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第45話 騙し合い

「ほんとは今ので折るのが理想だったんだけどね、咄嗟に後ろに飛んで衝撃を軽減。足元の悪い中でよくやるよ」


「武器破壊が狙いとは性格悪いな。物は大切に使いましょうと習わなかったのか」


「どうだったかなぁ。忘れちゃったよ。そんなことよりいいの? そんなに距離取っちゃって。隙だよ、それ──」


 しんしんと雪が降る中でフェルドは魔力を練り上げる。唱えるは──


氷雪ひょうせつ魔法  “冬の隣人(ホワイトドッペル)”」


 エインの周囲の足元から雪が湧き上がり見慣れた姿へと変貌を遂げ始める。これは雪でできた5体のフェルドのぶんし──


「“みだざくら”」


 エインはその分身が完全に形作られる前に即座に破壊。分身はボロボロと崩れ落ちた。


「可愛げないねぇ。分身とはいえ先輩の顔を躊躇なく叩き切るなんて。でも──」


 崩れ落ちたはずの分身が再び起き上がり再形成を遂げる。


「そこに雪がある限り何度でも、だよ」


「しつこい男は嫌われるらしいぞ」


「それは悲しいねぇ。慰めてよ」


 分身がエインに襲い掛かる。


 この戦況を支部長ワルドが解説。


「見ての通りいま押してるのはフェルドだな。自身に有利なフィールドを形成し相手の弱点を狙う、基本に忠実な戦い方だ。さてエインはこの状況、どう切り返してくか」


「切り返すって言っても正直もうかなり厳しい気が。このまま雪が積もれば積もるほどフェルドに有利な展開になっていく。今はなんとか凌げているがどこかで限界が来るだろう。エイン本人よりも早く木剣が先に」


 これがガデロンの意見。一方リヒトは、


「──いや、この勝負、エインさんの勝ちですよ。みんなは忘れている、この勝負の前提を」


 その眼差しは二人の強者を捉えていた。


「ねぇエインく~ん。そろそろ降参してよ。しつこい男は嫌われるって話でしょ?」


 エインは分身の攻撃を華麗に捌く。時には攻撃を避け、時には木剣で破壊し、時には分身同士の攻撃を誘導し同士討ちをさせる。それでも分身は何度でも蘇る。


「俺はお前に嫌われても構わないが」


「冷たいねぇ」


 フェルド本体も分身に紛れ攻撃をする。本体に比べ動きのぎこちない分身の攻撃を補うようにフェルドは鋭い一撃を差し込む。


「寒いな」


「それどっちの意味? まぁいいや。それにしても受け流しの精度下がってきたんじゃない。それじゃ木剣の負担大きいでしょ」


「そうだな。だから急がせてもらう」


 エインは木剣の耐久力を度外視して思い切り振る。次の瞬間、動きのぎこちない5体の分身が一斉に破裂。分身を構成していた雪が空中に舞う。

 その光景を目撃した観客に動揺が広がる。


「はっ……? えっ…? いま斬ったの……?」


「わからん……。誰か見切れた奴いるか?」


「はいはい! 俺見えた!!」


「見栄張るなって。お前が見切れるわきゃねーだろ」


「何はともあれこれで──1対1だ!」


 観客の一人が目の前の事実を告げた。分身の再生が完了するまでおよそ4秒、僅かな時間だが確かに1対1が成立する。その僅かな時間でエインは勝負を決めに来た。誰の目からもそう見える。

 事実、エインは既に斬撃を放っている。その斬撃がフェルドに届くまでもうコンマ1秒も残っていない。しかしフェルドならばそこからでも十分防御が可能。ギルドの皆はそれを知っていた。

 だが──


「防御しない!!?」


 観客の一人が叫ぶ。

 と、同時にエインが斬りつけたフェルドが破裂、崩れ落ちた。


「これも分身……!?」


 またしても驚きの声をあげるのは観客。

 そう、これはフェルドが仕掛けたトラップ。分身の一体だけを精密操作し本体だと誤認させる。そしてエインに大振りの一撃を誘発させた。

 肝心の本体は──


「……ッ!」


 雪の中──


 雪に潜んでいたフェルドは不意の一撃を放つ。腕を振り切っているエインは回避もまともな防御もままならない。それでも体を無理矢理捻らせ防御体勢へと移行。なんとか木剣での防御が間に合う。だが──


 木剣が遂に折れる──


 勝利を確信したフェルドの口角が上がる。


「これで僕の……グフっッ!!?」


 勝利宣言の途中でフェルドは吹き飛んだ。


「勝利を確信した瞬間が一番気が緩む。魔物も魔族も人間も」


 倒れ込んだフェルドにそう告げるのはエイン。フェルドの手から離れ空中でクルクルと回転しながら落下を始めていた木剣をキャッチしフェルドの首元に当てた。


 観客にどよめきが広がる。


「え……」


「今…エインなにを……?」


 その疑問に答えるのはリヒト。エインの弟子である彼だけがこの決着を予想していた。


「“掌底”ッスよ。エインさんはフェルドさんの腹に掌底をぶち込んだ。ただそれだけです。まぁそれがバカみたいに痛いんスけどね」


「え……素手……?」


「そうスよ。何故かみんな途中から勘違いしてましたけど、この勝負木剣を折った方の勝ちじゃないですからね。エインさんは素手でも鬼つよいッス」


 エインはワルドを見て口を開く。


「勝敗は?」


 ワルドは帽子を被り直しながら乾いた笑いをした。


「ハハッ、こりゃ驚いた。お前にこんな()()()があったなんてな。まあ俺が言うまでもないと思うがこの勝負、エイン、お前の勝ちだ──」



    第45話 騙し合い


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