実のところ、わらわのようなものが生まれてきたのは偶然ではない。
もともとわらわたちはの、世界に、厳密には精霊に求められ生まれたのじゃよ」
「求められた?なんで?」
「異物であった人間族をこちら側の循環に取り込むためじゃよ。
あやつらは精霊とは無関係に送り込まれてきた異物じゃったからな、精霊たちは自分たちの世界のシステムに人間族を取り込もうとして、いくつかの手段を作り上げたのじゃ。
それが、わらわのような転生を司る個体であったり……ラマナテイルもその一つなんじゃよ」
へえ。
「母様、具体的にはどうするんですか?」
「それは、これから見られるぞえ」
「?」
なんだか母様は、いやそうな顔をしていた。




