表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/10

第9話「残された温度」

 あの日から、雨は何度も降った。


 けれど——蒼は、現れなかった。


 凛はそれでも、雨が降るたびにあのバス停へ向かった。もう来ないとわかっていても、足が止まらなかった。


 同じ場所。同じ時間。

 けれど、隣に立つ人だけがいない。


 「……ほんとに、終わりなんだ」


 ぽつりと呟く声は、雨音に溶けていく。


 最初は信じられなかった。次は否定した。そして今、ようやく受け入れかけている自分がいる。


 それでも——


 胸の奥には、確かに残っているものがあった。


 蒼の声。表情。何気ない会話。


 そして、最後に触れられなかった手の感触。


 「……ばか」


 誰に向けたのかもわからないまま、凛は小さく笑う。


 あの時間は短かったのに、やけに濃くて、消えてくれない。


 ふと、ポケットに手を入れる。


 そこには、小さな紙切れが入っていた。


 濡れないように折りたたまれたそれは、見覚えのないものだった。


「……なに、これ」


 ゆっくりと開く。


 そこには、見慣れた字で一言だけ書かれていた。


 ——「雨のあと、探して」


 凛の心臓が大きく跳ねる。


 この字は、間違いなく蒼のものだった。


 「いつの間に……」


 思い返しても、受け取った記憶はない。


 けれど、そんなことはどうでもよかった。


 大事なのは、その言葉の意味。


 「雨のあと……」


 凛は顔を上げる。


 空は、さっきまでの雨が嘘のように晴れ始めていた。


 雲の隙間から、光が差し込む。


 ——雨のあと。


 それは、今この瞬間のことかもしれない。


 「探すって……どこを」


 呟きながら、一歩踏み出す。


 わからない。何も確証はない。


 それでも——


 止まっていたはずの時間が、もう一度動き出した気がした。


 凛は走り出す。


 水たまりを跳ねながら、濡れるのも気にせずに。


 胸の奥に、小さな灯りがともる。


 ——もしかしたら、まだ終わっていないのかもしれない。


 その予感だけを信じて、凛は前へ進んでいった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ