第48話 おやすみなさーい
「綿雲魔法 “羊の涙”」
一等魔法師メイ・メイの使用する魔法、綿雲魔法は綿を生み出し自由自在に操作する。魔力消費が非常に少ないのが特徴でその気になれば町一体を全て綿で覆うことも可能である。
リサの魔法、磨輝により出力のあがった綿雲魔法は一瞬にしてオークの群れを呑み込み拘束。羊の涙は濁流となりキングオークでさえも身動きひとつ取れなくなっていた。
「グモォオオオオオオオッ!!!!」
──オークの叫びが辺りに響く。が、羊の耳には届かない。
「このまま餓死するまでほっといてもいいんだけどねー。可哀想だしちゃんと倒すよー」
メイは手に小さな綿を召喚、魔力を衝突させ生じた摩擦熱で火をつけた。
──これはあくまで小さな火種。その火種を綿の海に落とす。
「綿雲魔法 “愚者の棺桶”」
瞬間、綿の海は炎の海へと変貌した。
綿には空気と魔力の通り道となる空洞が多分に存在する。始まりは小さな火種。だがその通り道に炎が侵食、爆発的に燃え広がり一瞬にして地獄絵図へ。
オークは僅かな抵抗すら叶わず焼かれ続ける。ただ猛火に身を焦がれながら泣き叫ぶことしかできない。
──これは地獄の棺桶。愚者にこそ相応しい。
「おやすみなさーい。永遠に」
これが一等魔法師メイ・メイの力の一端である。
「それじゃー魔石でも回収しますかー」
燃え広がった炎も鎮まり焼け焦げたオーク達が塵となり魔石を落とし始めていた。それを回収するべくメイメイは浮かべていた綿雲を地上へと近づける。
「木に燃え移らなくて良かったわね」
「ちゃんと調整したからねー」
なんて話をしながらメイメイとリサが綿雲から降りようとする。が──
「まだ終わってないみたいよ」
それをホロスが静止した。
「グ…グモォオオオオオオオッ!!!!!!」
響く雄たけび。キングオークは地獄の猛火を耐え抜き自身を鼓舞するかのように吠えた。全身に火傷を負いながらも視線は鋭くメイメイに向ける。
「思ってた以上にタフだねきみー。ごめんねつらいでしょ今楽にしてあげる」
「その必要もないみたい」
ホロスがメイメイに言葉を向けた瞬間、音もなくキングオークの首が落ちる。一等魔法師であるメイメイでさえ感知できない攻撃が放たれた、その異常事態に辺りに緊張が走る。
「“椿鬼”」
攻撃の主はエイン・フロース。声を発したこの瞬間までホロス以外その存在に全く気付いていなかった。
エインは刀を静かに鞘に納める。そして振り向き一言。
「余計なお世話だったか?」
キングオークは今度こそ塵となり消滅した。
「……いやいや全然そんなことー。ありがとエイエイ。でも……」
メイメイの言葉をリサが繋げる。
「びっっっくりしたぁ!!! いきなりキングオークの首落ちたから何事かと思ったわぁ!!」
リサは目を丸くしながらそう言った。
「すまん。驚かせるつもりはなかったんだが」
「謝る必要はないのよエイン君。それにしてもホロスちゃんはよくエイン君が来たのわかったわね~。魔力探知には引っかからないのに」
「それは…なんとなくよ」
「エイエイもよくわたしたちがここにいるってわかったねー」
「まぁ…なんとなくな」
ホロスはエインの帯刀している千偽理の気配からエインの現在地を把握できる。一方エインもクグイとの戦闘中ホロスを通して千偽理と深く繋がったことによりホロスの気配を追うことができるようになっていた。
しかしそんなことをリサとメイメイに言えるはずもなく……
「ヒューヒュー! 相思相愛~!」
「うぇ~い。魂レベルのつながり~。ふ~!」
囃し立てられる始末であった。
「ホロス、なんだこいつらの妙なノリは」
「今日ずっとこんな感じよ。半分くらいあなたのせいだけど。私置いてってなにやってたのよ」
エインはギルドであったことを三人に話した。
「──で、暇になったからそろそろホロスと合流するかと思って探したらこんなところにいたというわけだ」
「おー、フェルフェル倒してきたのかすごいねー」
「ふ…ふふふ……っ!! 勝てると思って勝負受けただろうに負けるとか…ふっ…ぐふっ…! はぁ~おもしろいっ! 私も見たかったわその勝負」
「笑ってやるなよ。ちゃんと苦戦したからな」
「後輩にフォローされる先輩っ…! くっ…! ふっ……!! ださぁ!!」
尚も笑うリサ、しばらくフェルドはこのネタでいじられるだろうとこの場の誰もが確信した。
「とっ…とにかく臨時収入がはいったのね!? でかしたわエイン!」
「だろ? 今日の夕飯は豪華だぞ」
「わーい」
両手をあげてホロスが喜ぶ。
そうこうしているうちにメイメイがしれっと魔石の回収を終えていた。
「これの取り分どーするー?」
「私は本当に何もしてないから0でいいわ」
「俺も0でいい。最後の一撃は入れたがあいつ既に死にかけだったからな」
と、ホロスとエインは魔石を受け取りを遠慮する。
「ほんとうにいいのー?」
「ああ、リサと分け合えばいい。俺たちには臨時収入があるしな」
「そっかー。じゃあ遠慮なくー、リサリサ5:5でいいー?」
「え!? 私5割!? 貰いすぎよ! そこまでの貢献はしてないわ!」
リサは大げさに首を振る。あくまで自分はサポートしただけにすぎない。だから5割は貰いすぎ。そういう主張をした。
「してるしてるー。それにもともとわたし一人の仕事のはずだったしねー。迷惑料も込みということでー」
「う~ん……そういうことならありがたく貰うことにするわ。ありがとうメイメイ」
「いえいえー。こちらこそー」
話も終わり四人は帰路につくことに。今度はエインも含め再びメイメイの作り出した綿雲に乗ることになった。
「どうエイエイー? これ乗るのはじめてでしょー?」
「いい乗り心地だ。やっぱり魔法って便利だな」
先日エインは初めて魔法の発動に成功した。だがあれ以降ホロスに協力してもらい何度も魔法に挑戦してみたが全て失敗に終わっている。なまじ一度成功させたからこそエインは更に魔法という存在を特別視するようになっていた。
「まあ、いいんだけどな、魔法使えなくたって。俺には刀があるし」
言葉とは裏腹にエインはまるでお気に入りのおもちゃを失くした犬のような瞳をしていた。稀に訪れるエインの魔法渇望期。普段は心の奥底にしまい込んでいる魔法への憧れがふとした瞬間外に滲み出る。そんなエインをどう上手く慰めるか、ギルド員たちの定期イベントになり始めていた。
「そっ…そうよ! エイン君は強いし大丈夫よっ…! 魔力あっても魔法が使えない人だってたくさんいるし! むしろ魔力ないぶん剣術の方に集中できてお得というか……!」
先陣を切ったのはリサ。しかしエインにその言葉は逆効果だったようで……
「そう、俺は剣しか取り柄のない男だ……」
綿雲をいじりながら呟いた。
「ちっちっちっー、下手だねリサリサー。わたしがお手本を見せてあげるよー」
そう言い取り出したるは1体のクマのぬいぐるみ。
「どうー? かわいいでしょー? これあげるから元気だしてー」
「いい、いらない。俺はもうぬいぐるみを欲しがる年齢じゃない」
その言葉にショックを受けたメイメイの顔は固まる。体も固まり手に持っていたぬいぐるみを綿雲の上に落とした。
「そ…そんなー。年齢関係ないよエイエイー!」
メイメイはエインの肩を掴みながら揺さぶる。
「あくまで俺はそうというだけの話であって他人の趣味をどうこう言うつもりはない。むしろいくつになってもかわいいモノを素直に愛でることができる感性は素晴らしいと思っている。それに比べ俺は他人の目線を気にしてばかりの陰気な人間ですみません……」
「多方面に配慮しながら流れるようにまたいじけだした!!?」
リサがツッコんだ。
「まったく仕方ないわねあなた達。こうすればいいのよ」
ずいと前に出たのホロス。真打の登場だ。
ホロスの放つ言葉、それは……
「しゃーない。一回寝て切り替えましょう」
その言葉と共にホロスはエインの肩をポンと叩いた。
「そんな雑なっ!」
「ホロホロいくらなんでもそれはー……」
「わかった。そうする。町まで着いたら起こしてくれ」
そう言うとエインは綿雲をベッド代わりに沈み込みようにして寝た。
「あっ…いいんだそれで……」
「寝るのはやいねー」
ホロスは寝ているエインの横に寝転ぶ。
「じゃあ私も寝るから安全運転でよろしく頼むわ」
そしてエインの腕を枕代わりにして寝た。
「はーい。ってもう聞いてないかー」
「わっ…私もその横で寝ていいかしら……!!」
ホロスの寝顔を見たリサが興奮したように鼻息を荒くする。
「ダメに決まってるでしょー。事案だよ事案―」
メイメイは綿雲を操作し大きな手を錬成、その手でリサの奇行を引き留めた。
「でもこういう姿を見て安心したよねー。エイエイとホロホロ若いのに妙に大人びて見えるところあるから。二人とも才能だけじゃ片付けられない実力持ってるし今まで大変なことがたくさんあったんだろーなーって。だけどこうして安心しきった寝顔見せてくれるってことは少しはわたしたちのこと信用してくれたってことだよねー? 嬉しいねー」
メイメイは優しく微笑んだ。異色の経緯でギルドに入った二人をメイメイはメイメイなりに心配して見守っていたのである。
「ねぇメイメイ。人ひとりぶん開けた状態で寝るのならセーフじゃないかしら」
「リサリサー……。わたし結構いいこと言ってたんだけどなー」
第48話 おやすみなさーい




