スタンピード 8
焼け焦げた匂いが鼻を付く
壁の上へと目を向けると、白煙を上げ焼け焦げた姿で倒れ込むMRA達の姿
ーー少しでもミスればあんな風になるのか
想像しただけで握り締めた拳が湿り気を帯びていく
だが、健司の緊張とは逆に、サンビルはぼんやりと彼のことを見つめていた
まるで羽虫でも見つめるような眼差し
それを前にして案外簡単に撃退出来るのでは無いかと彼の心が緩み出す
だが、その心の緩みはすぐに引き締まる
サンビルが再度身体を震わせると、白い鱗粉が舞ったのだ
猛烈に嫌な予感が彼の脳裏を掠める
「マズイかもっ・・・!!」
咄嗟に魔法を発動し、薙ぐように腕を振るった瞬間、サンビルの身体が青白く発行し電撃が迸る
MRAすら躱すことも、防ぐことも出来ない必殺の一撃
それは腕を広げた健司目掛けまっすぐ突き進みーー
彼を"避けて"空へと駆けていく
感じるのは強烈な爆音と頬を伝う熱だけ
だが、それこそが成功の証
「っしゃぁ!!」
ーー初めての実践、効果は上々!
壁上へと降り立った健司は自身の行為の成功に内心ほくそ笑む
彼がやった事は至極単純、重力魔法の手を自身に纏わせることで盾とし電撃を曲げたのだ
「ここまで上手くいくとはな」
重力魔法だから"多分"曲がってくれるはず
という場当たり的な発想から出た動きだったが、ここまで上手くいくとは思わず顔がにやける
「やっぱ俺って天才っ・・・!?」
だが、そんな余裕も長くは続かない
壁上へと降り立った健司へと、サンビルがすかさず巨大な身体を回転させて尻尾による薙ぎ払いを行ってきたのだ
咄嗟にしゃがんで避けると風圧により髪の毛が揺れる
「あぶっ・・・どわあぁ!!?」
激しく音を立てる心臓を抑えながら危なかったと息を吐こうとすると、今度は翼による一撃が彼へと迫る
壁の床を引っ掻くように低く振られた翼
今度はしゃがんで躱わすことは出来ない、横に飛ぶことも無理
ーーなら上は・・・多分無理!
飛んだとて高さが足らない、正に八方塞がり
それが危機迫る直前に加速した思考が導き出した答え
だが、それは彼の身体能力だけならの仮定
「だけど上ぇ!」
間抜けな声を上げながら飛び上がると、身体全体に重力魔法を纏う
本来であれば人の肉体は、振られた翼に触れた瞬間に表面の鋭い羽根に刻まれ全身に裂傷を負う
そうでなくとも勢いよく振られた翼は健司の身体を引き裂くだろう
しかし、彼は全身に纏った重力により、翼の上を僅かに浮きながらゴロゴロと転がり躱したのだ
「あでっ!」
勢い余って地面へと頭を打ち付け悶絶する
しかし、同時にまたしても成功したことに心が躍った
ーー俺だって戦える!
このチートスキルさえあれば
そんな思いと共に顔を上げた時
目の前にあったのは鋭い嘴だった
「・・・っ!?」
すぐさま両手を前へと伸ばし重力魔法の盾を全力で張る
外側に作用する重力、斥力により嘴は寸前の所で止まるが、焦りからか魔法の発動が安定しない
ーーやば、やばやばやば・・・ヤバい!!
重力により歪む視界の中で、少しずつ盾の奥へと食い込んでいく嘴
チートスキルだと思っていた魔法の、今の自身の限界を悟り脳裏に浮かぶのは明確な死のイメージ
死にたくない
その一心から流す魔力の量を増やすが、それでも嘴の前進は止まらなかった
ーーあ、ダメかも
だが、そんな恐れも次の瞬間には何も感じなくなる
「・・・えっ」
嘴を突き込んでいたサンビルが身体を引き後ろへと飛んだ瞬間、巨大な氷がやつのいた所へと"落ちて"きたからだ
「なん・・・だ・・・」
「健司!」
目の前の光景に呆けていると、聞き覚えのある少女の声が聞こえた
どこだと周囲を見渡すと、落ちてきた氷が砕け、そこに彼女が降り立つ
「灯華・・・なんで!」
どうやってここまで来たのか
そもそも何故来たのか
廻る疑問を投げ掛けると、短剣を構えた彼女が返したのは至ってシンプルな答えだった
「ほっとけないからに決まってるでしょ!」
「・・・そんな理由で」
無理だと言ってた戦いに挑むのか
呆れにも、戸惑いにも似た感情が健司の頭を埋め尽くす
そんな彼を見て、フッと息を漏らすと彼女は笑みを零した
「誰かの為に戦う人がいるのに、放っておくのはヒーロー失格だからね」
自身に向けられた屈託の無い笑顔に、思わず目を見開いた
「何か秘策があるんでしょ? 僕が囮になるからその内にやって」
「囮って、お前1人じゃ無茶だ!」
防衛隊が一瞬で全滅し、健司自身も死に掛けたばかりの相手、それをたった1人で立ち向かうつもりかと
そんな問いに彼女は困ったような表情を浮かべる
「大丈夫、時間稼ぎくらいなら僕にも出来るし」
「何より・・・」と言いながら健司からサンビルへと目を向けると、突然の乱入者に怒り唸り声を上げている姿が見えた
だが、臆することなく姿勢を低くしながら手の中で短剣を回転させて構えると
静かに笑う
「僕、強いからさ」
その瞬間、彼女の姿が"ブレた"
どこに行ったのか、そんな問いなどする暇もなくサンビルの上へと姿を現すと硬質な"打撃音"が響く
灯華がサンビルへと斬りかかったのだ
ーー相変わらずはえぇ!!?
だが、彼女の攻撃は止まらない
すぐさま足元へと降り立つと氷を展開しながら上へと高く飛ぶ
そんな彼女の動きに追従しようとするサンビルは身体を上へと向けようするが、ガクンと制動かけられ動きが止まる
床に展開された氷がサンビルの足を覆い動きを封じていたのだ
そんな一瞬のスキを彼女は見逃さなかった
「すきっ・・・あり!!」
短剣を構えた瞬間、手元から氷が伸びていき短剣を覆い尽くして氷の剣を形成する
彼女はそれを力強く振るった
その瞬間、剣の先から氷の奔流が放射されサンビルの身体を押し潰し氷の山を作る
「・・・これが、灯華の実力」
キャーウィグの時よりも速く、重厚な攻撃
あの時の戦いで彼女の実力をわかった気でいたが、違うのだと見せ付けられる
「終わったのか・・・終わったのか!」
どうやったのか空中に立ち静止する彼女へと声を掛けるが、何も答えない
その様子に眉を顰めるが、再度声を張り上げ彼女へと声を掛けた
「おーい! どうしたん・・・」
「まだだよ、油断しないで!」
彼女が声を張り上げた時だった
氷の山に亀裂が入ったのは
パキパキと音を立てて、亀裂は大きくなっていく
「おいおいおい・・・嘘だろ・・・」
まだなのか、やめてくれ
そんな彼の気持ちとは裏腹に少しずつ崩れていく
やがて、氷の山は弾け飛んだ
大小様々な氷の粒が太陽の光に照らされキラキラと瞬き、冷気が白露となり視界を覆う
その中にやつはいた
青白い電光を纏い、鮮明になっていく視界の先で鋭く眼を尖らせながら灯華を見つめる
視線を受けた彼女はまるで蛇に睨まれたカエルのように、浅く息をして身体を強張らせた
「・・・健司」
ただ小さく呟いた
「なるべく、早くね」
ーーじゃないと持たないかも
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