哀しみの中(1)
伊藤さんから電話があったのは、それから十日が経った年末も押し詰まった冬休みだった。
珍しく家族揃って夕飯を食べていると電話が鳴った。
自宅の電話は、その頃 リビングではなく玄関に置かれていた。
「もしもし、芳川です‥」
「ゆきちゃんかい!」
「はい、伊藤さん?」
「う、うん」
それっきり、伊藤さんは黙ってしまった。
でも、それは、後で考えると泣いておられたのかと思う。
「伊藤さん」
そして、私の呼び掛けに、
「ごめんね、ゆきちゃん。連絡が遅くなって‥」
そして、続けて伊藤さんが言った言葉に私は胸が詰まった。
「ゆきちゃん、親父が死んだんだ」
「えっ、そんなぁ〜!お元気になられたと仰っていたじゃ‥」
「心臓が元々弱かったからね朝方、心臓発作が起きてそのままだよ。呆気ない最期だったようだ」
「会われなかったのですか?」
「出張先に連絡が入ったけど自分だけ帰って来れりゃしないし、もう死んじゃった後だしね」
「哀しいことですね‥伊藤さんも、お父さんも‥」
「仕方がないよ」
いつもの声に張りがないのは当然のこと。
伊藤さんは、言葉に詰まりながら ここ数日の出来事を話してくれた。
落胆されている伊藤さんにどんな言葉を掛けてあげればいいのか?
私は胸が傷んだだけで言葉にすることが出来なかった。
「ごめんなさい。今の伊藤さんに‥どんな言葉を掛けてあげればいいのかさえ思い浮かばないの~」
それより、伊藤さんから連絡がないことに少々腹を立てていた自分の情けなかった。
嫌悪感に苛まれていた。
「いいんだよ。ゆきちゃんの気持ち、届いているよ。これから会えないかな?」
「これからって伊藤さん どちらにいらっしゃるの?」
「たった今、名古屋から帰って来たところだよ」
「私は、いいですけど‥伊藤さんが心配です。明日にしませんか?」
「ゆきちゃんが良いなら、今から そちらへ行ってもいいかな?明日から、仕事に復帰しなきゃならないし、明後日からカナダなんだ。僕は、大丈夫だよ。ゆきちゃんに会いたいんだ」
「解りました」
名古屋から大阪、また、大阪から一時間半の道のりを。
父親の葬儀やら その後片付けやら全てを終え、精神的にも傷心しきっているにも拘わらず私に会うためにZ君を飛ばしてやってきたのだ。




