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こんにちは異世界 2


それから暫く灯華との2人旅が始まった

1人だけだった筈の靴音は2つとなり、森の境にある街道の土を踏み締める音が響く


「俺がいたところさ、誰でも羊と触れ合える牧場があるんだよ、すっごい羊の量でさ、そこで食べるチーズがめちゃくちゃ美味いんだよ」


「へぇ・・・なんか良いね、僕のいた街だとそういう場所ないから羨ましい」


たわいない会話で盛り上がる2人

ある意味で彼女との出会いは健司にとって幸先の良いものであった


「そういえばさ、今から行く街ってどんな街なんだ? 結構大きい?」


「うーん、規模はそこそこかなぁ・・・復興したのが10年前で、そこから人が増えて今に至るみたいだし」


「・・・復興? なんかあったのか?」


「20年前のテロで街が壊滅したんだって」


「うげ・・・マジかよ・・・」


この世界に魔法があるか否かについては、女神デアセクの特典から何となく察しは付いてはいたが、この世界そのものについては何も知らない


それ故に彼女との出会いはこの世界を知る良いきっかけとなったのだ


「この世界でもそういうのあるんだな・・・」


何処の世界に行っても人は変わらないものなのだと、それみようがしに頷く


だが、そんな彼を見て灯華は何処か言い辛そうに恐る恐る尋ねてくる


「・・・ねぇ」


「なんだよ」


「聞こうか迷ってたんだけどさ・・・さっきから言ってるこの世界でもって・・・何?」


少し困惑した様子な彼女を見て、健司は自身の失敗に気がつく


そういえばまだ言っていなかったと


「あぁ、信じてもらえるかわからないけど・・・俺、異世界から来たんだよ」


少しばかり目を伏せ、黄昏れるような雰囲気を作り出す


彼の心中にあるのは「決まった・・・」という思い

きっと、彼女は目を輝かせて此方へと問いかけてくるに違いないだろう


そんな想いを抱き答えを待つ




「えっと・・・何言ってるの?」




だが、返ってきたのは予想外の答えであった


「え、俺・・・変なこと言った?」


「いや、そりゃ・・・ね?」


困惑混じりに言葉を返すと、逆に困惑されながら言葉を返されてしまう


その事にさらに混乱が加速して行く


「ごめん、さっき言った事をもう一度言ってもらっても良い?」


「えっ・・・と、俺の住んでるところは羊と触れ合える羊まみれの牧場がある・・・?」


「違う違う、戻り過ぎだって・・・」


顔の前で手を振り、違うことを全力でアピールする

その姿に何をそんなにと思うが、健司は思い至り「あっ」と声を出す


「俺、異世界から来たんだよね・・・?」


そう口に出すや否や「そうそれ!」と身を乗り出し指を刺してくるのだが、健司にはイマイチ理解できない


「え、これってそんな変か?」


よくあるコミックだとここら辺は結構すんなり言ってたと思うけど、などと考えていたがそんな彼を見て彼女は呆れたように額を抑える


「当たり前でしょ・・・勇者様名乗るとバチ当たるよ」


「いや、マジなんだって! 俺異世界から来たんだよ!」


だが、そんな彼を見て灯華は「はいはい」とだけいうと先に歩いて行く


ーーいきなり過ぎたなぁ


彼女の背中を見て健司は少しばかり落ち込んでしまう

確かに考えてみればいきなり言ったところで信じてもらえる訳がない


そう考えると心が仄暗い感情で沈み、頭と肩が自然と落ちて行く


「・・・もう」


前を歩く灯華が小さく呟くと、彼の元まで歩み寄ってくる

どうしたのかと顔を上げると、突然顔を掴まれ両手の親指で両頬を押し上げられた


「まぁなんでそんなこと言ってるのかわからないけど、そんな落ちまないでスマイルスマイル」


「あ・・・ありゃがとぅ・・・」


頬を掴まれ変な言葉になってしまいながらも礼を言うと、灯華は「ふふ」と朗らかな笑みを浮かべる


「ほら、行こう。街までまだ時間かかるし」


身体を動かす度に揺れる太陽に輝く銀色の髪と、弾けんばかりの笑顔に目が奪われる


「あ・・・お、おう・・・」


離れて行くその姿に口惜しさを感じる程に、鮮烈なまでの光を帯びていた


「どうしたの?」


「な、何でもねぇよ・・・ほら、行こう」


小首を傾げ尋ねてきた彼女から逃げるように顔を逸らし前を歩くと、彼の後ろを付いてくるように彼女も歩き出す


「ほんとにどうしたの?」


「何でもねぇよ」


早くおさまれ

そう願いながら、ただ黙々と足を速める彼女よりも速く前を歩いた


暫しの沈黙が2人を包み込む

聞こえるのは靴裏が土を滑る足音だけ


「ねぇ、ところで何か特別な魔法使えたりする?」


「信じてないんじゃなかったのかよ」


「いやまぁ・・・そうだけど、もし本当なら気になるじゃん?」


呆れたような言葉を口にすると、返ってきたのは「タハハ」と気まずそうに笑う姿だった


彼女の言葉に何とも言えない表情を浮かべる健司ではあったが、魔法を使う良い機会だと思うと気を取り直す


異世界転生がダメでもこの世界に元からあるであろう魔法ならば話は別の筈


「驚くなよ、俺の魔法は重力魔法だ!」


今度こそ、そんな想いから自信満々に答えてみせた


次の瞬間には、口を開き驚く彼女の姿がーー




「・・・あー、とりあえず行こっか」


無かった


「待て待て待て待て! 気になったんじゃないのかよ!」


背を向けて歩き出そうとする彼女の肩を慌てて掴み止める


何が不満だったのか、問いただすと灯華も声を荒げた


「いやだって、そんな頓珍漢な答えが返ってくるなんて思わないじゃん!」


「何が頓珍漢だ! 見てろよ!」


目をの前の気に向けて手を前に伸ばす


風が吹き俄かに木々が騒めきだす中で、手のひらに力を集めるイメージを明瞭に作り出していく


そして、感じる力の波動


ーーいける!


目の前の空間が歪み始める


そんな光景を幻視しながらも、健司は力の限り叫んだ


「ハァァーー!!」




揺れる木々の騒めきがより大きく響く



鳥が囀り、草花が揺れる





そんな中で、健司と灯華は立っていた


目の前には先程と変わりなく聳え立つ木を見つめながら


「あ、あれぇ・・・?」


まさか失敗したのか


確かに感じていた筈の手応えと、異なる結果の差に


「え、何で・・・?」


なぜ何も起きないのか、この結果が信じられない健司は目の前の木と自身の手のひらを何度も視線を行き交わせる


もう一度

強く拳を握り締めると、再度手を木へと伸ばす


今度こそ出ろ

そう願いながら


だが、何も起きない


「何でだ・・・?」


何か方法は無いか、どうやったら出る


説明書も無く、これからどうすれば良いのかもわからない


ただ思考がグルグルと回転しだし身体を硬直させる


嘘じゃ無いことを証明したい


それが、彼の脳裏に浮かんだ心の本質

故に、何も出来なかった


「ちょっと見せて」


声と共に突然手が引かれる

急の事で「わっちょっ!?」と声に出し戸惑う彼ではあったが、灯華は構わず引いた手のひらを凝視していた


「ねぇ・・・健司」


「な、何だよ・・・」


「ひょっとして、魔法を使ったことがない?」


その言葉に心臓が跳ね上がる

異世界人なんだから当たり前だろうと、いつもなら返せた


だが、今は何も言い返せない


自信満々にやってみせると言った手前、認めるのが恥ずかしくて怖かった


「・・・無いよ」


それでもと、気持ちを抑え震える声で小さく呟く


「なるほどね・・・」


笑われることを覚悟した


「なら、ちょっと荒療治だけど動かないでね」


「え・・・?」


「魔力差があり過ぎると、ちょっとだけしんどいけど・・・うん、これなら大丈夫」


「何言って・・・」


彼女の言っている意味がわからず聞き返そうとした


その時であった


「うげっ!?」


手の中に何か細い管が蠢くようなキミの悪い感覚がする

咄嗟に手を離そうとするが、灯華に強く握られ離せない


「暴れちゃダメ、いま手の中を巡ってる魔力の感覚・・・ちゃんと覚えて」


「お、おう・・・」


手のひらから手首、肘の裏へと這い上がってくる灯華の魔力の感触


あまりの気持ちの悪さに健司の首筋から背中にかけて震えが走り冷や汗が流れていく


やがて、その感触は肩、胸へといたり頭へと到達した


ーーえ、死ぬ? 俺死ぬの?


まさか何か寄生虫のようなものでも埋め込まれたのではないかと怯える健司だったが、頭まで到達すると薄気味悪い感触は霧散していく


「はい、終わり・・・これで魔法使えると思うよ?」


「えっと・・・何やったんだ?」


「んと、魔力の通る道みたいなのを作ったの」


「魔力が通る道・・・」


「そう、パ・・・お父さんがね、昔叔母さんにやってもらったんだって」


手を離した彼女は、そう言うと「さ、やってみて」と穏やか表情を見せた


何故ここまでしてくれるのだろう


ふと、頭を過ぎる疑問だが、固まってる自身の姿に首を傾げる彼女の姿を見れば些細なモノだと思えて笑えてくる


「よっしゃぁ! なら、見とけよ!」


気合いを入れると今一度、木へと手を伸ばす


静かに息を吐き、同じように手に力を入れていくと先程よりも明瞭に感じる流れ


今ならわかる


これこそが、魔力なのだと


ーー行ける!


膨大な魔力を身体から溢れ出し、健司は木に向かって魔法を発動していく


周囲の風景も、風の流れも音も、先ほどと何も変わらない


だが、木の周囲だけが景色ごと"歪んでいく"


ーー凄い・・・


その光景を前に、灯華は思わず目と口を開き驚く


ちょっとした好奇心から魔法を使ってみてと言ったが、これは話が違う


直接空間を歪める魔法など聞いたことすらないからだ


流し見るように健司の顔へと目を向けると、彼は歯を剥き笑みを浮かべていた


魔法を使えたのが嬉しかったのだろう

だが、今の灯華にとってはそれが怖かった


ーーまさか本当に


異世界から




そう思いかけた時だ




遠くから雄叫びが聞こえたのは


「な、なんだ・・・?」


健司も思わず手を止め周囲へと顔を向ける


まだ遠くにいるのだとわかるのに、聞こえてくる度に空気を震わせる獣の雄叫び


木々を揺らし薙ぎ倒す音が、その存在が近付いてきているのだと伝えてくる


「なぁ! なんだよこの音!」


嫌な予感がする

湧き出た感情のままに狼狽えながら灯華へと顔を向けると、彼女も顔を強張らせていく


「マズイ・・・健司、急いでここを離れよう!」


「そんなヤバいのがくるのか!?」


「わかんない、でも、これは・・・!」


すぐそこまで迫った破砕音に、急ぎこの場を離れようと走り出す







だが、遅かった





街道と森の境目にある木々が爆発したのかと見間違う程の強烈な勢いで吹き飛んでいく


砂利の雨がパラパラと地面へと落ちていき転がる


そんな音の中で、後ろを振り返った2人は目を奪われた


2人の身長よりも大きい3m程の四つ足の巨躯

緑と茶のまだらの毛並みを逆立て、後ろへと伸びる2本の長い鼻を揺らしながら魔獣:キャーウィグはゆっくりと猫化動物のような細く鋭い目を向けてくる


勇者

この世界における勇者とは、新大陸人類が危機に瀕した時に主神たる大地神デアテラからの信託によって召喚する事を許された時のみに召喚される存在である

女神から与えられる権能は様々であり、数秒後の未来を見通す未来視のような異能を与えられたり、勇者の望む形に作られた武具であったりした

それらを膨大な魔力で操り、時に飢饉から人々を救い

時に、人々の盾となり侵略者たる魔国や強力な魔獣を退ける役割を与えられている


その存在そのものが、女神デアテラの御使いとも言えた





読んでくださりありがとうございます!


もしよろしければ星1〜5の評価か、続きが気になる方はブクマの方をよろしくお願いします!

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