44話 チームジンvsヘルベルクの四神 下
「いくぞっ!!」
スザクが開始早々俺に突進するように突っ込んできた。
なんとなく人狼を思い出したので、とりあえず蔓で躓かせてみようと思う。
大上段から振りかぶられた太刀を回避しつつ蔓を背中から出して足に絡ませる。因みに[覚醒]をどちらの動作に使っているので、割りとあさっり出来た。
「ぐふっ!!」
イケメンによる地面への熱烈な口づけ、もといスザクが顔面から堅い地面に激突した。
なんだろう。これが四天王?でいいの?集中力なさすぎやしないか?
スザクが立ち上がり、先ほどの事で出来た怪我、鼻血を手で手の甲で拭う。思ったより効いたのかな?
「助かった。少し冷静さを欠いていたようだ」
今度は真っ直ぐ太刀を構え、深呼吸一つ。落ち着いた様子で目をギラリと光らせた。
ふーむ。お礼を言われてしまった。冷静さを欠く……何故?取り乱したようにみえたのはベニバナが俺に手を振った時あたりだが……いやいや、まさか。それくらいの事では無いだろう。きっとあれだ。フィアや竜のバカップル並にこいつは強いはずっ!!みたな感じで気合を入れすぎたんだ。うん。
「今度こそ真剣に行くぞ!!」
「よっしゃ、来い!!」
真正面に向き合い、俺はジリジリと間合いを詰めた。そしてスザクは俺と同じだけ下がった。なので俺はまた詰めた。するとスザクも下がった。
「……」
「……」
う~ん?どうして下がる。武器は近距離の物なので近づかなければならないはずだ。もしかして魔法による遠距離攻撃だろうか。鬼人は魔法は苦手とどこかで聞いたのだが、ただ、それだけで使えない訳では無いと思う。ここは俺から突っ込んでみるか。何、大概の攻撃は大丈夫だ。この鎧は硬いのだから。
ジリジリを間合いを詰めるようにみせかけて俺は一気に飛び出した。人狼との一体化により爆発的な威力を伴った駆け出しで、大砲でも放ったかのように飛び出した。
スザクは一瞬反応が遅れたが、その場から上に飛んだ。俺二人分程は跳んだだろう。さすが亜人の身体能力である。だがしかーし。俺の方が身体能力は上なのだよ!!
スザクがいた位置でもう一発地面を蹴り飛ばし、上空のスザクに飛びかかる。が、空中のスザクの背に何かが現れ、それが動くとスザクは横にスッと移動した。
「へっ?」
予想外な事に俺が間抜けな声を上げると、横から何か熱の塊をぶつけられたような気がした。そして俺は見事に空中で吹っ飛んだ。
壁に大の字で叩きつけられ、ストンと地に落ちる。足から落ちたのでうまく立つ事は出来た。
痛みをこらえつつ上空を見上げる。すると太陽を背に、炎できた翼の様な物を背中に生やす朱雀が空を飛んでいた。
「えーっと?」
状況がつかめずに首を捻る。すると朱雀が説明してくれた。
「これは私の称号【朱雀】による能力[炎鳥]だ。驚いただろう?」
ふむ。確かに驚いた。まさか飛べるとは。あの距離を開けていたのも、俺が我慢出来ずに一気に近づいいた時の不意打ち狙いだったのだと思う。
それと、あの羽は恐らく攻撃にも使える。俺が先ほど喰らった熱の感覚もあれだろう。
「キャー!!スザク様ー!!」
「さすが隊長だぜ!!」
「決めちまって下さい!!」
観客が賑わってらっしゃる。ちょっと寂しい。俺を応援してくれる人はいないのか。
チラッとフィア達のいる特等席を見てみる。
「ジンもスザクも頑張ってー!!」
「グダグダしないの!!ジンも飛びなさいよ!!どうせならもっと面白くして!!」
京子は口半開きで驚いた顔で固まり、ベニバナは中間的ポジション。フィアは応援だよな?
まあ何にせよ頑張ろう。良い所見せたらこっちの応援も増えるかもしれないし。
「飛べるのはお前だけじゃないぞ」
俺は背中から羽を出し、上空へと昇った。
「ほう。飛べたのか。だが、俺の翼は攻撃も兼ねている。負けんぞ?」
「言ってろよ。俺も負ける気は無い」
勝負事はどうせなら勝ちたい。
俺は[覚醒]を使ってスザクに突っ込んだ。すると、スザクは炎の翼を俺に向かって振り、火の塊を飛ばしてきた。
だが、先程俺は攻撃を喰らっても大したダメージは無かった。なのでこのまま突っ込む事にする。
金属の体が熱されるが、余裕で耐えられる。ただ、羽が焦げるのが分かる。こっちも痛みで言えば耐えられるし、何度でも作り出せるのだが、やはりいい気分はしない。
とにかく俺は攻撃を無視してスザクの元に辿り着いた。
すると、スザクはその大きな翼で俺を抱え込みながら太刀を薙いだ。恐らくは逃げ場の無い攻撃だったのだろうが、俺は炎を耐えられる。
だが、ここで距離を取るのも面倒なので腕で太刀を受けた後、もう片方の手で掴み、身体能力全開で握り潰してやった。
そして先程のお返しに腹に蹴りを入れて壁に叩きつけてやる。
「ぐはっ!!」
大の字で壁に張り付き、前のめりに地面に落ちる。体を起こすと頭を呻きながら振っていたが、ふらついている。
俺は鎧で防御力が異様に高いが、向こうは生身。やはりダメージは大きい。むしろ立ち上がれるのが異常だろう。
「ああっ!!スザク様が!!」
「あの隊長が!!」
「これが邪神と言われる者の力なのか!!」
おいコラ。邪神ってどこで仕入れた。あれか。あの黒装束か。要らない事を吹き込みやがって。ここでも変な扱いされたらどうしてくれやがる。
「邪神?なるほど禍々しいのも納得だ」
「きっと残虐極まり無いに違いない。このままでは隊長は……」
「きゃー!!邪神にスザク様がー!!」
黄色い叫びが恐怖の叫びに変わった。
ああ。おかしな噂が広がっていく……。
「空の黒騎士……伝説級と並ぶのも者か」
「いや。信者を拡大する神候補だ。それ以上かもしれん」
「スザク様を殺さないでー!!」
『称号【空の黒騎士】を獲得しました。噂って怖いよね』
……称号できちゃったよ。確かに噂は怖いな。経験はある。
昔、俺がどこぞの犯罪組織と関わりがあると噂が広がって、授業中に警察にパトカーで連れて行かれた。勿論何もしていない。無罪放免で数時間で解放されたがかなり凹んだ。あの時は三日ほど部屋に閉じこもった。
さて、暗い過去は記憶の片隅へと追いやるとして。【空の黒騎士】とはどんな能力だろうか。
[理解]を使って調べてみる。
【空の黒騎士】……[邪気]自身の使用する力を強く禍々しく変化させる事が可能。
う~ん。アバウトだな~。力って武器とかも入るのか?
とりあえずオオバトの能力に使ってみた。
「ひぃ」
そんな声が客席の至る所から聞こえた。
背中から生えるのは真っ黒で大きな翼。分厚い膜のような翼で、血管の様な物が浮かび上がっており、脈を打っていた。
とりあえず視線が辛いので自身の変化を見てみようと思う。
ちょっと前後に動いてみる。
「おっ?体が軽い」
先程より簡単に移動できる。使いやすくなったな。見た目きついけど。
ちょっと調子に乗って宙返りとかしてると、声がかけられた。
「これはチーム戦だぞ?スザクだってまだ戦える。余裕を見せすぎではないか?」
たしかビャッコという人だ。俺に二人回ってきているという事はこっちの誰かがやられたのだろう。
ビャッコは俺に五本同時に矢を放っていたようで、既に近くまで迫っていたので翼で身を覆って耐える事にした。
するとあまり痛くなかった。
「傷も付かんだと!?」
ビャッコは驚いた様な顔をした後、矢を連射して来た。
だが、効かないと分かっているので翼で身を守り続ける。やがて矢が止んだので、俺は翼を開いた。
すると、ビャッコとスザクが間近に迫ってきていた。
「儂の[虎足]なら届く!!」
「俺の翼を直接ぶつけてやる!!」
今、俺は結構高い位置を飛んでいる。そこにビャッコがいるということは、[虎足]とは恐らく脚力強化のようなものだろう。
そして、先ほどの矢の連射は二人が近づく為の時間稼ぎか。矢は近距離で撃てば威力は増しそうだし、炎の翼も塊を飛ばすより直接当てれば威力は高そうだ。
だが、軽くなった体で軽く避け、俺は二人の首元を掴んでグルグルと振り回してやった。二十秒くらいだろうか。二人が吐きそうになったので地面に降ろして解放してやった。
審判すると審判から俺たちの勝ちが宣言された。
ジンvsスザク&ビャッコ……ジンの勝利
チームジンvsヘルベルクの四神……チームジンの勝利
◆◇◆◇◆◇
試合が終わって怪我人を全員俺が手当した後、俺達は部屋へと戻った。
「結構楽しかったっす」
ニコニコとルインがそう言った。
こいつは試合で闘技場の地面をボコボコにしていたが、後で自分で直していた。
「私は負けて悔しい……」
肩を落とすクロナとセキト。
二人は途中でやられてたからな。総合的に勝ってもやはり悔しいのだろう。
そして、俺も悔しいからという訳では無いが肩を落としている。
「何故信者が増えるんだ……」
試合が終わってから部屋に帰る間。数人に拝まれた。どうしてそうなるんだ。
「まあいいじゃない。うまく行けば神の称号も手に入るかもよ?」
「神の称号?」
「そうそう。信者が増えて偉業でも成せば神になれるわよ。まあかなりの人数の信者と大きな偉業がいるけどね」
なんと。この世界だと神様が実在するのか。その称号凄そうだな。
「良い邪神になれると良いっすね」
「良い邪神って何だよ」
邪神に良いも悪いもあるのか?
「そうね~。邪神って悪いイメージ多いけど、罪悪と向き合うって考えの邪神だっていたわよ。例えば強欲を認めて商売繁盛とか。色欲を認めて伴侶を全力で愛せとか」
「なるほど」
悪い所を認めてむしろ利用してやるのか。それは良いのかもしれない。
「まあ、なるようになるわよ。信者に関しては神になれたら良いな~くらいに軽く考えておけばいいのよ」
「軽く凄い事考えるな」
「まあ、神なんてよっぽどの事でも無い限り成らないから安心しなさいよ」
「そうか。分かった」
神に成れるかもとか言われても実感が湧かない。とりあえず、今まで通り信者は軽く流そう。




