51話 武闘大会予選 下
クロナが振りかざした拳を、ランバートは一瞬にして避けた。
だが、その光景は避けたというより消えたかのように見えた。
ランバートの動きが速過ぎるのだ。
「ふん!!そんな遅い攻撃が僕に通じるものか!!僕は勇者だ!!英雄だ!!悪の手先の攻撃だなんて一発たりとも喰らうものか!!」
「煩いぞ!!何としてでも一発叩き込んでやる!!それで貴様は終わりだ!!」
へし折った木刀を場外に投げ捨てるクロナ。
ランバートはクロナの力が強すぎて引き抜けなかったのだ。
木刀を失い、素手となったランバートは拳を構える。そして姿を消し、クロナの後ろに現れた。
「喰らえ!!」
突然の攻撃にクロナは防御体勢を取ることが出来なかった。
頬に拳がぶつけられ、痛みが走る。
そして予想外の痛みに顔が歪む。ランバートの顔が。
拳を抱えて涙目のランパート。殴られたクロナは傷ひとつ無く、平然としている。
殴られた頬の部分を[収束]により強化したことで、逆にダメージを与えたのだ。
「おやおや、自分から傷つきに来るとはな。貴様は馬鹿だな」
蔑むような目で罵るクロナ。
勇者という存在は高く評価しているが、彼女にとってランバートはその評価に値しなくなってしまったのだ。
ランバートは鋭い目付きでクロナを睨みつけた。そしてすぐに距離を取る。
「くっ!!おい!!僕を手伝うんだ!!」
そう言ってランバートは連れてきた女を探す。
するとその女はセキトによって場外へと投げ出された所だった。
「悪の手先が……なら兵士!!お前等も手伝え!!勇者であり大国の王子である僕の助けになれるんだ、勿論手を貸すよな?」
そう言って周りを見るが、兵士たちはランバートに各々の武器を向けている。
兵士の一人が口を開く。
「これは勝ち残りの試合です。誰が誰と戦うのも自由でしょう?」
「この……!!もういい!!全員改心させてやる!!」
そう言ってランバートは兵士に襲いかかった。
死角に入って殴り、気絶した者の木製の棍棒を奪いとると、セキトとクロナ以外を十秒とかからずにのしていった。
「よし。後は悪の手先のお前等だけだな。覚悟しろよ」
そう言ってランバートはセキトの背後に出現し、棍棒を頭に向かって振り下ろす。だが、セキトはそれを見もせずに手を頭に回して守った。
「なっ!!」
驚きの声を出してランバートは大きく距離を取る。
「ふ、ふん!!まぐれだろう?次こそは!!」
次はクロナを狙ってまたも背後にランバートは出現した。
だが、棍棒を振り上げる間もなくクロナに殴られた。
「ぐふっ!!」
[剛力]を使用した拳は重く。ランバートは吹き飛んだ後、しばらく息もままならずに苦しんだ。
「ど、どうして……」
やっとの事で捻りだした声でクロナとセキトに疑問をぶつけるランバート。
「誰が教えてやるか」
クロナはそう吐き捨てた。
ランバートは俊足であって攻撃動作までは速く無い。なので、攻撃しようとする時は他の者とは大差が無いのだ。
そして、彼は攻撃を決めるために背後からばかり仕掛け、一撃で倒そうと頭や首を狙いたがる。
その二つが分かっていれば、消えた時に大まかに狙われそうな所を守るか、背後に当たりそうな攻撃を仕掛ければいいのだ。
「まだ……まだだ!!勇者の本気を見せてやる!!」
ランバートがそう言うと、彼の右手の中に光が現れた。
「これが勇者の力だ!!来い!!聖剣!!」
光を握りつぶすと、それが形を変えて剣の形へと変化した。
細身の刀身に華美な装飾のレイピア。
頑丈さと鋭さと美しさを併せ持ち、一目でその凄みを感じられる。
刀身からは淡い光が放たれ続けており、神聖さを感じさせる。
「これが僕の聖剣だ!!さあ、貴様を後悔させてや──」
「ランバート・コズウェル選手!!そのままだと失格になってしまいますがよろしいですか!!」
目の前の敵に集中仕切っていた三人に声がねじ込まれる。
それは京子の能力によるものだった。
「な、何故だ!!これから僕が本気を出すんだぞ!!」
ランバートが京子に抗議するが、京子は首を振って聖剣を指差した。
「ルールを覚えていませんか?」
「ルール……?」
「武器は木製以外は禁止。だからみんな木製でしょう?」
ランバートは辺りを見回す。すると、辺りには木製の武器しか無かった。
先ほど持っていた棍棒も、自分が最初持っていた木刀もそうだった。
「だ、だが、これは聖剣だぞ?魔力で出来た逸品だ。魔法がありだからこれもありだろう?」
「魔法はありですが、魔法で作り出した武器で戦うのは禁止です。ですから、炎の塊を作って飛ばす魔法みたいに、聖剣を作って投げるなら大丈夫ですよ」
「聖剣を投げる!?」
「どうしますか?」
「…………………………投げる」
長い沈黙の後、ランバートは決意した。自分の大切な聖剣を投擲することを。
「喰らえ!!」
だが、ランバートの特技は足の速さを使った戦いである。
投擲など彼の分野では無いのだ。
聖剣はクロナの頭上を飛び越え、場外へと突き刺さった。それだけでレイピアだというのに地面に亀裂が走るが、その威力は見ている観客に虚しさを感じさせた。
この後、馬鹿の一つ覚えという言葉が似合うように、ランバートは後頭部とうなじばかりを素手で狙うが通らず。クロナとセキトに気絶させられた。
【俊足の勇者】は武闘大会において、足が速いだけで素手では威力を発揮出来無かったのだ。
「さて、セキト。一騎打ちだ」
クロナの言葉にセキトは頷く。
「行くぞ!!」
掛け声と同時、二人は駆け出した。そして素早い攻防が始まった。
クロナの[収束]は強力だが、一部以外が脆くなってしまう弱点を持っている。
それを理解しているセキトは、[収束]を使う暇など与えないように次々と攻撃する位置を変え、クロナに防御に徹するように仕向ける。
だが、それは体力の激しい消耗を伴わせた。広範囲に攻撃の手を広げる事で動きが多いのだ。
やがて、体力が足りずにセキトの動きが鈍り始めた。
そこをクロナは見逃さなかった。
[収束]にて拳に力を集め、腹にそれを抉りこませようとする。
だが、セキトもただでは終わらないと足で脇腹を蹴り飛ばしにいった。
結果。どちらも激しい痛みに意識を刈り取られて気絶した。
「えー。試合の結果、本選参加者は無しとなりました」
京子が気まずそうにそう言った。
◆◇◆◇◆◇
「予選第三試合開始!!」
そう宣言されると同時、ルインに参加者が一斉に襲いかかった。
「いいっすね~。こっちも行くっすよ!!」
余裕たっぷりの笑顔でそう告げると、ルインは足元の魔法陣を幾つも割り砕いて大砲に囲まれた。
その大砲から発射される砲弾は数人を纏めて場外へと吹っ飛ばしていく。
次々と人が吹っ飛んでいく光景に、観客は大盛り上がりだ。
やがて人数が減ると、スペースが出来て避け始める者達が出てきた。
その中で余裕のある者達はルインに襲いかかる。
「お~。頑張るっすね~」
余裕たっぷりの声をだしながらルインはその者達を見ると、足元の四重の魔法陣を割り砕く。
すると、五メートルの土で出来た腕が生え、吹き飛ばした。
近づけば腕、離れれば大砲。少し時間は掛かったが、ルインは余裕で予選を突破した。
◆◇◆◇◆◇
本選出場者のみが集まる部屋で待っていると、ルインが扉を開けて入って来た。
「やっぱり勝ち残ってきたか」
「当たり前っすよ」
ルインが俺の横に腰掛ける。
予選の結果が決まり、本選出場をするのは七人となった。
四神と俺とルインそしてもう一人。
「さあ皆さん!!頑張りましょう!!」
ベニバナが本選参加者のみが集まる部屋でそう言った。
「……ベニバナ様。本当に参加するのですか?」
スザクが心配そうな顔をして尋ねる。
まあ、普通は心配する。一国の王を強い者が集まる大会に参加させるのは心配だろう。
「大丈夫ですよ。怪我をするつもりはありません。それに、私はスザクとの稽古でそれなりに優秀だったと思うのですが?」
「確かにそうですが……」
スザクに聞いた所によると、ベニバナは結構強いらしい。何でも、数回なら四神に勝ったことがあるのだとか。
小さな体の何処にその力があるのか不思議である。
「一応言っておきますが、私とあたっても手は抜かなくて結構ですからね?皆さんもお願いしますよ」
ベニバナの言葉に選手全員が頷く。
「後、スザクとの約束は守りますよ」
スザクはそう言われて顔を少し顔を赤くした。
京子が取り付けてきた、ベニバナとスザクがデート出来る条件。
それはスザクの攻撃によって、俺かルインに一度膝を付かせる事らしい。
一度くらいなら俺達がやってやらなくもないのだが、スザクが八百長を嫌がったので正々堂々と戦うことになっている。
しばらく経つと、本選の組み合わせが発表された。
第一試合……スザクvsゲンブ
第二試合……ベニバナvs俺
第三試合……ビャッコvsルイン
第四試合……セイリュウ
ふむふむ。俺の初戦はベニバナか。戦い方が想像できない。一体どんなものだろうか。
そして、上手く行けば二回戦はスザクか。スザクはかなり本気で来るだろうな。
こうして、本選の準備は整った。




