氷の姫は、密着耐性向上計画で自爆する
『連携に失敗し続ければ、永遠にノエル様を練習に付き合わせることができるのではなくて!?』
昨日の放課後、そんな悪魔的な名案を思いついたルナティア・フォン・エーデルシュタインだったが、一晩経って冷静になってみると、その計画には致命的な欠陥があることに気づいてしまった。
(……駄目ですわね)
そもそも、わざと失敗を重ねていては、競技祭本番でノエルに迷惑をかけてしまう。
それだけではない。もし自分の失敗が原因で負けたら、彼はきっと落ち込むだろう。
(……そんなの、絶対に嫌ですわ)
あの優しい笑顔が曇るところなど、見たくない。
しかも、落ち込んだノエルを見て、リーゼあたりが「元気出して、ノエル君!」などと言いながら肩に手を置いたらどうなるか。
(…………)
想像しただけで、頭の中が真っ白になった。
(……おい)
(……誰が触っていいと言ったんじゃコラァァァ!!)
何が「元気出して」だ。
何が「ノエル君」だ。
そんなもの、私が百回でも千回でも励まして差し上げますわ!
(……そもそもノエル様を落ち込ませるような結果にしてたまるかァァァ!!)
そう。
勝たなければならない。
ノエルが楽しみにしている競技祭なのだ。彼には思い切り活躍してもらい、勝利の喜びを味わっていただきたい。
そして、できることなら。
試合後、二人きりで祝勝のお茶会を開きたい。
(……ふふ)
優勝。
祝勝会。
二人きりのお茶会。
そこから婚約。
(……完璧ですわね!)
最後の一段だけ、ずいぶん大きな飛躍があったが、ルナティアは気にしなかった。
問題は、別にある。
ノエルが近くにいると、魔法の制御が乱れるのだ。
正確には、魔法の制御能力そのものが失われるわけではない。
彼の背中が触れた瞬間、意識がそちらへ集中し、頭の中で勝手に結婚式が始まってしまう。
その結果、術式を発動するべき瞬間を逃してしまうのである。
(……何という情けない話ですの)
氷の姫と呼ばれ、魔法理論では教師からも一目置かれている自分が。
好きな人の背中が近づいただけで、新婚旅行へ出発してしまうとは。
(……くっそおおお!)
腹が立つ。
自分自身に、猛烈に腹が立つ。
だが、原因が分かっているなら対策は立てられる。
ルナティアは、昨夜のうちに一つの結論へ辿り着いていた。
(……慣れればよろしいのですわ)
そう。
ノエルの気配に。
彼の体温に。
背中が触れ合う距離に。
何度も何度も身を置いていれば、いずれは平然としていられるようになるはずだ。
(……名付けて)
『ノエル様密着耐性向上計画』。
完璧な作戦名だった。
少なくとも、本人はそう信じていた。
(……今日こそ成功させてみせますわ!)
そして、競技祭では誰よりも見事な連携を披露する。
もちろん、リーゼにも負けない。
絶対に。
何があっても。
(……あの風女にだけは、ノエル様との連携で負けてたまるかァァァ!!)
そんな恐ろしい決意を胸に秘めながら、ルナティアは今日も完璧な令嬢の顔で学園へ向かった。
*
放課後の屋外訓練場。
五人での全体練習が一段落し、各自が連携の確認に移った頃、ノエルが木剣を片手にルナティアへ歩み寄ってきた。
「ルナティア様、昨日の続き、お願いできますか?」
秋の陽射しを受けて、栗色の髪が柔らかく輝いている。
額には、先ほどまでの練習で浮かんだ汗。
それを袖で軽く拭いながら、ノエルは屈託なく笑った。
(…………っ!)
ああ。
好き。
(……いけませんわ!)
まだ何も始まっていない!
ここで倒れてどうしますの!
ルナティアは、そっと息を整えた。
「……ええ。ですがノエル様、本日は少し練習方法を変えたいと思いますの」
「練習方法を?」
「昨日の失敗は、互いの動きを正確に把握できていなかったことが原因ですわ。まずは魔法も剣も使わず、背中合わせで重心の移動を感じ取る練習をしてみてはいかがでしょう」
ノエルは、少し考えるように首を傾げた。
「なるほど。相手がどちらへ動こうとしているか、背中で感じ取るんですね」
「ええ。互いの動きを予測できれば、術式の発動も合わせやすくなるはずです」
これは、決して嘘ではない。
背中合わせで動く以上、互いの重心や足運びを知ることには意味がある。
ただし。
(……五分間も密着する必要があるかと問われれば、少々怪しいですけれど!)
そこは、まあ。
練習なのだから。
長い方がよいに決まっている。
……たぶん。
「いいですね。やってみましょう!」
ノエルは、嬉しそうに頷いた。
(……っしゃあああ!!)
勝った!
第一関門突破!
ルナティアは、内心で盛大に拳を突き上げた。
「では、まずは五分ほど」
「分かりました。最初はゆっくり動きましょう」
「……ええ」
二人は、訓練場の隅へ移動した。
周囲ではリーゼたちが別の練習を続けている。
誰も、こちらを気にしていない。
(……ふふ)
絶好の機会だ。
これなら、余計な邪魔も入らない。
(……いざ!)
ルナティアは、静かにノエルへ背を向けた。
そして、ゆっくりと後ろへ下がる。
数十センチ。
十センチ。
五センチ。
やがて、制服越しに背中が触れ合った。
(…………っ!!)
近い。
いや、近いどころではない。
(……触れておりますわァァァ!!)
背中が!
完全に!
触れておりますのよォォォ!!
(……落ち着け!)
落ち着きなさい、ルナティア!
これは訓練。
真面目な訓練。
ノエル様との連携を向上させるための、極めて合理的な訓練ですわ!
(……私は氷)
万年雪を頂く北の山脈。
何事にも動じない、冷徹なる氷の魔法使い。
そう。
私は氷。
氷。
氷。
ドクン。
背中越しに、ノエルが小さく息を吸う気配が伝わってきた。
(…………)
……あ。
(……ああああああ!!)
駄目だ。
溶ける。
北の山脈が、一瞬で春になった。
(……何ですの、この破壊力はァァァ!!)
昨日より近い!
いや、昨日も近かったけれど、今日は完全に触れておりますの!
しかも、魔法を使わないから意識を逸らす先がない!
(……くっ!)
素数だ。
素数を数えよう。
落ち着くためには、それがよいと聞いたことがある。
(……二、三、五、七、十一、十三、ノエル様、十九、二十三、ノエル様……)
(……違ァァァう!!)
何で素数の中にノエル様が混ざっておりますの!?
そもそも、ノエル様は素数ではありません!
……いや、世界で唯一無二の存在なのだから、ある意味では素数より尊いのでは?
(……そうですわね!)
ノエル様は唯一無二。
何者にも割り切れない、至高の存在。
(……ああ、好き!!)
開始から、まだ十秒も経っていなかった。
「……ルナティア様?」
背後から、ノエルの声がした。
「……はい?」
「少し、力が入っていませんか?」
(…………っ!)
気づかれた!?
まさか、私の心臓の音が聞こえておりますの!?
「肩が少し固くなっているような気がして」
「……そ、そうでしょうか」
「はい。もう少し、楽にしても大丈夫ですよ」
ノエルは、穏やかな声で続けた。
「お互いの重心を感じるなら、少しだけ体重を預け合った方が分かりやすいかもしれません」
(…………)
……はい?
「僕も少し寄りかかるので、ルナティア様も無理のない範囲で合わせてみてください」
(…………)
寄りかかる。
体重を預ける。
ノエル様に。
(……ちょっと待って)
何ですの、その言い方。
何ですの、その優しい声。
(……そんなもの!!)
人生ごと預けたくなるでしょうがァァァ!!
「……では、いきますね」
ノエルが、ほんの少しだけ重心を後ろへ移した。
背中に、柔らかな圧力がかかる。
ルナティアも、それに合わせて体重を預けた。
二人の重心が、ゆっくりと釣り合う。
(…………っ!!!)
あ。
駄目だ。
これは。
(……結婚ですわ)
そう。
結婚。
間違いない。
互いに支え合い、体重を預け合う。
一方が倒れそうになれば、もう一方が支える。
(……これぞ夫婦のあるべき姿!!)
ああ、素晴らしい。
何という美しい共同作業。
(……もう離れたくありませんわァァァ!!)
いっそ、このまま。
日が暮れても。
夜になっても。
明日の朝になっても。
ずっと背中合わせで――。
(……いや、待って)
それではノエル様が困る。
さすがに、五分間の練習を一晩に延長するわけにはいかない。
(……くっそおおお!!)
何という理不尽!
どうして一日は二十四時間しかありませんの!?
もっと長くてもよろしいでしょうが!!
ルナティアが内心で時間という概念そのものへ怒りをぶつけていた、そのときだった。
ピシッ。
足元で、小さな音がした。
(……あら?)
ピシピシッ。
靴の先に、白い霜が広がっていく。
そして。
「……えっ?」
少し離れた場所で、ラウルが声を上げた。
「おい、何だこれ!?」
ルナティアの足元から、細い氷の筋が伸び始めていた。
それは地面を這うように広がり、やがて小さな結晶を形作る。
一つ。
二つ。
三つ。
次々と生まれた氷の結晶が、花びらのように開いていった。
「……うわっ!」
リーゼが、慌てて一歩下がった。
「ちょっと、何これ!?」
氷の花が咲いていた。
透明な花弁。
繊細な葉。
茎に至るまで、まるで熟練の細工師が何日もかけて作り上げたかのような、美しい氷の薔薇。
それが、ルナティアとノエルを中心に、次々と広がっていく。
「すごい……」
エリクが、呆然と呟いた。
「こんな精密な造形魔法、見たことがありません……」
ノエルも、足元へ視線を落とした。
「ルナティア様……?」
(…………)
ルナティアは、ようやく現実へ戻ってきた。
足元を見る。
氷の薔薇。
周囲を見る。
氷の薔薇。
少し離れた場所にも。
氷の薔薇。
(…………)
……あ。
(……やっちまったァァァァ!!)
何を!
何をしているんじゃァァァ!!
この馬鹿女ァァァ!!
(……密着して嬉しすぎたからって、何で花を咲かせておりますのォォォ!!)
しかも薔薇!
よりによって薔薇!
愛の象徴みたいな花を、こんなに大量に!!
(……あああああ!!)
恥ずかしい!
恥ずかしすぎる!
今すぐ全部砕いて、地面の下に埋めてしまいたい!
しかし、ここで慌てて魔法を解除すれば、かえって不自然だ。
何より、ノエルがこちらを見ている。
琥珀色の瞳を大きく見開き、驚いたような表情を浮かべていた。
(……落ち着け)
落ち着きなさい。
私は氷の姫。
王都が誇る、完璧な伯爵令嬢。
この程度の失敗、どうとでもできますわ。
ルナティアは、ほんの一瞬で頭を切り替えた。
まず、周囲の魔力を確認する。
暴走した氷魔法は、幸いにも攻撃性を持っていない。
地面に固定された造形物が広がっただけだ。
競技祭で使うには規模が大きすぎるが、今は訓練場である。
安全を確認した上で解除すれば、問題はない。
(……よし)
次に、説明だ。
この現象をどう説明するか。
重心の同調。
互いの気配。
魔力の流れ。
無意識の術式展開。
(……そうですわ!)
ルナティアは、ゆっくりとノエルから離れた。
そして、周囲を見回す。
リーゼ。
ラウル。
エリク。
そして、ノエル。
全員が、こちらを見つめていた。
ルナティアは、涼やかな微笑みを浮かべた。
「……お分かりいただけましたか、皆様」
「……え?」
ノエルが、瞬きをした。
ルナティアは、足元の氷の薔薇へ視線を落とした。
「互いの重心を感じ取り、魔力の流れを安定させることで、このような造形魔法の展開も可能になりますの」
(……嘘ですわァァァ!!)
安定どころか、感情が暴走しただけですのよ!!
ただ嬉しすぎて、魔力が漏れただけですの!!
(……ですが!)
ここで正直に言えるわけがないでしょうが!!
ルナティアは、内心で悲鳴を上げながらも、表情を崩さなかった。
「今回は、氷の造形を応用した試験的な術式ですわ。仮に名付けるなら……」
少し考える。
そして、静かに告げた。
「……『氷華結界』とでも呼びましょうか」
「氷華結界……」
ノエルが、感心したように呟いた。
「すごいですね。こんなに細かい形を、一度に作れるなんて」
「……ええ」
「でも、これって防御にも使えるんですか?」
(…………っ!)
鋭い。
さすがノエル様。
ただ見惚れるだけではなく、実際の用途まで考えていらっしゃる。
(……ああ、好き!!)
しかし、ここで嘘を重ねるわけにはいかない。
ルナティアは、静かに首を振った。
「……今の段階では、造形に特化した術式ですわ。防御へ応用するには、強度と展開範囲の調整が必要になります」
「なるほど……」
ノエルは、足元の氷の薔薇を興味深そうに眺めた。
「でも、これだけ精密に作れるなら、氷壁の形を変えて、敵の動きを誘導することもできそうですね」
(…………)
……あ。
確かに。
ルナティアは、思わず目を瞬かせた。
氷壁をただの壁として使うのではなく、細かな形状を組み合わせて敵の進路を制限する。
それなら、競技祭の規則に合わせて小規模に展開することも可能だ。
しかも、今の造形魔法なら、複雑な形を短時間で作り出せる。
(……何ということでしょう)
ただの恋心の暴走が。
まさか、実戦的な発想につながるとは。
「……ええ。面白い考えですわね、ノエル様」
ルナティアは、心から感心して答えた。
「その用途なら、十分に検討する価値がありますわ」
ノエルが、嬉しそうに笑った。
「本当ですか? じゃあ、今度一緒に試してみませんか?」
(…………っ!!)
来た。
また来た。
(……一緒に!?)
今度も!?
また!?
(……っしゃあああああ!!)
何という素晴らしい展開!
失敗したはずなのに!
大失敗したはずなのに!
なぜか、次の約束までできてしまいましたわァァァ!!
(……神よ!)
見ておりますか!?
これが恋の力ですわ!
いや、違う。
恋の力というより、ノエル様の優しさと知性のおかげなのだが。
今のルナティアには、そんな細かなことはどうでもよかった。
「……ええ。ぜひ」
彼女は、上品に微笑んだ。
「ご一緒いたしましょう」
*
その後、ルナティアは氷の薔薇を丁寧に解除し、訓練場を元の状態へ戻した。
幸い、周囲の生徒に怪我はなかった。
ただし、リーゼたちはしばらく、先ほどの光景について興奮気味に話し続けていた。
「すごかったね、ルナティア様!」
「……恐れ入ります」
「私、あんな魔法初めて見た!」
(……でしょうね)
私だって、あんなものを出すつもりはありませんでしたもの。
「しかも、ノエル君と背中合わせになっただけで、あんな魔法を使えるなんて!」
(…………っ!)
リーゼの何気ない一言が、ルナティアの心臓を直撃した。
(……おい)
ちょっと待てや。
今、何とおっしゃいましたの?
(……背中合わせになっただけで!?)
そうですとも!
背中合わせになっただけで、あの有様ですのよ!!
それ以上近づいたら、どうなると思っておりますの!?
(……王都が凍りますわァァァ!!)
いや、実際にはそこまでの魔力暴走は起こさない。
起こさないはずだ。
……たぶん。
ルナティアは、そっと目を伏せた。
「……まだ試験段階ですから。今後、調整が必要ですわね」
「そっか。でも、すごく綺麗だったよ!」
リーゼが、屈託なく笑った。
(…………)
……ふん。
まあ。
綺麗だったのは事実ですわね。
ルナティアは、少しだけ満足した。
しかし、その直後。
「ノエル君も、すごく驚いてたよね!」
「うん。あんな魔法、初めて見たよ」
ノエルが笑った。
「ルナティア様って、本当にすごいなあ」
(…………っ!!)
あああああ!!
また褒められた!!
(……好きィィィ!!)
何ですの、もう!
どうしてこの方は、こうも簡単に私の理性を吹き飛ばしてしまうの!?
(……いっそ、私の心臓を返してくださいませ!!)
もちろん、ノエルが心臓を奪ったわけではない。
勝手に差し出しているのは、ルナティア自身である。
それでも彼女は、内心で大騒ぎしながら、表面上は優雅な微笑みを浮かべ続けた。
「……ありがとうございます、ノエル様」
その声は、いつもどおり落ち着いていた。
ただ、耳の先だけが、ほんの少し赤くなっていた。
*
帰り際。
訓練場の出口で、ノエルがルナティアへ声をかけた。
「ルナティア様」
「……はい?」
「明日も、背中合わせの練習を続けましょうね」
(…………)
……え?
「今日の練習で、少しだけ重心の感覚が分かった気がするんです。次は、実際に動きながら合わせてみたいです」
ノエルは、真剣な表情で続けた。
「僕も、ルナティア様の魔法にちゃんと合わせられるようになりたいので」
(…………)
ルナティアの胸が、じんわりと熱くなった。
ああ。
この方は、本当に。
自分の失敗を責めることもなく。
今日の練習を無駄だったと思うこともなく。
次にどうすればよくなるかを、真剣に考えてくれている。
(……好き)
好きだ。
どうしようもなく、好き。
そして。
(……明日も密着できるんですのねェェェ!!)
やったァァァ!!
また!
また背中合わせ!!
(……あああああ!!)
どうしましょう!
今日ですら、あの有様だったというのに!
明日も!?
明後日も!?
(……私の命が持ちませんわァァァ!!)
ルナティアは、内心で盛大に悲鳴を上げた。
しかし、外側はあくまで氷の姫。
「……ええ」
涼やかな微笑みを浮かべ、優雅に頷く。
「明日も、よろしくお願いいたしますわ」
「はい!」
ノエルが、嬉しそうに笑った。
その笑顔を見た瞬間、ルナティアは確信した。
(……明日こそ)
絶対に。
完璧な連携を成功させてみせる。
そのためには、もっと練習しなければならない。
もっと慣れなければならない。
もっと、ノエル様の近くに――。
(…………)
……あら?
結局、最初の計画と同じではなくて?
ルナティアは、ほんの一瞬だけ考え込んだ。
しかし、すぐに結論を出した。
(……問題ありませんわ!)
目的は連携の向上。
そのための密着。
極めて合理的。
何一つ、おかしなところなどない。
(……ふふふ)
明日も。
明後日も。
その次の日も。
ノエル様と一緒に練習できる。
しかも、今度は氷華結界の応用研究まで約束してしまった。
(……最高ではありませんことォォォ!!)
ルナティアは、優雅な足取りで訓練場を後にした。
夕日に照らされた銀色の髪が、柔らかく揺れる。
誰が見ても、気品に満ちた完璧な伯爵令嬢だった。
ただし、その頭の中ではすでに、今夜の伯爵邸で実施する『ノエル様密着耐性向上計画・改訂版』が完成していた。
第一段階。
背中合わせで十秒間、平常心を保つ。
第二段階。
三十秒。
第三段階。
一分。
そして最終段階。
(……ノエル様と背中合わせになっても、結婚式を想像しないこと!!)
……果たして、それが可能なのか。
本人にも、まったく自信はなかった。
それでも、氷の姫は諦めない。
ノエルと共に勝利するために。
そして、いつか彼の隣に立つために。
今日もまた、恋に狂った頭脳を全力で働かせるのだった。
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