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番外編 在りし日の記憶①

 ここは「狭間」。時の止まった空間。現世と切り離された場所。俺はこの世界と世界の狭間にて女神に千年間の戦いを課せられた。女神と初めて会った日からどれくらいの時が経っただろうか。恐らく100年は経っているはず。これまで俺は死んで生き返ってを繰り返し様々な魔物を倒してきた。苦戦せず倒せた魔物なんていない。俺にとって全てが強敵。だが死ぬたびに攻略の糸口を見つけることができていた。

 しかし今回に限っては……


「どうしたものか……」


 今回のステージは寂れた遺跡。相対するはストーンゴーレム。全身が岩で構成されているおよそ生物とは思えない魔物を目の前に俺は「手詰まり」、そんな言葉を頭に浮かべていた。

 敵の攻撃を避けることはできる。近づくこともできる。そして攻撃することも。しかし……


 金属音が寂れた遺跡にこだまする。


 ストーンゴーレムには傷一つつかない。どこか弱点はないかといろんな部位に攻撃を加えてもみたが、「頭」「首」「胴」「関節」、どこを斬っても変わりはなく、ストーンゴーレムも振るった刀も変わらず光沢を見せている。変わりがあるとすれば手に残る痺れ。刀の耐久力は問題ない。ならばこれは単純に俺の力量不足ということなのだろう。


「とはいえな……」


 俺はストーンゴーレムの攻撃を躱し再び攻撃を入れる。結果は変わらず腕ごと刀が弾かれるだけだった。

 今の俺に足りないのは純然たる「火力」。それはわかっているがどうすればいい? 俺に魔力があれば身体強化や武器に魔力を纏わせることで斬撃の出力を高めることができるだろう。だがないものはない。「魔法」が使えないから、「魔力」がないから、それを嘆く段階はとっくのとうに過ぎている。できることを探し出し前へ進むしかないのだ。


「……しまった」


 そう思った矢先にストーンゴーレムの拳が眼前へと迫っていた。どうやら考え事に夢中で敵の動きをろくに見れていなかったらしい。これはもう避けられない。だがまあいい。一回死んで仕切り直しといこう。


「……?」


 不思議なことにいつまで経ってもストーンゴーレムの拳は俺に到達しない。こんな挙動こいつにあったか? と疑問に思うも答えはすぐに舞い降りた。


「苦戦しているようねエイン」


 なんてことはない。ただホロスがストーンゴーレムの時を止めただけだった。しかし戦闘中ホロスが直接介入してくるのは初めてな気がする。一体どういう意図があるのだろうか。

 そんな疑問を頭に浮かべ声が聞こえた方向に目を向けるとこちらに近づいてくるホロスの姿が見える。腰近くまで伸ばした透き通るような金の髪をなびかせ、ゆっくりと歩く姿は女神そのもの。ホロス以外の時が止まっているように見える。いや実際に止まっていたのかもしれない。


「どうしたのエイン。固まって」


 気が付けばホロスは俺の目の前まで来ていた。どうやら俺の時は止めていなかったようで、にも関わらず何故か固まっていた俺の様子を伺うためホロスは首を傾かせ俺の顔を覗いた。

 ホロスは俺より身長が高い。俺の身長が165cmだから目算で大体170付近だろう。まあ俺の成長期はまだ終わっていない。そのうち追い抜くだろう。何百年後かのそのうちに。

 ……なんで俺は女神相手に身長で対抗しようとしているんだ。今は身長なんてどうでもいいだろう。もっと大事なことがあるというのに。


「いや、なんでもない。それこそホロスこそどうした?」


「アドバイスをしにきたのよ。そろそろ頃合いかと思って」


「頃合い?」


「そうよ。これからは技の名前を口に出すようにしなさい」


 ……急に何を言い出すんだこの女神は。


「ふざけるなら帰ってくれ。こっちはままごとをしたいわけではないんだ」


「至って大真面目よ。エインも魔法の世界において詠唱が重要なことくらいは知ってるでしょう?」


「込められる魔力が多くなるとかだったか? でも魔力のない俺には無縁の話だろ」


「確かにあなたに魔力はない。だけど……」


 ホロスは俺に向けていた視線を外す。新たに向けた先は……


それには宿っている。とびきり特別な魔力がね」


 ホロスは俺が腰に差している刀を見てそう言った。


「魔力を通してなくても俺の言葉にこいつが反応するのか?」


「ええ、この刀があなたを主人だと認めていたら魔力の有無は関係ない。私の見立てではそろそろ……」


 頃合いというのはそういう意味か。


「理屈はわかった。だが技名なんて簡単には思いつかない」


 世の魔法使いはみんな自分で考えているのだろうか。ネーミングセンスのない奴はどうしているのだろうか。そんな余計なことを考えてしまう。


「大丈夫よ。言葉は既に用意されている。魂に刻まれた言葉を口にしなさい」


「魂にって……」


 そんな抽象的なことを言われても……


「アドバイスはこれでおわりよ。がんばってねエイン」


 呼び止める間もなくホロスは俺の目の前から消えた。空間魔法で瞬間移動でもしたのだろう。どこに消えたかは知らないが今も俺のことを見ているのはわかる。その証拠に……

 ストーンゴーレムの拳が空を切る。ストーンゴーレムの止まっていた時が再び動き出したということだ。


「まったく……」


 戦いの中で生み出せということか。無茶ぶりだな。


「お前もそう思わないか?」


 刀を握りそう呟いたが反応はない。


「……認められたって話自体が怪しくなってきたな」


 俺はストーンゴーレムの攻撃を躱しながら技名を考える。幸いこいつの攻撃は遅く単調だ。油断しなければ躱すことは容易。懐に入り込むことも。


「やっぱりなんたら斬りとかがいいんだろうか」


 ダメだ。まったく思いつかない。こいつの攻撃は単調とはいえ躱しながら頭を動かすのは難しいものがある。そもそも俺にネーミングセンスなんて……

 いや、ホロスは魂に刻まれていると言っていたな。だったら考えるだけ無駄か。

 俺はこの「刀」で「技」で何をしたいか。そういう話だ。


 俺は深く息を吸った。


「霧だ。目の前は深い深い霧で覆われている。どこに進めばいいのか、どうやって進めばいいのかわからない。だが決して暗闇ではない。お前となら前に進める」


 だから──


「斬り開く!!」


 もう一度腰に差している刀を強く握りしめた。刀自体がドクンドクンと脈打ち出すのを感じる。


「そうだな。わかったよ」


 自然とそれを口にしていた。


「“桐時雨きりしぐれ”」


 その言葉と共にストーンゴーレムを居合にて両断。コアごと叩き切った。


「なるほど。こんな感じか」


 塵になりゆくゴーレムを横目に納刀しながら呟いた。


 俺自身の力が上がったというより刀の力を新たに引き出せたという感じだ。切れ味の上昇。抜刀のしやすさ。重さも変わったような、そんな気がする。だが結局のところこの刀を振るうのは俺だ。だからこの刀に見合った強さを俺も手に入れなければならない。


「ホロス、次頼む」


 俺は次の魔物をホロスに注文する。いつもならこれで魔物がどこからともなく現れる。しかし今回はいつまで経っても現れない。


「ホロス! 聞こえてるか?」


 再度呼びかけるが返事はない。なにか非常事態でも起きたのだろうか? 

 あれから何度もホロスの名前を呼んだがまったく反応はない。ホロスが構築したこの世界を駆け回り叫ぶ。


「ホロス! どこだ! ホロス!!」


 あれ? なんで俺はここまで必死になってホロスを探しているんだ……? いや、当然か。ホロスの力を利用しなければ俺は強くなれないのだから。だが何故だろう。それだけではないような……。それ以上の感情が動いているような……。



「エイン!!」


 ホロスの声が聞こえたかと思えば突然腹へと衝撃が響く。目を開けるとそこには見慣れた天井、そして今や見慣れた顔が映っていて……


「なるほど夢ね……」


 あれは記憶であり夢だ。違和感はあった。あの時点ではまだ俺は……


「まったくエインはねぼすけね」


 いつもならとっくに起きている時間。そんな俺を見かねてかホロスは目覚まし代わりに俺の腹にダイブしてきたようだ。


「ありがとうホロス。起こしてくれて」


 俺はホロスの頭を撫でた。相変わらずその金の髪は絹のように手触りが良い。


「えへへ」


 それにしても……


「こんな形で追い抜くとは」



    在りし日の記憶①


①と書いたけど②以降を書くかは未定です。

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