結論
「どうもしません」
俺はきっぱりと断言した。
「ほう、よいのか?このままいくと滅亡だぞえ?」
「俺をなんだと思ってるんですか、無理ですよ」
「ほほう、元勇者様がそれを言うかのう?」
「言いますよ、言うに決まってるじゃないですか」
勇者だって?
ははは、それこそ大笑いだよ。
ある日、突然に異世界に呼び出され勇者の真似事をさせられた俺。
だがその実態は『兵器』として侵略戦争に加担させられただけだった。
しかも俺の十年の奮闘は、実は人間族たちにとっては真の世界戦略……つまり地球人類から生命力を吸い取り、向こうの世界戦略に役立てる準備をするための時間稼ぎでしかなかったんだろう。
俺は二重、三重の意味で否定され、便利に利用されていたわけだ。
だいいち、彼らに契約で強制させられたのは「魔王を倒すこと」なわけだけど。
その実、その魔王ってのは単に魔族から選ばれた代表みたいな存在だったじゃねえか。
日本で、かりに内閣総理大臣を暗殺したからって日本が滅びるか?
違うだろ。
確かに首相暗殺というのは大騒ぎだろうけど、すぐさま代役の総理が任命され、仕事が続けられるはずだ。
そんなものだろう?
俺は結局、あの世界で何もなしえなかった。
できた事といったら、かわいい子猫を拾った事くらいかな?
うん。
マオを得られたことは個人的に素晴らしい成果だと思うが……それくらいだよなぁ。
だから俺は、胸をはって言った。
「俺に世界を変える力なんかないよ。
それに、人類がそこまで減っているのなら、それは十億単位のゾンビがうごめいてるって事じゃないのか?」
しかもその中から、先日の海老名のリッチみたいなのが出たらどうする?
やばすぎるだろ。
「そっちの対応をまずすべきだろ、人間はそのあとだ」
「ほう、そうか?
人間の被害の大きな地域から対策していく、という手もあるのではないか?」
「確かにその手もあると思うよ。
だけどさ。
この世界の人間だって、メンタルという意味ではあっちの人間族と大差ないからな」
自分たちが死にそうな時、なんの得にもならないのに助けてくれる人間がいたらどうする?
まっとうな人間なら感謝するだろう。
だけど必ず、助けに来るのが遅いと非難したり、こっちを利用できると見て利益を吸い上げようとする者たちが出て来る、それが人間というものだ。
「人間のためにがんばってゾンビを倒していたら、助けたはずの背後の人間がマオや手伝いのエルフたちに当然のように危害を加えたり奴隷扱いしはじめたり。
俺、そんなのはもう見たくないよ」
向こうの世界では、さんざんそんな目にあわされた。
人間族のために戦っていたというのに、その同じ人間族にどれだけひどい目にあわされたか。
しかもその相手が盗賊などというのならわかるが、実はそのほとんどが市井の一般人。
中には日本のお花畑の左翼みたいなのもいたが、一番多かったのは、自分の権利を主張するためなら、誰かが死のうがどうしようが知ったことじゃないって「ただの一般人」だった。
で、だ。
悪いけど、俺は向こうの人間だけが特別に性悪な連中とは到底思えない。
もちろん、俺の今まで過ごしてきた人生が歪んでるのかもだけどさ。
でも俺には。
あっちの人間族も地球人も、メンタリティは変わらないように見える。
同じ人間だから?
ノンノン、そんなものは関係ないね。
身内が何よりも最優先で、次に大切なのは味方であるかどうか。
守るかどうかの基準はそれで分ける。
同族かどうかなんて、全然関係ない。
そういう意味でも、俺はやっぱり勇者ってやつではないんだろうなぁ。
「ゾンビを潰しに行って抵抗する少数の者がいたら、場合によっては助けるのはアリだと思う。
だけどこっちより数の多い集団や、お花畑やクレーマーのいる集団はいらないよ。
その辺は必ず見極めなくちゃならないし、未確認で助ける事は絶対にしないわけだけど……。
正直、現場でいちいちそんな判断できないだろ?」
「ほう、それが助けを求めている非戦闘員の集団でもかや?」
「非戦闘員かどうかなんて、どこで見分けるんだ?」
女子供イコール弱者だなんて俺は思わない。
だいいち向こうの世界で俺を大変な目にあわせた連中の大多数は、その女子供たちだ。
勇者なんだから助けろとぎゃーぎゃー喚き散らし、敵をどんどこ呼び寄せるのだけは得意な、自称一般市民のばばあたち。
毛も生え揃ってねえくせに俺を誘惑しようとし、拒否したら襲われたと大絶叫あげて俺を強姦犯に仕立てようとしたメスガキども。
俺は最初、それでも彼らを助けようとした。
でも、彼女らがマオを、俺の相棒であると言っているにも関わらずペットや奴隷扱いしようとした時点で、俺は彼女らをまとめて切り捨てた。
そもそも、俺にかけられた束縛は「魔王討伐」であり、人間族を守れだの亜人を倒せだのって命令されるいわれはなかったからな。
だいいち、差別主義者と敵対者を守ってやる義理はねえ。
気の毒な隣人に手をさしのべる事は別に厭わない。
特にマオをかわいがってくれる人を助けるのなら、喜んでやるだろう。
だけど、その隣人がマオを迫害するなら助ける事はないし、場合によっては踏み潰してマオを守り通す。
それが俺だし、ひととして当たり前だと考えている。
そういうと、エキドナ様は「なるほど」と納得の顔をした。
「そういう事なら、あいわかった。
しかし、よいのか?
なんだかんだで、おまえは今も自分を地球人と認識しているのじゃろう?」
「それについても頼み、というか相談があるんだ……本当は移民問題が落ち着いたら相談するつもりだったんだけどさ」
「ふむ、というと?」
「クソ女神にかけられた種族変換をチャラにできないか?
つまり。
マオを猫族に戻せないかって相談だ」
「ユー!?」
マオが悲鳴に近い声をあげた。
両親のことはとりあえず結末がついた。
埋葬すべき遺体もないわけで、今できる事は祈る以外何もない。
ならば。
俺個人として解決すべき問題はソレだけだと思う。
「ふむ?まぁ、マオを猫族に戻す事自体は可能じゃな」
「できるのか!?」
ダメ元で質問したもんで、この返答には逆に驚いた。
「そなたらの肉体そのものに、変換前の記録が残っておるはずじゃからな」
「え?」
「簡単にいえば、その体は後天的に改造されたものということじゃ。
確かに神を名乗るにふさわしい徹底改造ぶりじゃが、結局のところ改造は改造にすぎぬ。
もとに戻す事は可能じゃよ」
「よくわからないけど……そんなもんなの?」
「そなたにわかりやすくいえばじゃな……ああ、それじゃな。
徹底した外科手術とホルモン治療とやらで完璧な性転換をしたとする。
しかし遺伝子はもとの性別であるし、脳神経にも元の肉体での経験情報が残っておる。もちろん記憶もな。
これらを読み解いて元の姿に戻す技術があれば、元の性別に戻すこともできる……といえばわかるかな?」
「あー……原理としては理解できました」
それを実際にできるかはともかくとして。
「そっか。
移民ができてからでいいが、どこかで頼めるかな?」
「そうじゃな。
あまり時間がたって今の姿が定着すると戻すのが難しくなるのでな、早いうちがよかろう」
俺とエキドナ様がそんな話をしていると。
「!?」
「イヤっ!!」
突然に、マオがぎゅうううっとしがみついてきた。
「ちょ、まてマオ」
「イヤっ!イヤ!絶対イヤ!」
「いや、まてまてちょっと待てマオ、おまえ勘違いしてるぞっ!」
とんでもない馬鹿力で鯖折りされないうちに、俺は言うべきことを言った。
「……勘違い?」
「あ、あたりまえだろうが。おまえだけ猫族に戻して終わりのわけないだろ?」
そういうと、俺はもう一度エキドナ様の方を見た。
「それで、もうひとつ相談なんだが」
「……それはユウ、そなたを人から猫族に変える相談と解釈してよいかの?」
「ああ、そうだ」
「!!」
息を呑むマオの雰囲気が、背後から伝わってきた。




