↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/11

スタンピード 2


「はい、これで終わったよ」


「ありがとうございます」


街に入るべく検査場の列に並んだ健司は、警備兵からの軽いボディチェックを受けていた


兵士からの言葉に返事をすると先で待っていた灯華の元へと向かう


「お疲れ様」


「街に入るだけでもこんな事するんだな」


「そりゃそうだよ、20年前にあんな事があったんだもん」


あんなこと

彼女の言うのは、道中で聞いた20年前に起こったテロの事だろう


壁の下、街へと続くトンネルの中ということもあってか、何か話題が欲しかった健司は何の気も無しに彼女へと尋ねた


「なぁ、この街で何があったんだよ」


「うんとね、確か・・・HMWっていう毒ガスを街の中で使われたらしいよ」


「どっ・・・」


毒ガスという言葉に、思わず言葉が詰まる

日本人である健司にとって少なからず因縁深いものだからだ


「え、それ吸ったらどうなんの?」


「人が魔獣化するんだって」


今度は言葉を失う

皮膚を焼け爛れさせたり、臓器を腐食させるという毒ガスは聞いた事はあるが、人を異形へと変貌させるものなど聞いた事がなかった


「街の中でそんなものが・・・」


一体何がどうなってそうなるのかはわからない

だが、そうして魔獣化した人間がどうなるのか


"何を"狙うのかはわかった


使い古されたゾンビゲームのような展開になるであろうことは想像に難く無い


「だから、この街の警備は王都の次くらいに厳しいんだって」


彼女の言葉に息を呑み、理解してしまう


この世界にも過去がある

歴史がある


何かをするのに、そうなっているのにも理由があるのだ


それが良い意味なのか、悪い意味なのかは様々であるが、健司はそれをほんの少しだけ垣間見た気がした


「・・・生きてんだな、世界」


「何言ってるの? どこでもそうでしょ・・・ほら、そろそろ抜けるよ!」


その言葉の通り、通路の先に太陽の光と街の一角が目に入った


灰色の壁に赤い煉瓦造りの壁に、その前を行き交う民衆の姿


鼻腔をくすぐる芳ばしい香りに、徐々に大きくなっていく街の喧騒


「おぉ・・・すっげぇ・・・!」


トンネルを潜り抜けると、タゲリの街が姿を現した


近代的な作りの上へと伸びる灰色の建物と煉瓦造りの建物が入り混じり、中央の通りは真っ直ぐ城へと繋がっている

昔テロがあったとは思えない程に、整然とした街並みがそこにあった


「着いたぁ・・・疲れたぁ・・・」


「お疲れ様、ありがとうな」


「何が?」


首を傾げる彼女に笑みが溢れる


「何がって、街まで一緒に行くって約束だろ」


正直なところ、彼の気持ちを言うのであれば少し寂しくはあった


ほんの短い旅路とはいえ、共に語り合い、同じ道を歩いてきたのだから


だが、そんな彼の気持ちとは裏腹に、彼女は不思議そうに尋ねる


「ギルドの登録とか出来るの?」


その瞬間、健司の背筋に稲妻が走る


「・・・わかんない」


「だよねぇ」


目を背けながら呟く

言われてみれば確かにそうだ、自身はこの世界に来たばかり


ルールも法律も、それどころか自身の存在を担保する身分証明書すら無い


その状態でどう生活すれば良いのか


思わず頭を抱える

この世界における自身の未来への展望が全く見えない


「ギルドに行って登録するのも手伝ってあげる」


「良いのか・・・良いのか・・・?」


「良いよ、一緒に街まで来た仲なんだし」


平然と口にされた言葉

見ず知らずの自分にここまでしてくれるのかと、健司は驚きと共に感動すら覚える


「まぁ僕に任せなさい」


「ありがとう、灯華」


「へへん」と笑う彼女に礼を言うと、2人はギルドに向けて歩き出す


自分はなんて良い人と最初に出会えたのかと、自身の幸運に感謝する


ーーあんな魔法・・・流石に放って置けないしね


しかし、彼はそう思いながらも灯華の思惑は別にもあった


善意はある

困っているのならば助けようという想いもある


だが、強力な魔法を"操れる"者であったなら、異世界人を名乗りながらも知識があるなら、彼女としてもここまでする事はない


もしも1人になった彼が魔法を暴発させた時、一体どうなるのだろうか


そんな疑問が彼自身への好感とは別に、簡単に別れるわけにはいかない理由となっていた


「なぁ」


「ん、何?」


思考を中断して健司の呼び声に応える


「そういえばギルドまでって遠いのか?」


「うーん、そんな遠くはないと思うよ、多分ここから・・・」


そう言いかけた時だった

盛大な音楽と歓声が響き渡る


思わず肩を跳ねさせながら周囲を見渡してみると、建物の角の向こうに人だかりとステージのようなものが見えた


「何だろ・・・行ってみる?」


「行ってみるか」


怖いもの見たさや好奇心から何があるのか気になった2人は、音や声に誘われるままステージのある広場へと入っていく

ステージの全体がはっきりと見えるようになった頃、その上を動き回る着ぐるみのようなものが見えた


「このステージは我々組織が占領した! お前らは人質だ、グヘヘへ」


「・・・何あれ」


怪人と思わしき着ぐるみと、その周囲に整列した全身タイツの手下達


その見覚えしかない光景をまさか異世界で見ることになるとは思ってもみなかった


「あれってヒーローショーか」


「しかも僕が好きなやつだ!」


「え、そうなの・・・?」


意外な彼女の一面に思わず声を漏らすと「うん!」と満面の笑みで答えると、興奮具合に苦笑いが溢れる


だが、そんな態度をとりながらも健司も気にならない訳ではない


「でも、異世界でヒーローか・・・」


一体どんなヒーローが出てくるのか


「ほらほらほら、来るよ来るよ見てて!」


腕を引っ張りながら声を上げる彼女の言う通り、ステージの上にお姉さんが上がってくると会場内を見渡し溌溂と言う


「みんなでヒーローを呼ぼう、せーの!」


「助けてぇ!!」と会場中が声を合わせた


街の一角に響く声、それに合わせて「とぅ!」と誰かがステージの上へと着地する


全身に赤いスーツを身に纏い、涙滴型のヘルメットには炎をかたどった両目のバイザー

肩と膝には水色のクリアパーツが取り付けられた黄色の炎のようなマフラーのような魔力の帯ーー魔力布ーーをたなびかせたヒーローが姿を現す


「待たせたなみんな! 組織の怪人め、お前らの悪事は俺が許さない、ヒーローフレアレッド推参!」


ポーズを決め、歓声と音楽のボリュームが上がった


「へぇ〜、あれがこの世界のヒーローかぁ」


そう呟いている間にも、フレアレッドと名乗ったヒーローはステージの上で手下達を薙ぎ払い怪人と戦い始める


だが、何故かわからないが、今の健司の心は酷く落ち着いていた


異世界に来て、元の世界と同じヒーローショーを見ているだけなのに、それが酷く安心するのだ


ーー・・・元の世界と同じだからかぁ


魔獣、魔法、車に、MRAと現代的な建物の作り、それを見て来たからか、逆に一周回って安心してしまう


「ここの再現度はあんまりかなぁ・・・あ、ほらほら見て見て! あそこかっこ良くない!?」


「すげぇな! 空飛んでる!」


何やら元の世界では見られない魔法を使ってのアクションを見てはしゃぐ灯華に頷きながらも、健司は目の前のショーを楽しむことにした



「その言い方・・・君、ひょっとしてフレアレッドを知ってるのか?」



そんな2人へと声が掛けられた

振り返ってみればそこにいたのは、緑の肌をした大きな身体がある


「なっ・・・えぇ・・・?」


豚のような顔、口から生える2本の大きな牙

オークの男が立っていたのだ


「え、オーク?」


「うん、知ってるよ、カッコいいよね!」


「え?」


「お、お嬢ちゃんわかってるね! って事は君あれかい? あの街の出身かい?」


だが、驚く健司を尻目に灯華は平然と会話をする


「なぁ灯華」


「どうしたの?」


「この人オーク・・・だよな?」


「そうだけど・・・あっ」


「な、なんだよ・・・」


何かを察したのか含むような笑みを彼女は見せる


「ひょっとして、オーク、見たことない感じ・・・?」


「わ、悪いかよ」


そんなに変な事かと思い抗議の声を上げるが、彼女は「べっつに〜」と笑う


「ハハハ! 悪い悪い、驚かせてしまったようだな、俺はジャス、見ての通りのオークさ」


「よろしく」といって差し伸べられた大きな手に恐る恐る手を差し出すと、まるで大人と子供が握手したかのようにすっぽりと収まる


思わず「うお」と小さく呟き離れていく手を見つめていると、ふと、気になった事を思い出す


「ところで、その・・・フレアレッドってヒーロー、有名なのか?」


「あぁ、有名も何もこの世界で1番のヒーローさ!」


「組織を壊滅させたり、魔神や異国に行って国を救った話とか色んな伝説を残したヒーローだよ」


「うっへぇ・・・そんなのがいるんだ」


何となく気になって話を聞いてみれば、とんでもない存在がこの世界にいるのだと知り思わず


「かくいう俺も、そんなあの人に憧れてヒーローになったクチだよ」


「え、ヒーローなの!?」


「おぉ、本当ならオークには魔力は宿らないが・・・俺はエルフとのハーフでな、この街のヒーローをしてるんだ」


「へぇぇ!」と声を漏らす灯華

だが、そこで健司はふと疑問に思う


ーーえ、もしかしてリアルにいるの・・・ヒーロー・・・?


「でだ、そんなフレアレッドを知ってる君達に実は見せたいものがあるんだ」


「見せたいもの?」


健司が疑問を口にする前に、ジャスはニカリと笑い腰のポーチを開けて弄りだす


一体何を出すのかと疑問に思う2人ではあったが、目当ての物を見つけジャスは勢いよく彼らの前へと"紙"を広げた


「これだ!」


茶色く変色し、何度も開いては閉じてを繰り返したのか型がつきボロボロになった1枚の紙


そこには何か文字が書かれていた


「えっと・・・フレ、フレアレッド、って、さっき言ってた!?」


「そう! フレアレッドのサインだ!」


荒い鼻息をしながら声を張り上げ、紙を自分たちの方へと近づけて来る


自慢したいのであろう事はすぐにわかった


「へ、へぇ〜・・・凄いっすねぇ・・・」


正直健司には何が良いのかわからない


だが、自慢したいという気持ちだけはわかったので、とりあえず尊重する事にした


「だろぉ!」


「そんなの貰えるもんなんだな」


「ちっさい頃にな、頼んだんだ」


腕を組み目を瞑ると、ジャスはあの時を思い起こしポツポツと語り出す


「その時、俺はそんな大した者じゃないって言ってたけど、やっぱスゲェ人って慎み持ってるわ、うん」


それって単にサインを書きたくなかっただけではないのか


喉の奥まで上って来た言葉を何とか押さえ込んだが、出せたのは「へぇ〜」という言葉だけだった


「なぁ灯華、お前も・・・」


「ぼ、僕だって・・・」


「え?」


何か貰ってないのかと聞こうとした最中、灯華が顔を俯かせワナワナと肩を震わせている


「あの・・・灯華さん・・・?」


一体どうしたのか

不思議に思い声をかけようとすると、その瞬間彼女は顔を上げた


「僕だって、"パパ"にお願いしたらそれくらい貰えるし!」


声が町中に響き渡る

その音の名残をジャスと健司は2人は、ただ耳の中で反芻し静まり返る


思いっきり叫び、肩で息をする彼女を見つめ、健司はポツリと呟いた


「パパ・・・」


「・・・あっ」


彼の呟きで、自分が何を言ったのか気がついたようだ

みるみる顔を赤く染めていき、キュッと唇を結んで少しだけ俯いてしまう


「まぁ、呼び方も人それぞれ、良いじゃねぇかパパって呼び方、愛情を感じるよ」


「うぅ・・・」


「俺も良いと思うぜ! パパって呼び方!」


「うぅぅぅ・・・」


次々と掛けられる言葉に俯いて唸ることしか出来ない彼女の姿を見ると、つい悪戯心が沸いてしまう


ーーもうちょっとだけ・・・やめとこ・・・


もう少しだけ弄ろうか

そう思いながらも、この街に来るまでの出来事が健司の脳裏を過り口をキュッと締めて、話を切り上げることにした


「じゃあ、俺達はここら辺で」


「お、わかった。引き留めて悪かったな」


「いや、良いよ、おかげで色々知れたしな、んじゃ」


「おう、楽しんでけよ!」


手を振り見送る彼に手を振り返しながら、2人は再びギルドに向けて歩みを進めだす




ステージとジャスの姿が見えなくなった頃、街の喧騒の中を歩く2人

チラリと灯華に顔を向けると、未だに顔を俯かせたままだった


「パパ、パパねぇ」


そんな小さな呟きに反応して、灯華は少しだけ顔を向けると意地らしく睨む


「何さ、いーじゃん別に!」


頬を膨らませて怒っていると言わんばかりの大きな身振りで歩いていく


そんな彼女の背中を見つめ健司は思わず笑ってしまう


「やっぱ家族って良いもんだよな」


弄り倒したとは言え、仲の良い家族とは良いものだと独りごちると、彼女の背中を追い歩きだす


今度はどうやって許してもらおうかと考えながら








そういえば







「俺の親父ってどんな人だっけ・・・」


不意に呟いた言葉、だが、次の瞬間には"消えてしまう"程に軽い気持ち


『生まれて来てくれて、ありがとう健司』


そんな言葉すら、今はもう思い出せない

ハーフ:本編時代では異種結婚は珍しくは無いが、その始まりは旧大陸時代にて発生した旧呼称:亜人種との戦いにおいて、人類が獣人やドワーフの強靭な肉体と、人やエルフのような自由に魔法を扱う能力を組み合わせる為に作り出された結果生まれた概念



オーク:新大陸の原住民、その存在を確認されたのは1020年ほど前の初代勇者による新大陸開放作戦時、新大陸を埋め尽くしていた原初の魔王の眷属から逃げる為に魔力を失う代わりに人型を維持したまま小型化したゴブリン、肉体を強靭にしたオーク、逆に魔力量を増やした代わりに肉体が脆弱になったダークエルフがいる

本編世界ではダークエルフは希少種であるが、1020年前と比べると数は多い


ちなみにゴブリンとオークの肌の色が緑なのは、森の中に潜む為との説が濃厚とされている



HMW:正式名称Human Mutation Weapon

目に見えない魔力というエネルギーを気体という形で可視化出来るまでに圧縮する事で、起動した周辺の動植物を魔力で犯し魔獣へと変異させる兵器

新大陸に於いては使用を禁じられている兵器ではあるが、20年前の大陸間会談に当時戦争中であった魔国を支援する目的で組織により使用された


ちなみに魔素は魔力になる前段階の物な為、どれだけ濃くしようともこのような効果は出ない



ヒーロー:10年前までは組織の怪人と戦う治安維持や特殊事案に対処するのを目的とした特別事案対策冒険者の愛称、名付け親は何世代か前の勇者

昔、ヒーローの存在が初めて確認された時は組織が活動を始めたばかりの時であり、特別事案対策冒険者という役職も存在していなかった

ヒーローと呼ばれた者達は全身を仮面や鎧で覆い、闇に潜み、静かに怪人と戦う者達の総称だったのだ

当時の記録に残っているのは確認出来るだけでも、黒騎士、炎騎士、水騎士の3人である

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。