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準備開始

 実際にいくとわかるのだけど、石廊崎周辺には平坦で広い土地が少ない。

 本来なら広い場所を確保する必要があるのだけど。

「一刻も惜しい、ここを使うぞえ」

 石廊崎から少し中に入ったところに石廊崎漁港がある。

 そこは広大とまでは言わないけど大きめの駐車場があり、わずかに広げると必要な魔法陣を置けるそうだ。

「空中魔法陣を使うんじゃないの?」

「使うが、あまり高低差があると転移してきた者たちが怪我をするのじゃ」

「あ、そうか」

 ということは海もダメなんだな。

「ここなら高さどれくらいでイケる?」

「こんなものじゃな」

 二メートルってとこか。

「わかった、ゾンビの掃討は俺がやるよ」

 すぐそばに石廊崎の集落がある。

 あまり多くの家もない静かなとこだけど、何しろ石廊崎だ。

 民宿も複数あるしキャンプ場やら土産物屋やらある。

 まったくの無人とは思えない。

「……うむ、頼んだぞえ」

 エキドナ様は一瞬何か言いかけたようだけど、結局任せてくれた。

 すぐに精霊たちに声をかけた。

『このあたりに生きてる人間はいる?』

【いないよー】

【みんな、ぞんびー】

『ゾンビがどこにいるか教えてくれる?』

【ここー】

 脳内に、パパーッと情報が提示された。

「うわ、多いぞこれ」

「いっぱいいるの?」

「ほとんど全戸にいる、こんなん短時間じゃ掃討しきれないぞ」

 ご丁寧にキャンプ場にもいやがる。

 石廊崎の駐車場や、その向こうの遊歩道にはゾンビがいないようだ……幸いなんだか不幸なんだか。

 さて、どうしたもんかな?

 考えていたら、マオが言ってきた。

「ユー」

「ん?」

「中にいるの、閉じ込めたら?」

「……なに?」

 俺は思わずマオを見てしまった。

 そして考えた。

「そうか、とりあえず閉じ込めときゃ、少なくとも転移してきた連中の妨害はしないかな?」

 うん、名案かも。

「その案もらった、ありがとうマオ!

 エキドナ様、エキドナ様ちょっと!」

「む、なんじゃ?」

 みれば、エキドナ様は駐車場に何か巨大な魔法陣を広げだしていた。

「ゾンビが多いんで、屋内のやつは全部閉じ込めとこうと思うけど、どうかな?」

「それでよい。どうせこの世界の家屋なぞ、いきなり危険すぎて使うわけがないからの。

 うかつに建物に入るな、と徹底しておけばいいんじゃろう?」

「です」

「あいわかった。

 では、とりあえず簡単に出られぬよう封印だけ頼むぞ?」

「りょーかい!」

 俺はうなずくと、精霊たちに呼びかけた。

『外から鍵をかけられるドア、窓、全部締めてくれ。ダメなやつは教えてくれ』

【わかったー】

【ちょっちまてー】

 グイッと、魔力が吸い上げられる感触。

 次の瞬間。

「お」

 集落のあちこちから、バタン、がちゃん、カシャンと何かの動く音が響き渡った。

 おお、なんかスゲー、昔みた超能力者の映画みてーだな……って、あれはちょっと不吉すぎるか。

 そして。

【みぎ、よんけんめ。かぎ、こわれてる】

『ありゃ』

 見れば、その家の窓は昔の、戸袋があるタイプだった。

 ああ、これ、真鍮のねじ込み鍵だったやつだろ……アレだ、三丁目で夕日を見そうな時代のやつだ。

 これが壊れるって……どんだけ鍵を使ってないんだよ。

 さすが田舎、鍵なんて普段あまり必要ないんだろうな。

『雨戸あるか?雨戸閉めたら代わりにならないか?』

【あるよー】

【しめる?】

『頼む』

【おけー】

 がらがら、ピシャンと音がして、窓が閉まったんだけど。

「ってっ!」

「ハチ!?」

 しまった、戸袋に蜂の巣か!

 いきなり、わんわんわんってハチが出てきたんだけど。

『風の結界!』

【わかったー】

 

 巣があると思われるあたりを、すっぽりと結界で包んでもらった。

 

「あぶねえ……こぼれてないか?マオ?」

「ん、たぶん、だいじょーぶ」

「よし」

 蜂の巣退治は初動が重要なんだよな。

 ワンッて広がる前に結界で囲んで、まとめて処置。

 あれだ。

 前に、ハチの巣をエアゾル一本で封じちゃうおじさんの映像を見たけど、あれを参考にしたんだ。

『木造建築だから焼くのはダメだな……雷で』

【さんだー】

【ばーん】

 バチ、バチバチバチッと大きな音がした。

「よし、これでいいかな……『確認してくれ』」

【まだいきてるの、いるよー】

『わかってる、飛べるやつは残ってるか?』

【いないよー】

『あと、女王と幼虫は生きてるか?』

【しんだよー】

『おけ、ありがとうな』

【いいよー】

【まいどありー】

 よし、これで処置オーケー。

「まだ生きてるのに放置するの?」

「飛べなきゃ襲ってこれないだろ?」

 使った雷は一瞬だから、建物を燃やしたりはできない。

 だけど、ハチどもの羽根を焼いたり、生命を破壊するには充分ということだ。

 ……生き延びた個体が少しいたところで、女王と幼虫が死んでたらもう再起は無理だしな。

「あと、外を歩いてるやつは……キャンプ場か」

 

 

 石廊崎漁港から少し走ると、県道16号・石室トンネルの東側出口の近くに出る。見ればわかるけど、漁港側は旧道ってやつなんだと思う。

 え、なんでわかるのかって?

 もちろん、石廊崎周辺は両親と何度か来たからだよ。

 で。

 そのすぐ東の奥にキャンプ場があるわけなんだけど。

「……なるほど、いるね」

 ピンときた。

 このまわりの建物にはいないようだけど、その理由もわかる。

 ほら、これだ。

「バリケード作ってるな」

「うん」

 県道からゾンビが入れないようにしたんだろう。

 ゾンビは、ちゃんと人間の道を歩いてくる。

 キャンプ場の奥には道がないから、数箇所を塞げばゾンビはやってこないわけで。

 だけど。

「……中でゾンビが出ちまったら、どうしようもないよな」

「うん」

 バリケードの上に上がってみると、よくわかった。

 数台の車。

 広げられたテントと、どこかから調達してきたんだろう資材の山。

 やはりだ。

 入り口にある定食屋の機材などをうまく利用して生活圏を確保していたんだろうけど……その中でゾンビが発生したんじゃ、どうしようもない。

 むごいもんだ。

「……」

 ゾンビたちが俺たちに気づいたようだ。

 だけど。

「こいつら、バリケードを越えられないだろうな」

「うん」

 となると、ここもとりあえず放置か。

 よし。

『路上とかを歩いてるゾンビはいるかな?俺たちに近寄ってくる可能性のあるやつ』

【ここだよー】

 再び、頭の中にゾンビの所在が映された。

 よし、とりあえず問題なしか。

 俺たちは旧道に戻ると、精霊たちに頼んだ。

『なんでもいい、ここに柵をもってきて塞いでくれ』

【わかったー】

 そういったかと思うと、どこかからオレンジのガードフェンスが運ばれてきた。

「お」

 近くに工事現場でもあるのか?

 たちまち旧道に入り口は、まるで道路工事中みたいに塞がれてしまった。

「よし、とりあえずこっちはいいだろ。あとは」

 反対側の入り口と、あと上に行く道が一本あるはずだ。

 それを塞げば、とりあえずすぐには来ないだろう。

 

 

 簡単だけど道をふさぎ、戻るとそこは伝奇ものアニメみたいな光景になっていた。

 え、どういうことかって?

 巨大なエキドナ様に、いくつもの大きな光の魔法陣。

「……どうじゃった?」

「家は戸締まりして、旧道の出口を三箇所でふさいだよ。

 要注意は東のキャンプ場と、それから国道方面に近づくと歩いてる個体がいる。

 通行止めしてきたから偶然入ってくるのはいないだろうけど、転移後だと人の気配で入ってくるかも」

 ゾンビは基本的に鈍感だけど、たまに生者の気配を敏感に嗅ぎつける事がある。

「周囲はゾンビだらけと認識しておるからな、大丈夫じゃろ。

 あと、蜂退治もしとったが、あれはどうじゃ?」

「女王と幼虫は殺したけど、全体は雷で炙っただけだよ」

「ああ、羽根を焼いたんじゃな。ハチ好きがおるらしいから、やつらに渡せばよかろう。

 よし、よいぞユウ、そなたもそろそろ中に……いやまて」

 

 俺に何か言いかけたエキドナ様だったが、ふと顔をあげて眉をしかめた。

「ユウ、マオ、すまぬが対応しておくれ」

「え?」

「シモダ方面から車が接近しておる……道にいるゾンビを跳ね飛ばしながらな」

「!?」


昔みた超能力者の映画:

 スティーブン・キングの『キャリー』のこと。

 両親の趣味で見せられたらしい。


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