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第47話 羊の目にも涙

「──で、今度はなんなのよ」


 女子会とは名ばかりの一方的に私が質問攻めに遭うだけのイベントがやっとこさ終わりこれにて解散、かと思えば今度は外に連れ出され今は空の上。


「なにってー、パトロールだよー。お仕事お仕事―」


 ここはズウェルテ近郊の森林地帯。普段は魔物がうようよいるが定期的にギルドの魔法師が間引いている。が、今は間引くまでもなく魔王もといクグイの影響で魔物の姿はほとんど見えない。


「仕事をするのは結構だけれどもなんで私たちも連れ出したのよ。少なくとも私は今日は非番よ」


「わかってるってー。だからホロホロとリサリサは見てるだけでいいよー。なんなら寝ててもいいしねー。ぽかぽか陽気にもこもこ魔法、お昼寝にはちょうどいいでしょー?」


 私たちの現在地、それは空。木々よりも高い位置、雲よりは低い場所、そんな高度を保ちながらメイメイが魔法で作り出した白い綿雲に乗り漂っている。


「…たしかに…少し眠くなってきたかも……」


 気付けば私はもこもこの魔法をもふもふと触っていた。


「ホロスちゃ~ん。お昼寝なら私が膝まくらを…」


「いいわ」


 リサが話し終える前に断りの言葉を入れる。このもふもふを差し置いてわざわざリサの膝の上で寝る理由はない。


「やっぱり魔物全然いないねー」


 下を覗きながらメイメイが呟く。独り言のようにも聞こえたそれにリサは律儀に返事をする。


「平和なのはいいんだけどね~、でも魔法師にとっては死活問題よね。収入源が減っちゃってるから」


 魔法師の仕事は多岐に渡る。護衛、採集、討伐、様々あるが基本的には魔物関係。そのため現在は依頼が少ない。


「まあ、ほっとけばそのうち湧き出てくるわよ」


「文字通りねー。魔物って不思議な生態してるよねー」


 魔物は一般的な生物と違い繁殖行動をおこなわない。魔物が生まれるのは腹の中、ではなく影の中とされている。正確な条件はまだ解明されていないが影と魔力が溜まっている場所から出てきやすいらしい。他にも細かい条件があるらしく少なくとも街中や家の中の影からパッと湧き出ることはまずない。

 その細かい条件とは何かと学者たちは頭を抱えているみたいだが正直私もよくわかってない。たしかに私は女神だったがこの世界を創造したわけでも全知全能の存在でもない。ただ他の生物より秀でた力を持っていただけ。そしてその力も大きく削がれた。今の私は神ではなくかよわい一人の少女なのである。


「かよわいは言い過ぎか」


「ん?」


 つい零れ落ちた言葉にメイメイが反応するが私は「何でもない」と言い誤魔化した。


「よくよく考えれば死んだら塵になって魔石だけ残るのも不思議よね」


 話題を戻したのはリサ。「魔石」について言及した。


 「魔石」それは魔物が死んだ時に落とす特殊な石。魔力を込めれば光る性質を持っている。言ってしまえばただ光る、それだけの石なのだが発電所どころか電球さえ開発されていないこの世界では必需品。夜でも家の中を明るく照らしてくれるのはこの石のおかげだ。しかし純度と大きさにもよるが使い始めてから一ヶ月ほどで砕け散る。必需品だが消耗品、そのため魔石の採集は魔法師の大きな収入源となっている。


「あれー?」


 そんなこんなで世間話をしながらふわふわと上空を漂っているとメイメイが何かを見つけたようだ。


「あれってオークの群れだよねー?」


 木々の隙間から複数の影が動いているのが確認できる。魔力探知をしてみるとメイメイの言う通りその影はオークの反応を示していた。

 リサも同じく魔力探知をしていたようでいつになく真剣な顔だ。どうやら仕事モードに入ったらしい。


「少なくなったと言っても探せば案外いるのね。どうするメイメイ? 町からはそれなりに離れているからほっといても問題なさそうだけど」


「うーん、そうだなー。ただのオークだけならそれでもいいと思うんだけどちょっと厄介そうなのがいるねー」


 魔力探知が示したのは12体のオーク、そして1体の──


「キングオーク。確かにあれを放っておくのは少し危険ね」


 オークの体長は通常2m程度。しかしキングオークともなると3mを超える。厚い脂肪を身に纏い巨大な斧を肩に担ぐ姿は化け物そのもの。特に周りを警戒する様子もなくずかずかと歩いている。自分を襲ってくる相手はいない、仮にいたとしても難なく対処できる、そういう自信の表れなのだろう。


「倒していこうかー。二人は見てるだけいいよー」


 そうこうしているうちにオークの群れは森を抜けだし川へと到達。水を飲むのが目的か魚でも獲ろうとしているのかは不明だが今は河原で一休みといった様子だ。


「私も手伝うわ。といっても支援しかできないし一等魔法師さまにはそれも不要かもしれないけど」


「謙遜しちゃってー。リサリサの魔法ほど便利な魔法ないよー。折角だし今回は手伝ってもらっちゃおうかなー」


「私だけ見ているのもあれだし討ち漏らしが出たら私が対応するわ」


「ホロホロもありがとねー。じゃあ少し近づくから一応警戒しといてー」


 そう言うと魔法の射程範囲に入れるためメイメイは私たちが乗っている綿雲をオークに近寄らせた。オークはまだこちらの存在に気付いていない。


「こんなとこかなー。じゃあリサリサお願いー」


 リサは頷き魔法を発動させる。その魔法は──


「付与魔法 “磨輝まき”」


 “磨輝まき” 指定した対象の能力を向上させる付与魔法。今回リサが選んだ対象はメイメイ。この魔法によって向上させられる能力は多岐に渡る。魔力出力、筋力、視力、俊敏性など、一時的ではあるが多くの能力が向上する。


「うん。いいねー。慣れるとリサリサがいないとき困っちゃいそうなくらいだよー」


「ありがとメイメイ。うちの男どももメイメイみたいに素直に褒めてくれればいいんだけど」


「えへへー」


 リサがメイメイの頭を撫でた。これから戦いが起きるとは思えないほどの緩いやり取りだ。


「じゃれ合ってるところ悪いけど気づかれたみたいよ」


 こちらの存在に気付いたのはキングオーク。手下のオークに命令を出している。恐らく手に持っている斧をぶん投げて攻撃しろといったところだろう。その命令に従うべくオークは斧を振りかぶりこちらに照準を向けている。


「あらら、ほんとだー」


「任せて」


 そう言い再び魔法を発動するのはリサだ。


「“逆磨輝さかまき”」


 “逆磨輝さかまき” 磨輝まきとは真逆の性質を持つ魔法。指定した対象の能力を一時的に低下させる。今回はオークの筋力を低下させた。そのため斧の重さに耐えきれずオーク達は投げることはおろか振りかぶった斧に引っ張られ後ろに倒れだした。


 しかし1体のオークはその魔法を受ける前に斧の投擲に成功していた。斧はホロスたちに向かって勢いよく進む。だが途中で急激に失速、斧はホロスらに到達することはなく川にぼちゃんと落ちた。


 ──リサの使用する魔法、「磨輝まき」「逆磨輝さかまき」の対象範囲は生物だけではない。魔力の通ったものであれば無機物にも作用する。リサは投擲された斧に逆磨輝さかまきを使用、推進力を低下させ自身らに到達する前に勢いを完全に殺した。


「やるねーリサリサ。今度はわたしががんばる番―」


 オークに群れの中心に魔力が集まりだす。


「綿雲魔法 “羊の涙(ウール・ウール)”」


 一等魔法師メイ・メイの魔法が発動する──



    第47話 羊の目にも涙


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