東名高速を下る
東名高速を下り方向に進んでいく。
といってもこのままいくと逆走になってしまうので、途中、右ルートと左ルートが合流してから順方向に道に移った。
「む」
エキドナ様が眉をしかめた。
「どうしました?」
「ゾンビがおらぬな」
言われて本線上を見ると、確かにゾンビの姿がない……厳密にはゼロではないが、上り線と比較しても少ないように思う。
「なんでだろ?」
「可能性はふたつあるのう。
ひとつは、単に入ってきておるゾンビが少ないこと。理由は不明じゃが」
「もうひとつは?」
「誰かが掃討しながら通過した可能性があるのではないか?ほれ見よ」
「あ」
指さされた方を見ると、潰れたゾンビが転がっていた。
頭が潰れていないせいか、まだ少し動いている。
「焼いたのでなく、単に跳ね飛ばしておる。わらわがトウキョウに向かうおりにやっていたようにのう」
「ですね、ちょっと失礼」
エキドナ様の肩から降りた。
たちまち臭気が鼻をつく。
「マオはくんな、ニオイがすげえぞ!」
「う、わかった」
困った顔をしているマオを手で止めておき、ゾンビのチェックをする。
「……なんだこれ、なんかハネられたの最近ぽいですよ、もしかしたら今日かも」
「なんじゃと?どういうことじゃ?」
「流れた体液が乾いてないんですよ」
ゾンビの体液はゾンビ本体から離れると、当然だが乾きつつ腐っていく。
けど、こいつのはまだ瑞々しい。
「今、楽にしてやる。『みんな、こいつを火葬頼む』」
【わかったー】
【だびにふすー】
一歩離れると、精霊たちの炎が渦を巻き、ゾンビを焼き始めた。
前に説明したが、渦を巻くように燃やすのはわざとだ、マオが参っちまうので上空に臭いを逃してるんだよな。
このまま外の自然燃焼に任せると、人体を燃やすには時間がかかるものだ。
だけど、俺は精霊に頼んで温度をあげてもらうんだ。
ふふ、魔力が増えて、ようやくできるようになったんだが。
『炎を熱くしてくれ、俺のイメージ通りに』
【いいよー】
【ちりちゃー】
たちまち炎の温度が跳ね上がり、みるみるゾンビが崩れていく。
「無宗教ですまんな、ゆっくり休んでくれ」
軽く祈っているうちにゾンビは燃え尽きて、そしてボロボロと崩れてしまった。
「ふむ、炎の温度をあげたのか……向こうではアンデッドを今のように焼いてたのか?」
「はい、ですねえ……ようやく安心して連発できるようになってきまして」
つーかエキドナ様、高温の炎で驚かないってことは……知ってるのか。
核を知ってた事といい、なめんなファンタジーって感じだよなマジで。
「さぁいくぞユウ、そろそろ乗るがよい」
「ういっす」
エキドナ様の肩に戻った。
「出発するが……わらわも注意するが、そなたらも注意しておくれ?」
「注意?何を知ってたです?」
「よくわからぬが」
ゆっくりとエキドナ様は加速を開始した。
そして加速しつつも、じっと周囲を伺っているようだ。
「……なにかおるかもしれぬ」
「なにか?」
「うむ、なにかじゃ……経験上、この感じは龍じゃと思うんじゃがなぁ」
「龍?」
俺は思わずエキドナ様の顔を見た。
「誰か転移してきたってこと?」
「いや、転移の痕跡はない。それらしき神獣の気配もない」
「じゃあ、違うでしょ?」
「そうかのう?……ユウよ、よーく前方を見てみい」
「え?」
言われるままに進行方向をみた……何もない。
「何もないですよね?ゾンビが何匹か落ちてるけど」
ずっと向こうの方でも、はねられたゾンビが転がってた。
これは、やはり……誰かが通過したってことか?
「ユウよ。
そなた、あのゾンビのハネられ方と、わずかに残っておる引きずり跡……あれをどう見る?」
「どう見るって……あれ?」
言われて気づいた。
「なんだこれ」
なんか、エキドナ様くらいのでっかいものにハネられた……そんな感じに見えるかも。
「トレーラー、いや、もっとでかいよな……車線をまたいで広がるサイズっぽい。
自動車サイズでないもの、何かがここを通ったってことか」
もしこれが車幅なら、ハマーどころじゃないだろ。
御殿場も近いし、軍事車両か?
いやしかし、それにしても。
「軍事車両にしては無限軌道の跡もないし……なんだこれ」
「そなたもわからぬか。
ふうむ、ではこの世界にある鉄の乗り物ではない可能性もあるぞ。
やはり龍種ではないのかのう」
「……なんでソワソワしてんすか?エキドナ様?」
「龍種は苦手なんじゃ、竜ならまだいいのじゃが」
そうきたか。
「まぁ了解、ちょっと警戒していきましょう」
「うむ、頼むぞえ」
そういって進みだそうとした、ちょうどその時だった。
『そこにおる、異界より参りし蛇の女よ』
「!?」
「!?」
な、なんだこれ!?
頭ン中に、ガーンって声が響いたぞ。
エキドナ様が顔をあげ、そしてその声に返した。
『わらわはエキドナ、こことは違う世界より参った魔獣の母たる者。
声の主よ、そなたはもしや、この地方を治める主様かや?
であれば、突然の無礼を侘び、そしてこの地に参った釈明をさせていただきたいのじゃが』
「え?」
おいおいエキドナ様、何いっちゃってんのさ。
ここ御殿場だよ?
こんなところを人間以外の何かが治めているわけが、
しかし、再び轟いた声に俺は本気でおったまげる事になった。
『我はこの地の者ではない、かつて剗王と呼ばれ富士の北にありし者なり。
昨今のこの地における怪異、そして、異界の者について調べておる。
えきどな、なる蛇の女よ。
何か伝え、聞こえがあるなら教えてくれぬか?』
「せのおう……剗海の王!?」
俺は言葉の意味を悟り、そして絶句した。
は、はは、まさか……冗談だろ?
そんな馬鹿な。
「なんじゃユウ、知っておるのかや?」
「名前だけならね……もし本物ならだけど」
「本物なら?」
「ほら、この山、富士山ていうんだけどさ」
「ん?おお、霊峰じゃな」
ちょうど富士山は晴れていて、きれいな山容を惜しげもなく現していた。
「この山の向こうに昔、剗海ってバカでかい湖があったんだ。
今は火山活動のせいで富士五湖っていって分割されちゃってるけど、今でも湖底ではつながってるってきいた事がある」
「なるほど読めたぞ。
その地に龍王伝説があり、ユウはそれを知っておるのじゃな?」
「ああ、そうだよ……富士五湖の龍王様ってことだよ!」
最後の方は、ほとんどヤケクソだった。
いや、だってそうだろ?
現代日本にゾンビがあふれ、エキドナ様が異世界からやってきた。
それだけでもすごいのに……富士五湖の龍王様て。
俺はこれでも、現代科学教育をうけた日本人なんだぞ。
頭いてえ。
だが声の方は、俺の声を聞きつけたのか上機嫌になった。
『ほっほう、そこにおるのは日の本の民であったか!面妖な容姿のため異界の者と思っておったが』
半獣だもんなぁ、否定できない。
「……呪いみたいなもんで、姿を変えられたんです」
『そうか、それは難儀な。
では、すまぬがちとこちらに来てくれるかの?わしが行ってもよいが、久方ぶりに地上を探索して消耗がひどくてのう』
俺はエキドナ様を見上げた。
よいぞとエキドナ様が頷いた。
「了解です、じゃあ俺、このあたり少しわかるんでエキドナ様を誘導していきますよ。
それで龍王様、どちらにいらっしゃるんで?」
『先日、神山が吹き飛んで大量の土砂が流れ、川をせき止めて湖ができたであろう?
そこは以前は若い龍がおったが、人間があまりにも騒ぐので姿を消しておってな。
その湖で水に浸かり、気力を回復させておるよ』
「かみやま?吹き飛んで湖……あ」
何言ってるのかわかったぞ。
「龍王様、それって芦ノ湖ですよね?」
『おう、人間どもはそう呼んでおるんじゃったかのう』
うわぁぁ、タイムスケールが違いすぎ。
「あー、念の為に訂正させてもらいますけど、箱根の神山が噴火したのって、この星の時間で三千年前ですよ。芦ノ湖の九頭竜事件だって平安以前じゃないですか……さすがに今の日本人は知らないですよ」
『む?そなたは知っておるようではないか』
「そりゃ、両親が伊豆好きでこのへんよく来てたもんで。
ま、いいです。芦ノ湖にいけばいいんですね?」
『うむ』
「了解しました」
そして俺は、大きくためいきをついた。
『ユウ、前から思っておったが、そなた蛇や龍にやたらと強いのう』
「それは誤解っす」
『しかし今も、平然とこの地の龍王どのと話をしておるではないか。
正直、わらわですら内心ビビッておったのだぞ?』
「……楽しそうにビビったって言われても」
そういうと、楽しそうに笑いだした。
いや、あのね。
俺が龍や蛇みたいな系統に慣れてるのか、あんたたちのせいだと思いますよ、ええ。
なんつーかさ。
どいつもこいつも、寿命がやたら長いせいか、おっとりして能天気なひとばっかだし。
いやマジで。
「さて、ではどう行く?ユウや」
「とりあえず御殿場で降りましょう、道もつけられてることだし」
「道をつけられてる?」
「あれですよ、あれ」
俺は御殿場の町をゆびさした。
「あれ国道138号だと思うんですが……信号機とか、ちょっとへし折られてるでしょ」
「ふむ、ゾンビのハネ跡もあるのう……なるほど、あそこを通ったのか」
「たぶん。俺たちも使わせてもらいましょう」
「うむ、そうじゃな」
そんな話をしていたら、マオがツンツンと俺をつっついてきた。
「なんだ?」
「ユー、おなかすいたー」
あ。
「悪い、先に休んで食っていくか」
「うん」




