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スタンピード 4


こんな体験をしたことは無いだろうか


夢の中でビルの上から落ちていき、地面とぶつかる寸前にビクンと身体が跳ねて起きる体験


「うぶわっ・・・!? え、あっ・・・夢か」


今ちょうど、白山健司が体験したことである


混乱のあまり此処はどこだと周囲に顔を向けると目の前に見えるのは木製の壁、右には街を見下ろせる窓があり、左は真っ白なカーテンで閉じられていた


「あぁ・・・そっか、うん、思い出してきた」


冒険者ギルドでの一幕の後、健司と灯華は宿を手当たり次第に巡った


だが、何処を探しても2人の求める条件の宿は無く、それから暫くは当ても無く街を彷徨うことになる


ーー俺が金を持ってたらなぁ・・・


健司は何も持たずにこの世界へと転生させられたのだ

つまるところ、金が無いのである


だからこそ、灯華の所持金だけで何日か二部屋で泊まれる宿を探していたのだが、結局見つからなかった


「これからどうしようかな・・・」


再びベッドへと身を預けると、僅かな反発とフレームが軋む音が響く


今は何も考えずに、このベッドの柔らかさに身を委ねたいとも思ったがそうもいかない


とりあえず思考の渦に身を浸し、何か金を得る策よ出ろと願った


「健司! おっきろぉ・・・あ、起きてる」


だが、そんな願いはすぐさま霧散していく


白いカーテンを開けて、外出用の服に着替えた灯華が彼を起こしに来たのだ


「意外と朝起きれるタイプなんだね」


「平然とこっちの陣地に入ってくるな・・・着替えてたらどうすんだよ」


ぶつくさと言いながらベッドから出ると、灯華が悪びれも無く「あぁ、ごめんごめん」と言い笑う


結局二部屋を借りることが出来なかった2人は、仕方なく一部屋を2人で使うことにしたのだ


「僕、先に行ってるから着替えたら降りて来て」


「おぉ、すぐ行く」


扉が開き灯華が外に出る音を聞きながら、昨日買った服に着替える


「これでよし」


新しい服の着心地を確かめるように肩や足を動かす


そこでふと、窓から外の景色が見えた


朝日でほんの少しだけ黄色掛かった空

鳥の囀りと、街ゆく人々の出す声や車の音


最初はぼんやりと眺め聞いていたが、徐に窓へと近付くと階下の景色へと目を向ける


石畳で舗装された道を行き交う人々と、その中に混じるように剣や斧を持った冒険者らしき人影


「・・・これが異世界に来て最初の朝か」


感動というにはあまりにも無機質で、だが、何も感じないわけでもない


あるのは、まぁこんなもんだよな、という納得だった


「さて、行くか」


そんな景色と別れを告げて、健司は灯華が待つ一階の食堂へと向かった





食堂へと入ると、早朝だというのに多くの宿泊客が集まっていた


「あ、こっちこっち」と呼ぶ声が聞こえ顔を向けると、銀色のポニーテールを揺らしながら手を振るう灯華の姿が見えた


「わり、お待たせ・・・結構人いるんだな」


「まぁ程よくギルドから離れた宿だからね、結構狙う人多いんだと思う」


「そういうことね」


ギルドに近ければ金額は高く、遠ければ安い

つまりはそういうことだ


「今日の予定って、とりあえずギルドに行って訓練・・・で、良いんだよな?」


「うん、昨日も言ったけど、兎にも角にも健司は魔法の扱い方を覚えないと」


「おっけ、お世話になります」


そう言って頭を下げると、胸を張り上げ「僕に任せなさい」と彼女は笑う


「お、来た来た」


そうして雑談に興じている最中、店員が2枚の大皿を持ってやって来た


目の前に置かれた皿を見て思わず「おぉ」と声が漏れる


皿の上に盛られていたのは、簡単なサラダと豆のトマト煮、大きな塊のスクランブルエッグにパンだった


「なんか海外って感じだなぁ」


「美味しそうだね、食べようか」


ナイフとフォークを手に取ると、灯華は皿へと手を伸ばしていく


「ん、美味しい」と目を細め呟きながら朝食を味わう


そんな彼女を横目に見ながらも、健司は料理を前に動かない


むしろ、食欲が湧かない


ーーまぁ、腹になんか詰め込んでた方が良いよな


そう思うと、彼もゆっくりとスクランブルエッグを切り分け始めた





ーーーーーーーー


ーーーーー


ーーー




食事を終えた彼らは宿を出ると予定通りにギルドへと向かう


「はい、これが訓練所の使用許可証です」


「ありがとうございます」


手渡された2枚の許可証を受け取ると、2人は早速と言わんばかりに訓練所へと向かう


軋む音を響かせながら扉を開けて入れる中庭

そこが訓練所として使用されているのだ


「さて、それじゃあ魔法の訓練始めるんだけど・・・魔法の出し方はわかってたよね?」


「お、おぉ・・・指先からこうビュッと出す感じだろ?」


「・・・うん? うん、まぁそんな感じ」


擬音語が混じり少しだけふわついた説明ではあったが、間違ってはいないので困惑しながらも灯華は頷く


「魔力を指先から放出して炎や水に"変換“するのが魔法なんだ、こんな感じに」


説明しながら手のひらから火を出した後に包むように水を作り出す姿に、思わず「おぉ・・・」と健司は声を漏らす


「もちろん、放出する魔力の量によってはこの火や水の勢いは変わる。健司の場合はこれなんだ」


「それって・・・俺は出し過ぎってことか?」


「そうそう」


なるほどなと頷く


確かに初めてということもあり、健司は魔法を発動する為に魔力を際限なく放出し続けていた


だからこそ、あんなものが生まれたのだ


ーー重力魔法だからこそ、放出する魔力量には気を使わないとダメだな


加減がわからないからこそ、やり過ぎてしまう

恐らくこれは初めて魔法を使うものは通る道なのだろう


以前、灯華が話していた家を燃やしたのもこれが原因

だとすれば、彼がやるべきことは何となくわかった


「つまり、前使った時よりもかなり絞って魔法を撃って調整していけば良いのか」


「その通り! 前の魔法を上限に定めるとある程度の基準がわかるからね」


これで理屈はわかった

あとはーー


「じゃあ、実践あるのみ! あそこの的に魔法を撃ってみて」


「・・・おぉ」


彼女の言葉に思わず健司の胸が跳ねた


来たばかりの頃は期待していた魔法の訓練なのに、大きく息を吸う程に視界が狭まっていく

まるで深い海の中にいるような息苦しさと、背骨の一部がムズムズするよう感覚が彼に不快感を与える


「・・・なぁ、ところで・・・ところでさ」


気を逸らすように彼女に声を掛けると首を傾げてくる


「どうしたの?」


「・・・あぁいや、何でもない」


だが、言葉が出なかったので辞めた


そこから少しの間、健司は固まってしまう


ーーどうしたんだろ?


どこか様子がおかしい

そんな彼の異変に気が付いた灯華は顔を顰めた


魔力測定をした時はあんなにはしゃいでいたのに、いざ魔法を使えと言うと何故こんなに静かなのだろうか


表情は至って普通で的に視線を向けているが、肩を見れば側から見えるほどに肩が揺れ動いている


ーー呼吸が荒い・・・


調子でも悪いのかと一瞬思ったが、すぐにその考えは霧散する


顔から視線を下ろすと彼の腕が少しだけ揺れているのが見えたからだ


ーー違う


強く握られた拳が震えていた


「・・・魔法を使うの、怖い?」


彼女の言葉に、健司の肩がピクリと跳ねた


その様子からようやく気がつく


ーーそれでか


少しだけ息を深く吸うと、努めて優しく彼に尋ねる


「魔法を使わない仕事をしようとしてたのも、そのせい?」


彼女の言葉に、躊躇うように視線を逸らし、ゆっくりと口を開いた


「・・・もし、魔法を使ってあんな事が起きたら・・・どうしたらって思うと」


そう言った彼の脳裏に映るのは、魔獣諸共地形を破壊した黒い重力球の姿

魔法を使う依頼を受けた時、もう一度あの魔法が発動したらどうなるのだろうか


今度こそ灯華が巻き込まれたらと考えてしまうと、怖くて仕方が無い


そんな彼の気持ちが、灯華にはわかってしまった


だからこそ、自然と身体が動く


「ごめん、ちょっときキュッ・・・い?」


突然、両頬を押さえ込まれ言葉が中断させられる

目を白黒させながらどうしたのかと思う健司だったが、目の前にまで迫った彼女に顔に思考が止まり、代わりに顔が熱くなっていく


「と、灯華・・・?」


「大丈夫だよ、健司」


「え・・・?」


優しく包み込むような声に、一瞬だけ力が抜けて掠れた声が喉奥から漏れる


そんな彼へと灯華は微笑む


「もしも暴走しても僕が何とかする」


「何とかって、どうすんだよ・・・あんなのどうしようも・・・」


「大丈夫、僕強いから」


嘘だ

彼女がどれだけ強くとも特異点を破壊するだけの力は無い筈で、ただの強がりなのだとわかってしまう


それでも、健司は思ってしまうのだ


彼女が居たら大丈夫かも知れない


その力強い眼差しと、輝く笑顔に力が湧く


「・・・わかった。やってみる」


「うん、頑張れ!」


彼女の声援を受けて、健司は再び的を見据えた


ーー大丈夫


そう念じながら腕を伸ばす

以前よりも少ない魔力を放出し、歪みの動きをイメージしていく


ーー少しずつ


放出した魔力は自身の手の延長たる重力の手

的を砕くのでは無く、掴む為に伸ばしたのだと強く意識する


魔力の放出を止めると、あの破壊的な光景を振り払うように魔法の手を伸ばしていく


そして、魔法が的に触れたのを感じると、今度は広げた指を1本ずつ折っていく

その度に的を"握る"力は強くなる


「・・・これなら!」


確信を得て雄叫びを上げると腕を振り上げた


その瞬間、的は不可視の力により持ち上がる


「やった・・・やったぞ、灯華!!」


「・・・すっご」


喜びの声を上げる健司の傍で灯華は驚く


本来魔法というのは基本的には撃ち出すか、身体に纏うかのどちらかである


変わり種として氷や水の鞭であったり、風を操ることで拘束して引き寄せたりという技は存在するが、健司がやったのはそのどれでも無い


重力を操る魔法を自身の手のように操り、遠くの物体を"掴んだ"のだ


ーーもしかして、とんでもない人を助けちゃった・・・?


そもそもの魔法自体も規格外ではあるが、本当に異世界人、勇者なのでは無いかと再び思えてくる


「なぁ灯華・・・灯華!!」


「ヒャウッ!? な、何?」


「見ろよ! 俺やったぜ!やったんだぜ、初めてのちゃんとした魔法!」


肩を動かし驚く灯華ではあったが、顔を向けた時、弾けんばかりの笑顔を浮かべ喜ぶ彼を見て今までの考えも吹き飛び、つられて小さく笑ってしまう


「もう、喜び過ぎだよ・・・魔法には色んな使い方があるし、種類もあるんだから」


とりあえず今は、彼がトラウマを払拭し魔法を使えるようになったことを喜ぼう


今はそれで良いのだと思った
















そんな時であった


街中にサイレンが鳴り響いたのは


「なんだっ・・・!?」


「これって・・・」


驚く健司を尻目に灯華は目を見開く


『シーケンス22を確認、住民は最寄のシェルターへの退避を、繰り返す、シーケンス22を・・・』


シーケンス22


それは、魔獣の大規模襲撃を意味するものだった

読んでくださりありがとうございます!


もしよろしければ星1〜5の評価か、続きが気になる方はブクマの方をよろしくお願いします!


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