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第34話 男同士の話し合い

「残念だ。殺さなくなくてはいけなくなった」


 来る…! 魔法とはまた違う異質な力……!


「地獄に彷徨う亡者どもよ。甦れ “救済の糸(カンダタ)” 」


 魔王が手をかざすと何処からともなく魔物が湧き出てくる。その数、十、二十、三十、いやそれ以上。こうしている今も増え続けている。これが“祝福ギフト”…!!


「“みだざくら”!」


「“シルド”!」


 数が多すぎる…! それに一体一体がちゃんと強い。「狭間はざま」での五百年クラスの魔物がうようよと。それ以上の強さの奴らも何体かいる。俺はともかくホロスはシルドで攻撃を防ぐことしかできていない。

 当たり前だが出し惜しみはできない…!


「ホロス! 同化だ!!」


 エインは魔物の攻撃を弾き一瞬の隙を作りだす。そして千偽理ちぎりをホロスに向ける。エインはホロスと千偽理ちぎりを同化させることで斬撃の出力を高め防御はホロスの魔法に任せる攻防一体の一手を打とうとした。しかし──


「──させるかよ。ここからは男同士の話し合い(タイマン)だ」


「……ッ!!」


 魔王本体の介入。魔王の振るう刀がエインを襲う。間一髪防御が間に合ったエインであったが魔王の攻撃に耐えきれず大きく吹き飛ばされた。


「エイン!!」


「ホロウノス。お前はこいつらと遊んでおけ」


 ホロスに地獄から甦りを果たした魔物達が襲い掛かる──


◇ ◇ ◇ ◇


「……これが…“祝福ギフト”の力…!」


「その一端だ。自らの手で葬った魔物を一時的に甦らせ使役する」


 甦り…! 一時的とはいえ生と死の境界を取り払うとは…なんてデタラメな能力…!


「お前の祝福ギフトなら魔物を人間に襲わせないことだってできるはずだ」


「残念ながらこの世全ての魔物の支配は祝福ギフトの力を持ってしても叶わない」


 魔王はエインと一定の距離を保ち話す。


「だがこんなことはできるぜ!」


 言葉と共に掲げたのは右の腕。その上部に生じるのは空間のひずみ。エインはこの現象を知っている。


 これは……!


「“徴収ちょうしゅう”」


「魔法か!!」


 右手を下げて魔王は答える。


「半分正解で半分不正解だ。今のはあくまで祝福ギフトの力。おこなったのは周辺にいる野良魔物の魔力の徴収。魔法はこれから使わせてもらう」


 魔王の背後に再び魔法発動時特有のひずみが生じる。


錬成れんせい “天地の賛歌(フルゴリエール)”!!」


 無数のつるぎやりといった様々な武器が魔王周辺の空中に出現。そして魔王の指示により射出されたそれらの武器がエインを襲う。


「“むかえ梔子くちなし”!」


 数が…数が多い…! それに一撃一撃も重たい…!


「部下から借りてきた魔法だ。どうだかっこいいだろ?」


「余裕そうだな…!!」


 エインは全ての攻撃を弾く、もしくは躱しながら前に進む。顔をつるぎが掠めてもお構いなしに進み続ける。そして絶え間なく降り注ぐ攻撃に僅かな隙間を見つける。その隙を見逃さず攻撃の合間を縫って魔王との間合いを一気に詰めた。


「マジかよその動き!! お前本当に祝福ギフトはねェのか!?」


「“祝福ギフト”は貰っていない。だが──」


 思い出したのはかつての言葉。


 女神ホロス・ホロ・ホロウノスが告げる。これからのエインの人生に幸あらんことを──


祝福しゅくふくならされている!!」


 放った技は椿鬼つばき千偽理ちぎりは確かに魔王の首元を捉える。しかし──


「ふぅ~! あぶねぇあぶねぇ!」


 すんでのところで千偽理ちぎりが止まる。まるで見えない壁に阻まれたような…これは……


「俺は借りてきた魔法が一つとは言ってないぜ」


 魔王の刀がエインを襲う。


「……ッ!」


「おいおい、これも防ぐのかよ。どうなってんだお前の剣術」


 重っ…たい! 初撃の時も感じたがなんだこの異常な膂力りょりょく…! もしやこれも魔法によるものなのか?


「お前の歳で辿り着ける領域とは思えない。…いや待てよホロウノスと行動しているということは……」


 黒い瞳が覗き込む。


「お前、何年生きた?」


 斬撃の応酬。それが続きながらも魔王は言葉を続ける。


「百年、二百年。いやもっとだな。ホロウノスのあの消耗具合を考えると……」


 攻撃が止まる。


「千年。どうだ当たっているだろ」


「だったらなんだ!!」


 エインは斬撃を放つが受け止められた。


「図星か。ホロウノスも酷いことをする。なぁエイン。何故お前はホロウノスに従う。地獄の道を歩まされている自覚はあるだろう。命を懸けてまで俺に固執する意味はなんだ」


「魔王の討伐。それがホロスの意思だからだ!」


「退屈な答えだ。己の行動をホロウノスに任せた女神の傀儡くぐつめ」


 刀と刀の鍔迫り合い。その最中であったが魔王はエインの言葉を聞くと心底つまらなそうに体と刀に魔力を込めエインを吹き飛ばした。


「ぐっ……!」


 土煙が立ち込める中エインは魔王の言葉を反芻する。


 俺がホロスの傀儡くぐつ…? そんなわけないだろう。だが確かに俺が魔王を倒したいと思っているのはホロスに頼まれたからだろうか。…少し違う気がする。

 人類の敵だから? これは違う。俺はそんな正義感で動いていない。

 故郷を滅ぼされたから? みんなごめん。これも違う。俺はもっと自分勝手だ。


 土煙が晴れる──


「すまなかった。本音を繕うような真似をして……俺は…」


 エインはきっさきと視線を真っ直ぐと魔王に向けた。


「俺は千年間ホロスを一人きりにしたお前を許せない! ただそれだけだ! 魔王!!」


「おいおいおい! ドアチィじゃねェか!! エイン・フロース!!!」


 再び激しい剣戟が始まる。時間にしてたった十数秒のやり取り。

 この勝負、競り勝ったのはエインだった。しかし魔王に刃が当たる寸前、またしても謎の透明な壁に阻まれる。それでもお構いなしにその壁ごと強引に斬り裂こうとするエインであったが……


「チッ……!」


 その壁──「()()」が膨張し大きな衝撃波を生み出した。エインは弾き飛ばされる。


「最っ高だエイン!! 地獄の底までやり合おう!!」


「悪いが相席予定の奴がいる。一人で勝手にいってこい」


 魔王は満足そうににやりと笑った。そして錬成の魔法を発動。再び背後に無数の武器を出現させ、エインに照準を向ける。


「越えてみろ」


「押し通る」



    第34話 男同士の話し合い


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