スタンピード 5
N2-5
「こちらスリーボール定期連絡、異常無しだ」
その日、いつものようにタゲリの街の防衛隊所属の3機のMRA、スリーボール隊は都市郊外への哨戒の任へと着いていた
「ジャック、今度の休みどうだ? 一杯」
「良いねぇ、おいオリバー、お前はどうする?」
「すまん、息子の誕生日なんだよ」
「なら、2人だけで行くか」
ある程度の情報は街の外に展開された観測所からの監視で確認することは出来たが、全てを監視できているわけでは無い
だからこそ、彼らのような哨戒任務を行う部隊がいるのだが、問題などは滅多なことがない限り起きない
どうせ、ただの散歩のような任務だとたかを括り、隊の空気は緩み切っていた
そんな時だ、彼らの無線がけたたましく鳴り響いたのは
「こちらスリーボール、どうした?」
『こ・・・測所、聞こ・・・い!』
隊長であるリーマが無線に出ると、聞こえてきたのはノイズ混じりの通信
一体どうしたのかと疑問を抱く彼らではあったが、それでも緩んだ空気を張り詰めるには充分だった
「ノイズが激しい、もっとハッキリたのむ」
『だか・・・獣の・・・そちらに向かっている!』
「・・・すまん、もう一度言ってくれ、今・・・何と言った」
徐々に明瞭になりながらも、未だにノイズ混じりで全てを聞き取ることは出来ない
だが、彼らが言おうとしていることが何となくわかってしまう
「おいおい、マジか?」
「各機、周辺警戒・・・おい、観測所聞こえるか? おい!!」
急かすように無線へと怒鳴りつけるリーマ
それに答えるように、無線が聞こえる
『そちらに魔獣の大群が向かって・・・あ、ああぁぁ!!?』
無線がブツンと音を立て切れる
それは状況が切迫しているのだと、伝えてくるには充分過ぎた
「クソッ、お前ら急いで逃げっ・・・!!?」
瞬間、彼らの前方の森の境目が爆音と共に弾け飛んだ
立ち昇る砂煙と、複数の足音が重なった地響きが聞こえ、魔獣の大群が彼ら目掛け突き進んでくる
「マズイ・・・」
「急げ! 撤退だ!!」
身体強化術式を用いて、街へ向けて全速力で後退しようとする
だが、鳴り響く足音は一向に遠ざからない
それどころか近付いてきている
「司令部、こちらスリーボール! 魔獣の大群を確認!」
「この野郎!!」
ホバー機構を備えた陸戦重装甲MRAのジャック機が後退しながら二連装20mm軽機関銃を撃ち放つ
激しい発射音を鳴り響かせ、無数の弾丸が魔獣達の身体を貫き吹き飛ばすが、遺骸を蹴散らし別の魔獣が前へと躍り出てきて勢いは衰えない
それどころかーー
「クソ! 硬い奴が混じってる!」
魔獣達の群れ、その最前列に分厚い外殻を纏った魔獣が出て来て弾丸が甲高い音を立てて弾かれていく
『スリーボール、今すぐ援軍を送る。そちらの位置を送れ!』
報告をするのが煩わしい
だが、苛立ちを覚えながらも自分達の位置を報告していく
「B-1、3-・・・あっ」
その時であった
後退する彼らの真横にあった森が爆ぜたのは
『あ、あぁがぁぁ!!?』
「スリーボール、聞こえるかスリーボール!」
オペレーターが必死に呼びかけるが返事は無い
そして、一瞬のノイズが走った後に彼らとの通信は途切れてしまう
「司令!!」
「街に警報発令、防衛隊は所定の位置にて待機!」
黒人の女指揮官が命令を発すると、司令部は騒がしくなる
「冒険者ギルドへの支援要請は!」
「今やってます!」
「大規模な襲撃が確認された。予測進路は街の南側、各隊は所定の配置に付け」
次々と送られていく通信
やがて外から聞こえてきた警報により一層身を引き締める
そして、これが始まりだった
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警報が鳴り響く街
慌しくシェルターへと向かう人々の波の中を、健司と灯華は駆けていた
「なぁ灯華! 魔獣の襲来って、俺たち本当に避難誘導だけで良いのか!」
緊急案件ということで冒険者ギルドへと招集された2人は市民の避難誘導をしていたのだ
だが、もしも魔獣が街に入ってきた時、対策をしてた方が良いのでは無いかと疑問に思う
そんな彼の疑問に対し、灯華は答えた
「大丈夫、迎撃は防衛隊でやるし、何より街には結界があるから入ってこれない・・・あ、シェルターはそっちじゃなくて、あっちだよ!」
「マジかよ、スゲェな」
やってきたこの世界の技術力は、思っている以上に高い
最初は驚いたが、今となってはその技術力の高さがありがたかった
ーー今の状態で魔法なんて使いたく無いな
魔法の使い方は覚えた
だが、咄嗟の判断や細かな制御には不安が残っている
実戦で使うのならもう少し練習してからが良い
「おっと、君達!」
誰かに呼ばれ顔を向けると、そこにいたのは赤いスーツを身に纏う見覚えのあるオークの姿だった
どこかであった気がすると思い、記憶を遡り思い至った名前を発する
「えっと、ジャスか!」
「おう、昨日ぶりだな」
「その格好・・・ジャスにも何か命令が降りたの?」
「おう、君達冒険者と一緒に市民の避難誘導をしろとさ」
「そっか」
ヒーローというのがどれ程の知名度を誇るのかはわからないが、ヒーローショーをやっているのを見るに、それなりなのだろう
ならこれ程心強いものはない
「なら、あとは・・・」
「そうだな・・・始まりそうだ」
ジャスと灯華が顔を上げる
健司も何事かと空を見ると、3枚の"何か"が街を包むように展開されているのが見えた
「あれって・・・」
「街を守る3枚の防御結界だよ、あれが展開されたなら大丈夫」
「それよりもだ、すぐに戦闘が始まると思うから避難を急ごう」
「だな」
都市を守る防御結界
名前の響きだけでも、そんなものがあれば侵攻は防げるだろと健司は安堵する
そうして2人と共に住民の避難誘導を続けようとした
ーーあれ?
ふと、目の前の景色の中で健司は違和感を感じる
ーー店の灯り・・・
店の中を照らす電灯が一瞬"明滅"したのだ
普段であれば単に不具合があったというたったそれだけで済む話
だがーー
「何やってるの、早く行くよ!」
「あ、あぁ・・・」
今の状況だからこそ、その違和感が得体の知れない気持ち悪さを感じさせる
ーー何も無いと良いけど
そんな不安を感じながらも、街を駆けていく
スリーボール隊の名前の由来はオリバーの息子と野球をした時に、3人とも三振を取ったことから
本来ならスリーストライクの予定だったが、お前達にしてはカッコ良すぎるという茶化しから、三馬鹿的な感じでスリーボールという名前に
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