最終話・ラマナテイル[4]
まぁもっとも、それは見た目だけだ。
ラミア族は確かにキレイだと思う、特に上半身は。
だけど華奢な見た目で判断すると大変なことになる。
だって。
前に遊びにいった時、ほっそいお姉さんがバカでかいイノシシを簡単にやっつけたのを見たよ……それも、新鮮なお肉を僕たちにふるまってくれるという、ただそれだけの理由で。
そう、ラミアは強いのだ。
あの時はマオも、あぜんとして見てたもんなぁ。
それにしても。
「あれを使わないのはどうしてかな?」
待機している大きな船は動かない、さぞ強力な武器も積んでいるだろうに。
マオがソレに目をやる。
「フン、捕まえて帰るのが目的なんじゃないの?」
「つかまえて帰る?」
「奴隷?実験?よくわかんないけど、そういうことよ」
「実験!?」
物騒な言葉に目が点になった。
けど、マオは平気な顔だった。
「だって、このあたりに住んでるのは、この世界じゃ伝説になってる種族ばかりなのよ?」
「それはそうかもだけどさ」
「たぶん、こっちの戦力をナメてるんじゃないかな?
ろくに武器もないし、撃ったらみんな死んじゃうと思ってたりして」
「……いや、さすがにそれはないんじゃないかな?」
首をかしげた僕にマオは言った。
「あれじゃないの?
ほら、ジンコンエーセーとかってやつで、お空のずっと上から見られるんでしょ?
あれで『何かいる』っていうのがわかって、それで捕まえに来たんだとしたら?」
「人工衛星のこと?
あー……遠目に見ただけで現物を確認してないってことかぁ。
でも、そういうノリだったら、最初は対話を試みるんじゃない?
いきなり銃をつきつけたり弱そうなのを捕まえようとするとか、ありえないんだけど?」
「でもホラ」
「……!」
マオの指差す方を見た僕は、さすがに驚いた。
だって。
「上陸しようとしてる!?」
「強行する気だねえ」
いやいやいやいや、シャレにならないから!
武装した兵隊の乗った船の一隻が、強引に浜辺に上がってきた。
追い返そうとするラミアさんたちにタタタタッて銃弾を浴びせ……あ、ひとり倒れた。
冗談じゃないぞ、何か手はないか。
……いやまて。
そんな時、頭の中にひらめいた事があった。
僕は精霊たちに呼びかけた。
『みんな、あの男たちの銃の出口を塞いで』
【おっけー】
次の瞬間だった。
ばん、と派手な炸裂音がして、兵隊たちのひとりが銃を取り落とした。
そのまま手をかばうように、うずくまる。
だけど、他の兵隊はすぐ異常に気づかなくて。
次々に銃を撃とうとして、そして、ばん、ばん、という炸裂音と共にそれを投げ出したり、ひどい者になったら当たりどころが悪かったのか、ふらふらと倒れたり。
……うわ、ひど。
だが、これだけでは弱い。
精霊に頼んで、あいつらの周りにいるラミアさんたちに伝令を飛ばした。
『ユウだ、連中の銃を使えなくした、今のうちに!』
「「!!」」
さすが、ラミアさんたちは一瞬で飲み込んで動き出した。
とっさの事で対応できない兵隊たちを捕まえた。そして二人ほど残して他はそのまま叩き潰していく。
たちまちに悲鳴があがりだした。
……よし。
ウンウンとうなずいていたら、マオに声をかけられた。
「ユー、何やったの?」
「ん?ああ、精霊に頼んで銃口を塞いだ」
「ジュウコウ?」
「銃の発射口だよ」
残っている人間時代の物語を読むと、銃口を塞いでかっこよく敵を止める主人公の姿が出て来る。
それをマネしただけだと説明した。
でも。
「それって本当にできるの?」
「え?」
「銃の出口に指やたばこをつけて撃ってみろってお話でしょ?それホントは無理なんでしょ?」
「ああ、よく知ってるね」
「昔のユーに聞いた」
「そっか」
マオの言う通り、かっこよく銃口を指で塞いで攻撃を封じられるのは物語の中だけの話らしい。
確かに原理としては正しい。
炸裂の一瞬だけ出口を塞いでしまえば、銃身を壊す、あるいは故障を引き起こすことは可能らしい。
だけど、そもそも人間の指程度では銃身をふさぐには足りず、むしろ指が吹き飛ばされる可能性もあるそうだ。
それに運良く銃口破壊が起きたとしても、普通は射手が大怪我するほどの事はないらしい。
うん、なるほどね。
やっぱり、指で華麗に銃を止められるのは物語だけの話なんだろう。
だけど、大切なことがある。
金属製の銃身が壊れるということは、大きなエネルギーが手元で炸裂していることだけは間違いない。
そして。
人間は、いきなりそんなものが起きてうまく対応できるのかってことだ。
突然のことに驚いて、手の中で銃が暴れてしまったら?
または銃を投げ出してしまったら?
また。
かりにそういう事故の訓練を受けていたとして。
仲間の銃が一斉に同じ故障を起こして、そんな異常事態に対応できるか?
結果は見ての通り。
ラミアたちに逆襲される兵隊さんたちってわけだ。
倒されていく兵隊たちを横目にマオに説明すると、なぜかマオは嬉しそうになった。
何だ?
「うんうん、やっとユーらしくなってきたねえ」
「え?」
どういうこと?
するとマオはまるで人間のように肩をすくめて言った。
「昔のユーもそうやって戦ってたってことだよ。
マオがエキドナ様に頼んで、記憶を残してもらったのも、そのためだったんだけど……うまくいってよかったぁ」
「……どういうことだ?」
マオは納得したみたいだけど、今度は僕が理解できない。
「ねえマオ、どういうこと?ちゃんと説明してくれる?」
そういうとマオは。
「あー、うん、わかった」
そういうと説明してくれた。
「最初に断っておくけど、これは昔のユーのことで今のユーには関係ない話だからね?」
「うん、わかる。知識として教えてほしいんだ」
「わかった。
じゃあ最初からいくけどさ。
昔のユーはマオよりも強かったんだけど……。
どうして強かったかわかる?」
「どうしてって」
そんなの、わかるわけがない。
首をかしげていたらマオに言われた。
「今まさにユーがやったようなことだよ」
「?」
「だーかーらー。どうすれば銃をおかしくできるかユーは知ってて、それを利用したわけでしょ?
同じことが昔のユーにできなかったと思う?
ユーはね、ガッコウってところで十年もユーみたいにお勉強してたんだよ?」
「……それでマオは僕に勉強しろと?」
「そういうこと。
まぁ、言わなくてもユーはどんどん自分で調べだしたけどね」
「うん、まぁ面白いしね」
本で調べる。誰かに聞く。
知らないことを知るというのは楽しいことで、そして、そういう知識は必ず役に立つ。
たとえそれが、戦いとは関係なさそうな生き物や、世の中の話なんかでも。
そういうと、マオはウンウンとうなずいた。
「はっきり言うけどねユー。それはユーにしかできないことなの」
「?」
「マリは精霊が見えるけど、自由にお話できないでしょ。
マオは生まれ変わって精霊とお話できるようになったけど、ユーみたいな考え方はできないの。
だから。
勉強した知識を戦いに応用して、しかもそれを精霊に頼めるのはユーだけなの、わかる?」
「わからない」
僕はためいきをついた。
「そもそも、なんでマリは精霊とお話できないの?
マオは僕と同じで精霊を使えるのに、どうして僕しかできないって言うの?」
「マリが話せないんじゃなくて、そもそもマリが普通の猫族なの。マオも昔はマリと同じだったよ?」
「じゃあ、今はどうして?」
「たぶん、前のユーと一緒にいたおかげだよ」
「前の僕か。たしか勇者ってのをやってたんだっけ?」
「あー、そうだけど……それは前のユーのことだし、望んでした事じゃないんだからね?」
「わかってる」
母様にも注意された。
新しく生まれたんだから、昔のことまで拾わなくていいって。
「つまり、マオはずっと昔の僕といたことで、精霊とお話できるようになったと?」
「そういうことみたい。
エキドナ様がいってたけど、精霊使いは精霊使いを呼ぶんだって」
「へ~……じゃあマリもいつか精霊と話せるようになるのかな?」
「いつかはね。
ただマオの時とは世の中が全然違うから、いつになるかはわからないけどね」
「そう?」
「マオの時は、ずーっとユーとふたりぼっちだったもの」
「あ、そうか」
ふたりぼっちで戦い続けたんだっけ。なるほど。
「昔のユーは色々あって、人間なのに精霊とお話できたから」
「いや、ちょっとまって」
マオにごまかされそうになった僕は、あわてて食い下がった。
「答えをもらってないよ。
マオも精霊とお話できるのに、どうして僕しか戦えないのさ?おかしいだろ?」
「そりゃ、マオが昔のマオのままだからだよ」
「え?」
意味がわからない。
「マオは生まれ変わった時に記憶を捨てなかったから。
思い出を捨てないということは、昔のままってことだから。
だから、マオは変わらない。変えられない。
精霊とお話できるようになって、精霊魔法が使えるようになっても。
だって。
マオは、向こうの世界の……普通の猫族の子だから」
「……なんで」
僕は思わず言った。
「どうしてマオは記憶を残したの?そこまでして?」
「もちろん、ユーといっしょにいるため」
えっへんとマオはふんぞりかえった。
「ユーは、ちゃんと勉強すればほっといても強くなるよ。
だけどユーは、頭はいいけど要領悪いから。
ほっとくと変なの拾ったり、損なことばかりして自滅するから。
だからマオは記憶を残したの……ちゃんとユーを守り続けられるように」
「……」
なるほど。
いつも自信満々で歪みのないマオの本音は、そういう事だったのか。
でも。
「マオ、ひとつだけ訂正」
「なあに?」
「僕はそこまで間抜けじゃない」
「……」
「……」
「なんだよ?」
なぜかマオだけでなく、マリまで笑いだした。




