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異世界の種族たち

 あいかわらず、下着みたいな布をまとっていて、腰のベルトにはボトルがささっている。

「マーシか、久しぶり」

「ははは、間違いねえユウだ。

 しかし、なんだその格好は?噂には聞いてたがよ」

「クソ女神に呪われてな」

「そりゃごくろうなこった、何とかできんのか?」

「これがすんだら、エキドナ様にやってもらう」

「そうか、そりゃよかった」

 そういうとマーシはマオの頭をなでた。

「うにゃあ」

「ああ、なんてこったい、嬢ちゃんまでこんなにされちまってよ。

 しかし、なんでまた呪われちまったんだ?」

「マオが女神に、俺と(つがい)になりたいと願ったらしいんだ」

「その願いを利用されたと。あいかわらずクソ女神だな、やつぁ」

「まったくだよ」

「エキドナ様となんて?」

「俺を猫族に変えてくれるってよ」

「……そうか」

 マーシは少し微笑むと、またマオの頭をなでた。

「……うー」

 マオはマーシの手を少しいやがるが、排除しようとはしない。

 ……向こうにいた頃と全然変わらんな。

「ま、仲良くやれや」

「おう、ありがとな」

「うむ」

 そういうとマーシは周囲を見た。

「おうおう、次々転移してきやがるな。

 ……しかし、ずいぶんとちんまりした場所だなここは」

「半島の先端近いからな、平地がないんだよ」

「ああゾンビ対策か、対応すんでねえのか?」

「こっちは時間がなかったんでな」

「りょーかい、じゃあ、おいらの仕事はそっからだな」

「だろうな、また頼むわ」

「おう」

 翼人は数も少なく戦闘力も低いが、とにかく機動力に長けている。

 だから翼人は連絡なんかの仕事をする事が多く、皆もよく頼み事をする。

 平時は寝たり遊んでばかりなんだが、それでも怒られないのはそのためだ。

 翼人とはそういう連中。

 俺も向こうではマーシの手をよく借りた。

 彼はたぶんこっちでもまた、同じように昼寝をし、皆に手を貸し続けるのだろう。

「……ん?ゾンビのニオイがするな」

「あっちにゾンビがいるからだろ」

「ハチのニオイもするぞ」

「そこの家だ。窓のとこに巣があってな」

「ほう!異世界のハチか!」

 マーシは嬉しそうに言うと「どれどれ」と見に行ってしまった。

「これか?あけていいか?」

「おい、生きてるやつもいるぞ!」

「わーってるって、羽根は焼いてあんだろ?」

「おう」

 そういうとマーシは手をふり、ごそごそと手を入れると何かをとり戻ってきた。

「ん、なかなかうめえじゃねえか」

「……そういいつつ、つまみ食いしただけ?」

 俺は少し首をかしげたが、マーシはにこにこ笑うだけだ。

「じきにわかるさ……お、きたきた」

 そう言われてマーシの視線を追いかけると、これまて見覚えのある種族が。

「何だ、子熊族じゃねえか」

 コボルトのたぐいだそうだが、見た目がものすごく子熊なのでその名がある。

 はっきりいってコボルトとしても弱い方の種族だけど、彼らはクマのように蜂蜜を喰い、森の奥でたくましく生きている面白い連中だ。

 それに、見た目は子熊でもやっぱりコボルト。

 戦略をたてて集団戦を行う時の強さはゾッとするほどだし、夜戦能力も高い。

 見た目に反して頼もしい存在なのだ。

「うわ、なにこの猫っぽいヒト」

「あーすまん、俺だよユウだ、わからねえか?」

「え、そうなの?」

 なんか数匹の子熊族に囲まれ、すんすんとニオイを嗅がれた。

「あー、なんか混じってるけどユウだねえ」

「なんだユウかぁ、びっくりした」

「やあ元気?」

「おう元気元気、おめーらも元気か?」

 こいつら、用心深いが懐に入ると実に気のいい奴らなんだ。

「はらへった、ハチのニオイするよね?」

「そこに小さい巣がある」

「おー」

 マオが指差して教えると、たちまち数匹がむらがりだした。

「おい、地球製だから味はわからねえぞ」

「ためすためす」

 子熊たちは慣れた手つきで蜂の巣を開いた。

「ああうん、ちっちゃいねえ」

「ちょっとマカーンに似てる?」

「焼いてないね?雷魔法?」

「マナの気配が違うよ」

「あー、ユウだから精霊に頼んだんじゃね?」

「なるなる」

「あ、女王まだ生きてるよ」

「結構、蜜あるねえ」

 蜂の巣に群がる子熊たち……石廊崎の民家の軒先っていうのがまた、なんとも。

 一瞬、もしまだ住人が無事ならこの光景を見てどう思うだろうと詮ない事も考えたりしたけど。

 でも現実には、もうここの人たちは残ってない。

 ここにあるたくさんの家も、みんな空き家。

 そう考えると、はじめて寂しい気がした。

「どうだ?」

「うん、もちょっと量がほしいけど、すごくおいしいよー」

「そうか」

 さっきは慌ててたけど、この巣の感じとハチの大きさ……ニホンミツバチかな?

 神経質って言われるニホンミツバチが、こんな民家の戸袋なんかに営巣すんのか、いくら古い古い型の家だからって。

 これは……もう人間はいないって知ってるのかもしれないな。

 ちょっと切なくなった。

 

 

 気がつけば、周囲は雑多な種族で溢れかえっていた。

「うお、なんかすごいな」

 あっちの世界で見た人たちばかりではある。

 だけど、彼らは皆、バラバラにいろいろなところに住んでいたわけで。

 今の状況をわかりやすくいえば。

 地球なら、ありとあらゆる時代のトップを走っていた種族がすべて、一箇所に集まって騒いでいるようなものだ。

 数もすごいが、内容もすごい。

「やあユウ、しばらく見ないうちに猫っぽくなったねえ」

「いや、そのうちマオもろとも完全に猫族になりますから」

「そうなのかい!?それはすばらしい!!」

 手放しで絶賛してくれるのは、ご存知エルフ族。

「久しいな小僧、えらい姿になっとるようじゃが」

「ハハハ、どもです」

「また武器が必要なら言うんじゃな、どうせ作り直しなんじゃろ?」

 髭もたくましいドワーフ族。

 その他、もう見渡すかぎり……いやそれ以上に広がっている。

「こりゃ、とても全体の把握なんてできないな……『ちょっとすまん』」

 仕方ないので精霊に呼びかけた。

【なあにー】

【すごいねー、にぎやかだねー】

『悪いけど、どのくらいの範囲に皆が転移してきたか、調べられるかな?』

【いいよー】

【かんたんー】

『悪いけど頼むよ』

 しばらくすると、頭の中にパパーッと情報が送られてきた。

「西の方の浜?地名がよくわからないけど……」

 地図があればいいけど、持ってないからなぁ。

 とはいえ、だいたいの位置はわかった。

 西は……多分、あいあい岬ってやつの近くみたいだな。

 そのあたりにラミアの一団がいるのが最も西のグループらしい。

 逆に東は、弓ヶ浜の近くまで主に海辺に分散してる。

 こっちは魔獣種と、人魚系の水棲グループもいるっぽい。

 エルフの主力は……うん、内陸か。

 こういうとバラバラに聞こえるかもだけど、なにしろ数が多いからな。

 しかも、みんな手ぶらなわけじゃない。食料や生活用品をもってきた連中もいるわけで。

 

 ……実は分散どころか、人口密度が高すぎてえらい事になってるな。

 さっさと伊豆半島全域を安全圏にして分散しないと、大変なことになるかも。

 

 そんなこんなで分布状況など確認していると、輝いていた魔法陣たちがスッと音をたてて消えていった。

 見上げると、エキドナ様と……途中からサポートしていたっぽい数名のエルフが疲れた顔をしている。

「おつかれさまです」

「ん?ああユウだな、うんうん」

 あっちで見覚えのある若者エルフのひとり……ああ、ちなみに男だ……だ俺を見て確認し、それから納得げに微笑んだ。

「ユウこそ蛇殿の手伝い感謝する、おかげさまで我々は救われるよ。自分のことだけでも大変だったろうに」

「いやいや、俺たちこそエキドナ様にお世話になってますんで」

 と、そこまで言ったところで俺は、ふと思ったことを質問してみた。

「そういえば、婆ちゃ……もとい、長老様はどちらに?お世話になったんでお礼したいんですが?」

 直接助けてくれたのはエキドナ様だけど、もちろん婆ちゃんにも情報とか助けられたからな。

 そう思ったのだけど。

「長老様はこちらにはおられない」

「え?」

 予想外の言葉に、俺は耳を疑った。


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