最終話・ラマナテイル[3]
僕らは大人たちの話を聞きつつ、じっと考えていた。
けど、何かいい知恵が浮かぶまでもなかった。
そして。
『マオ』
僕はマオに耳打ちした。
『なに?』
『ここで言い合うのは大人に任せよう、僕らは現場を見に行かないか?』
『……そうね、情報がほしいよね』
さすがにマオは一発で納得してくれた。
ただし。
『お』
さっそく行こうとしたら、マリが放してくれなかった。
『マリ、ちょっと放して』
『連れてって』
『ダメに決まってる、あぶないぞ』
僕らの中で、隠密行動が一番得意なのはマオだ。
なんというか、全然レベルが違う。
僕はマオのおかげで少しは使えるけどちょっと危なくて。
そしてマリは……まぁ忍び足はできるけどそれ以上は無理。
だから。
『何が起きるかわからない、マリはダメだ』
『つれてって』
『ダメ』
『つれてかないと大声で叫ぶ』
『……』
『……』
なんで仁王立ち?
あー、その、なんだ。
僕としてはさ。
どうして僕のまわりのメスは、こうして無意味に行動的だったりするのかと言いたいんだけど。
困っていたら、マオがマリの顔を覗き込んだ。
『マリ』
『なに?』
『ちょっときて』
そういうとマオはマリを引っ張って少し離れ、そこでふたりでボソボソと何かを話して。
そして、マオが怖い顔をして、マリが何か大きくうなずいて。
で、ふたりして戻ってきた。
『なに、どうしたの』
『ちょっと誓わせた』
『誓い?』
『最初に確認するけど、精霊を使ってマリを隠せる?』
『あー、動かない前提なら』
僕たちは総じて子供のわりに魔力が大きい。
いくら精霊に隠してもらってても、マリが動いてしまったらまずいと思う。
『それでいい。
向こうについたら、その前提でマリを隠して』
『なるほど、わかった』
マリでは気取られるかもしれない、だけどマリは引かない。
だから最低限は隠してやろうってわけか。
『それからねユー』
『ん?』
『まさかの時はマリをかばうことなく逃げること……ユーのことだよ?』
『……はぁ?』
『ハァじゃないの』
ふるふるとマオは首をふった。
『一番危ないのはユー。
マリに何かあったら、マリをかばって自分が死にかねない』
『なんで僕なんだ?マオはどうなんだ?』
『マオはユーが一番大事だから、まずいと思ったらマリは見捨てる。
もしマオのせいでユーが死にそうなら、ユーを逃して自分で死ぬ』
『……』
迷いなくマオはきっぱりと言い切った。
『ユー。オスはユーしかいないのを忘れないで』
『……それは』
『死んだら絶対許さない』
確かに、今、猫族のオスは僕だけなんだけど……でも、それは母様が今、せっせと魔獣やいろんな種族を増やす方を優先しているからにすぎないはずだ。
本格的に猫族を再興するのは、世の中が落ち着いてからのこと……つまり、僕は必ずしも子孫を残す必要性はないはずだ。
だけど。
『ダメ!』
『ユーは子供作るの!』
『……』
あの……いつも仲悪そうなのに、なんでこういう時だけ一致団結しますかあんたら?
……仕方ないな。
『わかった、誓おう』
そう僕は、マオの方だけ見て誓った。
もちろんこれはマオに対する体裁で、あとで文句を言われてもマリには誓ってないというためなんだけど。
でも。
『ユー、マリにも誓わないとダメ』
『……いや、あの』
『マリに誓わずに逃げようったってムダ』
う、バレバレかぁ。
『……わかったよ』
どうしてだろう、マオには隠し事ができないや。
うーん。
少したって、僕たちはシモダの現場にいた。
ちょっと離れたところに高くなった場所があって、いい具合に木々の間に隠れることができた。
三匹まとめて、精霊に隠してもらった。
そして身をしずめて、目をこらしたんだけど。
「……すごい数だな」
「だね」
「ウン」
「……」
大きな鉄の船が、三隻。
そして、その周辺に、人間らしきものを載せた小舟がたくさん。
「あの、屋根がない鉄の舟はなんだ?」
前に見た兵器ってやつの本にはなかったよな。
「あれは上陸用の舟、戦争に使う、兵隊や『戦車』を敵地にあがれるようにするものだよ」
「そうなの?マオ、なんで知ってんだ?」
「エキドナ様に、本をみせてもらった。人間の軍隊と武器の本」
「……それ、僕は見てないよね?」
「うん、ユーがマリと隠れて遊んでる時に見た」
「……あー、うん。わかった」
僕はためいきをついた。
シモダの港は小さな湾になっていて、直接外海に面しているわけじゃない。
で、その湾の入り口近くを先頭に、出口を塞ぐようにたくさんのフネが展開していた。
そこに乗っている者たちは。
「……みんな武装してるね」
前に本で見せてもらった、武装した姿の人間たち。
このシモダ湾はセイレーンと人魚族が多くて、陸の方にはラミアが陣取っている。
彼らはオスもいるけどメスが圧倒的に強い種族で、だから僕は苦手だ……行くとおもちゃにされるから。
マオは時々遊びにいってるらしくて、友達もいるっていってたけど。
「マオ、何かわかる?」
「……」
マオは耳に手をあてて、じっとしていた。たぶん友達と連絡をとっているんだろう。
そして、大きくうなずいた。
「こっちにいる、アサミさんってニホンのヒトがニホンゴで呼びかけたけど、ベイゴで通達してきたって。
自分たちは、ザイニチベイグンだって。
マオたちのことを侵略者だって決めつけてて、全員タイホするんだって。
ニホンと安全保障の約束をしているから、侵略者を放置はしないって。
おとなしく投降すれば命はとらないと言ってるって」
「ウソだね」
僕は感じたままを言った。
「ザイニチベイグン……在日米軍だったか、つまり日本にいた米軍のことだろ?
だったら、少なくとも責任者は日本語が話せるだろう。
なのに、こっちが日本人で日本語を使ってきたのに、それを無視して、しかもこの状況で侵略者と決めつけるのはおかしいだろ」
「じゃあ、どういうこと?」
「自分たちの言葉なのは、それは仲間の反対派みたいなのに聞かせるためだからだよ、僕たちに向けた言葉じゃない」
「そうなの?じゃあ、今言ってるのって?」
「……戦闘準備が整うまでの時間稼ぎじゃないか?」
「!」
「マオ、友達に伝えて。
人間のやり方に従ったら、向こうのペースに巻き込まれるって」
「うん、もう伝えた」
マオはうなずいた。
「みて、ユー……始まるよ」
「お」
僕たちの見ている眼の前で、小舟の並ぶ海の中が突然光った。
そして。
「……始まった」
突然に海が激しく盛り上がったかと思うと、たちまちそれは山ほどの高さの大波になって。
屋根のない舟たちをいきなり飲み込みはじめた。
「お」
また別のところでは、ゴン、ガンという音がしたかと思うと、彼らの小舟のひとつが沈み始める。
あわてて右往左往する兵隊たち。
でも、彼らは海中の敵への対策は限定的にしかできないし、訓練もできていない。
それはそうだ。
彼らの武器も武装も、同じ人間を前提にしているから。
たちまち陣が崩れ、乱戦になりはじめた。
「なるほど」
マオが納得したような声をあげた。
「なに?」
「地の利を活かせ、それぞれの能力を活かせ、決して団体戦はするなってエキドナ様が言ったのは、こういう事だったんだ」
「団体戦はするな?」
「ウン」
マオがうなずいて、そして米軍の陣を指さした。
「ユー、人間はあんなにすごい武器があるのに撃たない、どうして撃たない?」
「味方に当たるからだろ」
「そうだね」
彼らの武器は投射するものが多く、接近戦は最後の手段らしい。
それは確かに正しいと思う。
けどそれゆえに、敵が内部に入り込むと面倒なことになるわけだ。
で、さらに。
「じゃあユー、どうして陸地に撃ってこないと思う?陸には味方がいないよね?」
「わからないけど……捕まえたいんじゃないか?」
僕らの側の陣営の方を見ると、陸地にはあまり「強そう」なのを布陣してない。
一番強そうなのでラミアだけど、ラミアの中でも人間の女っぽいやつ……つまり人間の目で見て弱そうなひとばかり配置しているみたいだ。




