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第33話 激突

「ホロス」


「ええ」


 みなまで言うまでもなくホロスは亜空間から千偽理ちぎりを取り出し俺に渡す。

 こいつが魔王。なんだこの感覚は。人の形をしているが生物のように感じない。まるで死体が動いて喋っているかのような。魔力がないからか? 俺も周囲からはこう見られているのだろうか。

 いやそんなことはどうでもいい。想定外の遭遇。だがホロスと合流してからというのは不幸中の幸いだ。いくらなんでも丸腰で戦える相手ではない。俺は千偽理ちぎりを握りしめそう考えた。


「おーこわ、そんな殺気を飛ばさないでくれよ。今日は戦いに来たわけじゃないんだ」


 魔王は薄ら笑いを浮かべながらも両手をあげる。真意が読めない。


「だったら何が目的で俺達の前に現れたんだ魔王!」


「みんなして俺のことを魔王魔王と。俺にだってクグイという名前があるんだ。誰にだって名前はある。お前にだってあるだろう? エイン・フロース」


 当たり前かのように俺の名前を知っているか。


「それで目的だったか? 端的に言うぞ。お前ら俺の仲間にならないか?」


 それはあまりにも想定外の言葉だった。そう感じたのはホロスも同じだったようで。


「いきなり現れてなんなのよ! そんなものなるわけないじゃない! あなた三百年は人前に姿を現さなかったんでしょう!? なんで今更……このままあなたが現れなければ……」


 声を荒げるホロス。しかし感情的にもなるのも当然だ。なにしろ自分を千年間封印した張本人が目の前に現れ、わけのわからないことを言っているのだから。


「まぁそりゃそうだろうな。今のは俺が悪かった。端的にと言っても些か説明が足りてなかった。今度は順を追って話す」


 ──今斬るべきか? 今なら確実に一撃は入れられる。だが致命の一撃にはならないだろう。それにどんな目的があってこいつが動いているのか気にならないと言えば嘘になる。癪だがここは──


「殺気を納めてくれて助かるよ。これで安心して話せる」


「さっさと話せ」


「あいあい。…ところでエイン、お前銃は知っているか?」


「……は?」


 話の繋がりがまったく見えてこない。


「鉄砲、ピストル、呼び方はなんでもいい。とにかくそういう武器があることをお前は知っているか?」


 この世界にそんなものはない。だけど俺はその存在を知っている。それは……


「異世界の……武器…」


「そうか知っているか。だったら話が早い。こっちの世界にはなくてあっちの世界にはある武器、いや兵器。銃に限らずそういったものは多く存在する。爆弾、ミサイル、触れてはいけない禁断の果実。それらは存在してはいけないものだ。あまりにも簡単に人が死ぬ」


 魔王は淡々と話を続ける。


「さてそんな科学の力によって作られた兵器だが。先ほども言った通りこの世界には存在しない。何故だと思う?」


 こっちとあっちの世界の違いを考えると……


「魔法があるから…か?」


「正解だ! はなまる満点をあげよう!」


 いらんが。


「察しの通り魔法の存在がこの世界の兵器の開発を遅らせている。魔法がある世界なんだ。科学の研究より魔法の研究が優先されるのは自然なことだ」


「さっきから科学の兵器を随分と危険視しているみたいだが魔法と何が違う? 魔法も人を殺せるぞ」


「難易度の違いだ。魔法は才のあるものが修練を積んでやっと形になる。だが銃はどうだ? 引き金を引くだけで人が死ぬ。赤子だって人を殺せるんだ。異常だろうそんなもの」


 言っていることはわかる。だが……


「話が見えてこない。俺達を仲間に誘った話とどう繋がる」


「まぁ待て。もう少しで話は終わる。要するにだ、兵器は世界のパワーバランスを大きく変えてしまう。魔法がある世界で更に科学まで発展してしまったらあっという間に世界は破滅してしまうだろう。俺はそれを止めたい」


「どうやって」


「戦いの手段は魔法一択だと刷り込みをさせる。そのために俺は定期的に部下に人間を襲わせている。当然魔法を使わせて。魔法で攻撃をしたら当然相手も魔法での対処を考える。そうやって科学から少しずつ目を逸らさせ続けてきた」


 本当に効果はあるのかという疑問は残るが確かにこちらの世界はあちらと比べて科学が発展していない。そしてこいつはこいつなりの正義のもと行動しているらしい。


「お前たちを仲間に誘った本題を言おう。俺はこの世界のパワーバランスを変え得る力を危険視している。この世界のパワーバランスを変え得る力、それは『魔法』『科学』、そして──『祝福ギフト』だ。この世界のバランスは既にギリギリ、新たな『祝福者ギフター』を野放しにする余裕はない。だから俺の目の届くところに置いておきたい。そういう話だ」


 「祝福ギフト」──女神から授かることができる魔力を保持するものは受け取ることができない魔法をも超える力。たしか魔王はこの「祝福ギフト」の力を使って千年間生き延び続けているという話だったな。だが──


「俺は『祝福ギフト』なんて力持っていない」


「だろうな。驚くことにお前から『祝福ギフト』の力を感じない」


 魔王の黒い眼差しが俺の瞳を捉えた。


「そうよ。私は同じ過ちを繰り返さない」


「おいおい、俺は過ち扱いかよ。だが賢明な判断だホロウノス」


「わかったのならとっとと失せろ。俺達を仲間に引き入れる理由はなくなったはずだ」


「そんなことはない。エイン、お前だって本当は気付いているだろ? 『祝福ギフト』を受け取る権利を持つ者、そして『祝福ギフト』を授ける権利を持つ者、その両方が揃っているんだ。いわばお前らはこの世界を歩く大きな爆弾。いくらホロウノスが神としての力を大きく失っているとはいえそんな不確定要素を放っておくわけにはいかない」


 だから仲間になれと? 世界のためとはいえ人類と敵対しているこいつと? 俺の故郷を滅ぼした魔族の親玉であるこいつと?


「もう一度言う。仲間になれエイン、ホロウノス」


 ホロスと目が合った。どうやら答えは同じらしい。


「「断る」」


「残念だ。殺さないといけなくなった」



    第33話 激突


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