最終話・ラマナテイル[2]
猫族といってもちびっこの僕たちは、ここに人間しかいなかった時代を知らない。生まれる前を知ってるらしいマオですらも。
だから昔のことはよくわからない。
でもきいた話だと『米軍』はもういないんだって聞いてた。
だって米軍ってのは『米国』からきた人たちなんだ。
で、そもそも米軍が『日本』にいたのは『中国』とか『半島』とか……あと、あれ?『ろすけ』だっけ?
とにかく、あまり米国と仲の良くない国がいくつかあって、それらに向かって「変な真似したら、ぶっとばすぞぉ」って、にらみをきかせてたんだよね?
だから今、米軍はいないはず。
だって、その『仲の良くない国」が、みんな、なくなっちゃったから。
生き残りの人たちはいるけど、国そのものが成り立ってないらしい。
だから米軍のひとたちは、よその国より自分の国だって、海の向こうに帰ったんだって。
なのに、どうして今ごろ米軍が?
「やってきた理由まではわからない、でもシモダの、ウラガ沖に来てるらしいですね」
「はぁ、よりによって浦賀かよ」
エルフの人の説明に、おじいさんの人がボヤいた。
「ご老体、何かあるのですか?」
「ご老体って、おまえらの方が歳上だろうがよ」
「しかし、この地方に最も詳しいご年配の方はあなただ。
我々は知恵ある方、経験のある方を尊敬しますので」
「わかったわかった、やれやれ」
おじいさんはポリポリとハゲ頭をかいた。
この人はエルフたちに助けられた地元の人で、生き残りってやつだ。
たまたま遊びに来ていた「ひ孫」とそのお友達、ふたりの「しょうがくせー」と共に山中に孤立して、そのままアマギ近くの山の中で生活していたらしい。
とにかく生活力のあるおじいさんで、僕も何度かお魚をもらった。
こういう人たちが、このイズ半島で何人も見つかった。
彼らはみんな、山の中や、街道から外れた僻地といった、ほとんど孤立した場所にいた。
小さな村。
大きな廃墟。
野営施設……「キャンプ場」だっけ?
生き残っていたのは、そういうところで、少人数で暮らしてる人たちばかりだったらしい。
そもそもニホンの人たちは、ゾンビを簡単に殺せる武器を持ってなかったんだって。
だから、まずいと悟った時点でみんな逃げたんだけど、避難所にいた人たちはむしろ早いうちに全滅したらしい。
理由は簡単、ゾンビ対策っていうのを徹底できなかったから、らしい。
つまり。
家族がゾンビに噛まれたのに、それを隠して大丈夫だって避難所に入った人がたくさんいたってこと。
しかも避難所でも「外からきた人はとりあえず隔離して検査」っていうゾンビ対策の基本をやらなかったし、感染者の隔離徹底を警告する人にも「見捨てるのか」なんていって耳を貸さなかった。
いや、ダメでしょそれ。
別にゾンビじゃなくても、ひとにうつる病気なんかだったら当然やるべきことだろうに。
で、夜中に皆で寝ていていきなり発症したり、大惨事ってパターンが繰り返されたんだって。
どんなに口をすっぱくして警告しても、彼らは噛まれた家族を隔離しようとしなかった。
それどころか、実際に噛まれているところを見つけて叩き出せと言った人を、逆に悪魔、人殺しとののしった人までいたらしい。
状況がわかって逃げられる人は、大惨事になる前に避難所を見切って逃げ出して。
そして……たいていの避難所はそのあと、周囲の避難民ごと巻き込んで全滅したらしい。
……まぁ、その、なんだ。
で。
その次に目立ったのが、田舎のお年寄りを中心にした、ひとりかせいぜい数名の集団。
これらは、もともと一人暮らしで孤立して暮らしてたお年寄りがいて、孫やひ孫が、そのお年寄りを尋ねてきて帰れなくなったって流れが多いらしい。
この人たちも当然、少人数のグループとして発見された。
話を戻そう。
「浦賀ってとこな、昔、アメリカからペリーって野郎がやってきて、ちんまりと平和に島国で暮らしてた日本人に開国を迫ったって、まぁ、そういう歴史のあるところなのさ」
「ああなるほど、歴史的経緯デスカ」
「ちょっといいかねえ?」
ひとりのおばあさんが手をあげた。
「江崎さん、そりゃ日本人に浦賀は有名だけど、アメさんが浦賀なんて知ってるのかねえ?」
このおばあさんは、シュゼンジというところで保護された人だ。
おじいさんいわく「きっぷがいい」って話で、最近よくお話してるらしい。
「あー、……たぶんだけどよ、可能性はふたつあるんじゃねえかな」
「ふたつ?」
「まずはよ、日本全体からすると浦賀は田舎だ。
こんなとこにわざわざ来たって事は、ここに誰かいると思って来た可能性が高えだろ。
ま、横須賀あたりから海沿いに調べている可能性もあるかもしれねえが」
「……なるほど」
おばあさん以外の人は「ほほう?」と興味深そうな顔をしていた。
「だけどよ……問題はこのさきの可能性なんだな」
「このさき?」
「佐竹さんよ、あんたもわかるだろ。
俺たちゃすっかり馴染んで一緒に暮らしちゃいるが、ここの人たちゃ人間じゃねえんだぜ?」
「!」
おばあさんが、しまった、そうだった、という顔をしていた。
「あんたも気づいてなかったか……ハハ、最初はビックリしたもんだが、慣れちまえば気のいい奴らばっかだからよう、無理もねえやな」
「ふふ、ですねえ」
「けどよ、問題はアメさんたちだぁな」
「……ええ」
おばあさん……佐竹さんの顔が厳しくなった。
「アメさんたちが、どういうつもりで浦賀くんだりまで来たのかは知らねえよ。
けど、生存者と思ってきてみたら、いたのは、お話の中から出てきたような不思議な人たちでしたと。
耳の長い人やら、立って歩くクマみたいな人やら、中には半人半蛇や人魚までいるここの様子を見て、アメさんたちがどう思うかってこった。
……これは、ちぃとまずいかもしれねえぜ?」
「ご老体、その人たちは、あなたがたより排他性が強いという事ですか?」
「ああ、強い。主に宗教的理由だと思うけどな」
「ああ宗教ですか……なるほどそれは厄介だ」
お年寄りとエルフたちが、難しい顔をしていた。




