第51話 頼りになったりならなかったり
「もう隠してることはねぇよなお前ら。これ以上は脳の処理がおっつかねぇぞ」
「流石にこれ以上は……あっ…」
ここで俺は思い出した。まだあのことを話していないと。
「……魔王と…戦った……」
「……はあ!?」
「そして殺した……」
「はああ!!?」
「けど生き返った……」
「おいおいおいおい……」
勘弁してくれよといった具合にワルドは頭を抱える。
が、追い打ちをかけるように俺たちは話した。あの日起きた詳細な出来事を。
「お前らがボロボロになって帰ってきたあんときか。何か隠しているとは思ってたがここまでとは。想定できねぇって……」
流石に情報量が多すぎたかワルドは途中から話半分といった様子で聞いているようだった。
「リヒトも一枚噛んでたか。よくあいつ生き残れたな」
「俺たちが鍛えてやってるからな」
「頼もしいこって。あいつもいまや二等魔法師、固有魔法も発現させてうちの主戦力の一員と言っていい。基礎魔法に苦戦していたあいつが短期間でここまで成長するとは。優秀な師がつくとこうも変わるか」
「おだてても何も出ないぞ」
「もっと褒めてもいいのよ」
いつもの調子でふんぞり返るホロス。先ほどまでのしおらしさが嘘のようだ。俺に対して後ろめたさなんて感じる必要はない、いつもそう言ってるがふとした瞬間に見せるホロスのあの表情。罪悪感でいっぱいです、口に出さずとも顔には出ていた。
まあそれでも時間が経てばもとの元気なホロスに戻るのだが今回はそれが早い。当事者の俺ではなく第三者のワルドの言葉というのが大きかったのだろうか。
なんて考えていると……
「そういえばホロスの嬢ちゃん神髄天移は使えるか?」
神髄天移。思いがけない言葉が飛び出てきた。
「使えないわよ」
「そうなのか。神の魔力があれば使えると聞いてたが」
「う~ん。少し説明が難しいわね」
ホロスは腕を組み目を瞑った。どうやら話の組み立て方を考えているようだ。
そして目を開く。
「そうね。まず神髄とはだけどこれは神の力のことを指すわ。そして神髄天移、これは異世界の神の力を呼び込む魔法のことよ。正真正銘魔法の極致ね。発動条件は神の魔力を用いること。神の魔力は魔力を極限まで練り上げることで生成することができる。正確には神の魔力に近づけることができる、かしら」
「近づける?」
「ええ、こればっかりは感覚でしか伝えられないのだけれども神の魔力は澄んでいる。どれだけ魔力を透明に近づけられるかで神の魔力の質も変わる。そして完全に透明にするのは人間にはまず無理と言っていいわね。魔王……クグイですら完全にはできていなかった。それでも私を封印できるくらいには強力な神髄を発動したのだけれども。正直クグイは例外中の例外の存在ね。あれだけ神に近づいた人間はあれで最初で最後でしょう」
「ん……? だがホロスの嬢ちゃんには神の魔力が流れてるんだろ? 使えないってのはどういうことだ?」
「私は私で自分自身の神の力があるからよ。よその神の力を持ってこようとしても反発しあってしまうの。そして今は私の神としての力、『空間魔法』『時魔法』に大きな使用制限がかかっている。だから今の私に神髄は使えない」
「なるほどな。使用制限のかかっている魔法とも反発しちまうのは難儀なもんだな」
「使えないだけで私の中にはたしかに神髄が残っているもの。仕方ないわね」
そう、ホロスの中にはまだ神髄が眠っている。それを狙ってもう一人の魔王、「旧統者」の手下が襲ってきたことがある。リヒトが倒した土魔法を使ってきた魔族だ。その魔族は女神ホロウノスの力が必要だと言っていた。
あれから「旧統者」の手下は現れていない。あの魔族レベルの敵であれば対処は容易だがあれが「旧統者」の手下の天井と考えるのは些か甘すぎる考えだろう。少なくとも俺の村を襲撃した魔族の方が遥かに格上の存在だった。あの時は俺も気が立っていたから加減せず一撃で首を斬り落としたが思い返せばあいつはかなりの実力者だった。刃を交わさずして魔力のない俺の実力を感じ取っていたのがその証左だ。
そしてなによりも気がかりなのは「旧統者」本体の存在。クグイは暫く動かないだろうと言っていたがその言葉をどれだけ信用できるかという話だ。そもそも「暫く」ということはいつかは動き出すということでクグイの言葉を信用したとしても楽観できる状況ではない。
「旧統者」の実力は未知数だが同じ魔王の名を冠するクグイと同等レベルと考えていいだろう。だとすると今の俺ではまだ力不足。
「千年経って尚成長を求められる……か」
「どうしたのエイン?」
「いや別に。それよりもワルド、なんでいきなり神髄天移の話を持ち出したんだ?」
俺は独り言を誤魔化すため話題を戻した。
「そういやお前らにはまだ言ってないと思ってな。神髄天移を使える魔法師は等級という枠組みから外されて『枠外』と呼ばれるようになることを。ちなみに『枠外』は問答無用で本部所属にされる。まあ神髄天移使えるやつは魔法指輪の色が勝手に黒くなるらしいから一応聞いてみたって感じだが」
「ああこの指輪ね。それなら……」
ホロスが左手中指につけていた指輪を俺たちに見せる。すると……
「黒くできるわよ」
「は!?」
白かった指輪の宝石は深淵を思わせるような黒へと変色した。
「これね正確には神の魔力込めると黒くなるの。普段私は目立たないようにわざと魔力を濁らせているから黒くはなっていなかったけど、こうして魔力を透明にすれば指輪の方は黒くなるわ」
へー、この指輪にそんな仕組みが。
「おぉ、魔法指輪ってそんな仕組みだったのか」
俺とまったく同じ感想を口に出すワルド。
いや支部長は仕組み知っとけよ。
「ってそれじゃ本部所属になっちまうぞ!?」
思い出したかのようにワルドは焦る。
本部か。このズウェルテ支部に随分慣れたから今更移籍はめんどくさいな。
「大丈夫よ戻せるから。なんなら白と黒以外にもできるわよ。青でも赤でも緑でも。この石の構造を理解していてかつ魔力操作が私レベルに長けてればね」
そう話しながらホロスは指輪をピカピカ光らせて様々な色へと変化させていく。そして再び白へと戻した。
「すげぇな嬢ちゃん!! そんなこと他の『枠外』でもできねぇだろうよ!!」
「ふふん。でしょうね」
得意げな表情をしながらホロスは答えた。
魔力のない俺にはそれがどれほどすごいことかは理解できなかったがまあ相当すごいことなんだろう。
こうして話も一段落つき……
「──ということで俺が聞きたかったことはこれで以上だ。悪かったな急に呼び出して。どうしてもお前らの正体を確認したかったんだ」
「別に構わない。それに悪かったというなら正体を隠していたこちらの方だ」
「それこそ仕方ねぇことだろ。むしろ初見で言われる方が困ってたわ。だから気にすんなよ。特にエイン。俺のこと忘れてたなんてどうだっていいんだからな。俺ァお前がどういう形であれ生きてたのがわかっただけで嬉しいんだ」
「だってよエイン」
ホロスは俺の脇腹を肘で突っついた。
……なんか慣れないなこの感覚。ワルドを支部長として認識している自分と村のおじさんとして認識している自分が重なっているこの感じ。どっちも本物だからこそ違和感がある。とりあえず今更おじさん呼びに戻すのは周りに変だと思われるから今まで通りにするとしよう。あと普通に恥ずかしいし。
「じゃあ帰るかホロス」
「そうね。帰りま……ん……?」
返事の途中でホロスが固まる。視線の先はワルドの仕事机へと向いている。
「どうしたんだホロス」
「あれって私たち宛ての……」
「あっ!!!」
うるさっ。
ホロスが何かを言い終える前にワルドがデカい声を出した。
「やべー……忘れてたぁ……」
一体なんの話だと思い俺も机の上を覗く。そこにあったのは……
「これは俺とホロス宛の手紙……? 差出主は……ギルド本部? どういうことだワルド」
机の上は様々な書類で散らかっていて今まで気づかなかったがよく見たら俺とホロス宛の手紙がちらほらと散乱している。どうやら何通も届いていたようだ。
「……実はお前らな、本部に召集かけられてんだ。規則破って無理矢理入れたのがバレちまったみてぇで……。お前らの正体ちゃんと確認してから言おうと思ってたんだがちょっと時間かけすぎたな……」
「ちなみに手紙いつからきていたのよ」
「……3ヶ月前」
「それちょっとじゃないだろ」
おいおいこれもしかしなくてもギルド本部の指示をガン無視する生意気な新人魔法師ということにされてないか?
「これこのまま無視し続けるのはまずいのか?」
「……マズいな。主に俺のクビが…」
なんだかんだでワルドも長い首に巻かれているようだ。
「悪いがお前らギルド本部まで行ってきてくれないか…? 可能な限り早く」
結局ギルド本部に行くことになるのかよ。そうツッコまざるを得なかった。
第51話 頼りになったりならなかったり




