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第58話 解禁

「バカバカバカバカ……! あーもう、あれほど戦うなって言ったのに……! クグイと正面から一戦交えて生き残る化け物に勝てるわけないでしょ! これうっかり居場所教えちゃったわたしが悪いのかなぁ!?」


 窓一つない謎の部屋。蝋燭の灯りだけが辺りを照らす薄暗い一室にてひとりの女魔族が髪の毛を掻きむしりながら叫ぶ。

 片翼の紋様が刻まれている手で片目を隠し、エイン達が乗車している魔導列車の様子を遠く離れたこの地から監視をしていた。


「……それにしてもホロウノスの行動の意図だけは読めない。列車の上に座って何してんだろ」


 「ミュルさん」、ロノウェルにそう呼ばれていた魔族の瞳は鷹のように上空から、走り続ける列車の上に座り自身の魔法の箱の中に閉じこもるホロスの姿を捉えていた。


「ん……? いまこっち見た? いや気のせいか。さすがにホロウノスでもこの位置から飛ばしたわたしの魔法に気付けるわけないし」


 なんて独り言ちるミュルの背後に忍び寄る影が──


「わっ!」


「うぅわぁあああっ!!! なに? なに……?」


「ははははははっ! ミュルさん驚きすぎ。そんなに集中して今なに視てるの?」


 ミュルが慌ててあたりを見渡すと長い槍を携え、黒いコートを着た男がにやつきながら立っていた。


「びっくりさせないでよレイラム……。こっちは今大変なことになってんだから」


「ふ~ん。何が起きてんの?」


「そうね。んーと、まぁ言葉で説明するより直接“視せた”方がはやいか。ちょっとおでこ貸して」


「はい、どーぞ」


 レイラムはでこが見えるように黒い前髪を手で抑えミュルに頭を差し出す。ミュルの低い身長に合わせて屈むのも忘れずに。


「──あー、なるほど、やっばいねこれ。なーにやってんだロノウェル……。あのお方の復活が近いことがわかったから無理にこいつらと関わる必要はないって方針になったの忘れたのかぁ?」


「覚えててこれよ。どれだけエイン・フロースにお熱かって話ね。でもちょうどよかったレイラム。あなた今から迎えにいってよ」


「ん~、たしかに近くに“転移陣ポータル”用意してたかもだけどよ~。仲よく共倒れになる未来が見えんな~。まぁでもしゃあねぇ、拾ってきてやるか」


 レイラムは長く伸びた槍の柄で自身の肩をトントンと叩く。


「じゃあミュルさん。俺もう行くから後で詳しい座標教えてね」


「了解。健闘を祈るわ」


 レイラムはミュルの言葉を聞きにっこりと笑うとその場から蒸発するように消えた──


◇ ◇ ◇ ◇


 舞台は再び魔導列車へ。


「これでっ……、乗客の避難は一旦完了ッスね……!」


 リヒトは催眠状態にある騎士の攻撃をいなしつつ先頭車両の座席で寝ていた数人の乗客をひとつ後ろの車両へ避難させることに成功させていた。


「幸いなことに魔法は使ってこない。単調な動きしかしてこないあたりあまり複雑な操作はできないとみてよさそうスね。でも──」


 二人の騎士のロングソードによる攻撃が容赦なくリヒトに襲い掛かる。


「パワーとスピードは本物ッ……!」


 その攻撃を紙一重で回避。しかし斬撃の延長線上にあった座席が無残にも破壊された。


「壁や天井ほどじゃないにしても充分この座席も頑丈なはずなんスけどね」


 直撃すればいくら魔力で肉体強化しようと深手は避けられない。しかし──


「単調。せっかく二人いるのにまともな連携もなし。当たる方が難しいスね」


 エインの攻撃を躱すのに比べたらこの攻撃を躱すのはなんて簡単なのだろうか。そうリヒトは考えていた。斬撃の軌道が途中で変わることも、攻撃のテンポが急に変化することも、ましてや攻撃の予兆が全くなしに一撃入れられることもない。

 目の前で放たれるのはただ速くて重いだけの攻撃。普段の稽古と比べたらこの猛攻もそよ風同然である。


「問題は、運転室の扉をどう開けるかなんスよね」


 運転室の扉は内側から鍵がかけられ固く閉ざされている。更に例によってこの列車はアホみたいに頑丈。リヒトはこの扉を無理矢理こじ開ける瞬間火力は持ち合わせていなかった。


「時間かければそのうち破壊できそうではあるんスけど……、避けながらとなるとまた話が変わってきますね。扉に近づけば近づくほど敵対的になりますし、多分催眠でこの扉を死守しろ的な命令出してそうッスね。逆にそのおかげで乗客の移動はそこまで苦労しなかったんスけど」


 声に出し現在の状況を整理。その間も傀儡と化した騎士の攻撃はきっちりと避け続ける。そしてリヒトは一つの答えを導き出した。


「気は進まないけど埒が明かないスからね……。すいません、斬らせて頂きます」


 この守り手二人に罪はない。しかし障壁となっているのもまた事実。乗客を守れず敵の魔の手に堕ちたのならば斬ってでも止めてやるのが温情だろう。そう結論付けた。


「──“桐時雨きりしぐれ”」


 鞘に溜めた魔力を噴出剤代わりにして加速させたその一撃は見事敵の腹に直撃。


 しかし──


「硬ったァ……!? そっか! 細かい魔力操作ができない代わりに魔力出力に全振りして防御力もえげつないことになってんスね!?」


 斬りつけた騎士の腹を見ると薄皮一枚切れたかどうかといったところだった。


「でもここまで硬かったら逆にちょうどいいかもしれないですね──」


 リヒトは納刀。再び鞘に魔力を込める。


「──()()が使える」


 これまでリヒトは二人の騎士の身を案じ魔法は使わずシンプルな魔力操作と剣術のみで応戦していた。しかしこの硬さならば魔法を発動しても致命傷になることはないと判断。


 鞘に込めた魔力を魔法に変換、鞘から水が滴る──


「“属性付与エンチャント”」


 リヒト・ライトガーデンの固有魔法が解禁される。



    第58話 解禁


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