41話 上出来のぬいぐるみ
寝床に案内された俺達は、眠るにはまだ早いと話をしていた。
「懐かしいわねぬいぐるみ。私も持ってたわ」
「私も持ってたっす。なつかしいっすね~。フィアさんのと一緒に今頃は屋敷の倉庫っすかね」
うんうんと頷くフィアとルイン。
先程京子と話していた内容を話しており、二人がテディベアを直した話に食いついたのだ。
「へ~。因みにどれくらい前?」
「内緒よ」
「内緒っす」
さり気なく年齢を探ろうとしたが失敗に終わった。まあ知らなくても良いのだけれど。
「でもジンって手先器用よね?服とか作っちゃうし」
「趣味だったからな。ウエディングドレスも作れる」
「ウエディングドレスを作る鎧男。不気味ね」
「煩い」
昔、百合花がキラキラした目で見ていたので作ってみたのだ。感想はお店の物よりも可愛いという事だった。自分でも上出来だったので胸を張れる作品であった。因みにそのウエディングドレスは百合花にやろうとしたが、百合花の父親が見ているといじけ出したので我が家の押入れの奥で眠っている。
「ぬいぐるみにウエディングドレスか。私は進化の時に得た知識でしか知らないな」
クロナ達は話し方が片言だったが、進化して自然に話せるようになった。それは進化の際に情報が頭に入って来るからだそうだ。
森で育って来たクロナはどちらも見た事は無いのだろうが、その時に情報だけは頭に入って来たのだろう。
「ぬいぐるみとか欲しけりゃ作ってやるぞ?」
手芸は趣味の領域であり、ぬいぐるみとかはたくさん作っているとその内置き場所に困ることが多い。作った後に貰い手がおり、それが友達なら喜んで作ろうではないか。
「いや、良い年でぬいぐるみは恥ずかしく無いか?」
頬を掻きつつ照れくさそうにするクロナ。
「そんな事ないわよ。可愛い物に囲まれて過ごす人もいるわよ。ね?ジン」
「まあ少なくとも友達一人はいた」
その一人は百合花である。部屋中可愛らしいぬいぐるみで埋め尽くされていた。まあ三分の一が頼まれて作った俺の作品だったが。
「作って貰えばいいじゃないっすか。あっ。ついでに私のも願いするっす」
「私にも作って~」
「良いぞ。クロナもどうだ?」
訪ねてみると、クロナは少しモジモジした後に頷いた。
「そ、そうだな……わたしも頼む」
「おう」
返事をしてすぐ。俺の肩がトントンと叩かれた。振り向けばセキトがキラキラした目で自分を指差していた。
「お前も欲しいのか?」
笑顔で首を大きく縦に振るセキト。しかし──
「口に出してお願い出来たら作ってやろう」
その言葉に顔面を殴られたかのように大きく仰け反った。
「ほらほら。どうする?」
セキトは三角座りに顔を埋めた状態で耳を真っ赤にした。その状態で少し停止。その後引き絞るように美しい声がとても小さく聞こえてきた。
「……下さ、い」
「おう。任せとけ」
さて、全員から頼まれたわけだが材料が無い。明後日まではいるのだから、明日辺りに城下町で買うか──って金無いんだったな。どうするか。
少し考え、京子に至った。あの部屋には大きなテディベア以外にも幾つかぬいぐるみがあった。もしかすると材料を持っているかもしれない。分けてもらえないだろうか。
「さっき話した奴の所に行ってみる」
俺は皆にそう告げると、ふすまを開けて廊下の端に立っていた俺達の世話係を呼びつけた。誰かいないと不便だろうという事で付けてもらったのだ。
そして俺は京子の所まで案内してもらった。
「何?」
「どうしたのですか?ジン様」
部屋の中には何故かベニバナまでいた。
因みにどちらも軽くて動きやすそうな服装だった。
「ぬいぐるみを作りたいんだけど、材料くれない?」
「良いけど、お城の人に貰った方が種類あると思うわよ?ね?ベニバナ」
「そうですね。私が用意させましょう」
ベニバナがそう言うと、俺を案内した奴とは別の奴がお辞儀をして廊下の奥へと歩いて行った。
「ジン様は手芸をなさるので?」
「ああ。趣味でな」
「私より上手いのよ。あの大きな奴も直しちゃったんだから」
と言って指差したのはテディベア。
それにベニバナは関心したような声を上げた。
「凄いですね。あのおぞまし──」
「ベニバナ?」
「おっと。これは失言でしたね」
京子が不気味な笑顔を向けるが、ベニバナは何食わぬ顔で机に置かれていたお茶に口を付けた。
「仲が良いんだな」
「はい。この城では京子以外は扱いが丁寧過ぎて困るくらいです。友達と呼べる数少ない存在ですね」
ほう。友達が少ないと。なんだろう。いきなり親近感が湧いてきた。
「そうか。苦労しているんだな」
「ありがとうございます。ささ、いつまでも入り口に立っておらず、ジン様も中へ」
「私の部屋なんだけど……まあいいけどさ」
さも当然のように手招きするベニバナ。
俺は京子の呟きを聞き流しながら中に入った。
「どんなぬいぐるみを作るつもりなの?」
「見た目が内の奴等の人形」
「見本がある分難しそうね」
動物などのアバウトな指定なら多少予定と違おうがなんとかなる。だが、見本が本人だけなので誤魔化しがなかなか出来ないのだ。
「そこは俺の腕でなんとかする」
「確かに器用だったし、なんとかなるかもね」
その後、数分程話していると材料が届いた。
持って来られた綿等を手に取って見る。
「結構種類あるな。質も良い物が多い」
材料は元の世界とほぼ差は無い。種類は多く、品質も良い物ばかりで少しテンションが上がる。
「どうせならここで作ってくれない?見てみたいんだけど」
「少し散らかる事になるけど良いのか?」
「それくらいなら良いわよ」
京子の申し出を受け、この部屋で俺はぬいぐるみ作りを開始した。
まず二頭身位の全体的丸っぽい姿を基本にした物を四体作った。肌の色等は既にこの段階で似た物を選んでいる。
次に顔のパーツや皆の特徴を加えて行く。
フィアは本とか持たせてみた。本は、恐らく身近な人で一番の物知りという事で知識のイメージだ。
ルインはいつものメイド服とレースのカチューシャを付けさせる。ルインは基本的にいつもこの姿なので、もう特徴と言って問題無いと思う。
クロナとセキトは勿論犬耳と尻尾である。綿を詰めて立体感とモフモフ感も出しておいた。本物のモフモフ感にはやはり劣るが、これで一応モフモフ出来る。
一体十分ほどのかなりの高ペースで全てを作り終え、俺は現在満足感に浸っていた。
「あー!!終わった!!この達成感はやっぱり良いな」
上機嫌である。やはり、この達成感と作っている間のワクワク感は素晴らしいものだ。
「本当に凄いわね。縫う速さなんてまるでミシンね」
「このぬいぐるみ達を見るだけで一目で誰だかわかりますね。手際の良さにこのセンス。凄いですね。作って貰える皆さんが羨ましいですよ」
「照れるな~。なんなら二人の分も作ろうか?」
頭の後ろを金属音を立てて掻きながら提案する。すると二人はズイッと寄って来た。
「いいの?」
京子の問にベニバナも頷く。
「おう。材料もらってるし、気分も良い。勿論良いぞ」
「ありがとう!!」
「ありがとうございます!!」
二人は笑顔でお礼を述べてきた。この笑顔に応えるべく良い物を作らねば。
またもや先ほどと同じように元となる人形を作る。
京子は宴の時に見たアイドル衣装にマイクを持たせる。さらに表情はウインクだ。
ベニバナは特徴的な角と着物。着物には上に切り絵のようにして作った飾りを縫いつけ、少し豪華に見えるようにしてみた。
「どうだ?」
「アイドル衣装で作ってくれるだなんて、さすがね!!」
「凄いです!!可愛いです!!大事にさせて頂きます!!」
京子はぬいぐるみを両手で掲げ、ベニバナはギュッと胸に抱きしめた。
二人共嬉しそうな笑顔である。作ったかいがあったという物だ。
「喜んでもらえて俺も嬉しいよ」
「だって自分そっくりよ?しかもちっちゃくて可愛い。喜びもするわよ」
「ですよね!!この丸い所も私好きです!!」
その後盛り上がって結構な時間話し込んだ。二人と仲良くもなり、新たな友達が増えた。王様が友達とは俺も出世したな。
俺が部屋に帰った頃には、皆先に眠っていた。少し寂しさを感じる。
区切られた男のいる側、セキトしかいない静まり帰った部屋を、皆が起きないようにそっと歩こうとする。しかし、鎧が煩かったので蔓を出して体を浮かせ、這わせるようにして移動した。
セキトの寝顔を横切っていると、そこで思い付いた。サンタっぽく近くに置いて見ようと。
という訳で全員の枕元にぬいぐるみを配置した。因みにルインはさすがに眠る時まではメイド服では無かった。
俺は眠る必要が無いので皆を起こさないようあまり動かなかった。だが、段々辛くなってきたので、俺は皆が起きる時間まで城の中庭でだらだら過ごした。
やっと朝が来た。だが、皆が起きるまではもう少しかかるだろうと、しばらくたってから部屋に戻ってみる。
するとはしゃぐ四人の姿があった。
俺を見つけると、四人が近づいてくる。
「正直舐めてたわ!!ジン凄いわね!!」
「そうっすよ!!そっくりっす!!」
「ぬいぐるみを見たのは初めてだが、可愛らしいな!!」
三人が俺を褒める中、セキトは片手を腰に当てて人形を掲げていた。それは褒めていると取っておこう。
その後、セキトには大きくお辞儀され、三人にはお礼を言われた。だが、眠っている間に女のいる側に入った事をフィアとルインに少し怒られた。
まあ、ぬいぐるみのお蔭ですぐに許されたけれどね。
ぬいぐるみで友達も出来たし、手芸が得意で良かった。




