これからのこと
「というわけで、これからの事なんじゃが」
「はい」
今後の事についての話が始まった。
「候補地は、イズというところでほとんど決まりかけておる。
オルトロスと精霊たちの報告によれば南部や西部はゾンビの数も少なく、気候条件も
よく揃っておるでな。
しかも半島という地形が良い。
ゾンビたちは海を渡らぬし山越えもせぬのでな、安全確保もしやすかろう」
あ、やっぱり伊豆なんだとなぜか思った。
どうしてだろう?
俺はエキドナ様が伊豆を気に入るのが当然のように思えてしまっている。
なんでだろ?
うむ。
どことなくお袋を連想するところといい、どこか親しみが湧いてるせいかもしれないな。
「……あー、山越えについては若干の注意が必要です」
「む?」
「山で作業に従事していた者や登山家がいるからです。数は多くないけど無視するのは危険かと」
特に登山家は厄介だ。
彼らは基本的に徒歩だから、山にいれば普通に歩き回るだろう。
まぁ、登山口までは歩いて来るわけじゃないから、実際に歩いているのは多くないと思うんだが……気になる事情がある。
え、なんでかって?
そりゃ近年、中高年の登山がやたらと増えていたからさ。
確かに外から入るゾンビはいないかもしれない。
だけどあの日、山にいたアマチュア登山家の誰かがゾンビ化したとしたら?
山道は下に比べて逃げ場がなく、しかも皆、地上に比べて山歩きに向いた……逆にいうと地上ほど気軽にパパッと走れない格好で歩いている。
まさかとは思うんだけど。
山はよく知らないけど、一般に登山家がよく行く山って伊豆には……ないよね?きっと?
むむむ。
「それとユウよ、そなたにひとつ頼みがある」
「頼みですか?」
「報告じゃが、伊豆にいくつか少数の人間が残るグループがあるそうじゃ」
「!」
おお。
「しかしオルトロスや精霊では対話ができぬ。
それに、周囲に非常に警戒しているようじゃ。動くものはすべて敵といわんばかりでな」
「なるほど」
無理もないところか。
「というわけで、確認しながら行くぞ」
「了解です」
さっそく移動という話になったが、エキドナ様も直接転移はできないそうだ。
「うちまでは飛べたのにですか?」
「無理のようじゃ、すまぬな」
「いや、仕方ないですよ」
そもそもエキドナ様が新宿区のウチに飛べたほうがおかしいんだ。
当たり前だが、エキドナ様がウチに来たことなんかあるわけがない。
巨大怪獣もかくやのエキドナ様が東京都新宿区なんかに出現したら、そりゃほとんどゴ○ラ映画の世界にしかならないだろう。新宿にある巨大ゴ○ラの像もビックリなわけで。
……けど、謎だよな。
まぁ俺は転移の専門家じゃないしな、色々あるのかもしれないな。
「……」
「マオ?」
「あ、ごめん、なに?」
「いや、それは俺が聞きたいんだが」
なんだろう。
マオが悲しいような目でエキドナ様を見ていたんだが。
「んー、よくわかんない」
は?わからない?
「わからないのに、あんな悲しげな目をしてたのか?」
「うん」
「そうか」
マオはしばしばそういう事がある。複雑な感情をうまく言葉にできないとか、そういう感じだ。
ふむ、なんだろう?
よくわからないが、本人がわからないというものを追求してもな……。
気になるけど、まぁ、仕方ないか。
「それで転移なんじゃが、ほれ、あそこになら転移できそうなんじゃ」
「もしかして東名の鮎沢PAですか?」
「む?」
「エキドナ様がこの世界に降り立ったとこですよ、俺たちがいたとこです」
「うむ、あの場所じゃ。そうか、アユサワというのか」
ふむふむと納得げなエキドナ様に苦笑した。
しかし、なんだ。
二度もエキドナ様が降臨するとは……実はすごいのか鮎沢PA。
うむ。
「というわけで、さっそく始めるぞ。来るがよい」
「ういっす」
転移というと、普通の人はどうんなものを連想するんだろうか?
俺的に言わせてもらえば「ここではない場所にトンネルをつないで、そこに入る」みたいなものだと思う。
ワームホールとか。
ゲートとか。
どこかに通じるナゾのドアとか。
いろんな表現がなされるけど、つまるところ一致するのは「別のところとつないで移動する」事になる。
え?
ワームホールは途中の空間があるけど、ゲートやドアはゼロ距離じゃないのかって?
いや、それは「見た目」にすぎないらしいぞ。
俺たちは世界を五感ってやつで認識している。
ただ「錯覚」という現象があるからわかるように、目に映るものは現実がイコールである保証はどこにもないんだよ。
それでなんだけど。
ワームホールなんかで開かれるのは異空間、ひとことで言えば「この世ならざる空間」なわけだけど。
どうも俺たちは、その空間を正しく認識できなくて、長いトンネルにみえたり全くのゼロ距離に見えたりするんだってよ。
え?誰の言葉かって?
前に転移魔法について説明してくれた、エルフの偉い先生の話さ。
で、エキドナ様の作る転移魔法はどんな姿に見えるかっていうと。
「……どこぞの物質移送器かな?」
「し、シュン……なに?」
「覚えなくていいぞマオ」
昔のアニメで、なんか偉い敵方の武将が地球側の船を攻撃するのに使ってた戦法だ。
光をあてた船なんかが敵のすぐ近くに転移させられるってすごい代物だったんだよなぁ……原理がナゾだけども。
あれをなんとなく連想させる。
「ゆくぞユウ、マオ」
「はい」
「ういっす」
俺たちは光に包まれて。
そして次の瞬間、東名高速の鮎沢PAに戻っていた。
「よし、数日ぶり」
建物の名前から現在地を確認した。
あれから新しいゾンビは来てないみたいでPAは静かだった……ま、そうだよな。はるばる歩いてくるしかねえもん。
よし、と対向車線に入ろうとしたんだけど。
「どこに行くのじゃユウ?」
「こっちは逆方向なんで、あっちの車線に」
「別にこっちでもよかろう」
「……それはそうなんですが、標識とかが逆になってるから降り口がわかりにくいですよ……って、そうか」
反対側には未掃討のゾンビがたくさんいる。
それに、別に今すぐここで渡らなくても渡りやすいポイントはいくらでもあるだろう。
「……了解」
俺は結局、それだけ言った。
「あとユウ、ひとつ提案があるのじゃがな」
「え?」
エキドナ様は唐突に言い出した。
「そなたの計画じゃと、『ゴテンバ』とやらで降りるのじゃろう?」
「そのつもりですけど……あれ?」
俺は首をかしげた。
「なんじゃ?」
「俺、そんな細かいルートの話しましたっけ?」
「してないかもしれぬのう」
「……なんで知ってんですか?」
「おや、わらわが下調べもせぬ女に見えるかや?」
「あー……そういう事ですか」
つまり、俺が失神したりマオと仲良くしている間に、エキドナ様は現地調査をしっかりやっていたと。
「それでなんじゃがな、ユウ。『高速道路』を降りる場所じゃが、もっと遠くにできぬかや?」
「というと?」
「もう少し西に向かったところに、この高速道路というやつが海まで突き出してる場所があるじゃろ?
わらわとしては、そのあたりで直接海に降りるのがよいかと思うのじゃが」
「へ?ああ、東名高速の由比あたりか……!」
そこまで言ったところで、エキドナ様の言いたいことがわかった。
「あの、もしかして」
「うむ。
もう住人はおわぬとはいえ、町を破壊して進むのはあまり気が進まぬぞえ」
「すみません、配慮足りませんでした」
そうだ。
日本の町は、数十メートルの怪獣が壊さずに闊歩するようにはできてない……おそらくは高速道路もだ。
ではどうして東名高速をエキドナ様が進めているのかというと。
安全上、東名高速道路の上には障害物が少ない。
少なくとも、下町のように電線が張り巡らされていないってことだ。
そうか。
もし東京が無事だったら俺、あのゴミゴミ東京のど真ん中を破壊しながら進ませるところだったんだ。
……軽率すぎる。
「すみません!」
俺は思わず頭をさげた。
「謝ることはない。
それこそ、そなたは勇者でもなければ万能ガイドでもないのじゃからのう」
そういうと、エキドナ様はやさしく笑った。




