56話 お出かけ
祭りが終わった朝。
騒ぎ過ぎたのか、至る所に疲れた様子の人達が見える。
そして、その中には俺の仲間達も入る。
フィア、ルイン、クロナ、セキトの四人は、飲み過ぎて二日酔いである。
俺は鎧なので元気だ。酔いたくても酔えない。
なので、顔色の悪い四人は俺が介抱してやる事になった。
世話をすることに大きな不満は無い。だが、少し気になる事はある。
実は今日、ベニバナがスザクと出掛ける予定になっているのだ。
ベニバナは全く意識していないと思うが、スザクは多分緊張で大変な事になると思う。
どうなってしまうのか気になるが、京子が隠れて付いて行くらしいので後で聞こう。
◆◇◆◇◆◇
「それでは行きましょうか」
「はい。しっかりとお守りします」
目立ち過ぎぬよう、いつもより装飾等が抑えられた格好のベニバナとスザクが城を出た。
「あれじゃいつもと変わらないじゃない!!」
「まあまあ。落ち着いたほうがいいですぞ」
離れた屋根の上、二人を見守る姿が五つ。
京子とシリュウ、そして黒装束の三人だ。
スザクが側にいると言っても王。
ベニバナを守るため、何時でも動けるように隠れて付いているのだ。
ただし、京子は興味本位で付いて来た。
「スザクの奴は分かってんのかしら?ここがチャンスなのよ!!手くらい握りなさいよ!!」
「それは焦り過ぎでは?はやりまずは距離を縮め、肩を触れ合わすくらいが妥当かと」
「甘い!!ベニバナは鈍感なのよ。それくらいだったら、近いな~、とぐらいしか思わないわ」
屋根の上で恋愛談義を始める少女と老人。かなり異様な光景である。
ベニバナ達が移動を始めたので、京子達も屋根の上を移動する。
シリュウと黒装束は、身を隠す能力を持っている。それにより、まず一般人に見つかる危険性はかなり低い。
京子も能力で隠してもらい、抱えてもらって移動するので特に問題はない。
しばらくして、ベニバナ達が団子屋に入った。
距離で言えば声など到底聞こえ無いのだが、黒装束が読唇術で会話を再現する。
「この団子は美味しいですね」
そう言ってはにかんだベニバナを見たスザクは、顔を真っ赤にしていた。
「気に入ってもらえて良かったです。京子に教えてもらった甲斐がありました」
「なるほど。京子ですか。京子は城下町をよく歩いていますものね」
「今日は折角ですから、他のオススメも回ってみませんか?」
「いいのですか?スザクは買って欲しい物があったのでは?」
「私の事は後回しで十分です」
「では、折角の外出ですからお願いします」
京子がガッツポーズを決めた。
「よし!!取り敢えず延長は成功ね。色々教えた甲斐があったわ」
「しかし、ここからが心配ですな。ここまでは京子殿のアイデア。スザクがどう動くやら……」
「そこよね。あのヘタレが何処まで行けるか……帰るまでに手くらい握ってほしいわ」
「……思うのですが、ベニバナ様はそこまで鈍感ですかな?」
シリュウの問に京子は溜め息を吐いた。
「そりゃもう……ビックリするくらいよ。告白されても気付かないレベルじゃないかしら」
「それはさすがに無いでしょう。ベニバナ様も年頃の少女ですぞ?」
「それじゃあ聞くけど、ベニバナが恋愛で悩む姿を想像出来る?」
「…………………………無理ですな」
「でしょうね」
二人して溜め息を吐く。
ベニバナと普段から接している二人は知っているのだ。
彼女はプライベートではかなり抜けている事を。
仕事は上手くこなす。だが、自身の事にあまり目が行っていないのだ。
以前、倒れるまで体調の悪さに気付かずに仕事に打ち込んでいた事さえあった。
恋愛という自身が関わる事では、悩む姿が思いつかない。
「ベニバナはもっと自分を見たほうが良いのよ。危なっかしいもの。スザクには頑張ってもらわないと」
「確かに、スザクには頑張って欲しいですな。国の為にも」
そう呟いた京子とシリュウは、茶屋で微笑む二人を見つめていた。
その後、ベニバナ達は京子オススメの場所へと立ち寄っていった。
楽しんでいるのが見ていて分かる。
だが、京子は苛立ちを隠しきれずにいた。
「どこまで行っても主従ね。恋人どころか友達にすら見えない」
「それは仕方が無いかと。何年も続いてきたことは、簡単に変わりませんからな」
スザクは常にベニバナの三歩後ろを付いて行く。
それはもう当たり前過ぎるのだろう。
きっと、横を歩く事など考えもしていない。
とうとう日が暮れてきた。
次の店辺りが恐らく最後だろう。
「そろそろ帰らねばなりませんね。十分楽しませてもらいました。最後に、約束通りスザクの好きなものを買いましょう」
「ありがとうございます。では、あの店に入ってもよろしいですか?」
スザクが指差したのは、装飾品等が売られている店だ。
二人で店に入り、スザクが選んだのは、鉄で出来た丈夫な腕輪だった。
「もっと高価な物でもいいのですよ?あの大きな宝石が付いている物でも」
ベニバナが如何にも高そうな物を示したが、スザクは首を振った。
「あれでは常に付ける事は出来ません。折角頂くのですから、常に着けていたいのです。なにせ私はベニバナ様を……」
顔が赤く、口を中途半端に開閉している。
言葉が喉に詰まって出ない。そんな感じだ。
「まさか!?突然ヘタレが動いた!!」
「なんと!!ヘタレ卒業ですかな!!」
沸き立つ五人。これは来るのか、と期待の眼差しを二人に向ける。
「そ、尊敬しておりますので」
スザクはヘタレだった。
「やっぱりヘタレね」
「ですな」
二人が一緒になる時はまだまだ先だろうと、五人は思った。
◆◇◆◇◆◇
「まあ、結局ヘタレだったわ」
「やっぱりそうかなのか」
事情を聞き、何だか納得してしまった。
そりゃそうだよね。
人は簡単に変われない。ゆっくりでも頑張れ、スザク。
「所で五人はこれからどうするの?」
「あと少しだけ残って、そこから職人を連れて戻る」
フィアとルインがヘルベルクの図書館で魔法について調べているが、それがもう少し掛かりそうなのだ。
それが終われば、家造りの職人を連れて帰る。
「そう。だったらそれまで裁縫を教えてくれない?自分でもぬいぐるみを作りたくって」
「良いぞ。大概は教えられるはずだ」
その後、俺達は初日から合わせて一週間滞在してから村に帰った。
久しぶりの村である。皆と会えるのは楽しみだ。
因みに、京子はなんとか見られるようなぬいぐるみを作れるようになった。
◆◇◆◇◆◇
神聖さを感じさせる光が降り注ぐ、大きな祭壇のある部屋。そこには二人の男がいた。
祭壇の上、様々な装飾を付けられた椅子にやせ細った男が。祭壇までの道にローブの男がいた。
「カルカラ様」
ローブの男が名前を呼んだ。
「う~ん。どうしたね?」
カルカラと呼ばれた男は、目だけをグルリと回してそちらを見た。
「フィローナ王国の件。準備が出来上がりました」
「そうかい。それは吉報だね~。黒鎧はどうだい?」
「そちらには勇者を用意しました。実行は可能かと」
カルカラは報告を聞くと、口角を釣り上げた。
「へ~。勇者。どうやったんだい?」
「例の異世界の者が丸め込んだようです」
「あ~。あれね。思ったより使えるね~」
ボロボロになった爪を噛み、カルカラは嬉しそうに笑った。
「どちらから消化しますか?」
「そうだね~」
悩むように人指をグルグルと回し、やがて閃いたように手を叩いた。
「両方一緒にやろう。ぜ~んぶ纏めてね」
「両方ですか?兵力に問題が起きるかと思いますが」
「そうなのかい?それじゃあね~」
カルカラが片手を上げる。
ただそれだけで、二人だけだったはずの祭壇に一瞬で七人増えた。
「ハバベルとヒャマルを貸してあげる。これで足りるかい?」
「ありがとうございます。十分かと思います」
仰々しく頭をさげ、ハバベルとヒャマルと呼ばれた者をつれてローブの男は祭壇を後にした。
「ふはは。楽しみだな~。今回はどれだけの信者が増えるだろう」
喜び、笑うカルカラ。
血が流れようがお構いなしに爪を食いちぎり、肘から血が落ちて行く。
「今回は天使も貸したしな……盛大にやっておくれよ~……うはは」
天使。カルカラはそう言った。
ハバベルとヒャマル。二人の背中には翼がある。
鮮血を連想させるような、真っ赤な翼。
そして、彼の周りにいる五人にもそれはあった。
カルカラは自分の肘から指までの血を、なぞるように舐め取り、指をしゃぶった。
そして血を掃除した彼は、大きく深呼吸して両手で顔を隠した。
「僕は神だ。いつまでも偽物じゃない。本物の神にだってなれるはずなんだ。もっと信者を増やせば……絶対」
言い聞かせるように、ゆっくりと、彼はそう呟いた。
手を開き、首を巡らせて真っ赤な天使達を眺める。
「君たちもそう思うだろう?僕は本物になれると、偽物で終わらないと、そう、思うだろう?」
「「「勿論です。我らが神よ」」」
天使たちは声を揃え、即答した。
カルカラはそれに満足したように頷き、笑顔を作り出した。
「さ~て。派手にやってくれよ。僕の可愛い信者達。僕が本物の神になる為に……ね」
大きな部屋の中、カルカラの声はよく響いた。
これにて鬼ノ国編は終了となります。
長かった……何度挫けかけたか……。
またしばらく連載をお休みさせて頂きます。
今回は前のお休みより少し長くなるかもしれません。
感想等頂けましたら嬉しく思います。
最後に、ここまで読んでくれた皆様。本当にありがとうございます。




