45話 似合う格好
「何処に行きたい?」
京子が俺達に向かってそう訪ねてきた。
現在、俺達は城下町にいる。メンバーは俺、クロナ、セキトの三人である。
フィアとルインはここへ付いて来る目的だった、閉じ込められている間に進んだ魔法技術を知るために国が持っている大きな図書館へと向かい、俺達は特にやることも無いのでぶらぶらしようとなったのだ。
だが、城下町の事はよくわからない。なので京子に付き添いに来てもらったのだ。
「本当にここの事は分からないからおすすめで頼む」
「そう。それなら……」
京子は俺たちをジッと見た後、口端を上げた。
「お洒落しましょう」
お洒落。それは身なりを飾る事である。しかしだ、俺は鎧。出来てもアクセサリー類を付けるくらいだと、そう思っていた。
「どう?出来た?」
「出来たけどさ……」
京子が店の扉を開けて入ってきた。そして楽しそうに笑った。
「うわ~。予想通り。すっごい見た目」
「分かってたんならさせんなよ」
俺連れて来られて入った店は屏風を作るお店。中では綺麗な絵の描かれた屏風がたくさん並べられている。
何故京子がこんな所に連れてきたか。答えはその綺麗な絵にあった。
屏風に描かれる竜と虎の睨み合い。それが今は俺の背に描かれているのだ。
「これはお洒落なのか?普通色んな人に良く見られるようにするもんだろ?一部を除いた大半には逆にビビられそうなんだけど」
「ビビられたって今更じゃない。その絵も似合ってるし。それとも鎧に化粧でもする?」
「もうこれでいいよ!!」
「あれ?いいの?本当に嫌なら水で落とせるわよ」
「……折角職人さんが書いてくれたしな。今日は我慢する」
職人さんが頑張ってくれたのだ。描いてもらっておきながらすぐに消すのは悪い気がする。
「そう。じゃあ二人の所に行きましょう」
「ああ」
歩く事数分。化粧や着物、装飾品を取り扱う店に付いた。
中に入るとクロナとセキトがいた。その二人を見た瞬間は一瞬誰か分からなかった。
「ちょっといいか?」
「何?」
京子が俺の問に首を傾げる。
「あれは間違えたのか?」
「ううん。私が狙った。男装の麗人と男の娘。素敵でしょ?」
「何やってんだよ……」
目の前にいるのは燕尾服のクロナと振り袖のセキトだった。
クロナはスラリと伸びた手足と高い背丈により見事に燕尾服を着こなしている。見方しだいでは美少年だ。
そしてセキトは、女にも見える顔が化粧により更に女のように見えてきて、振り袖を着ても違和感は少ない。
店の奥にいる二人に近づいていくと、此方に気付いたようでセキトが縋るように此方を潤んだ瞳で見つめながら助けを求めてきた。
「もしかして無理矢理着せられたのか?」
俺は乗せられたがセキトは無理矢理か。お互い辛いな。
「違うわよ?屋台のお肉で交渉したのよ」
「お前肉に貪欲過ぎないか?」
なんだよ。自滅だったのかよ。
「じゃあクロナは?」
「ん?私は動きやすいと聞いて着てみたんだが……正直、これは動けば簡単に破れると思うぞ?」
「そりゃあそうだろうな」
もともと動くための服では無いのだからそうなるものだろう。
「でも皮の服より楽じゃない?私はそう思ったんだけど」
「ああ。なるほどな」
俺達の村の標準服装はホノサウルスの皮の服だ。適度に柔らかく、中々破けない。戦闘には便利な服だ。
だが、普段から着る事を考えるともっとゆったりしていた方がいいのだ。
そう考えると燕尾服のほうが楽かもしれない。
「けどどうして燕尾服なんだよ?もっと楽な服があると思うけど」
この国は基本和服だが、洋服もたまにいる。なので燕尾服がある事は納得できるが、もっと楽な服があると思うのだ。
「そこは似合いそうだったからよ」
「……似合えば何でも良いってもんでもないぞ?」
俺の背後の絵とか。セキトの女装とか。似合えば良いわけでは無いと思うんだ。
結局クロナとセキトはそれぞれの性別にあった和服を着て、セキトが化粧を落とし、クロナが化粧をした。
京子も先ほどまでは地味な色をした中世の洋服みたいなものを着ていたが、化粧をして振り袖を着た。
こうして女性陣はますます美人になり、セキトは男らしくなった所で城下町の観光名所を巡る事になった。
三百年掛けて育て上げたと言われる松。
ヘルベルクの王の彫像が初代から全て並べられた広場。
長い階段の先にある見晴らしの良い展望台。
毎日ほぼ満席状態の人形劇。
城下町一と言われる団子屋。
他にも色々と巡った。
夕方になった頃、俺達は京子おすすめの酒場に入った。
「お前二十歳じゃ無いのに良いのか?」
酒場という事は酒を飲むのだろうか?俺は鎧になってしまったので飲めないが、京子は飲める。だが、年齢的にこの世界では公の場で飲んでも問題無いのだろうか?
「お酒は飲まないわ。まあ、この世界だと飲酒制限は無いみたいだけど」
「酒目的でないなら俺達もあまり飲まないから他でも良いぞ」
「ううん。ここでいいの。料理が美味しいのよ。夜になると酒場として機能するけど、ここは昼間は食堂になっていて私は普段その時に使うの。昼と夜じゃメニューは多少変わるけど味は私が保証するわ」
ふむ。同郷の者が美味いというからには期待できそうだ。
「それじゃ座りましょ」
そう言って席を探していると、誰かが手を振って来た。
よく見てみると、フィアとルインだった。
疑問に思い、俺達は近づいていった。
「どうしてここにいるんだ?」
「どうせなら一緒に食べたいと思ってね。今日の予定でここに来ることは知ってたから待っていたのよ。それより私達の格好はどう?」
そう言ってフィアは手を広げて見せてくる。
今、二人は振り袖を着ている。どちらも着こなしていると言っていいだろう。
「二人共似合ってて可愛いぞ。ルインは外をメイド服以外で歩くのは珍しいな」
フィアは屋敷にある洋服を着回しているので色々な服装を見るが、ルインは寝巻き以外は基本メイド服のようなので珍しく感じる。
「そうっすね。着慣れないんで恥ずかしいっす」
そう言って少し頬を赤くして俯いた。
ルインがしおらしい。違和感があるな。
「とりあえず話は座ってしましょうよ。注文も決めなきゃ」
「ああ。そうだな」
座ってメニューを見る。
刺し身、寿司、天ぷら。そのような和食を基本とし、たまに洋食も並べられていた。しかし、このメニューには異世界人の俺には困る物があった。
「あのさ、俺この世界独特の食材とか分からないんだけど」
そうなのだ。サシリの味噌汁。メデダの釜飯。ホバホバの唐揚げ。食材名が入るとよくわからないのだ。これでは、エビのてんぷらを頼んだつもりがイカの天ぷらでした、とかありそう。
「あー。確かに困るわよね。知ってる範囲で私が答えるわ。何が食べたいか言ってみて」
「分かった」
こうして俺は京子のお蔭で無事に注文を済ませる事に成功した。
そしてみんなでワイワイ騒ぎながら食べていると、店の人から声をかけられた。なんでも外で俺を待っている人がいるとか。
なので、店の外に出るとそこには闘技場で戦ったスザクの姿があった。
「えっと……何?」
「楽しく騒いでいる所を悪い。だが、どうしても聞きたい事があるんだ。ここでは聞きづらいのであちらで良いか?」
スザクは店から少し離れた路地を指差した。
罠とか考えたが、スザクの目があまりにも真剣なので俺は渋々頷いて移動した。
キョロキョロと辺りを確認し、スザクは人がいない事を確認した後、俺に何かを言おうとする。だが、口を開いては閉じを繰り返して中々言わない。
「何も無いなら帰るけど……」
「ち、違うんだ……その、だな……」
スザクは俯いて顔を手で覆いながら大きく息を吐き、決意を決めたように顔を上げて訪ねてきた。
「あのぬいぐるみを俺にも作ってくれないか」
「……ん?ぬいぐるみ?」
思い当たるのは昨日作った物くらいだ。しかし、何故こいつが?
短い時間だが、戦いばかりで固そうな人に見え、そういった物が好きな様に見えなかったのだが。
「男らしく見せながらも、実はそう言った趣味が?」
「違う!!」
ふむ。大声で否定されてしまった。やはり、俺は武人!!遊びに興味は無い!!みたいな人なのだろうか。よくわからん。
「じゃあどうして?」
「うっ……話せば作ると約束してくれるか」
ぬいぐるみを一つ作るくらい簡単だし、理由はちょっと気になる。まあ飲んでやってもいいだろう。
「材料を出すなら良いぞ」
「勿論そこは俺が出そう」
「そうか。それじゃあ理由を教えてくれ」
「……分かった」
辺りを見回し、人がいないことをもう一度確認したスザクが口を開く。
「王はお前の作った人形を気に入っている。俺にもあれば話の種に出来る。つまりは王との話のきっかけが欲しいのだ」
「……それだけか?お前は近衛隊長だから話くらい出来るんじゃないのか?」
側で控えていれば、あの明るいベニバナなら気安く接しそうなものだが。
「確かに話しかけてくださる……だが、どうしても返しが固くなってしまうのだ。親しく話すためにはもっとなにか、共通の気軽な話題が欲しいのだ」
「ん?親しくしたいのか?」
「……ああ」
「仲良く?」
「ああ」
「もしかしてあわよくばイチャイチャしたいとか?」
「ああ!!」
「え!?そこまでなの!?」
最後は冗談だったのに、大声で肯定されちゃったよ。顔とか真っ赤だしマジなのか。
なんだろう。面倒くさい事に巻き込まれた気がする。




