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八王子ジャンクションへ

 東名高速の海老名SAで夜を明かしたので、まずは圏央道のジャンクションに移動した。

「この道で八王子に出て、それから中央道で都内を目指します」

「うむ、道案内頼むぞよ?」

「了解です」

 さて。

 エキドナ様のおっぱいに挟まれるのは天国なのだけど、マオのご機嫌が急降下するので今日はやめ、エキドナ様と協議の末、肩に乗せてもらう事にした。

 あ、肩といっても生身にそのままじゃなくて肩パッドごしね。

 なんかエキドナ様、巨大な胸装甲(ブレストプレート)をお持ちでした。

 で、これに大きな肩飾りがついていて、ひとが乗れるようになっているんだこれが。

「なんで最初から使わなかったんです?」

「すまぬ、実はあまりにも昔すぎて忘れておったんじゃよ」

 なんともポンコツな理由だった。

「これは遠いむかし、精霊に仕える神職のために作ったものでな……どうじゃ?」

「バッチリです」

 エキドナ様はこれでも立派な女神様だ。

 荒ぶる神というやつだが、どこぞのクソ女神と違ってマトモである。

 神様の肩にのせてもらうとか、ホント役得というか光栄というか。

「でもいいんですか?俺、神職じゃないのに」

「……」

 ありゃ。

 なんか、エキドナ様が困ったような顔で見ているし。

 えっと?

「エキドナ様?」

「やれやれ、なんでもないわい」

 なぜかマオまで苦笑していた……なんなんだよ。

 

 さて、話を戻そう。

 俺の父いわく、東名と中央道が圏央道でつながったのは、実はわりと最近のことなんだそうだ。

 この区間が完成した効果は絶大だった。

 昔から東名道から中央道への移動をするのは大変だった。

 静岡や伊豆から東京に戻るとして、家が新宿界隈や中野などにあるなら東名道の終点に行ってしまうわけにはいかない。実際、特にそこから首都高にいこうと明治通りに入ろうとして、やってられないほどの大渋滞に遭遇して親子でうんざりした小さい頃の思い出がある。

 ではどうするかというと、中央道を使うのがいい。

 ところが、どこから中央道に入るのかが問題だった。

 特に昔は直接つながっている道がなかったから、いくつかの一般道を経由した。たとえば、某キャンプ漫画で有名になった国道52身延街道がいい例で、あれを使って山梨に出て中央道に乗っかる道を父は昔はよく使ったと言っていた。御殿場から富士吉田を目指すほうが距離は確かに近いのだけど、建設中の富士吉田につながる高速は昔は不十分で、そして近くに箱根と富士という二大観光地を有するわりに国道138号はあまりにも狭く、渋滞のメッカだったからだ。

『同志街道や御坂の旧道のように面白い道はたくさんあるんだけどね』

 よく父は俺に言ってたし、伊豆帰りなどによく連れて行ってくれたものだ。かつて太宰治が逗留したという本物の茶屋だって今もあって、富士山の景観が言葉に尽くせない素晴らしさだったものだ。

 ああ。

 俺が異世界召喚なんてされずに普通に大人になっていれば、たぶん小型か普通二輪を取得して遊びにいっていたんだろうなと思う。

 

 話を圏央道に戻そう。

 厚木と八王子をスパッと高速で結ぶ。

 この意味が理解できない者なんて、厚木・横浜・町田あたりで運転する住人ではほとんどいないだろう。

 とはいえ。

「肝心の車がいなくなっちゃあ、便利も何もないよな」

 よくあるパンデミックものなんかの話では、路肩に事故車などが停止し、まともに走れたもんじゃないって話もあったりするんだけど。

 確かに止まってる車も少しはあるけど、でも本当に少ない。

 これが意味するものは、おそらく簡単だ。

 

 つまり。

 社会がいきなり停止したのではなくて……ある程度の時間をかけて止まり、ついには崩壊していったからなんだろうな。

 ゾンビ騒ぎの中で流通が麻痺していき、そしてついにはインフラも止まりはじめ。

 ついにはエネルギーも止まり。

 そうやって徐々に変わっていったからこそ、最低限でも備える時間があったということだ。

 車が自宅なり外の停車場なり、普通に「あるべきところ」に停められていて、よくある破滅の風景みたいに未処理の事故車や放置車が無数にゴロゴロしてないのはそのせいだろうと思う。

 ま、少しはあるけどね。

 

「ユー、あれなに?」

「む?」

 マオに言われて目を向けると、そこには何か異様なものがあった。

「バリケード、かな?」

 厚木PAの外回り側、つまり進行方向のPA側にだけど、バリケードみたいなものがあった。

「生存者がいるかもな、ちょっとまて調べようか。

 エキドナ様、すみません」

「うむ、停止する」

 エキドナ様が止まるのを待ち、精霊たちに声をかけた。

『ちょっと頼む』

【なあにー】

【なになにー】

『あそこに生きてる人間がいるか、ゾンビを含むアンデッドはいるかも調べてくれるか?』

【ちょっとまってー】

【あんたもすきねえ】

 精霊たちが飛んでいくのを、エキドナ様が面白そうに見ていた。

「なんです?」

「森のが面白がるわけじゃなぁ、ふふふ」

「?」

「なんでもないわい、それより返事じゃぞ?」

「お」

 精霊たちが戻ってきた。

【ほうこくー】

【生きてるひと、いないー】

『オッケーありがとな!』

【いいよー】

「エキドナ様」

「うむ、出発する」

 そういうとエキドナ様は動き出した。

 進みだしたところでエキドナ様に質問した。

「あの、ひとつ思ったんですが」

「なんじゃ?」

「転移魔法が使えるのなら、東京まで俺たちだけ送ってくれるって手も」

「わらわが知らぬ場所には送れぬな、そこまで便利ではないぞ」

「あ、そっか」

 俺はもちろん自宅の場所を知っているが、エキドナ様が知らなきゃ意味がない。

「すみませんバカなこと聞きました」

「いや、かまわぬ。

 それに転移するのはもうひとつ問題があるのでな」

「問題?」

「現地がどうなっているのかわからぬのだぞ?

 極端な話、何千何万というゾンビが集まるど真ん中に行ってしまったらなんとする?」

「!?」

 その可能性もあったか。

「精霊たちに前もって確認させてもよいが……そこまでして急ぐ事はないじゃろう」

 そういうとエキドナ様は、俺の顔を見てもうひとこと付け足した。

「まだ質問があったのではないかや?」

「え、なんで?」

 なんでわかるんだ?

「今、そなたの鼻がふくらんだであろう?何かを言いかけたのだと思ったのじゃが?」

「……なんで知ってんです?」

 俺そんなこと、母以外の誰にも言われたことないぞ。

 マオとはつきあいが長いが、そもそもマオは会話が得意じゃなかった。だから今までそういう会話はしなかったんだよな。

 そしたら。

「そんなの、見てればすぐわかるよ?」

「そうなのか?」

「うん……マオは知ってるよ?」

 そういうと、マオはなぜかチラッとエキドナ様を見たあと俺を見たんだけど。

 なんだ?

 なんか、見たこともないような不思議な目で俺を見ている。

 切ないような。

 それでいて、優しさに満ちた目で。

「で、何を聞きたいのじゃ?」

「えっとですね、それは」

「よいぞ、まだ現地まではだいぶ時間があるのじゃろう?」

「それはまあ、まだ八王子から越えてないし」

 八王子で中央道に入り、さらに中央道を終点までいって、首都高四号新宿線の外苑ICで降りる。

 つまり八王子からでも40km以上ある事になる。

「じゃあ、質問していいですか?」

「うむ、なんでも聞くが良い」

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