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第46話 居残り稽古

「ガハハ! 負けちまったなフェルド! 俺とお揃いだ」


 そう笑いながらフェルドに手を差し出すのはガデロン。フェルドはその手を掴みながら、


「あーーっ! マジで油断したーっ! いや油断させられたー!!」


 心底悔しそうに声を出した。


「ちなみにエイン君、あの分身バレバレだった? 一応動きも質感もかなり僕自身に似せて作ったんだけど。声も分身から出るようにしてさ」


「正直確信はなかった。だが俺がフェルドの立場なら同じことをするしお前ならやってくると思ったからそれに賭けた」


「人読みかー! くぅーーっ! 焦ったなぁ! やっぱじりじり攻める安定択を取るべきだったかなぁ。目の前に勝利が見えたからそこに飛び込んじゃったよ」


 二人の会話にリヒトが割り込む。


「あれ喰らってよくそんな喋れるッスねフェルドさん。オレ初めてあれ喰らった時吐いたッスよ」


「いや痛いよ。超痛い。でも魔力抑えたらかなりマシになった。これあれでしょ? 狙って魔力器官のある位置に攻撃したでしょ」


「ああ、そういう技だからな。 “白蓮びゃくれん” 内部まで衝撃が浸透する掌底を放ち魔力の流れを阻害する技だ」


「そんな技あるなら先に言ってよぉ。そしたら近寄らなかったのに」


「俺は伏せるべき手札を伏せてただけだ」


 そんな会話が続き、気付けば二人は先刻の戦いの反省会を始めていた。


「おいおい、お前ら今回の戦いの目的もう忘れたのか? 反省会を開くのは結構だがこいつらにもわかるように話せ」


 “こいつら”とは観戦に回っていた魔法師たちのことだ。支部長ワルドはその魔法師たちに指を差して二人に先ほどの戦いの解説を求めた。


「うーん。どこから話せばいいかなぁ」


「いざ説明しろと言われると困るな」


 エイン、フェルドの両名は二人仲良く首を傾げる。


「じゃあ今回勝ったエイン。お前に質問だ。最後の一撃をぶち込むためにした工夫はなんだ」


「それは油断をさせる。これに尽きるな。攻撃手段が木剣しかない、そう思われるように立ちまわって最後の隙を生み出した」


「途中から受け流しの精度下がってたと思ってたけど今思うとあれ、わざとだったんだね。木剣の破壊がゴールだと思わせるための思考誘導だったわけだ」


「そういうこと」


 エインは相槌を打ちながらリヒトから千偽理ちぎりを受け取る。そして腰に下げた。


「やっぱりこれが一番落ち着く」


「次にフェルド、お前はどうだ。どんな方針を取って戦った」


「僕も似たようなものだよ。不意を突くために油断させようとした。その手段が僕の場合は魔法だったってだけで。戦いにおいて不意打ちって最強だからね。格上相手でも倒す得る手段だから。それでいうとエイン君は厄介でねぇ、全部の攻撃が不意打ちに見えるんだよ。だから僕は斬り合いを成立させるために初手で雪を降らせた。そんな感じかなぁ。斬り合いが成立したら木剣の耐久力の差で僕が有利になるからね」


 フェルドたちの言葉を聞いた魔法師たちは各々その意味の咀嚼をはじめる。理解を示す者、理解が追い付かない者、理解ができたうえで納得できない者、様々だ。そして議論が勃発。辺りがざわざわとしだした。そんな場を切り裂くようにワルドがパンパンと手を叩き注意を自分に向けさせる。


「今のこいつらの話を聞いてわかった奴も多いと思うがこいつらは不意打ちするのに躊躇がない。むしろ積極的に狙いにいってる。だから強い。当然土台がしっかりしていることは前提だが、こいつらの戦いは疑い読み合い騙し合い、フィジカルだけじゃなく頭でも戦ってたというわけだ」


 バンダナをつけた魔法師が手をあげる。


「でもやっぱり俺は不意打ちは好かんな。卑怯だろ、魔法師たるもの正々堂々と戦うべきじゃないか?」


「正々堂々。いいんじゃない? 高潔で。でも不意打ちされても文句は言えないよ。だって……」


 フェルドの言葉を引き継ぐのはエイン。


「死人に口なし。地獄で卑怯だなんだと言っても生者には届かない。自分がしないのは自由だ。だが相手はしてくるかもしれないというのは常に頭に入れておくべきだ。戦いはいつだって命がけ。手段を選んでくる相手の方が少ない」


「……そう…だな。それはそうだ。納得したよ。だけどなエインてめぇ! なに勝手に俺を地獄行きにしてんだよ! 天国かもしれねぇだろ!!」


「すまんすまん。俺は人間なんて大抵は地獄行きだと思ってるからな」


 エインは真顔で言う。


「思想つえぇな! 怖えって!」


「冗談だ」


「お前の冗談わかりにくいんだよ!!」


「それホロスにもよく言われる」


 周囲の人間がエイン(こいつ)いつもホロスの話しているなと思いつつ話題は切り替わる。


「それにしてもこれでズウェルテ支部最強はエインで決まりだな! 最強の魔法師が魔法を使えないのは皮肉だけど!」


 一人の魔法師が笑いながらエインの肩に腕をまわした。


「何の話だ。まさかこの一戦だけで格付けが完了したと思っているのか?」


 エインはうざったそうに肩にまわされた腕を剥がす。


「ついてないのか?」


「ああ、だろ? フェルド?」


「それ僕に振る? 負け惜しみに聞こえるからあんまり僕からは言いたくないんだけど。でも一つ言うとしたら次また同じ条件で戦ったらまず間違いなく僕が勝つよ。それくらい僕に有利な条件だった」


「実際俺の勝因は初見殺しが上手く刺さったからだ。それが初見じゃなくなった今、まあ勝つのは厳しいだろう。それに“切り札”はまだ隠しているみたいだしな」


 エインはフェルドへ視線を向ける。


「別に隠してるわけじゃないよ。ただこんな町中で発動するわけにもいかないってだけで。それをいうならエイン君だってまだ隠してる力あるでしょ?」


「はは」


 エインは目を逸らし誤魔化すように笑った。


「今ので全力じゃねぇってこいつらやっぱバケモンだわ…」


 魔法師の一人が呟いた。


「それじゃあ俺は仕事も終わったことだし帰る。じゃあな」


「おい待てエイン。仕事はまだ終わってねぇぞ!! さっきの戦いを踏まえてこいつらに直接指導を……!」


「それはリヒトに任せる!! 俺の戦い方なら日頃から教えているからいけるだろ。頼りにしてるぞ一番弟子」


 そう言い残しエインはどこかへ姿を眩ませた。


「一番弟子……」


 この言葉を噛み締めているのはリヒト。


「俺、頑張ります! エインさん!!」


 気合は十分だ。


「まぁいいか、こいつでも……。一度見失ったあいつを探すことなんてできねぇし。だが…フェルド、お前は逃がさん」


「ああーっ! バレた! エイン君だけズルい!!」


 エインに乗じて逃げ出そうとしていたフェルドはワルドに見つかり蔦でグルグル巻きにされた。


「お前は負けたからな。残業だ」


「聞いてない聞いてない! 後出しズルいよ!!」


 フェルドは足をジタバタさせながら抵抗したが、そんな抵抗も虚しくただ巻き付けられた蔦により強く締め付けられただけだった。


「まあ頑張れやフェルド」


 そう言いフェルドの肩をポンと叩いたのはガデロン。


「他人事みたいにしてるがお前も教える側にまわってもらうからなガデロン」


「げっ…俺もかぁ……」



    第46話 居残り稽古


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