53話 武闘大会本選 中
ルインvsゲンブ
これは見るまでも無く結果が予想出来た。
なにせ、既にルインはこの相手に更にもう一人加えた状態でも勝っているのだから。
予想は見事に的中。ルインは余裕の笑顔で勝ち上がった。
そして次の試合からは一回戦を勝ち上がった物同士の戦いとなる。
準決勝第一試合……スザクvs俺
準決勝第二試合……ルインvsセイリュウ
ついにスザクとの戦いが来たわけだ。
手を抜くつもりは無い。
失礼だと言う事もあるが、先程のスザクの試合を見たところ、前の模擬戦の時よりもかなり強くなっているように見えた、という事もある。恋の力恐るべしである。
そんな風に気合を入れて舞台に上がった俺は、スザクを見て引いてしまった。
何故かって?そりゃあ……
「膝膝膝膝膝膝膝膝膝膝」
同じ舞台にいる俺にギリギリ届くような声量で、ひたすら膝と唱えていた。
よく噛まないな。
というか初めから膝しか狙ってねぇ。勝利より膝なのか。どうせならその先にある勝利を狙おうよ。
「おい、スザク?」
「膝?」
返しが膝になった!?あれか!?十回ピザって言ってから肘の名称を聞くと膝になってしまうみたいなあれか!?
くっ……必死過ぎて怖いわ。
もういっその事これを録音してベニバナに渡せば恋が実ったりしないかな?いや、録音する機械とか無いけどさ。
う~ん。仕方無い。少し冷静になってもらう為にも仕入れたばかりの情報を話してみるか。
小さく手招きして近寄って貰う。
観客に聞かれたらスザクが恥ずかしいだろうという配慮だ。
「ひ……何だ」
「絶対今、膝って言おうとしたろ……」
膝好きだなぁ。段々膝フェチに見えてきた。いや、違うんだろうけどさ。
「あのな、デートの約束だがな」
「ああ。絶対に手に入れてみせる」
スザクの顔は決意に満ちあふれている。
「うん。そこは頑張ってくれ。所でお前さ、もう少し冷静になれよ?膝膝煩いぞ」
「確かに自分でも異常だとは思う。だがな、私にとっての勝利条件はお前の膝なんだ。膝さえつければ……膝、膝膝膝膝──」
「正気に戻れ!!」
「ハッ!!」
やべぇよコイツ。
いつの間にか気付いたらベニバナより膝の方が良いとか言いださないだろうな。
やはり仕方無い。もう言ってしまおう。
「正直に話そう。ベニバナは約束をデートと認識していない」
「な、なん……だと」
スザクの顔が驚愕に染まった。
良かった。膝に夢中でベニバナ忘れてるかと思ったよ。
「どういうことなんだ!!」
スザクが俺に問い詰めてくる。
まあ、京子からはデートと聞かされていたからその反応も無理は無い。
「どうやらベニバナはただ一緒にお出かけという認識らしい。さっきそう言ってた」
「そういうことか。それでも私としては結構満足だ」
満足なんだ。
そういや、ベニバナが京子以外の城の奴は堅っ苦しいみたいな事言ってたから、スザクもその一人なのか。
それが一緒にお出かけ出来る所まで進展するから満足なのだろうか。
約束の価値がデートより下がったからか、見た感じはリラックスしたようにも見えるし、まあ良いか。
「落ち着いたか?」
「ああ。膝から顔に視線を移せる程度にはな」
やっと顔を見てくれたよ。膝に穴が開くかと思った。
「よし。じゃあ試合を始めよう」
「ああ。私は必ず膝を付かせて見せよう」
そこは勝利してみようって言って欲しかった。
格好良い台詞が台無しな気がする。
俺達は距離を取り、京子に合図をした。
「両者準備が出来たようです!!そろそろ試合を開始したいと思います!!」
観客から沸き起こる声は、黄色い声がよく目立つ。
恐らくスザクに惹かれた女性達からのものだろう。
でもね。遠くから見たら格好良くても、小さくまだ膝膝言ってるんだよ?だから俺への罵倒をやめてくれないかな?
スザクを思っての俺への罵倒は結構心に来た。
「それでは、準決勝第一試合開始!!」
京子が試合の開始を告げると、俺とスザクは駆け出した。
スザクと近距離線になる前に今までのように[畏怖]を使うが、効果はほぼ見られない。恐らく、スザクの中で恐怖を恋を余裕で上回ってるからだ。
見方を変えれば病んでるレベルだと思えてきた。
こいつが近衛隊長で大丈夫か?まあ公私は分けられる奴だから平気か。
俺は無駄な事になってしまった[畏怖]を解いた。
「膝ぁあああっ!!」
スザクは木製の太刀で俺の膝を横薙ぎに狙ってきた。
冷静になれと言ったのに全く冷静では無い。狙いが分かりやす過ぎる。
俺は飛び跳ね、太刀は足の下を通り過ぎた。
そして、走っていた時の前に進む力は健在なので、空中でスザクと接敵する事になった。
スザクは太刀を振りきってしまって武器は使えず、回避も出来無い。だが、コイツには[炎鳥]がある。炎の翼によるガードをしてくるだろう。
だから俺はホノサウルスとの一体化で熱への耐性を上げ、更に[邪気]で黒い炎を発生させた。
案の定スザクの体は、背中から出てきた翼が覆い隠して守りに入った。
しかし、俺は無視して黒い炎で殴り飛ばした。
「なっ!?」
スザクから驚愕の声が上がった。
それもそのはずだろう。俺が殴った一部だけとは言え、自分の翼が黒く染まったのだから。
これは[邪気]によって付与された俺の呪いの炎である。
ウル達、仙狐人族の[呪炎]のように指定した者を燃やし続け、その炎は簡単には消えないのだ。
黒い炎はジワジワとスザクの翼を侵食し始めた。
スザクが作り出した炎の翼はスザクを傷つけないのだろう。だが、俺の黒い炎はスザク本体に燃え移る。黒い部分に触れれば燃やせる。
翼が炎のために耐性が高いからか、侵食が遅い。だが、付け根の部分まで黒い炎が辿り付けば、スザクは燃えてしまうので俺の勝ちである。
更に、翼を仕舞う事も出来るだろうが恐らく仕舞いきる前に俺の炎がスザクに触れる。呪いは厄介なのだ。
勿論、燃やせるだけでいざとなったら止めるつもりではある。殺す気は無いのだ。
スザクは少し渋い顔をした後、木製の太刀包むように自らの炎を付与し、翼を広げて襲い掛かってきた。
時間が限られている事を察して、多少の無理は覚悟で攻める事を選んだのだろう。
両翼と太刀を使った三点の攻撃。
足は踏ん張る為に使えないとして、一つに対して腕一本を使っても一つは受ける事になる。
翼に関しては現在耐性があるので、直撃でもダメージはそこまで深く無いと思う。精々仰け反るレベルだろう。
だが、それは隙へと繋がりかねない。だから俺は回避を中心にすることにした。
[覚醒]を使った身体能力で出来る限り回避し、躱しきれないものは腕で弾き飛ばす。出来るならついでに呪いの炎をさらに付けてやった。
だが、範囲の限られた舞台の為、追い詰められてしまった。
空を飛んでも良いのだが、そうすると熱への耐性が下がるので直撃したら結構な痛みになるだろうし、なにより折角の呪いの炎がホノサウルスの一体化を解くと消えてしまうのだ。
今までの侵食具合から察するに、残り一分もせずにスザクの翼は呪いの炎に侵食され尽くされると予想している。
なので、ここを耐え切れば俺の勝ちだ。
だが、俺は隅っこ。前方の九十度以外には舞台が無く。その前方には必死の形相のスザクがいる。
どちらもここが勝負どころなのだ。
スザクの太刀が上から、翼が左右から迫って来る。
俺は危険度が一番高い太刀を右手で、翼を左手で弾いた。
翼の侵食を更に進められたが、右の脇腹辺りに衝撃が響いた。
よろけそうになるがそこは足で踏ん張る。
だが、その体勢は隙が多い。
スザクは太刀で俺の胴体の辺りを横薙ぎにしてきた。
しゃがんで避けたいが、先ほどの衝撃ですぐにそんな事は出来る状況では無い。
俺は片手を胴体と太刀の間に滑りこませて衝撃を何とか緩めようとした。
だが、踏ん張りが効かないからか、俺は舞台から放り出されてしまった。
観客から歓喜の声が響き渡る。だが俺に負けるつもりは無い。
「まだ!!」
俺を押し出そうとした太刀が離れて行く所を自由だった手で掴んで引っ張り、スザクを此方に引き寄せると同時に、俺は舞台の方へと体を僅かに動かした。
それによって床にギリギリ指先まで届く。俺は指先を高熱化させ、舞台を溶かして指先を突き刺した。
そして[覚醒]による身体能力の強化で体を引き寄せる。
舞台の端に足がつき、そのままの勢いで舞台の内側に転がる。
ある程度進んだ所で片膝を付いて止まり、スザクを見る。
すると、もう時間が無いと言うのに勝ち誇ったような顔をしたスザクがいた。
あの顔は何を意味している?
俺は何か仕掛けられたか?
堂々とされすぎて焦りながら自分を確認するが、特に何もないように思える。
「……何かしたのか?」
教えてくれるかは分からないが、本当に分からないので訪ねてみる。
「……いた」
「何だって?」
小声でポツリとスザクは何かを言った。
だが、よく聞こえなかったのでもう一度訊いてみる。
「膝を付いた!!」
今度は大きな声で言ってくれた。
ああ。そう言えばそうだった。
俺は真剣になっている内に忘れていたが、スザクはそれが目的だったか。
どうしてだろう。聞いた話ではスザクの方が強いはずなのに、ベニバナの方が強く見えてきたな。
能力を知らなかったとは言え、ベニバナには結構痛い目を見せられた。
「……あー。うん、そっか。良かったな」
俺は適当に流した。何だか急にバカらしくなってきたのだ。
「ああ。これで私は──ぬああああああ!!」
とうとう発狂しだしたのか、と思ったら違った。
黒い炎でスザクが焼かれ初めていたのだ。
速く止めねば下手すれば死んでしまう。
俺は急いで一体化を解いた。
それと同時に黒い炎は消え去った。
「大丈夫か!?」
急いで駆け寄る。すると、スザクの背中に火傷が出来ていた。
「ふっ。私の負けだ」
スザクは爽やかな笑顔で負けを宣言した。
このあと、医療室で俺は火傷を直してやっていたのだが、スザクのテンションが高くてかなりウザかった。




