揺れる思い(1)
そんな私の気持ちとは裏腹に伊藤さんのお気に入りのZ君は、痺れるようなエンジン音を駅前に余韻を残したまま走り出した。
小さな田舎町の駅前は、人影も疎ら。
その疎らな人影さえも注目するのだから大したZ君のようだ。
「どうしょうか‥これから‥」
「そうね、お天気も冴えないですね!」
「ゆきちゃんが行きたい所があったら〜」
「別にないです。あっ、伊藤さん、映画とか観られます?今、確か、ロッキー2をやってると思うんだけど」
「じゃあ、映画にしょうか。ロッキーは観たいと思っていたんだ」
「そう、良かった!行きましょう」
私たちを乗せたZ君は、他の車を走り抜け高速を降りた。
雨が本降りになりそうな気配を感じ 映画館に繋がるアーケードのある商店街を抜けた。
この時、母の言ったことが はっきりと証明できた。
人通りの多い商店街では前方をスムーズに歩くことすら儘ならない情況において
伊藤さんは、そっと私の腰辺りを自分の方に寄せた。
そして、そのまま 私は伊藤さんの腕の中に入る。
もし、母にあの時 注意されていなければ 思いやることの出来ない私は、ヒールの高いフェラガモのパンプスを履いてきてしまっていただろうに。
良かった!
伊藤さんの身長は、多分 165ぐらいだろうか!
私が158だから 今は、ちょうどいい。
映画館でも どこでも 伊藤さんは外国のマナーが備わっているのか 私をスムーズに嫌味なくエスコートしてくるのだ。
時には それが心地好く 時にはお尻が痒くなることもあった。
勿論、Z君に乗る時も降りるときも。
思わず、
「伊藤さん、そんなに気を遣わなくていいですよ」と照れ隠しで言ったこともあった。
だって、Z君が停車するや否や 伊藤さんは素早く助手席側に回り ドアを開け 私の手を取るために ご自分の手を差しのべるのですから。
そりゃ、ちょっと引きますよね。
でも‥内心 女心としては嬉しいものなのです。
映画が終わると雨天のせいもあり夕方のように薄暗く再び腕を組み商店街を歩いた。
「ゆきちゃん、お腹 空いたろう。何か食べようよ!何か名物ある」
「名物って言っても思い当たらないけど‥いつも買い物帰りには、母とウナギを食べたり〜明石焼きとか〜うん!オムライスの美味しいお店があるよ」
「じゃあ、そこにしょう」
私たちは商店街を少し外れた路地裏の小さな洋食店に腰を下ろした。




