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第37話 神の力 人の力

「エイン。お前ここまで魔法が使えるのを隠していたのか」


 魔王は斬られた腹部を抑えながら尋ねる。


「今のが初めての魔法だよ。アドリブって奴だ」


 だがそのせいで上手く斬撃の制御ができなかった。本当はこの一撃で決めたかったがあの位置では致命傷にはならないな。改めて美食家ゴーメットはかなり器用なことをやっていたと感じる。


「そうか。これが初めての魔法か。ならば……」


 ……!? 視界が揺れる……! 頭も割れそうなほど痛い…!


『エイン!?』


 エインは強烈な眩暈に耐えられず思わず膝をついた。


「魔力酔いだ。懐かしいぜ俺も初めは随分と苦労した。俺らみたいな魔力に慣れていない奴が魔法を使うとそうなる。勉強になったな」


 エインは千偽理ちぎりを杖代わりにし、フラフラになりながらも立ち上がる。


『エイン!? 無茶はしないで!』


「今無茶しないでいつ無茶をするんだ。俺は、勝ちにいく」


 エインは千偽理ちぎりを納刀し居合の構えを取った。


「悪いホロス。また魔力借りるぞ」


「その意気やよし!!」


 エインの静かに、だが確かに熱く燃え上がる闘志にあてられた魔王は真正面からの迎撃を試みる。


「来ォい!!」


「参る」


 再び鞘を中心に火花が飛び散る。


「“花雷はならい”!」


 電光石火。音を置き去りにした一撃は魔王の防御をすり抜け本体を捉える。しかし……


「カス当たりだ!」


 魔王が叫ぶ。


 クソっ! 上手く制御がとれない…! いや、それだけじゃない…! ほんの僅かだが体を捻り躱してきた…! 二度目にして既に対応され始めている。このまま同じことを繰り返しても先に限界が訪れるのは間違いなくこちら…!


「ホロス、シルドだ!」


 エインの狙いは戦場にシルドを投入し盤面を動かすこと。その意図はホロスにも伝わっている。だからこそ……


「ホロス……?」


 シルドは発動されない。


『ダメよエイン。あなたが魔法を発動している間、いや発動しようとしている今も私はあなたに回復魔法をかけられない。私があなたの体内に流した魔力の主導権は既にあなたのものになっているから。でも気付いているでしょ? 体中が悲鳴をあげていることに。これ以上動いたら本当に死んじゃう……』


 ホロスの顔は見えない。しかし感情は伝わってくる。


「だがこのままだとどちらにせよ殺される」


『それは私がさせない』


 千偽理ちぎりが光り出しホロスが現れる。ホロスが選んだのは同化の解除。


「どうして……」


 ホロスは前へ進む。向かうは魔王。


「あなたが恐れているのは祝福ギフトなのよね?」


 ダメだ!


「だったら私一人の命で十分なはずよ。これ以上エインには手を出さないで」


 ダメだホロス!!


「…変わったなホロウノス。人間一人のために命を差し出すとは。千年前はこの世界に直接干渉しようともしなかったのに」


「人は変わるのよ」


「女神だろ」


「女神は引退。女神ホロウノスではなくただのホロスとして私はここで人生を終える」


 ホロスはゆっくりと目を閉じた。


「……尊重しよう。エイン・フロースには手を出さない。そして()()()。お前には手向けを渡そう」


 魔王は魔力を極限まで練り上げる。それにより生じたのは魔力の変質。人間や魔族、魔物が扱うそれとは大きく異なるものへと変化を遂げた。

 その力は──


神髄天移しんずいてんい 天羽々斬(あめのはばきり)


 ──神の力


 魔王は異世界の神の力が宿った一振りの刀を取り出した。その刀の能力、それは防御不可能全てを斬り裂く絶対の斬撃。更に斬られたものは天羽々斬(あめのはばきり)顕現中は如何なる手段であろうと修復不可能。

 因果をも超越するまさに神の力。


 そしてその力が今振り下ろされ──


「させない!! 俺は絶対に認めない!! ホロス! お前が死ぬ時は俺が死ぬ時だ!」


 千偽理ちぎりがその一撃を受け止めた──


「……!? どういうことだ!?」


 防御不可能のはずの一撃を受け止められたことに魔王は驚きを見せる。


 天羽々斬(あめのはばきり)には神の力が宿っている。だが──


 ホロスの分け身たる千偽理ちぎりにもまた神の力が宿っている。

 そして千偽理ちぎりは千年間の戦いで一度も傷つくことがなかった──


「勝ちにいくぞホロス!! 一緒にだ!!」


 ──不滅のつるぎ


「うん……っ!!」


 ホロスと千偽理ちぎりは今再び同化をする。しかし本日二度目の同化。更に一度目の同化の時点がかなりの魔力を消耗している。ホロスは同化可能時間が残り少ないことをここで悟る。

 同時にホロスの魔力が体内に流れ込んできたことでエインもそれに気付く。そしてエインの肉体もとうに限界を超えている。


 ──21秒


 それが二人が直感した残された戦闘可能時間。


「マジでアチィぜお前たち!! 火傷しちまいそうだ!!!」


 神の力を宿した刀同士がぶつかり合う。


「悪いが話している時間は……ない!!」


 またしても競り勝ったのはエイン。純粋な剣術ではエインに軍配が上がる。


 ──13秒


 エインは魔王本体に攻撃を仕掛ける。だが空気の壁がそれを阻む。そして膨張、破裂、衝撃波を生み出しエインを遠ざける。


 ──9秒


「そうだエイン!! 何度でも来い!!!」


 エインは一呼吸を置き居合の構えを取る。魔王はその姿、極限まで集中力を高めたエインの姿を見て次の攻撃がラストアタックだと確信する。


 ──6秒


 直後魔王に訪れたのは予想外の光景。魔王の周囲は半透明の防御壁に覆われた。


 “密閉クロズド”── ホロスの行使した完全無詠唱による魔法が魔王の不意をついた。だが──


「こんなもの時間稼ぎにもならねェぞ!!」


 魔王は即座にそれを破壊。完全無詠唱によりシルドの耐久力は大きく下がっている。そうでなくとも現在魔王が振るうは全てを斬り裂く天羽々斬(あめのはばきり)シルドは薄氷の如く砕け散る。


 ──4秒


「……いねぇ……」


 魔王はエインの姿を見失う。魔力探知でホロスと千偽理ちぎりの魔力を追うがそれも感じ取れない。

 まさか…


 ──2秒


「逃げっ──」


「“桐時雨きりしぐれ”」


 納刀状態の千偽理ちぎりは魔力を一切発しない──


「るわけねぇよなお前は……」


 背後からの強襲。千偽理ちぎりは今度こそ確かに魔王の心臓を斬り裂いた。


 ──0秒 同化が解ける


「この勝負──」


 エインとホロスの言葉が重なる。


「俺達」

「私達の」


「勝ちだ」「勝ちよ」



   第37話 神の力 人の力


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