48話 武闘大会前夜
ゴーレムの残骸掃除を終えて[邪気]を使う練習をしていると、スザクを連れたフィアと京子がやって来た。
「作戦が決まったわ。早速お城に戻りましょう」
楽しそうな顔をした京子がそう言う。
作戦。まあたぶんスザクとベニバナをくっつけるとかそう言った類だろう。しかし、だ。
「本人は乗り気じゃ無いみたいだけど良いのか?」
そう。スザクの顔色は青く、目が泳ぎまくりなのである。凄く嫌そうにみえるのだが大丈夫だろうか。
「良いのよ。そこは説得済みよ」
あの顔で説得済みとは……武力行使だろうか?フィアがいれば出来そうだ。
「……因みにどうやって?」
一応訊いてみる。内容次第では止めてやろう。
「ヘタレって言い続けた後にこのままじゃ一生手も繋げないって言ったら一発よ」
「精神攻撃かよ」
ジャブで痛めつけた所に強烈なアッパーを決める。その効果は恐ろしいものとなるであろう。
まともな精神状況で決めたとは思えない……ここは一応スザクに確認を取ってみるか。
「なあ、スザク」
「……なんだ」
声のトーンが低いなぁ。俺が部屋を出てから一時間程。そんなにキツかったのか。
「あのさ、ベニバ──」
「大丈夫だ!!きっと約束を取り付けてみせる!!」
俺が名前を出そうとしたが、それを遮ってスザクは大きな声で返事をしてきた。
必死だな。無理しなくても良いのに。
「いや、焦らなくてもいいんだぞ?」
「ベニバナ様の花嫁姿を遠くで見守るだけは嫌なんだ……」
あの二人は何を吹き込んでいるんだよ。なんだか凄い可哀想な奴に見えてきた。
「おい。二人ともやり過ぎじゃ無いか?」
「何言ってるの。このままじゃいずれ、そうなるわよ。それに、今さっきのは私達が言ったんじゃなくって結構前から自分で考えてたみたいよ」
そうなのか。つまりは二人が起爆剤になっただけで、既にスザクはかなり追い込まれていたって事か。
「それにこの間ベニバナにお見合いの話だって来ていたんだから、急がないと取られるわ」
京子の言葉にスザクの体がビクッと一度震える。
「……本当に大丈夫か?」
「だ、大丈夫さ。何としても私はベニバナ様と……」
そう言って青い顔を赤く変えた。
ん~。上手く行けばいいが。
俺達はスザクの家を出て、城へと戻った。
二人が考えたと言う作戦は、明日の武闘大会で優勝したらデートする約束を取り付けるというもの。
正直作戦といえるかさえ怪しい気さえするが……そこはまあいいだろう。
第一歩としては良い方向だと思うし。
という訳で今、ベニバナとスザクはお話中である。
そして俺ははその様子を訊いている。屋根裏から耳を当てて。
「……どうして屋根裏何だよ」
「だって爺やがここなら良く見えるって言うんだもん」
「京子殿。私の名前は爺やではありませんぞ……」
爺やと呼ばれるご老人。名前をシリュウと言うらしいが、爺やが定着しすぎてあまり読んでもらえないらしい。
京子はシリュウに何とかして現場を見たいと頼み込み、この屋根裏を案内されたのだ。
「しかし、爺やさんはいいのか?王様に近づく男を放置だなんて」
「ジン様まで爺やと……まあ、スザクに関して言えば文武両道で権力に溺れるような人間では無いですし、血統も良質。文句の無い逸材で、ベニバナ様に政略結婚の予定もありません。ですから、私としては二人の関係がそう言ったものになる事は賛成ですな」
「そうか。他の連中は大丈夫なのか?」
権力を狙って毒を盛り合う。そう言った話はよく聞く。
「恐らく大丈夫かと。ベニバナ様とスザクが結ばれる事を望む者は案外多いのですよ」
二人が結ばれても問題はほぼ無しか、後は本人達の気持ち次第かな?
「あ、武闘大会の話になったわよ。そろそろじゃ無いかしら」
フィアがそう言うと、屋根裏にいる者、俺、京子、爺やは黙った。
「明日は頑張って下さいね。今回はジン様やルイン様の名前でお客さんがたくさんいます。これで収入が上がる事は間違い無いですが、我が国の戦力を伝える事も忘れては行けませんからね」
さりげなく取り付けた約束だったのだが……俺は見事に客寄せに使われていたのか。やり方が上手いな。
「はい。勿論頑張らせて頂きます」
スザクの声は明るい。
実はここに来るまでの間。皆で元気付けてやったのだ。
約束を取り付けるときに暗くなっていると上手く失敗しそうな気がしたので、皆で苦労しながらも頑張ったのだ。
「でもスザク。ジン様やルイン様相手には無理しないでね。あの御二人はとてもお強いから……」
俺達は集団戦で、一度この国の強い者達に勝っている。明日の武闘大会でも俺達が勝つ可能性が高いだろう。
もしそうなれば、人を呼べても自分の国の者が優勝出来ないのは不味いのでは無いだろうか?
「ええ。分かっています。恐らく他国の使者や上層部の者が今回の武闘大会に一気に押しかけてきたのはその二人の強さを確認するためでしょうしね」
……負ける事を覚悟しつつもやるのか?それだとデート出来ないと思うんだが。
「ですが、それで他国に我等が舐められぬよう。むしろ、ここで更なる力を示せるよう。努力してください」
「はい。あの二人の圧倒的な力の印象に傷を残してみせますとも」
もしかして俺達は色んな国にとんでも無い奴等と思われているのか?
よく考えれば、伝説になっているフィアやルイン。弱っていても三十人の討伐隊が組まれるような竜夫婦。
普段接しているから忘れがちだが、なんだかんだで有名な四人だ。その四人が組んでいるのだからそう思われてしまっても不思議は無いのか。
それで、そこに組み込まれている俺も只者では無い……と。
俺、とばっちりじゃないか?
ただでさえ見た目で距離取られがちなのに……。
まあ、その警戒心がフィア達に手を出させ無い事に一役勝っていると思えばプラスか。
危ない奴が四人だけではなく、さらに多くの部下を連れた見た目が危ない奴までいる。更に手が出せ無い。みたいな感じで。
ここで俺の見た目もたまには役に立つな。
で、スザクはそんな危険な俺達に苦戦を強いらせ、こいつも中々やるなと思わせる事が目的か。
しかし、作戦では優勝したらデートのはずではなかっただろうか?どうするのだろう。
「お願いします。ですが、先程も言ったように無理はしないで下さい。大きな怪我をしてしまっては大変ですからね」
「勿論です。私はまだまだ。この国を、ベニバナ様を守って見せます。ですから……一つ。願いを聞いて頂けませんか」
おお。行くのか。頑張れスザク。
「お願いですか?」
「はい。その……ですね」
やはり恥ずかしいのか、スザクは言い淀んでいる。
そんなスザクにベニバナが不思議そうに問いかける。
「何ですか?」
「あっ。はい。その……もし、明日の武闘大会。その……」
少し悩むように小さく呻いた後、スザクは意を決したように声を出した。
「明日。もし準優勝したら一緒に稽古して下さい!!」
僅かな沈黙。後、天井裏で溜め息が聞こえた。
「稽古……ですか?毎週貴方とやっていますが……」
ベニバナが困ったような声を出す。
それに慌てたようにスザクが付け足す。
「違うのです!!その……ですね。いつもは私とベニバナ様で軽く打ち合うだけです。ですが、次の稽古では私達がチームを組んで他の者と打ち合うのです。連携は大切なので、是非やっておきたいと」
「それならば準優勝せずとも良いですよ。確かに今まで私は連携など考えず、一人での動きに慣れすぎていましたからね。早速来週から始めましょうか」
「……そう、ですね」
スザクは乾いた笑い声をだした。
◆◇◆◇◆◇
現在、俺達の泊まっている部屋で正座状態のスザクに京子から問答が開始された。
「今日からあだ名はヘタレで良い?」
「……」
「無言なので決定します。どうもヘタレ君」
「……」
「とりあえず口を開いてくれる?ヘタレ君」
「……すまん」
スザクは安心しつつも後悔しているようなそんな微妙な表情をしていた。
「私言ったわよね?ベニバナは心が広いって。少し位なら問題無いのよ。むしろベニバナは鈍感の部類だから気付かないかもしれない。なのに一緒に稽古がしたい?何を言ってるの?ねえ?」
「……すまん」
京子が怖い。普通に話をしているとよく笑う明るい子だ。だけど今回怖い。
「あのさ、今謝って欲しい訳じゃ無いの。理由を訊いているんだけど?」
京子が怖い笑顔をスザクに向けると、少しづつ話し始めた。
纏めてみると、優勝はまず出来ないだろうと自分の経験上悟っていたが、なんとか約束はしたい。だから、準優勝で約束する代わりにお願いのランクを下げたらしい。
「そこは無理矢理にでも優勝狙いなさいよ!!」
「私もそのつもりだったが、無理をするなとベニバナ様に言われたら引くしか無いだろうと思って……な」
そういや言われていたな~。無理はするなと。
屋根裏で考えていて気付いたが、俺達もそうそう負けられない。
俺とルインは強さを見せつけておかないと、また討伐隊だのを組織されたら面倒なのであまり手加減は出来ない。
勿論、対策等を練られない為にある程度力は隠すつもりだが、此方にも理由があるので出来ればスザクに負けたく無い。
「もういい!!じれったい!!私がベニバナに言いに行く!!」
京子はそう言って部屋を飛び出して行った。
約十分後。京子がベニバナとスザクのデートを取り付けてきた。
俺やルインを巻き込んだ条件付きだったが……。




