スタンピード 6
その頃、防衛隊司令部では刻一刻と迫る魔獣の大群に張り付いた空気を漂わせていた
「状況はどうですかな」
不意に開かれた扉に女司令官が目を向けると、そこには犬耳の獣人族の男が立っていた
その姿を見た司令官はすぐさま立ち上がると敬礼する
「町長」
それはこの街の町長を務める男だった
「畏まらなくて良いですよ、それで状況の方は?」
「はっ、現在80%が所定の位置へ移動完了、各砲座も問題無く、避難誘導についてもギルドと連携して住民の大半を収容済みです」
「魔獣の数と会敵時間は」
「数は約200体ほどで、大型が5体ほど紛れています。あと6分ほどで交戦距離に入ります」
「・・・速いですな」
接近に気がつくのが遅れたのか、遅らされたのか、どちらかはわからないが、今の状況に言葉が漏れる
そして、それは司令官も同様なのだろう
重々しく同意を示すように頷いた
「はい、ですので大急ぎで準備を整えさせています。三重結界も展開していますので、おそらく大丈夫かと」
三重結界
それは街を守る大規模結界の名であり、幾度と無く魔獣の襲来を退けてきた盾
この世界における街の防衛戦術はこの三重結界が中心となっている
結界で敵の進撃を食い止め、その間に敵に砲火を浴びせる至って平凡な戦術
だが、その効果は絶大であり、数百年という時が過ぎようとも採用され続けた戦術である
「バンデット交戦距離まであと3分!」
そんな中でレーダー員が声を張り上げる
「そろそろか・・・各隊へ伝達、攻撃用意!」
「砲兵隊へ、バンデット交戦距離まであと3分、砲撃準備されたし」
司令官の指示に従い整えられていく攻撃準備
大画面に映し出されたレーダー上に浮かび上がる無数の黄色い点
徐々に迫ってくるそれらが1番外側の第1結界へと迫った時、彼女は声を張り上げた
「各隊、攻撃はじっ・・・」
ーーやれ
司令官が言い掛けたその瞬間、司令室は音を立て暗くなった
「なん・・・!?」
「おい、どうした!」
「わかりません、ただ・・・うそ、電源が落ちたの!?」
必死にコンソールを再起動しようとするが、画面は暗いままで動く気配は無い
「予備電源を起動しろ!」
攻撃目前での停電に、司令部で混乱が生まれる
そして、それは前線の兵士達も例外では無い
「司令部、司令部どうした!」
「何があった!」
「わかりません、突然通信が!」
通信が突然切れ、砲撃の準備を整えていた砲兵隊にも動揺が走る
司令官に何かあったのではないかと、不安から騒ぎ出す
「各員砲撃準備!」
だが、そんな中で砲兵隊長が声を張り上げた
「魔獣共は街の目前にまで迫っている。これを迎撃するのが我らの任務だ、司令部との通信が途切れた今、我々は独自判断で動くぞ!」
もう見える距離にまで魔獣は迫っている
ここで狼狽えている時間など、街の守人たる彼らにはないのだ
「隊長ォ! 空を!」
言い終わると同時に聞こえてきた悲鳴に、空を見上げる
「なっ・・・」
その光景に思わず息を呑む
街を覆う防御結界が消えていってるのだ
「砲撃開始! 奴らを街に入れるな!」
結界が消滅し切れば魔獣達は街へと容易に侵入して来るだろう
もしそうなれば街への被害は免れない
早く片をつけなければ、そう焦る隊長の号令の下、戦場の女神たる大砲達が一斉に火を吹いた
105mmの砲弾が術式に従い銃の内部で形成されると次々に撃ち出されていく
着弾すれば激しい爆音と共に魔獣達の身体を引き裂き肉塊へと変えていくが、魔獣達の勢いは尚も衰えない
それどころか、有翼種の魔獣は壁上へと迫ろうとしていた
吹き荒れる20mmの弾丸の雨
その中を一回り大きく首の長いコウモリのような魔獣達が軽快に飛び回る
やがて銃撃の隙間を潜り抜けた魔獣は、今も砲撃を行うMRAへと牙を突き立てようと口を開く
「邪魔だ!」
そんな魔獣目掛け隊長機が戦斧を振るい薙ぎ払う
「砲撃隊はこのまま砲撃を続けろ!」
勇ましく激励を飛ばすと部隊員達が雄叫びを上げた
部隊員の士気旺盛、このまま攻撃を続ければ守り切れる
そう思った時だった
「隊長!!?」
またしても部隊員の悲鳴が叫び顔を向けると、彼の顔目掛けて魔獣が飛び込んできた
画面いっぱいに映る牙と口
普通の人であれば致命所を避けられず、牙から滴る毒液により死に至る
だが、MRAは違う
「ウォリャァ!!」
表面を覆う防御結界が牙の侵入を許さない
もし通したとしても、ST合金製の装甲には傷一つ付けられないだろう
この世界に生きる人類の叡智の結晶たる陸戦兵器
それこそがMRAなのだ
「クソッタレめ!」
地面へと叩きつけた魔獣へと足を振り下ろし踏み潰すと悪態を吐く
だが、まだ戦いは続いている
すぐに思考を切り替えると戦場を見渡そうと顔を上げーー
「クルゥ?」
「あっ・・・」
顔を上げた時、そこにあったのは滑らかな表皮の顔だった
鋭い嘴の空いた穴から生温かい風が送られ、傾けられた顔にある2つの丸く大きな目が、コチラを不思議そうに見つめてくる
「あ、あぁ・・・!?」
他の部隊員もその存在に気が付いたのか、ある者は腰を抜かし、ある者は砲撃の手を止め後ずさる
それは彼らにとっての天敵だった
小型、中型と大きさによって分類される魔獣の中でも、人類の天敵種として知られる大型魔獣と呼ばれる分類
小隊単位のMRAが遭遇すれば撤退を命ぜられる唯一の分類
今、目の前にあるのはその内の一種
雷粉サンビル
それこそが彼らの目の前で、滑らかな頭とは対称的にビッシリと羽毛の生えた巨大な翼を煩わしそうに振るう魔獣の名だった
「まずい・・・」
動く度にサンビルの羽から白い粉が舞う
目を動かし周囲を見渡せば、壁上には白い粉が漂っていた
それはただの粉では無い
雷粉サンビルの名を示す物質
喉奥からか細い声を漏らすと隊長機はすぐさま振り返り叫んだ
「鱗粉が舞っている。退避しろ!!」
超電導性を持つサンビルの鱗粉
隊長機の言葉を聞き、全員が持ち場を放棄し逃げ出す
だが、遅かった
次の瞬間には、サンビルの身体が発光を始めーー
電撃が壁上を焼き尽くしたのだ
大砲も、MRAも、人も
その全てを
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