47話 ゴーレムでお試し
飛んできたおっさんとその仲間たちは、俺を追ってきたスザクによって捕まり、衛兵に引き渡された。
その時、ちょっとした騒ぎになっていたのだが、スザクを見つけた周りの人達が更に騒ぎ出した。
どうやらスザクはこの国で有名な四神の称号持ちである事でかなり有名だったようだ。
結果、問題を起こすのは困ると店の者に追い出されてしまった。
そして現在。俺たちはスザクの家に上がり込んだ。
何故スザクの家か。
それは主に京子が恋話に喰らいつき、スザクが話を聞いて貰おうと家に上げたのだ。
「で?そこからどうなったの?」
フィアが楽しそうに尋ねる。
「やっぱこう、抱きしめたりとかしたの?」
京子が一人で抱きしめる仕草をする。
「いや、さすがにそれは……いつも通りの敬礼をした」
恥ずかしそうに頬を掻くスザク。それを見てフィアと京子は溜め息を吐いた。そして今日何度目になるか分からない、同じ言葉を重ねて言う。
「「ヘタレ」」
その言葉はスザクの肩を目に見えて落とした。
「貴方がいなかったらベニバナは死んでたんでしょう?抱きしめたっていいじゃない!!」
「そうよ。ベニバナは心が広いからちょっと位なら大丈夫よ!!」
「いや、しかしだな……私の役目は近衛隊長であり、守るのは当然の義務で……」
スザクが二人に講義する。
まあ、普通に考えてそうだよな。一国の王様を好きだからとか言って露骨にアピールしてたら色々とダメだろう。
だけど二人はガンガン押して行くな。この世界では恋愛結婚を強く押しているのだろうか?
いや、さすがに王族ともなれば政略結婚とか多そうだけどな。
どこぞの国と和平の為に~とか。
あ、でもここは鬼の国だから正しい鬼の血統でなければならないとかあるのかもしれない。
そう考えればスザクは四神とか言われる程なのだから申し分無いのだろう。
ふむ。そうだとすればスザクにはチャンスがあるのか。
まあ憶測だけどね。
初めはスザクにいてくれと頼まれて俺は話しを聞いていたが、俺が入る必要は無さそうなので部屋を出た。向かう先はこの家にある訓練場である。
スザクの家はかなり大きく、中に訓練場や道場などがある。門下生も受け入れており、廊下で何度かすれ違った。
「ほらほら!!遅いっすよ!!」
「くっ!!まだまだ!!いくぞセキト!!」
目的の場所に辿り付き、大きな音が聞こえる方向に目を向ける。すると、ルインの指導でクロナ、セキトが鍛錬をしていた。
見たところ、ルインが出した全長五十センチ程の数十体のゴーレムに二人で挑んでいる所のようだ。
反応が遅れるとその度に襲いかかるゴーレムが増え、体に纏わり付いて行く。そして遂にはゴーレムで動けなくなって終了。
ゴーレムが二人から離れ、再度挑戦。
これが繰り返されている。
この三人はスザクの話に興味が無いかったようでここに来てからずっとこれだ。
食後の運動にしては激しいと思う。吐かない程度にしてもらいたい。
訓練場の端では門下生らしき者達も三人の戦いを見ている。
その目付きは……まあ、一部は真剣かな。残りは目の保養だろうか。美男美女三人だからな。男も女も頬を赤くしたりしているな。
あ、鼻の下を伸ばした一人の門下生が混ざりに行った。
抜け駆けはずるいと皆がそいつを睨んでいるけど……あー。ルインが許可しちゃったよ。
大丈夫かな……。
鼻の下を伸ばした門下生は横目でチラチラとクロナとルインを見ている。
しかし、ルインもクロナもあまり気にしていないようだ。まあ周りから見られているし、今更か。
「じゃあ行くっすよ~」
その掛け声と同時、ゴーレムが襲いかかる。
クロナとセキトがやるように、ゴーレムを殴り飛ばそうとするが……押し負けて尻もちを付いた。だがそんな事は知らないとばかりに、さらに次々とゴーレムが襲いかかる。
十秒も保たなかったな。まあ、[剛力]を持つクロナやセキトであれだからな。
ルインのゴーレムは並みの力で真っ向から掛かったら、五十センチ程のサイズでも結構重い為に中々弾けないのだ。
やがて積まれたゴーレムで小さな山が出来上がった。押しつぶされてはいないと思うが……大丈夫だろうか?
十数分後、クロナ達も捕まって仕切り直しとなり、全員解放された。先ほどの門下生は、鼻を伸ばしたまま気絶していた。怪我とかは無いのでたぶん驚いただけだろう。
「根性が足りないっすね!!さあさあ。他に誰かいないっすか?」
ルインが見渡すが、門下生達は首を振った。
まあそうだよな。気絶した奴を見た後だと中々勇気が出ないよな。
「あ、来てたっすか。さあさあ。入るっすよ」
ルインが俺を見つけて誘って来た。
ふむ、色々試したい事があったからいれてもらおう。
「分かった。俺もゴーレム相手で良いんだよな?」
「いいっすよ。でもジンさんなら大きめの方がいいっすよね?」
「それは別にどっちでもいいや。試してみたい能力があるだけだから」
「分かったっす」
ルインはそう言うと、小さなゴレーム同士をぶつけあって、サイズを倍にした。このサイズは昔ルインがいた洞窟で戦った物だ。
「とりあえず次はこれで行くっすよ。二人は難易度が上がっちゃうっすけど頑張ってくださいっす」
ルインの言葉にクロナとセキトは頷いた。
それを見たルインが頷きと同時、ゴーレムが動き出した。
俺を取り囲むのは約十体程だ。
とりあえず蔓を背中から生やす。そして試したかった技、[邪気]を使用する。
門下生達が騒いでるな。俺も見てみよう。
一本俺の前に持ってくる。
目に入ったのは黒い手のような物だった。一本の太い棒状の先が五つに別れ、関節は無いようで全体的にクネクネ動く。
ふむ。蔓だと巻き上げるとかそんな使い方だったが、これなら掴めるな。巻かずに済む分距離は伸びた。
とりあえず襲いかかってきた一体を黒い手で殴ってみよう。
先端の割れている五本が拳を作る様に握り込めた。それをゴーレムの顔面に飛ばす。
すると吹き飛ばなかった。だが、顔面を貫いた。驚きである。
顔面に黒い手が埋め込まれたゴーレムは抜けだそうとジタバタと暴れる。そして手を引っこ抜こうとした時だった。
掴んだゴーレムの手が溶け始めたのだ。掌が薄くなって行き、やがて手首から上が溶けた。
そういえばあまり使ってなかったが、蔓を出す元となっている魔物。ジトカ草には溶解効果があったっけ。ここまで強い効果では無かったけれど恐らく[邪気]の効果だろう。
こんな物が六本……なかなか危険だな。取り扱いには注意しないと。
さて、次である。ゴーレムを開放し、右手を高熱化を使用する。
右手が黒い炎に包まれた。
なんだろう。中二病って感じが漂うな。
手近なゴーレムの頭を鷲掴みにしてみる。すると指が簡単に沈んだ。
泥団子を握ったような感じだな。スイスイ溶ける。
次はオオムカデを試してみよう。
[邪気]を使いながらロケットパンチを飛ばしてみる。
見た目の変化は無い。だが、自在に動く。空中で留まる事も可能だ。
今までは俺が腕を飛ばした威力を使って方向を曲げたりするレベルだったので、落ちると殆ど動かせなかった。
だが、今回は自ら大きく動いてくれる。わざわざ俺が飛ばす必要もないし、拳さえ外せばどこからでもロケットパンチが撃てる。
これは便利だ。一つしか操作できないところは変わらないみたいだが、もうむしろマジックハンドと読んでいいのではなかろうか。
ほら、こたつから出ずにちょっと向こうにあるテレビのリモコンを取れるみたいな。元の世界の家はエアコンあったけどさ。
しかし……[邪気]は魔力消費が激しいな。ガンガン削れていく。日常的に使えそうにない。
惜しいな。こたつからリモコンが叶わないとは。いや、この世界にまずこたつがあるか知らないし、別に取れないからどうなんだって話かもしれないんだけどさ。なんとなくイメージとして思ったんだよ。
お次は人狼だな。単純に[剛力]の威力が数倍に上がった。シンプルだが強いな。
人狼が持つもう一つの能力、[回復]は[邪気]は影響しないみたいだ。
さて、いつも戦闘で使うものはこれくらいだな。[回復]がダメなところを見ると、アリガタ草とかもダメだろうか?
ちょっと理解で調べてみる。
ダメだった。どうやら出来るものと出来ないものがあるようだ。ダメージを喰らわせるものは[邪気]の効果範囲に入りやすいようだ。
ついでに[邪気]が使えた能力も調べてみた。
なんと、分かっていなかった所だと、オオバトとの一体化では自身の重力操作が、ホノサウルスとの一体化では火に呪いの付与があったようだ。
魔力を大量に取られるだけはあるようだ。優秀なものばかりである。
そんな風に実験をして納得した後、俺はロケットパンチ改め、マジックハンドで襲い来るゴーレムをふっ飛ばし続けた。
拳以外はただ立っているだけでゴーレムが飛んで行く。楽である。
ただ、まだ慣れていないからなのか操作ミスが結構ある。練習すればもっと上手く出来るようになるかも。
数分後。俺の周りにはゴロゴロとゴーレムの残骸が転がっていた。
いつの間にかクロナやセキトの分も俺に回ってきていたようで、もう訓練場にはゴーレムはいなかった。
あれだな。たくさん壊したからちょっとした爽快感があるな。
トランプで作ったタワーを壊したみたいなやつ。
この後、これでは操作できないとルインに叱られ、皆が訓練する中俺一人で掃除をした。




