愛車フェラーリ(1)
そして、23日 伊藤さんは帰国した。
夜遅くに電話が掛かってきた。
「おかえりなさい」
「ただいま!元気だったかい?ゆきちゃん!!」
「はい、学校も始まったので 皆んなで よく伊藤さんの話題で盛り上がっていましたよ」
「な〜んだよ、気になっちゃうじゃん。どうせ、淳やミハリ辺りが要らぬ噂をしてたんじゃないのか!」
「違いますよ〜伊藤さんは、瑠璃さまに振り回されてて可哀想だったって」
「そっか、皆んな 分かってくれてたんだ!嬉しいよ!しっかし、今回の女子大は彼女みたいな子ばかりの集まりでさ、参っちゃったよ」
「お疲れさまでしたね」
「本当に!疲れちゃったよ。ゆきちゃんたちが恋しかったよ」
「“たち”ですか?」
「ゆきちゃんに会いたかった!そうだ、いつ会おうか?」
「伊藤さんのお休みは?」
「今週の日曜は休みになってるんだけど‥ドライブしないかい?」
「はい、いいですね」
「じゃ、朝9時に待ち合わせよう〜」
「はい、どちらに行けば良いですか?」
「ゆきちゃんは来なくていいよ。僕が近くまで迎えに行くから車にも暫く乗っていないから少し、遠出してやらないと行けないからさ」
「でも‥遠いですよ!一時間では着きませんよ!こちらへはいらしたことあるんですか?」
「もちろん!随分前になるけどね。大丈夫だよ。家で待ってて。着いたら電話するから」
「分かりました」
「じゃ、おやすみ〜ゆきちゃん」
「おやすみなさい」
今週の日曜日とは二日後です。
それが、朝から今にも雨が降りそうな天気です。
ドライブに行こうと言われていたけれど‥この分だと嵐になりそうです。
折角のデートが台無し。
日曜日、8時過ぎだった。
珍しくお化粧をしている私の背後から母が、なにやら意味有り気に訊ねてきました。
「ゆき、出掛けるの〜めかし込んでるけどデートですか?」
「まぁ〜そんなところかな〜」
「へぇ〜お相手は例の伊藤さん?」
母の直感は鋭い!!
そして、その後の言葉が‥
ネックと裾にレースをあしらった少し大人しめのグレイのワンピースを着ていた私に
「その服にはヒールの高い靴よりベタ靴を履いて行きなよ」
「えっ、なんで!この前 神戸で買ったフェラガモを履いていこうと思っててんけど‥」
「あのパンプスはヒールが高いでしょ。ゆき、それを履けば伊藤さんに失礼だよ!」
「そっか!」
私は母に言われた通り フェラガモを履かずに豹柄のベタ靴にした。
持つものは母親 細やかなところに気が利くことに私は感激した。
伊藤さんは自宅の最寄りの駅で待っているとのこと。
私は 愛車である真っ赤なトレノスプリンターで待ち合わせ場所へと急いだ。
すると、駅の電話ボックスに凭れ 新聞をいっぱいに広げて読んでいる伊藤さんを発見!
パリのレストランで英字新聞を広げていた光景が浮かんだ。
あれから、まだ三週間しか経っていないんだぁ~
異国での思わぬ展開で今こうして伊藤さんが 此処に存在していることが不思議でならない私だった。
えっ、電話ボックスの前に停車している車は?
あれは、確か“フェラーリ”ではないか!!
いくら車に疎い私であっても 幻の車ぐらいは分かる。
私はフェラーリの横に愛車を停車した。




