43話 チームジンvsヘルベルクの四神 中
真っ先に駆けて行ったセキトを横目で見つつ、クロナは目の前の大盾を持った男。ゲンブの動きを探っていた。
「どうしたよ?犬の嬢ちゃん。待っててやるからかかってこいよ」
ゲンブは余裕の笑みを浮かべている。力量で言えば確実にクロナが下と判断しているのだ。
その態度はクロナにとって気分の良いものでは無かった。
「良いだろう。誘いに乗って──やるっ!!」
言い切ると同時に駆け出した。ゲンブの正面に来た辺りで盾を回り込むために横に大きくステップを踏む。
だが、ゲンブは盾どころか体も動かさなかった。
クロナは不思議に思いつつも側面から突っ込んで[剛力]を使用した拳を突き出した。
「くっ!!想像より重いな。ちょっと舐めすぎてたぜ」
ゲンブは少し顔を歪めつつも、クロナの拳を片手で受け止めた。
「なっ!!」
クロナの顔が驚愕で彩られた。
[剛力]を使用した一撃は人を軽くふっとばす力がある。竜の巣で兵士達と戦った時は骨もへし折った威力だ。
だが、その一撃はゲンブの片手で少し痛い程度で止められたのだ。
鬼は人間に比べると、魔法などが少し苦手だが身体能力は遥かに高いと聞いた事があった。
しかし、それにしても片手で受け止められる事は異常だと思えた。
故に、クロナは攻撃を耐えしのぐそう言った能力だと考えた。
「呆けてんなよ!!」
クロナがほんの僅かな時間考えている内、ゲンブはその隙に蹴りを放っていた。
反応が遅れたが防御は出来る。つもりだった。
先程受けとめられた拳を引っ張られ、体勢を崩されたのだ。
丸太のように太い足がクロナの脇腹を打つ。
その瞬間クロナは攻撃が当たると予測した部分を[収束]によって力を強化した。
[剛力]だけではましになる程度だが、[収束]を使えばそのましが何倍にも膨れ上がってダメージはかなり薄くなる。
狙いが外れれば生身で攻撃を受ける事になるが、寸前まで迫っているのでまず外れる事は無い。
予想は上手く行き、クロナのダメージはほぼ無かった。
ゲンブはその事に関心したような表情を浮かべた。
握られたままの拳を引き戻すべく、クロナは[収束]を使った蹴りで相手を後ろに引かせた。
「なかなかやるじゃねぇか。犬の嬢ちゃん。真剣にやってやるよ。俺は堅いぞ?」
ゲンブは腰を落とし、盾をクロナに向けて構えた。目は宣言どおりに真剣なものに変わっていた。
「やってやるさ」
そう言ってクロナは盾に向かって走り、[収束]を使った前蹴りを使った。
盾に亀裂が走しって行き、盾が奥へと吹っ飛んだ。しかし、ゲンブはそうでは無かった。
盾を放棄し、クロナの横に回り込んだのだ。
ゲンブはしゃがんで回し蹴りによってクロナの足を払った。
不安定な姿勢だったクロナはそれに耐えられずに綺麗に後方へと転んだ。
地面に背が付いた時、ゲンブはクロナの顔面に向けて拳を振るっていた。このまま叩かれれば力の逃げ場は無く、頭が潰されるかもしれない。そうなれば[再生]も使うことは出来ない。
だが、これは模擬戦である。
ゲンブは当たる寸前で手を止めた。
審判からクロナの負けが告げられる。
「頑張ったな。犬の嬢ちゃん」
笑顔のゲンブに対して、クロナは悔しそうな顔をした。
クロナvsゲンブ……クロナの敗北
◆◇◆◇◆◇
「さあ!!お姉さんの所に飛び込んでくるっすよ!!」
ゴレーム化させた両手をブンブン振り回しながらルインはセイリュウに告げた。
「私も弱いつもりは無いんだけど、いくらなんでも【人形掌握の魔女】は荷が重すぎないかしら……」
スタイルも顔立ちも美しい、青い髪と瞳を持った美女、セイリュウはそう言って溜め息を吐いた。
「さあ!!遠慮要らないっす!!相手してあげるっすよ!!」
目をキラキラさせるルインにセイリュウはもう一度、更に深い溜息を吐いた。
「では、他の者が助けに来ることを願って、時間稼ぎをしましょうか」
そう言うとしとやかな動作でセイリュウは両手の短剣を構えた。だが、それはすぐに崩れることになる。
「じゃあ行くっすよ~」
嬉しそうにそう言ったルインが、瞬時に二重の魔法陣を手前に五セット作り出し、足を払うように全て割砕いた。
そして土で出来た大砲が五つ生まれ、一斉にセイリュウに向けて砲撃が開始された。大砲一つにつき、一秒三発程の砲撃、合計一秒十五発の砲撃の雨が。
「なっ!!ちょ、ちょっと!!」
セイリュウは慌てて身を捻りつつ、横向きに走り出す。が、全ての大砲はルインが操作している。砲身は常にセイリュウを向き続けるのだ。
「全部操作しているの!?嘘でしょ!?」
「え?足りない?しょうがないっすね~」
「言ってない!!そんな事私は言ってないわよ!!」
ルインが悪い顔をしながら大砲の数を倍に増やす。
昨日の美しい舞を踊っていたセイリュウはどこへやら、今は汗を流して必死に逃げ惑っていた。
一分もした頃、セイリュウは髪も服も乱れ、息も絶え絶えになりながら大砲を避け続けていた。
「う~ん。予想以上にすばしっこいっすね」
ルインはちょっと退屈し始めていた。
「あともうちょっとなら耐えられるっすかね?」
足元に更に三セット、二重の魔法陣を作り出す。それを見たセイリュウは若干涙目で首を横に振る。
「そうっすか。嫌だ、と」
セイリュウの顔が少し明るくなる。が、
「じゃあもっと増やしてあげるっす」
それを聞いたセイリュウは青い顔で走りだした。ルインの真逆に。
大砲の数を倍に増やし、合計二十の大砲がセイリュウを一斉に襲った。
だが、それは一人の男により防がれた。
「ゲンブ!!」
「遅れて悪かったな」
ゲンブがヒビ入りの盾で大砲を弾いたのだ。だが、盾は亀裂が深くなってきており、もうしばらくすれば砕けそうだ。
「こっちに二人っすか、となると……」
ルインは当たりを見回した。
倒れたクロナとセキト、それに二人を相手取るジンが見えた。
「まあ予想はしてたっすけどね。良いっすよ二人纏めてやってやるっす」
ルインは楽しそうな笑顔を浮かべてそう言った。
「おいセイリュウ!!木製の盾だと俺の[亀甲]でももう保たん!!お前の[竜爪]で決めちまえ!!」
「分かったわ!!それまで耐えてよ!!」
「勿論だ。やりすぎて殺すなよ?」
「ええ。加減はするつもりよ」
ルインは先程の会話を聞き取り、推測を立てる。
[亀甲]と[竜爪]。
[亀甲]は恐らく防御能力を底上げする能力だろう。でなければ亀裂の入った木製の盾で、土といえど魔法で高度の上げられた砲弾を受け続けられるはずがないのだ。
そして[竜爪]。これは言い方から察するに攻撃に特化した能力だろう。ルインが危険になる可能性を考えれば先に潰す方がいいかもしれない。
だが、ルインはそこまで考えて面白そうだと思った。なので、簡単に追い詰めて終わりにするより、このまま続ける事を選んだ。
セイリュウが短剣を十の字を斜めに傾けた様な形に構える。すると、段々と刃に青い光が纏われていく。それは段々と大きくなり、遂には二本の青い太刀の様な見た目に変わった。
「お返しよ!!」
セイリュウはそう叫ぶとゲンブの盾から飛び出し、短剣を振るった。そうすると、青い光のみが刃から飛び出した。その光は砲弾を果物でも切るかのようにして進み、ルインへと向かっていく。
それをルインはこう評した。
「まあまあっすね」
大砲の動きを止め、足元に用意していた五重の魔法陣を踏み砕く。すると、ゴーレムの上半身だけが現れた。大きさとしては三メートル程で、手首から先は一辺一メートル程の正方形だ。
そのゴーレムは手を青い光に対して二重になるように手を重ねて攻撃に備えた。
青い光が片手を切り裂き、もう一方の手も切り抜ける。そしてゴーレムの本体も切り崩した。
そしてルインへと使命を果たすべく進む。だが既に光は淡く、弱い。ルインはゴーレム化した片手を振るうだけでその攻撃を済ませた。
「全力で無いにしてもかなりの威力よ!?唯の土のゴーレムでどうして!?」
「セイリュウの[竜撃]は俺でもきついんだぞ!?」
驚愕を露わにする二人にルインは溜め息混じりに説明する。
「さっきのゴーレムはこの足場から作ってるっす。並みの土じゃ無いっすよ」
そう言って地面を指さす。闘技場の地面は戦いやすい様に固まりやすい物を使用しており、かなり念入りに固められている。その上から兵士達が訓練で何度も踏み固めた物だ。よく使われる中央にもなれば、それこそ掘る事が難しいほどの硬さになっている。
だが、ルインは先程から魔法でその土を材料に大砲等を作っていた。密度が高く、崩れにくく、重く、硬い。そんな材料が大量にあったのだ。
「素材はこんなにたくさんあるっす」
コツコツと靴で地面を叩く。
「次からは砲弾もこの土の硬度から柔らかくなんてしてあげないっすよ?」
二人は気付く。最初から今の今まで、ルインは余裕を持って楽しんでいたと。
「さて、さっきの攻撃は後何回撃てて、この重い砲弾を後どれだけ受けられるっすかね?」
ニヤリと口元を緩め、二十の砲身を二人に定める。その中には堅い土で作られた砲弾。重い一撃は生身で受ければダメージは恐ろしいものだろう。
盾は先程の時点で既に壊れる寸前。耐えられて後一発だろうが、それも先程同様に防がれるだろう。
ジンの方を確認すれば、あちらも終わったようだ。
二人は青ざめた顔を見合わせ、頷く。
「俺の負けだ」
「私の負けよ」
審判がゲンブとセイリュウの負けを宣言した。
ルインvsセイリュウ&ゲンブ……ルインの勝利
この国だけで今までの章の量くらい出来そうなので、この章のタイトルを『隣国訪問編』から『鬼ノ国編』に変更します。
違う章で他の国も行かせる予定ではあります。




