スタンピード 7
N2-7 改3
その光景は下からも見えた
昼間の明るい時間なのに、強い光を放つ壁の上
紫電が走り砲撃の音が止む
それだけでわかってしまうのだ
「全滅・・・全滅したのか・・・?」
あんな重装甲のパワードスーツが?
何十人と居たはずなのに?
反芻する問いに、浮かぶ答えは変わらない
一瞬でやられてしまったのだ
「あんなのがいるのかよ」
「健司、住民の避難は終わったから僕達も!」
「あ、あぁ・・・けど、あいつはどうすんだよ!」
避難したところでサンビルが再び飛び立てば空からの雷撃で被害が出るのは想像できた
どうにかする手を考えなければならない
だが、健司の問い掛けに灯華は表情を暗くする
「・・・大型魔獣は、僕達じゃどうしようもないよ」
「放っておくってのか!? あんなやつを!」
「しょうがないんだよ」
「しょうがないって・・・」
なんでと言い返したかった
だが、強く握られた灯華の拳を見て言葉に詰まる
「大型魔獣は何十機のMRAがいてようやく倒せる相手なんだよ、僕達じゃ・・・倒せない・・・」
「グッ・・・」
この状況をなんとかしたいのは彼女も同じなのだ
それを理解すると何も言えず、ただ歯を食いしばる事しか出来ない
「仮にアイツをなんとか出来ても、魔獣の大群だって押し寄せて来てるんだよ? もう僕達に出来るのは防衛戦に籠って援軍が来るのを待つしかないんだよ」
そもそも警報が発令されたのは魔獣侵攻、即ちスタンピードの発生が原因
つまりはどうにかしてサンビルを倒せたとしても、押し寄せてくる大群をどうにかしなければ意味が無いのだ
「それしか、出来ないのかよ・・・」
彼女の言葉に顔を顰め、唸るように声を漏らすことしか出来ない
だが、それでも考えてしまう
本当にそれだけかと
ーー何か、他に出来ることは無いのか・・・
自分達はこの災害に対して無力なのだと、理屈ではわかっても感情が納得出来なかったのだ
拳を強く握り締め、何かこの状況を打倒する策はないかと必死に考える
『ちょっと・・・』
そんな時、声が聞こえた気がした
心の奥底から響く、呆れたような声
女神デアセクの声
『何のために"力"を授けたと思ってるのよ』
「あっ・・・いや、でも・・・」
その言葉で気が付く、自身には重力魔法があるではないかと
だが、次の瞬間には自身の思い付きを否定する
確かに灯華との訓練で魔法の使い方はわかった
わかった"だけ"
今使える魔法では精々がサンビルの足を止めるだけで、スタンピードを食い止めるイメージは湧かないのだ
あの時のように重力球を作り出せば一気に片付けられるが、あれはあれで暴走のリスクがあり、全ての魔獣を巻き込むまで使い続ければ街を破壊しかねないという不安もある
「・・・いや、待てよ?」
そこでふと、思い出したことがあった
ーー健司、知ってるか? ブラックホールってのは・・・
昔学友とした何気ない会話
「これなら・・・いけるかも・・・」
暗くなっていた表情が明るくなる
唯一見えて来た希望
魔獣の群れを一掃する方法に胸が熱くなる
「あの・・・健司・・・?」
そんな彼の姿に灯華は嫌な予感を覚えた
恐る恐る片手を上げると、教師に名指しされるのを待つ生徒のように彼の返事を待つ
「何だよ灯華、俺今すっごい名案思い付いたのに!」
「その名案についてだよ! っていうか名案って何、僕の話聞いてた!? 流石の僕でも今回ばっかりは厳しいよ!?」
「厳しいってなんだよ!? 流石に大丈夫だよ失敗しない!」
「えぇ・・・なんか逆に怖いんだけど・・・」
そこまで言って灯華は言葉を止める
流石に言い過ぎたかもしれないと思ったのだ
もしかしたら本当に名案が出たのかもしれないし、何より彼に対して失礼だと
「・・・っていうか、何やってるの?」
だが、そんな思いやりも傍のテーブルに置いてあったコップを手に取りお手玉を始めた姿を見て吹き飛ぶ
「え、魔法の練習」
「今!?」
「今!」
これはダメだ、殴ってでも止めるべきだ
そう考えている間にも彼はお手玉を続け、もう魔法の手だけでコップを掴んでは飛ばしてを繰り返している
「よし、これなら行ける・・・」
その体たらくで何が行けるのかと問い詰めたい灯華だったが、言葉を発するよりも先に身体を動かした
「ごめんだけど、止めるよ!」
全身を使い健司を羽交い締めにしようと駆けて腕を振るう
「あらよっと」
音を立てながら掴み掛かる腕
それをフワリと空を飛ぶことで躱わす
「ちょっと!?」
驚き目を見開くが、よく見れば魔法の手を伸ばし壁に向かって飛んでいるのがわかった
ーーいつの間にあんな魔法を!
「すまん、ちょっと行ってくる!」
成長の早さに思わず舌を巻く灯華ではあったが、そんな彼女の気など知らずに健司は呑気な声を上げて飛び去っていく
「どうなっても知らないからね!!」
そんな彼女の声が街中に響き渡った
初めて空を飛んだ感想は寒いだった
全身の温もりが血と一緒に引いていき、ほんのりと涼しい風が身体を冷やしていく
身体は強張り、ただ飛んでいるだけなのに息が上がり力が抜ける感覚がする
ーーあぁ怖え
眼科を過ぎ去って行く人気の無い街よりも、近付いて来る壁が怖い
壁まで到達すると魔法の手を伸ばし一気に上がる
流れて行く灰色の壁
その先で待ち構えている魔獣の姿があらわになった時、コクリと喉が鳴る
魔獣は身体を震わせると、新たに姿を見せた獲物へとを向けてきた
「よう、そこどいてくれるか」
大型魔獣
雷粉サンビル
相対するは異世界からの転生者
白山健司
視線が交差した時、彼は思わず笑みを浮かべる
そこに恐怖の色は無かった




