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死者と昇華

 よく見てみよ、と龍王様が指差したのだけど。

「え……なにあれ?」

 よく見ると、大きな人影の足元に、わらわらと小さな影がいくつも、いくつもいる。

 光だったり影だったり。

 まるでそのさまは。

 NHKの子供番組で、司会のお兄さんお姉さんのまわりに群がる子どもたちみたいだった。

 

 な、なんだあれ?

 いや……見たことあるような気がするけど。

 

 ……まさか。

 

「あれは水子や、乳幼児のうちに死んでしもうた子らじゃよ」

「!」

 

 ……あ。

 やっぱりそうなのか。

 

「ひとりでは昇華できぬ、さりとて頼る親もなく、さまよえる魂じゃが……む?」

「……」

 龍王様の目が細くなった。

「その意味を説明しようと思ったが……そなた、心当たりがあるようじゃな?」

「……そうだな」

 俺はうなずいた。

「あんたが説明しようとしたのが、昇華できない子どもたちの事なら……たしかに知ってるよ。

 それと……ほとんどの人が昇華することもな」

 

 記憶が蘇って。

 ……そして胸が痛んだ。

 

「……そうか、そうだな」

「……?」

 龍王様は俺の顔を見て。

 そして、なぜか悲しげな顔をした。

「そなたは……いや、そうであったな」

 悲しげな顔で龍王様は言った。

 

 え、なんでそんな悲しい顔をするんだ?

 

「!」

「……マオ?」

「……」

 マオが俺にしがみついてきた。

 そしてマオは、龍王様を睨みつけた。

 そして。

「龍王どの」

 なぜかエキドナ様まで、厳しい目を龍王様に向けていた。

 

「すまぬことをしたのう」

 竜王様はなぜか謝ってきた。

「そなたは勇者といっても、その根本にあるのは現代の、普通の日本人だったな。

 つい、戦国の世の豪傑・英雄たちと同じつもりで扱ってしもうたな……許してほしい」

「いや、あの?」

 

 え?

 なんでマオも、エキドナ様まで怒ってるんだ?

 

「……詫びもかねて少し説明しよう。

 あの子らは、ああやって祈りの場にいる事で少しずつ浄化され、いずれ昇華していくんじゃよ」

「やはり、そういうことですか」

「うむ。

 その様子じゃと、あちらの世界とやらにも同じような者たちがおったかな?」

「はい」

 あの悲しい日々……戦いにあけくれる世界でも。

 それでも、うまく輪廻の輪に戻れぬ魂を導く者たちはいた。

 ……そう。

 俺を地球に返してくれた、あの人たちだ。

 

「あの人たち、生きてないですよね?」

 黙々と神事に励んでいる神主や巫女たち。

「うむ、彼らは生前から目の開いていた者たちじゃな。

 ……そなたの指摘通り、もう死んでおる。

 しかし、それでも迷える子らのためにと、昇華を後回しにああして仕事を続けておるのだよ」

「……そういう事ですか」

 あちらの世界でも、似たような風景を見たなぁ。

 こっちでも同じってことか。

 

 こうしてみると。

 俺は日本の、そして地球のことを……知っているようで何も知らなかったんだなぁ。

 

「……大変ですね。

 ものすごい数の人が死んだんだ、昇華できない魂も多いでしょうに」

「それがのう、そうでもないようじゃな」

 え?

「そうでもない?」

「少子高齢化の時代じゃったからな、そもそも死んだ子供の数が少ないんじゃよ」

 あ。

 そういうことか。

「そもそも、こうして稼働している神社もひとつだけではないしのう」

「他にもあるんですか?」

「うむ、新旧いくつかあるのう」

「……その神社の人たちも亡くなってるんですか?」

「まだ生きておるところもあるが、正直いって籠城状態に近いからのう。

 ……食料か、中の者たちの心が、どちらかが尽きるのは遠い未来ではなかろう」

「そうですか」

 そうして死んで。

 亡くなってなお、自分たちが昇華するまでは手を止めないのか。

 

 なんというか……すごいもんだ。

 

「それにしても」

「む?」

「ゾンビに殺されるなんて地球じゃまともな状態じゃないし、さぞかし迷える魂で溢れているんじゃないかと思ったんですが。……大丈夫なもんなんですね」

 いや、無事に昇華するのが一番いいんだけど、それにしても意外だ。

 そしたら。

「どんな形であれ、死は死じゃからのう。

 そもそも、死して肉体をなくした魂が昇華せずにいる、というのは自然なことではないしの」

「たしかに」

 そんなに簡単に昇華できなくなるのなら、この世は迷える魂で満タンになっちまってるはずだ。

 でも実際にはそうなってないし、迷っていても根源の理由がなくなれば、たちまち昇華してしまうことが多い。

 それはつまり。

 肉体をなくした魂は昇華してしまうのが自然であり、本来の流れだからだ。

「どこでも変わらないんですねえ」

「そりゃそうじゃろ。

 そもそも、似たような森羅万象の世界じゃからこそ、そなたも勇者の美名の元に召喚されたんじゃろうしな」

「……というと?」

「なんじゃ、わからぬか?

 たとえばじゃ、呼ばれた者が即死するほど異質な世界じゃったらどうじゃ?

 そんなもの呼んでも誰が得する?」

「……なるほど」

 俺はためいきをついた。

 

 そんな話をしていて、ふと俺は気づいた。

「あれ?」

「なんじゃ?」

「ほら、あの離れたところもの光はなんです?」

 なんか3つだけ、別のところにぽつねんと光があった。

「ああ、あれか。母子連れじゃよ」

「母子連れ?」

「あれは母子揃って殺されたんじゃよ。

 冥府魔道に迷うことはなかったが、子ふたりが幼すぎて昇華しきれんでな。

 そして母親は、そんな子供たちが気になって昇華できぬ。

 で、ああやって遊んでやりながら昇華を待っとるわけじゃ」

「……神社の人たちは何も?」

「必要ないからのう」

「そうなんですか?」

「うむ」

 龍王様は大きくうなずいた。

「おそらく、子供ふたりはなんらかの障害をもつ子たちだったのじゃろう。

 じゃが見るがよい、ここから見てもわかるくらいに健全そのものではないか。

 マイペースなことこのうえない母子じゃが問題ない。

 多少時間はかかるが、いずれ自然に昇華してしまうじゃろ」

 そんなもんなのか。

「ちなみに旦那さんは?」

「血縁上の父親はおったんじゃろうが……あとはお察しじゃろ」

「……」

 なるほど。

「そんな状態でも昇華はされるんですね?」

「あたりまえじゃ。

 確かに片親じゃと子育てに制限が生じるし子供の成長にも影響を与えるが、それは魂の昇華にはまるで関係ないからの。

 それなりに、せいいっぱい生きて、そして死んだんじゃろ。

 なに、昇華が盛大に遅れる個性派はいつの時代にもおるものじゃしのう」

 そういうと、龍王様はやさしく目を細めた。

 

 ふうむ。

 ヒトだけの神ではないといっても、ひとが嫌いってわけじゃないんだな龍王様。

 ま、それもそうか。


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