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七人のヤンデレが融合して転生した結果、氷の姫になりましたが、愛する彼の前では恋愛ポンコツです  作者: 虹の箸


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10/13

氷の姫は連携練習で妄想に溺れる

放課後の王立学園。


秋の風が吹き抜ける屋外訓練場では、三週間後に迫った学園競技祭に向け、あちこちで生徒たちが練習に励んでいた。


木剣を打ち合わせる乾いた音。魔法が防護結界に弾かれる軽い破裂音。仲間へ指示を飛ばす声が、広い訓練場に絶え間なく響いている。


その一角で、ルナティア・フォン・エーデルシュタインは静かに立っていた。


背筋はまっすぐ。銀糸のような髪は秋風に揺れ、澄んだ蒼い瞳は訓練用の標的へ向けられている。


誰が見ても、冷静沈着な「氷の姫」そのものだった。


しかし、その内心では。


(……来ますわ)


(ついに、この瞬間が……!)


(ノエル様と私の、背中合わせの黄金の五分間がァァァ!!)


すでに王都中の楽団を総動員したかのような祝賀演奏が始まっていた。


昨夜、ルナティアは伯爵邸の庭園で猛特訓を重ねていた。


氷壁を展開する速度。敵の進行方向に応じた術式の切り替え。味方の動きを妨げないための魔力制御。


いずれも、ほぼ完璧だった。


何しろ彼女は、王立学園でも屈指の魔法の才能を持つ伯爵令嬢である。


模擬標的を使った練習では、一度たりとも失敗しなかった。


……もっとも、訓練の途中から庭園の芝生が広範囲に凍りつき、翌朝、庭師たちが悲鳴を上げることになったのは別の話だ。


(……ふふ)


準備は万全。


あとは、ノエル様と背中合わせになるだけ。


そう。


背中合わせ。


背中と、背中が。


(……あああああ!!)


考えただけで、胸が熱くなる。


もし彼の背中が、自分の背中に触れたら。


もし、互いの体温を感じられたら。


もし、戦いの最中に彼が「ルナティア、僕の背中を頼む」と言ってくださったら。


(……頼まれますともォォォ!!)


背中どころか、一生をお預かりしても構いませんことよ!


何でしたら、エーデルシュタイン伯爵家の財産も領地も、すべてあなた様のために――。


「ルナティア様」


「……はい?」


ノエルの声に、ルナティアは現実へ引き戻された。


彼は木剣を片手に、こちらを振り返っている。


「次は、僕と合わせてみませんか?」


(…………っ!)


来た。


ついに来た。


歴史が動く瞬間である。


(……落ち着きなさい、ルナティア)


これはただの連携練習。


王立学園の競技祭へ向けた、ごく普通の訓練だ。


決して、運命の相手と永遠の愛を誓い合う儀式ではない。


……まだ。


「……ええ。よろしくお願いいたしますわ」


ルナティアは、涼やかな微笑みを浮かべた。


完璧だ。


声も震えていない。


顔にも出ていない。


氷の姫の名に恥じない、実に落ち着いた返答だった。


「じゃあ、作戦どおりに。僕が前を見ますから、ルナティア様は後ろをお願いします」


「……承知いたしました」


ノエルが背を向ける。


ルナティアは、その背後へ静かに回った。


距離は、わずか数十センチ。


背中と背中が、触れるか触れないか。


(…………)


近い。


(……ちょっと待って)


近すぎる。


いや、近いのは当然だ。


そういう陣形なのだから。


自分で考えた作戦なのだから。


何なら、昨日の夜はこの瞬間のためだけに三時間も練習したのだから。


(……ですが!)


実物は違う。


想像と違う。


木製の人形とは、根本的に違う。


彼が一歩動くたびに、制服の布が擦れる微かな音がする。


風に乗って、清潔な石鹸の香りが届く。


そして、彼の背中がほんの少し近づくたび、ルナティアの心臓は容赦なく跳ね上がった。


(……あああああ!)


何ですの、これ!


何ですの、この破壊力!!


昨日の訓練は何だったの!?


人形相手に何百回成功したところで、ノエル様ご本人がいらっしゃったら、全部意味がないではありませんかァァァ!!


(……落ち着け! 落ち着け私ィィィ!!)


今は訓練中。


敵が来る。


魔法を使う。


ノエル様を援護する。


たったそれだけのことだ。


簡単。


実に簡単。


王立学園の入学試験より、よほど簡単なはずだった。


ところが。


ふと、ノエルの背中が自分の背中に触れた。


ほんの一瞬。


制服越しの、かすかな接触。


それだけで。


(…………っ!!!)


ルナティアの頭の中で、何かが盛大に吹き飛んだ。


(……触れたァァァァ!!)


今!


背中が!


触れましたわよね!?


(……ああああ! どうしましょう!!)


これはもう、実質的に抱擁では!?


いいえ、背中合わせですから抱擁ではありませんわね。


しかし、互いに背中を預け合うということは、命を預け合うということ。


命を預け合うということは、つまり――。


(……夫婦!!)


そう。


夫婦だ。


どう考えても夫婦である。


戦場で背中を預け合う二人。


互いを信頼し、助け合い、苦難を乗り越える。


そして、戦いが終わったら手を取り合い、王都の大聖堂で永遠の愛を――。


(……あら?)


大聖堂もよいけれど、ノエル様の故郷で式を挙げるのも素敵ではなくて?


ご家族に見守られながら、静かな教会で誓いを交わす。


ああ、でも伯爵家の親戚を全員呼ぶとなると、会場の広さが……。


(……そうだわ!)


二度、式を挙げればよいのですわ!


王都で一度。


故郷でもう一度。


何という完璧な解決策!


(……ふふふ。新婚旅行は、やはり南の島かしら)


青い海。


白い砂浜。


二人きりの夕暮れ。


ノエル様が、そっと私の手を取って――。


「――ルナティア様、来ます!」


「……え?」


現実へ戻ったときには、すでに遅かった。


訓練用の標的から、三発の低出力魔力弾が放たれていた。


本来なら、ルナティアが氷壁を展開して攻撃を遮り、その隙にノエルが前進する手順だった。


しかし、彼女の意識はつい先ほどまで南の島にいた。


新婚旅行からの帰還が、少々遅れたのである。


「ルナティア様!?」


「あっ……!」


慌てて術式を展開する。


だが、ノエルはすでに氷壁ができることを前提に踏み込んでいた。


その足元へ魔力弾が着弾する。


「うわっ!」


防護結界が淡く光り、命中判定を告げた。


怪我はない。


しかし、驚いて体勢を崩したノエルは、芝生の上へ尻餅をついてしまった。


そして、その直後。


ルナティアが遅れて放った氷魔法が、誰もいない地面に巨大な氷の塊を作り上げた。


……完璧な空振りだった。


訓練場に、何とも言えない沈黙が落ちる。


「…………」


ルナティアは、目の前の氷塊を見つめた。


次に、尻餅をついているノエルを見る。


そして、もう一度氷塊へ視線を戻した。


(…………)


やった。


やってしまった。


(……あああああああ!!)


何をしているんじゃァァァ!!


この馬鹿女ァァァ!!


(……新婚旅行なんぞ行っとる場合かァァァ!!)


今は訓練中でしょうが!


何で南の島まで飛んで行っておりますの!?


しかも式を二回挙げる相談までして!


そんなものは帰宅してから考えろォォォ!!


ルナティアは、自分自身の脳内を殴り飛ばしたくなった。


「だ、大丈夫か、ノエル!」


ラウルが慌てて駆け寄る。


「うん。平気だよ。ちょっと驚いただけ」


ノエルは苦笑しながら立ち上がった。


エリクも、ほっと息をつく。


「防護結界があってよかったですね。それにしても、連携って難しいんだな……」


「そうだな。あの氷の姫でも失敗するんだから、俺たちも気をつけねえと」


ラウルが、悪気なく言った。


(…………)


違う。


違いますの。


(……技術の問題ではありませんわァァァ!!)


魔法の精度も、展開速度も、私には何の問題もございません!


問題なのは、ノエル様が近くにいらっしゃるだけで、私の頭が勝手に婚礼準備を始めることなのです!!


(……ああ、もう!)


穴があったら入りたい。


そして、できればその穴の中にノエル様もご一緒していただきたい。


……いや、それでは監禁になってしまう。


駄目だ。


また余計なことを考えている。


ルナティアは、内心の大惨事をどうにか押さえ込み、ノエルへ歩み寄った。


「……申し訳ありません、ノエル様。私の術式展開が遅れましたわ」


「いえ、僕も少し踏み込みが早かったです。次はうまく合わせましょう」


ノエルは、穏やかに笑った。


怒っていない。


責めてもいない。


それどころか、次の練習のことを考えてくれている。


(……っ!)


何という方なのでしょう。


ああ。


好き。


本当に好き。


(……ですが!)


その優しさに甘えてばかりではいられない。


次こそは。


次こそは、絶対に成功させてみせる。


ルナティアは、密かに拳を握りしめた。


*


ところが、次の練習では組み合わせを変更することになった。


「じゃあ、今度は私とノエル君でやってみようか!」


リーゼが、明るい声で言った。


(…………は?)


ルナティアの脳内に、再び不穏な空気が立ち込める。


「風魔法で動きを補助する練習もしておきたいし」


「うん。お願いするよ」


ノエルが、屈託なく頷いた。


(…………)


……ほう。


そうですか。


そういうことですか。


(……見せていただこうではありませんの)


風魔法と剣術の連携。


さぞかし素晴らしいのでしょうね。


ええ。


じっくり拝見させていただきますとも。


ルナティアは、少し離れた場所へ移動した。


背筋を伸ばし、両手を優雅に重ねる。


その表情は、いつもどおり涼やかだった。


しかし、内心では。


(……失敗しろ)


(……いや、怪我は困りますわね)


(……では、ちょっとだけ失敗しなさい!)


ノエル様が転ばない程度に!


リーゼ様だけ、ほんの少し足を滑らせるくらいで!


(……ああ、もう! 何でこんなこと考えなければなりませんの!?)


自分で自分に腹が立つ。


だが、嫉妬は止まらない。


そんなルナティアの心中など知るはずもなく、リーゼはノエルへ声をかけた。


「ノエル君、最初は少し弱めに風を送るね。動きにくかったら言って」


「分かった。僕も合図を出すよ」


二人が構える。


標的が起動し、魔力弾が放たれた。


「今!」


ノエルが短く声を上げる。


「はいっ!」


リーゼの風魔法が、彼の背中を押した。


強すぎず、弱すぎず。


ノエルが踏み込む瞬間に合わせた、絶妙な追い風。


彼はその力を利用して素早く横へ移動し、魔力弾を避けながら標的へ接近する。


木剣が振り抜かれ、標的に命中した。


軽い音とともに、命中を示す光が灯る。


「やった!」


リーゼが嬉しそうに声を上げた。


「今の、すごくよかったね!」


「うん! 風がちょうどよかった。ありがとう!」


ノエルも笑顔で応える。


そして。


二人は、ごく自然な動作で手を合わせた。


パンッ!


乾いた音が、訓練場に響いた。


(…………)


ルナティアの思考が止まった。


(……手)


(……今)


(……手ェェェェェ!!)


何を!


何をしておりますのォォォ!!


(……おいコラァァァ!!)


何でそんなに自然に触れ合っておりますの!?


こちらは背中が一瞬触れただけで、脳内で結婚式を二回も挙げたというのに!!


(……それを!)


何ですの、その気軽さ!


何ですの、その距離感!


何ですの、その無邪気な笑顔ォォォ!!


ルナティアの頭の中で、嫉妬の炎が勢いよく燃え上がった。


(……許せませんわ!)


何が追い風ですの!


私の恋路には向かい風ばかり吹かせておいて!


(……この風女ァァァ!!)


もちろん、リーゼは何も悪いことをしていない。


ただ仲間と練習し、うまく連携できたことを喜んでいるだけだ。


そんなことは、ルナティアにも分かっている。


分かっているのだが。


(……それが何だというのです!?)


分かっているからといって、腹が立たなくなるわけではない!


しかし、ルナティアの胸を焦がしていたのは、嫉妬だけではなかった。


彼女の優秀な頭脳は、今の連携を冷静に分析してしまっていた。


リーゼの風魔法は、ルナティアの氷魔法に比べれば、出力も精度も劣る。


技術的に見れば、決して高度な術式ではない。


それでも、リーゼはノエルの動きをよく見ていた。


彼が踏み込む瞬間に声をかけ、必要な分だけ風を送る。


自分の魔法を見せつけるのではなく、相手の動きを助けるために使っていた。


その結果。


ノエルは、見事に標的へ命中させた。


(…………)


悔しい。


猛烈に、悔しい。


(……何で)


何でですの。


私の方が、ずっと強い魔法を使えますのに。


もっと複雑な術式だって、一瞬で展開できますのに。


(……何で、あの方の方がうまくできるんじゃァァァ!!)


ルナティアは、奥歯を噛みしめた。


魔法の才能では、負けていない。


理論でも、精度でも、経験でも。


少なくとも、今のリーゼに後れを取る要素など一つもないはずだった。


それなのに。


ノエルと自然に連携できたのは、リーゼの方だった。


(……くっそおおお!!)


腹が立つ。


リーゼにも。


ノエルと手を合わせられたことにも。


そして何より。


(……私自身に、腹が立ちますわァァァ!!)


何が氷の姫だ。


何が完璧な魔法使いだ。


好きな人が隣に立っただけで、新婚旅行へ出発するような女が、何を偉そうに!


(……ああ、もう!)


本当に!


本当に腹立たしい!!


ルナティアは、握りしめた手に力を込めた。


爪が掌へ食い込みそうになる。


けれど、表情は変わらない。


周囲から見れば、ただ静かに仲間の練習を見守っているだけだ。


「ルナティア様、どうでした?」


練習を終えたリーゼが、こちらへ駆け寄ってきた。


「私たち、結構うまくできたと思うんだけど!」


(…………)


……あ?


今、それを私に聞きますの?


(……喧嘩売っとんのかコラァァァ!!)


いや、違う。


純粋に感想を求めているだけだ。


悪気はない。


まったくない。


それは分かる。


(……ですが、今は少し黙っていただけませんことォォォ!!)


ルナティアは、ゆっくりと息を吸った。


そして、穏やかに微笑む。


「……ええ。お見事でしたわ」


「本当?」


「ノエル様の踏み込みに合わせた風の強さも、適切でした。特に、発動前に声をかけていらした点がよかったと思います」


「わあ、ありがとう!」


リーゼが、嬉しそうに笑った。


(……ふん!)


褒めて差し上げましたわよ!


実際、よい連携でしたからね!


(……ですが!)


次は負けませんから!


絶対に!


何があっても!!


ルナティアは、心の中で宣戦布告した。


もちろん、表面上は優雅な微笑みを浮かべたままだった。


*


練習が終わる頃には、訓練場が夕日に染まっていた。


ほかの生徒たちが片付けを始める中、ルナティアは一人、標的の近くに残っていた。


先ほどの失敗を思い返す。


自分が氷壁を展開するタイミングを逃したせいで、ノエルは尻餅をついてしまった。


その後のリーゼとの連携は、見事に成功した。


(……くっ)


悔しい。


何度思い返しても、悔しい。


しかも、失敗の原因は自分でも分かっている。


魔力制御ではない。


術式でもない。


ただ、ノエルが近くにいるだけで、頭の中がとんでもないことになるのだ。


(……どうすればよいのかしら)


いや。


どうすればよいかなど、決まっている。


慣れるしかない。


ノエルが隣にいても、背中が触れても、平然と魔法を使えるようになるまで。


何度でも練習するしかないのだ。


(……そうですわ)


そう。


慣れればよい。


(……つまり)


もっと近づく必要がある。


もっと一緒に過ごす必要がある。


もっと、もっと、もっと――。


「ルナティア様」


不意に声をかけられ、ルナティアは振り返った。


ノエルが、少し心配そうな顔で立っていた。


「……ノエル様」


「まだ残っていたんですね」


「ええ。少し、今日の練習を振り返っておりましたの」


「そっか」


ノエルは、彼女の隣に立った。


そして、訓練場に残る氷の跡を眺める。


「……あの、今日のことなんですけど」


(…………っ)


来た。


ついに来た。


失敗についての話だ。


(……何でもおっしゃいませ)


叱責でも、失望でも。


甘んじて受け入れましょう。


……いや、できれば失望だけは勘弁していただきたい。


それだけは本当に。


心が砕けてしまう。


「気にしないでくださいね」


「……え?」


ノエルは、少し困ったように笑った。


「僕も、最初からうまく合わせられるとは思っていませんでしたし。ルナティア様の氷魔法は、すごく精密ですから」


「…………」


「だから、僕ももっと練習して、ルナティア様の魔法に合わせられるようになりたいんです」


ルナティアは、瞬きをした。


ノエルは、真っ直ぐに彼女を見つめている。


「工房で一緒に作業したときも思ったんですけど、ルナティア様って、僕が思いつかないようなことをたくさん知っていますよね」


「……そんなことは」


「ありますよ」


ノエルは、柔らかく笑った。


「だから、もっと一緒に練習してみたいんです」


(…………)


……え?


「明日の放課後も、その次も。ルナティア様が納得できるまで、何度でも僕に付き合わせてください」


(…………)


ルナティアの思考が、完全に停止した。


『もっと一緒に練習してみたい』


『明日の放課後も、その次も』


『何度でも』


その言葉が、頭の中で何度も繰り返される。


(……ちょっと待って)


今。


何と。


おっしゃいましたの?


(……明日も?)


明後日も?


その次も?


(……何度でも!?)


ルナティアの脳内で、何かがカチリと音を立てた。


嫉妬。


悔しさ。


自己嫌悪。


先ほどまで胸の中で渦巻いていた、あらゆる負の感情が。


一瞬にして。


とんでもない方向へと変換されていく。


(……っしゃあああああああ!!)


勝ったァァァ!!


何が勝ったのか、本人にもよく分からない。


しかし、勝った。


間違いなく勝った。


(……明日も明後日も、ノエル様と一緒に練習できますわァァァ!!)


しかも。


何度でも。


納得するまで。


(……ああああ! 何という素晴らしいお言葉!!)


これはもう、事実上の無期限契約では!?


毎日一緒に過ごせる。


放課後も。


その次の日も。


さらにその次の日も。


(……あら?)


ルナティアの優秀な頭脳が、ある恐ろしい結論へと辿り着いた。


(……ということは)


もし。


もしも、だ。


連携がなかなか成功しなければ。


その分だけ、練習時間が増える。


つまり。


(……一生失敗し続ければ、一生ノエル様と一緒にいられるのではなくて!?)


何という天才的な発想。


何という完璧な計画。


(……ふふふふ)


そうですわ。


成功する必要など、どこにありますの?


毎日少しずつ失敗して。


そのたびに、ノエル様が優しく励ましてくださって。


そして、また明日も一緒に練習する。


(……最高ではありませんことォォォ!!)


ルナティアの頭の中で、未来の予定表が猛烈な勢いで埋まっていく。


一週間後。


一か月後。


一年後。


十年後。


……いや、待って。


競技祭は三週間後ではなかったか。


(…………)


そこで、ルナティアはようやく我に返った。


(……あ)


駄目だ。


そんなことをしたら、ノエル様が困ってしまう。


彼は、競技祭で勝つために練習しようと言ってくれているのだ。


自分と一緒にいたいから、わざと失敗し続けようなどと考えているわけではない。


(……くっ!)


何ということでしょう。


またしても、私の完璧な計画が、ノエル様の誠実さによって阻まれてしまいましたわ!


(……ああ、もう!)


どうしてこの方は、こうも真っ直ぐでいらっしゃるの!?


そんなところまで好きになってしまうではありませんか!!


ルナティアは、内心で頭を抱えた。


だが、次の瞬間。


別の考えが浮かんだ。


(……そうですわ)


成功すればよいのだ。


誰よりも完璧な連携を身につけて。


競技祭で優勝して。


その後も、別の練習をすればよい。


魔法の研究。


剣術との連携。


魔道具の開発。


いくらでもある。


(……ふふ)


何だ。


簡単なことではないか。


一つの練習が終われば、次の練習を始めればよい。


そして、いつか。


二人で研究室を持って。


一緒に魔道具を作って。


朝から晩まで、同じ場所で過ごして――。


(……ああああ!)


また結婚してしまった。


本当に、どうしようもない。


「……ルナティア様?」


ノエルが、不思議そうに首を傾げた。


「大丈夫ですか?」


「……ええ」


ルナティアは、ゆっくりと微笑んだ。


「少し、考え事をしておりましたの」


「そうですか」


「……ノエル様」


「はい?」


ルナティアは、彼の琥珀色の瞳を見つめた。


「明日も、よろしくお願いいたしますわ」


ノエルは、嬉しそうに笑った。


「もちろんです!」


(…………っ!!)


ああ。


好き。


本当に好き。


どうしようもなく、好き。


(……明日こそ)


絶対に。


完璧な連携を成功させてみせる。


そして。


(……リーゼ様よりも、ずっとずっと上手に!!)


あの風女にだけは、絶対に負けませんからね!!


ルナティアは、内心で高らかに宣言した。


しかし、外側はあくまで氷の姫。


「……では、また明日」


優雅に一礼し、涼やかな微笑みを浮かべる。


ノエルも、笑顔で手を振った。


「はい。また明日、ルナティア様!」


その言葉を胸に刻みながら、ルナティアは訓練場を後にした。


秋の夕風が、銀色の髪を柔らかく揺らす。


その足取りは、いつもどおり優雅だった。


ただし。


頭の中ではすでに、明日の練習を成功させるための『ノエル様密着耐性向上計画』が立案されていた。


第一段階。


背中合わせで十秒間、平常心を保つ。


第二段階。


二十秒。


第三段階。


一分。


そして最終段階。


(……一時間、背中合わせでも平然としていられるようになること!!)


……もはや、それは競技祭の練習なのだろうか。


そんな疑問を抱く者は、今のルナティアの頭の中には一人もいなかった。

お読みいただきありがとうございました。

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次回もどうぞよろしくお願いいたします。

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