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第56話 きりきり舞い

 手の甲に片翼の紋様があるということはこいつは旧統者の手先か。殺してもいいがその前に……


「さっさと乗客にかけた催眠を解け。解かなければ斬る」


「嘘言わないでよ。解いたら斬るの間違いだろ? 僕が死んだ後、乗客にかかった魔法がちゃんと解けるか心配になっちゃったんでしょ? ちなみに当然僕もわかってない。死んだことないからね。もしかしたら僕が死んだらこいつらは廃人になっちゃうかも!? なんてね。そんなこと僕はどうでもいいんだけど」


 いちいち癇に障る奴だ。そんな奴にいい友達になれると言われた事実に吐き気を感じる。


「それよりホロウノスさー、僕の人形閉じ込めるのやめてよ。可哀想じゃん」


 そう言いながらロノウェルは“密閉クロズド”をペチペチと叩く。


「あなたのではないし人形でもないわよ。そういう態度を取っている限り出すわけにはいかないわね」


「あ、そう。じゃあもういいや。邪魔だしこいつらこーわそ。知ってる? 僕の魔法ってこいつらの脳に直接魔力を流し込んで魔法を発動させてるんだ。その流し込んでいる魔力量を増やしたらどうなると思う?」


 ホロスは気付いていた。そんなことをされれば魔法使いではない彼彼女らの容量キャパはあっという間にオーバーし脳が破壊されることに。

 しかしそれをするということは人質を失うも同然、ロノウェルにとって自殺行為にあたる。つまりブラフの可能性も充分ある。


 しかし──


「わかったわ。解除すればいいのね」


 そのリスクをホロスは許容できなかった。


「案外物分かりがいいね。ま、でもこんなに人質いらないし一匹くらい殺しとくかぁ」


 そんなホロスを嘲笑うかのようにロノウェルは人差し指を突き立てる。


「いやー、実は困ってたんだよね。直接触れないと魔力流し込むのに時間かかるからさ」


 その指が近くにいた虚ろな眼をしながら立っている若い女性に触れようとしていた。

 が、その瞬間──


「で、お前はどの指で触るつもりなんだ?」


 突き立てられていたロノウェルの人差し指がストンと落ちた。切り口は鋭く血はほとんど出ていない。エインの刀は依然として鞘に収まったまま。


「ウソウソウソ……マジで!? いつ!!? 聞いてた以上だ!! ちょっともう一回やってみてよ!! 次は瞬きしないからさ!!」


 自身の指が斬り落とされたというのにも関わらずロノウェルはマジックを見た子供のような反応を見せる。


「ハハハ、今日は本当に来てよかっ……ん……? ああ、ごめんちょっと待って通信入ったから。なに? ミュルさん。今いいとこなんだけど」


 笑いながら喜びを見せるロノウェルだったが謎の断りを入れ、急に虚空に向かって話し始めた。


「戦うなって? 大丈夫だよ楽しくおしゃべりしてただけじゃん。どうせ今も観てるんでしょ? ええ? ああ、うん。わかってるわかってる。いつも感謝はしてるってミュルさん」


 通信機器の類は確認できない。魔法による通信なのはまず間違いない。それも旧統者の関係者からであるということも。

 エインは現在の状況、加えて今ロノウェルがおこなっている通信の情報を整理し揺れる車内にて今後の方針を立てる。そしてそれをロズウェルの通信が終わる前にホロスとリヒト、両名に小声で共有した。


「──という感じで動きたいんだが頼めるか?」


「オレは大丈夫ッスけど……」


「私も可能ではあると思うけど時間かかるわよ? その間補助はできないけどエインは大丈夫なの? あいつを斬るだけなら訳ないだろうけど乗客のことまで考えると……」


「大丈夫だ。何故か知らんがあいつは俺に執着があるようだしここで時間を稼ぐのは俺が適任だ。ここの乗客も俺がなんとかする」


「……わかったわ。油断しないでね」


「ああ」


 作戦報告はこれにて終了。各々のやることは定まった。

 しかしリヒトの顔は強張っている。了承したはいいものの自身に課せられた作戦の重大さにプレッシャーを感じていたのだ。


 そんなリヒトの背中をエインが叩く。


「気負いすぎるな。道なら俺が切り開く」


 強張っていた顔は一転、いつもの朗らかな表情へとたちまち戻る。


「はいッス!! エインさん!!」


 こうして作戦が開始、といったタイミングでちょうどロノウェルの通信も終わろうとしていた。


「大丈夫死なない死なない。あ、でもしばらく通信に出る余裕はないかな。じゃ、そういうことで」


 虚空を見つめていたロノウェルの眼差しは再びエインへ。


「待たせてごめんエイン。さぁ話の続きをしよう!!」


「いいだろう。だがその前に──」


 一定の距離を保っていたロノウェルとエインたちの間に四角い鋼鉄の板が遮った。それはエインが斬り落とした列車の天井。吹き抜ける風、差し込む光、それを合図にリヒトとホロスが動き出す。ホロスはシルドを階段に一部吹き抜けとなった天井から列車の屋根へ、リヒトは前へ走り出し列車の前方を目指す。


「あー、そういう感じ? 少なくとも刀弓かたなゆみの君は止めさせてもらうよ?」


 ロノウェルは腰から短剣を取り出し刃をリヒトに向ける。しかしリヒトは目もくれず走り続ける。「切り開く」、エインにそう言われたから──


 振りかざした刃がリヒトにあたる直前、金属音が鳴り響く。


「用があるのは俺なんだろ? だったら俺だけ見ていろよ」


 その言葉を聞きロノウェルはつい笑みがこぼれた。


「熱烈ぅ~っ!」


「行け! リヒト!! お前が列車を止めるんだ!!」


 エインがリヒトに命じた任務、それは魔導列車運転席の確認。もしロノウェルの発動した魔法が運転士にまで作用しているとしたら今まさにこの列車は暴走している。誰かがこの列車を止めなければ如何にエインやホロスであろうと乗客の安全は保障できない。その重要な任務をリヒトは託された。


「任せてください!!」


 お互い振り向きはしない。顔を見なくても確認できる信頼が既にそこには存在していた。


「踊りは好きか?」


 エインは受けた短剣の重心をずらしロノウェルの体勢を崩す。その光景はまるで舞踏会の一幕。


「へへ、だーいすき」


 エインはそのまま体勢の崩れたロノウェルを車両中央に吹き飛ばし、リヒトが走り抜けた扉から引き離した。


「きりきり舞えよ。じゃないとうっかり斬ってしまう」



    第56話 きりきり舞い


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