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第54話 魔導列車

「クグイっち~! スズちんから聞いたよぉ~! 一回死んだんだってね!!」


 ここは人も魔物も寄り付かない霧に包まれた森林地帯。そこには溶け込むように古城がぽつり。城内を駆け回るは一人の元気で小さな魔族。白いツインテールをぶら下げて魔王たるクグイに馴れ馴れしく話しかける。


「おう。堂々たる死だった」


「ふへへへへっ! 自分で言っちゃうんだっ!」


 小さな魔族は手が隠れるほど長くゆったりと広がった袖を口元にあて笑う。


「それで~? つよかったの?」


「そりゃあな。俺が死ぬくらいだ。おまえも勝てないから手だすのはやめとけよ」


「わかってるって~。でもさ~殺そうと思えば殺せたんでしょ~? そうしなかったのは情け?」


 首を傾げ少女が尋ねる。


「いやいや、素直に負けを認めたからだ。……と言いたいところだが打算半分ではある」


「打算?」


「もしも俺があいつに……旧統者に負けたときのための保険だ」


「旧統者~? まだまだ封印は解けないって話じゃなかったけ?」


 少女は右に傾けていた首を今度は左に傾けた。


「そう思ってたんだがな。どうやらホロスとあいつの封印はリンクしていたみたいで、強引に封印を解かれた影響があっちにまで出ているようだ。近いうちに動き出すかもしれん」


「それちゃんと女神サマたちに伝えた?」


「いや、あのときは俺も気付いてなかったから」


「はぁ~。何やってるのクグイっち。それじゃほんとにケンカしにいっただけじゃん」


 肩をすくめて呆れ顔。少女は繕うことなく思ったことをそのまま言葉にした。


「そうだが? なにか悪いか?」


「…………」


 しかしクグイは悪びれもせず開き直る。言葉では響かないことを察した少女は今度はジト目で訴えかけた。


「冗談だ冗談。既に伝達役を遣わせた」


「ああ、だからここにいないのか」


 赤いカーペットの敷かれた廊下を歩いていた二人は観音開きのドアを開け、中央に大きなテーブルが配置された部屋へと入った。

 既にそこには二人の魔族が座って待機している。


「遅いぞシロコ。……っとすいません。クグイ様も一緒でしたか」


 長身で細身の黒髪、ところどころ体表に鱗が浮かぶ20代程度に見える青年魔族は立ち上がってクグイを出迎えた。


「いい。かしこまるな。男らしくふんぞり返って座ってろロン」


「人によって態度変えるのダサいよロンちー」


「……ちっ」


 シロコに煽られたロンは舌打ちで返事をする。


「さすが若人。血気盛んですな」


 ロンと同じくこの部屋で待機していた老魔族は白いひげを撫でながら二人のやり取りを眺めていた。


「お見苦しいところを……クロタケ殿…!」


「ほっほっ、私は好きですぞ。あなた方のやり取りは見ていて飽きない」


「見る目あるねぇクロじい」


 そう言いながらシロコは空いている椅子に座る。


「挨拶もほどほどに、そろそろ始めるとするか」


 クグイはこの部屋の最奥にある椅子にドカンと座った。足を組みふてぶてしく座るその姿はこの世界の君臨者そのもの。この場でそれを認めていないのはクグイだけである。


「スズメ殿はまだ見られないようですがいいんですか」


 無意識に放つクグイの威圧。それを感じながらもロンが尋ねた。


「ああ、野暮用でな。今回の件は既に俺から伝えているから気にしなくていい」


「今回の件……というと?」


 続けて尋ねるのはクロタケ。

 しかしクグイが答える前にひとりの少女が手を挙げた。


「はーい! それあたしはさっき聞いたー!」


 だぼだぼの袖を掲げながらシロコは無邪気に声を出す。


「そうだ。だが改めて話すとしよう。この先の世界についてだ」


 クグイは不敵に笑ってみせた。


◇ ◇ ◇ ◇


 場所は移り変わりエイン一行は魔導列車の止まる駅のホームにまで来ていた。


「はいエインさん、ホロスさん切符ッス。列車乗ってしばらくしたら車掌さんがこれ確認してくるんで見せるんスよ」


 そう言ってリヒトが渡してきたのは大人用の切符と子供用の切符の2枚。当然俺は大人用のものを受け取る。


「よかったなホロス。子供料金で乗れるぞ」


「はぁ……。まぁいいわ。数年後見てなさい。あっという間に追い抜くから」


 ホロスは俺に近づき背伸び。顔を寄せて睨みつけてきた。


「背の話か? だったらそのときは俺も伸びてるから抜かれやしない。悪いが俺と話すときは一生見上げてもらうことになるな。首痛めるなよ」


「……あなたも大して背は高くないのによくそんなマウント取れたわね。せめてリヒトくらい大きくなってからにしなさいよ」


「…………」


「えっ! なんスかエインさん……!! 無言で睨まないでくださいよ怖いッス!!」


 リヒトの身長は180あるかないか。一方俺は170もない。大丈夫大丈夫ここからでも巻き返せる。……巻き返せるはずだ。


「調子に乗るなよリヒト!」


 でも一応釘は刺しておこう。


「理不尽ッス!!」


 そんなこんなでホームを進み俺達の目の前には堂々と鎮座する魔導列車が。

 初めて見たがなるほど、蒸気機関車のような形状をしているのか。先頭車両に煙突のようなものがついているがあそこから蒸気ではなく魔力でも排出するのだろうか。


「ところで魔物対策とか大丈夫なのかこの乗り物。線路の上に魔物が、なんてこともあると思うが」


「オレも詳しいことはわかんないスけど大丈夫らしいッスよ。列車が線路の上を走るときに鳴る音が魔物の嫌がる音になってるとかなんとか。あとシンプルに魔導列車これめちゃくちゃ頑丈らしいッス」


「なるほど」


 俺は改めて魔導列車を俯瞰して眺めた。


「ああ、そういえばギルド基準で二等以上の実力持っている魔法師を最低二人は列車内に常駐させることが義務づけられていたはずッスね。騎士団から派遣されてます」


「へぇ、じゃあ何かあってもその魔法師たちが問題の対処にあたるというわけね」


 俺と同じように全体的に列車を眺めるホロス。ホロスも何かを感じ取っているようだな。


「じゃあ入るか。リヒト、ホロス、気を引き締めろよ」


「わかってるわよ」


「え? え? なんスか? オレは全然わかってないスけど……」


 こうして俺達は列車内に足を踏み入れた。足を踏み入れたことで抱いていた疑惑は確信へと変わる。


「リヒト、よく聞け。この列車内なかに魔族がいる」


 列車の扉が静かに閉じた──



    第54話 魔導列車


設定変更のお知らせ

クグイ側の紋様 両翼

旧統者側の紋様 片翼 になりました。

(以前はクグイ側は羽根の紋様、旧統者側は特になしでした)


特に話の流れが変わったわけではないのであまり気にしなくてもいいです。

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