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女神?

 ふと気づくと、よくわからない……でも覚えのある空間にいた。

 そうだ。

 ここは、あそこ……クソ女神のいた場所に似ている。

 なんで、今ここに?

 俺は、これから新しく生まれ変わるはずなのに。

 そしたら。

【こっち、こっちよ】

『?』

【こっちだって言ってるの、来なさい早く】

 ちゃんと聞いたのは、たったの一度。

 だけど忘れる事のない、あの声が聞こえた。

『なんだ、おまえ(・・・)か』

 そう。

 声の主は、なんとあのクソ女神だった。

 だけど。

『なんだ、しばらく見ないうちにまぁ、ずいぶんと』

 弱っちくなってないか?

 さすがに口に出すのはどうかと思ったので、最後は言わなかったけど。

 でも女神様には通用しなかったようだ。

【ずいぶんと、なんですって?】

 たちまちお怒りの女神様に、俺は苦笑した。

 ……沸点低いなぁ、かりにも女神様なのに。

 

 でもさ、だってそうだろ。

 あの、問答無用で俺を引きずり、無理やりに変な力を与えて異世界に送り出した、あの女神が。

 なんか、丑三つ時のささやき声みたいに薄ら寒く、弱々しいんだぜ?

 そりゃあ、弱くなったんじゃないかって思うだろ普通?

 

『ははぁ、もしかして誰かがまた俺を召喚しようとしてんのか?』

【そうよ!なのにどうして!】

 どうして呼べないのってか?

『そりゃ、どうしても何も』

 俺はせせら笑った。

 なんでかって?

 女神がどうしてマオだけでなく俺にも手をつけたか、本当のところを理解できたからだ。

『なるほど、おまえ、俺たちに印をつけたんだな?また人間族からリクエストがあったら、簡単に再利用できるように』

 そういうことだ。

 俺たちを地球どころか、あっちにももういない種族にすることで、あとで捕まえやすくしたんだ。

 それなのに。

 簡単に捕まえられるはずの俺が捕まらなかった。

 それどころか、名指しで無理やり召喚しようとしても無理だったと。

 

 なんでか?

 そう、理由は簡単だ。

 

 つまりエキドナ様が無事間に合って、クソ女神のし掛けがご破算になったって事だな。

 

 さすがに悪いと思ったが、思わず笑っちまった。

 

『残念だったな、タッチの差でおまえのたくらみは無に帰したってわけだ』

 そうとも。

 おそらく、今はマオもエキドナ様に取り込まれてるんだろう。

 で、めでたくもクソ女神の仕掛けは解除されてしまったと。

 で、ついでに言えば。

 

 すでに俺はエキドナ様の中で転生の途中なんだろう。

 いつまで俺が俺でいられるか知らないけど、いずれ記憶もなくなり、意識もバラけてしまうんだろう。

 ならば当然。

 そんな状態の俺を勇者召喚しようったって、うまくいくわけがない。

 

 では、エキドナ様のように転生システムそのものを操る?

 いや、たぶんだけどクソ女神には無理だ。

 だって転生は精霊たちの領分なわけで。

 エキドナ様がそれに関われるのは、彼女が途方もなく高レベルの、それも女性の精霊使いだからなんだろうと思う。

 だったら。

 そもそも精霊と折り合わず、世界そのものにもかかわらず、ただ人間族特化の神様であるクソ女神には手出し不可能だ。

 転生のロジックすら彼女は理解してないかもしれない。

 

 女神が弱々しく見えるのは、相対的なもんだろう。

 ヤツの手は、今の俺には届かないって事だ。

 

 俺は転生中といっても、そもそも死を経由してないからな。

 もしかするとだけど今の俺って、女神から見ると奇妙な状態なのかもしれないな。

 だからこそ、まだヤツから見えてる。

 見えてるのに、手は届かない。

 その理解不能な理不尽にもがき、悪態をついているってわけだ。

 

【なんでよ!なんでこんな……】

『自業自得だろうが』

 俺はためいきをついた。

『あんたの間違いは、俺を召喚するのに俺だけでなく、よけいな事をやらかした事だろ』

【……なんですって?】

『ん?もしかして気づいてないのか?

 だからよ。

 あんたがやらかした最大の失敗は、よその世界から大量のエネルギーを取得する方法をあいつらに教えちまった事だろ?

 それさえなきゃ人間族は今も安泰だったんだからさ』

 

 エキドナ様たちが、自分たちの転移と引き換えに向こうに送り込んだゾンビたち。

 それもただのゾンビじゃない、明らかに向こうの世界の人間とは違う姿のゾンビたちだ。

 洗濯タグのついた見慣れない化繊の衣類をまとい、個体によってバッテリーの尽きたケータイだって持ってるだろう。

 

 あっちの連中、異世界がらみのゾンビだと気づいたんだろう。

 で。

 異世界由来ってことは、俺か俺の同類がらみなわけで。

 でも、俺は対等の人間でなく、道具としか見られてなかった。

 ということは……ゾンビの恨みは召喚した関係者、ひいてはそれを指示した女神に対する信仰心の低下につながると。

 

 すべては想像にすぎない。

 でも、クソ女神の不機嫌な顔を見てると、そんなに間違ってないように思う。

 

『あんた、人間族に余計な知恵を与えちまったんだよ。

 無関係の異世界を犠牲にして、莫大なエネルギーなんて簡単に取得する方法を連中に教えちまったんだ。

 だから連中もいらない欲をかいて、地球からエネルギーの吸い上げなんてやらかした。

 ありあまるエネルギーで魔族を殲滅しようなんて余計な事をおっぱじめて……その結果が今なんじゃないか?』

 そういったら、クソ女神は当たり前だけど怒り出した。

【何をえらそうに!

 わたしは何も命じてないわ!彼らが勝手に暴走して問題が起きただけじゃないの!】

 あーうん、俺が偉そうなのは否定しないけど。

 でも間違ってないはずだ。

『まぁまぁ、俺が偉そうってところはとりあえず置いといてくれよ。どうせあんたの人間族よりは下に見てるんだろ?』

【は?あたりまえじゃないの】

 はは、こいつもホントに変わらないよな。

『俺だって悟りを開いた賢者じゃないから、完全な答えなんてわかんねえし、かりにも神様のあんたに説教たれるようなタマじゃないのもわかってるさ。

 けど、あんたのやらかした失敗なら俺にも想像がつくって事だよ……ご愁傷さまとしかいいようがないが』

 俺はためいきをついた。

『あんた、欲に駆られた人間がどういう行動をとるのか理解できてなかったんだな。

 あのな。

 人間ってな、予想外に美味しい目にあって味をしめちまうと、それを今回限りのラッキーとは思わないんだよ。

 二度、三度、いくらでも美味しい目を見たいと思ってしまうし、それを求めちまうんだ。

 悲しきかな、それもまた人間の(サガ)なんだよ』

 

 地球には実例がある。とある南の島だ。

 

 とある南の島なんだが、もともとはのどかな漁業と自給自足の島だった。

 ところが長年の鳥のフンなどが蓄積して大量のリンの鉱脈ができあがっていて、これをアメリカみたいな国に目をつけられちまった。

 先進国マネーで彼らは働かずして贅沢な暮らしを手に入れたわけなんだけど……問題は、その鉱脈を取り尽くした時代になってから現れた。

 そう。

 働かなくとも贅沢できる生活にずっと慣らされた彼らは、金がなくとも働かない、働けなくなっちまった。

 かつての繁栄を夢見ながら、わずかながらの生活保護や補助にしがみつき動かなくなってしまったんだ。

 もう、彼らは戻れない……のどかに自給自足で暮らしていた時代には。

 

【……】

『人間族たちは確かにろくでもなかったが、バイタリティに満ちた働き者って意味ではまともな連中だったよ。

 少なくとも、俺はそう思ってた。

 そんな奴らに、楽して大儲けを教えちまったのは、あんただろ。

 俺は、偉そうに断罪なんかできる立場じゃないけどさ。

 それはやっぱり、明らかに失敗だと思うぞ?』

【……うるさい、うるさいうるさいうるさぁいっ!】

 子供のように女神はわめきだした。

 だけど。

【ちょ、待ちなさいどこ行くのよ】

『ああごめん、悪いな。そろそろ俺も──』

 自分の思考がまとまらなくなってきた。

 

 ……これは、たぶん。

 転生にむけて、いよいよ俺自身が……。

 

 恐怖は、ない。

 

 マオの顔を思い出した。

 記憶がなくなろうが、別人に成り果てようが……きっとマオが待っててくれる。

 そう思うと、俺は何も怖くない。

 

【……!】

 

 遠くから聞こえる、もう意味のわからない女の声。

 そして。

 

 そして俺は……静かに消えていった。


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