第38話 終戦、そして
魔王が倒れる。それを見届けたエインとホロスもまた緊張の糸が切れたのか体中の力が抜け倒れ込む。
「ハァ……ハァ…倒せた…倒したぞホロス…!」
「本当にすごいわエイン…!」
何を言っている。無力だった俺をここまで連れてきたのはホロスお前だろう。すごいというならお前の方だ。ホロスがいなければ俺は……
直後魔王の肉体が燃え上がる。
「……!?」
「ああ、本当に見事だ。まさかこの魔法が発動するとは」
爆炎に包まれながら魔王は立ち上がる。そしてその炎は徐々に収束していき胸の位置に収まった。
「心臓は…間違いなく止まっていたはずだ……」
エインは残された僅かな力を振り絞り立ち上がる。
「それは正しい。確かに俺は一度死んだ。だが俺は蘇りの魔法“再臨の炎”で再び息を吹き返した」
「…不死身かよ化け物が」
エインはそう吐き捨てながら千偽理を抜く。
「化け物はお互い様。ただしこの魔法は発動後、厄介な枷を俺に科してくる」
「魔法使用の制限…ね」
「わかるかホロウ…ホロス! そうなんだこの炎が消えるまで俺は魔法を一切使えない。祝福でどれだけ魔力を集めようともだ」
逆に言うと祝福はまだ使えるということか。絶望的な情報だな。だが体はまだ動く。戦いをやめる理由には…ならない!
「すげー殺気だな。とても死にかけの人間とは思えねぇ。安心しろよ、この勝負は俺の負けだ。だから──」
「刀を納めてくださいエイン様」
上空から一人の魔族が舞い降りエインを静止させる。その女の魔族は背中に赤みを帯びた濃い茶色の翼を生やしている。
「おースズメ。降りてきたのか」
「私の魔法が発動したら戦いは終わり。そういう約束のもとその魔法を貸しましたので。わかってますよね魔王様」
直前まで接敵に気付けなかった……! まずい…! 状況がどんどん悪化していく…!
「わかってるわかってるもう帰るよ。あと魔王じゃなくて鵠な」
「……鵠様」
「不満そうだな」
「我らが王はあなたただ一人。私はあの男を魔王とは認めていないので」
「そりゃ嬉しい限りだ。だが俺は王って柄じゃねぇんだ。と、いうわけで俺達はもう帰るから。じゃあな、エイン、ホロス」
魔王はエイン達に背を向け歩き出す。そしてそれを追うかのようにスズメと呼ばれる魔族も静かに歩き出した。
「…は……? 殺すんじゃなかったのか…?」
「ん? …ああ、そういえばそんな話だったな。あれやっぱなし」
と、魔王は軽く言ってのける。
「確認したかったことはちゃんと確認できたからな」
「すみませんでした。エイン様、ホロス様、うちのバカ上司がご迷惑をおかけして」
「お前は俺を敬っているのか蔑んでいるのかどっちなんだよ」
「尊敬していますし感謝もしています。それはそれとしてバカだと思っていますしアホだとも思っています」
「オイ!」
なんだこの緊張感のないやり取りは……。殺気も完全に消え失せている。……クソッ! 血を流しすぎて頭が回らない……!
「……もうわけがわからん……」
「私もよ……」
エインの言葉にホロスも同意する。
「本当に申し訳ございませんでした。お詫びにうちの上司がどのような疑問にも答えると言っています」
「言ってねぇよ!! お前が勝手に決めんな! ……いやまぁでもそうだな……迷惑をかけたのは事実だ。一人一問までなら答えてやる。つまり二つだ。よく考えて質問しろよ」
なんなんだこいつらで勝手に話を進めて。質問だと? 聞きたいことなら山ほどある。とても二問では収まらない。だからせめて──
「二つじゃない。三つだ。もう一人いるからな」
俺達のもとに近づく足音。
「今どんな状況ッスか!? エインさんホロスさん!! こっちはなんか勝手に魔物消えたんスけど!!」
「元気そうだなリヒト。状況は俺にもよくわからん」
「なんか魔王が質問に答えてくれるらしいわよ」
「どういうことスか??」
俺達はこれまであったことをリヒトに一通り話した。
「──なるほど。だったら素直に聞きたいこと聞いて帰ってもらいましょう。魔王単体ならともかくあの翼の魔族まで加わったら手が付けられません」
リヒトも盤面がよく見えている。今一番警戒すべきは復活したての魔王よりスズメと呼ばれている魔族の方だ。正直リヒトが加わってもこの戦力差は埋まり切らない。
「そうだな俺も死にたいわけではないしそうするか」
「私もそれに賛成」
「お、話はまとまったか? 誰から質問する」
「じゃ、オレからでいいッスか?」
そう言って手を挙げたのはリヒト。
「魔王って二人いるんスか? 前会った魔族がそんな感じのこと言ってたんスけど」
「俺は魔王のつもりがないからな。そういう意味ではその答えはノーだ。だが聞きたいのは俺の他に魔王がいるのかどうかということだろう。だとしたらそれはイエスだ」
「その魔王の目的は? 居場所は? 何故魔王と呼ばれる存在が二人もいるんスか?」
「おいおい、質問しすぎだろ。お前の質問権はもうなくなってるぜ。それにこれに関しては俺自身の問題でもある。俺が片づけておくからお前らはあまり気にするな」
リヒトと魔王の会話にエインが割り込む。
「そうは言われても一度その魔王の部下らしき魔族に襲われているからな。あの土魔法を使ってきた魔族、お前の部下ではないだろ」
「そうだがあのクラスならお前らの敵じゃねぇだろ。魔王本体も暫く動かないだろうし心配するな」
あの魔族に襲われたことも当然のように知っているか。やはりこいつの情報網は侮れない。
それにしても魔王が二人とはややこしい。仕方ないからこれからはこっちの魔王は鵠と呼ぶことにしよう。
「で、二つ目の質問はどっちがする?」
俺とホロスは目を見合わせた。
「私がするわ。エインの村を襲った魔族はあなたの部下かしら」
「違う」
鵠は断言する。
「信用してもいいのかしら」
「ホロス様、鵠様に仕える者どもはこのような紋様が手に刻まれています。その魔族にはこれがなかったはずです」
スズメが見せてきたのは左手。そこには羽根の紋様が刻まれている。
「どうエイン?」
どう……か。正直あまり注視していなかったから断言はできないが……
「多分…なかった…と思う」
「では恐らくそのものは旧統者の手先ですね」
「旧統者ってなんだ」
「あなた方の言うもう一人の魔王のことです。私のようにあの男を魔王と認めていない魔族はあの男を旧統者と呼んでいます」
今回襲ってきた魔王が鵠でもう一人の魔王が旧統者か。ん……?
「旧…ということは…」
「この話は終わりだ。最後の質問はエイン、お前だぞ」
遮るように鵠は俺に質問を促してきた。旧統者についても気にはなるが俺が鵠に聞きたいことは既に決まっている。
「俺がお前に聞きたいことは──」
第38話 終戦、そして




