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空っぽ鎧の黒騎士様!!  作者: ken
三章 鬼ノ国編
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40話 声出し訓練

 話してみて分かったのは、どちらもこの世界には光に包まれてやって来ており、その際【異世界人】と何らかの称号を獲得しているという事だ。

 俺の場合は【覚醒を促す者】で、京子の場合は【超人気者】だ。

 どちらも強力な称号だと思う。


 俺の能力は主に目覚めさせるというもの。

 自分他人を問わずに強化出来るという便利な能力だ。

 今までこの力に頼る事は多かったので、有能さなのは分かっている。


 京子だと自分に強い関心を持たせて対象の感情を高める能力だ。

 これは多くの人を扱う程の効果は向上するものだろう。

 平和なもので言えば祭りの時に財布の紐が緩むような状況。危険なもので言えば、戦争で指揮が高まった状況。これらを意図的に作り出し、自分の声を耳に届かせる事が出来るのだ。

 前者ならこの屋台の食べ物が美味いと言えば飛ぶように売れて繁盛する。後者なら乱れた戦場であっても声をどこからでも届かせられる。大規模な行動に向いた能力だ。

 これも有能である。


 この世界に来た頃にフィアから聞いた話では、異世界からこの世界に渡って来た者は強力な称号を持っている事が多いらしいという事だった。

 俺と京子はそれに漏れなかったらしい。




 京子と話を終え、俺達は皆の元へ戻った。


「どう?同郷の話題は盛り上がった?」


 フィアが少しニヤけながら聞いてきた。

 フィアは知識欲が強い方だと思う。俺からの異世界の話も楽しそうに聞いているので、興味があるのだろう。


「まあな。懐かしかったよ」

「キラリも楽しかったよ☆」


 京子はアイドルモードに入った。


 なんだろう。素を知ると見てるこっちがちょっと恥ずかしい。


「今度聞かせてね」

「ああ。良いぞ」


 そう言って席に戻ろうとしたが、その前にクロナが質問してきた。


「ジンは本当に異世界人なのか?」


 俺が異世界人だということは今までフィアとルインしか知らなかった。だが、今回の事でクロナに俺が異世界の人間だと言う事が知れたようだ。

 まあ別に隠したかったわけでもないので問題は無い。


「そうだぞ。なんなら今度話聞かせてやろうか?」

「そうだな……頼むよ。だが、今聞いておきたい事があるのだが」

「なんだ?」


 クロナは大きく息を吸い、吐く。そして真剣な眼差しを向けながら訪ねてきた。


「元の世界には帰るのか?」

「そのつもりは無いぞ」


 即答で答えてやった。クロナは少し驚いた顔をした後、安心した用に胸を撫で下ろした。

 何時か訊かれるだろうと予想していた。なのでそのことは既に考えておいたのだ。

 元の世界に心残りが無いわけではない。心配してくれる人はいるはずなのだから。

 だが、俺はこっちの世界でも大切な友達が出来ているし、部下だってたくさん出来た。今さら放り捨てる気にもなれないのだ。


「それじゃあ続けよう」


 俺は席に戻ってそう言い、宴を再開してもらった。

 京子は出番は終わったからと営業スマイルで部屋から出て行った。

 舞台では三味線による演奏と、白と赤を基調にした巫女服に近い綺麗な衣装を着た人による舞が始まった。

 演奏に合わせて動き、衣装に付けられた鈴が綺麗な音を立てる。

 その場にいるほぼ全員が見惚れ、熱い溜め息を吐く。

 そんな中、俺とベニバナは交渉を開始した。


「綺麗な舞だな」

「ええ。我が国自慢のセイリュウによる舞です。あの方は素晴らしい舞を踊るのですが、普段こういった場所では踊ってくれません。ですが、皆様のために無理を言って出てもらいました。特別なんですよ?」

「そうなのか。やっぱり引け目は感じているんだな」


 ベニバナは少し肩を揺らしたが、表情は崩さなかった。


「はい。今回は私共の伝達のミスによってご迷惑をお掛けしてしまい、本当に申し訳なく思っております。何か償いとして出来るとこはありますか?」


 ふむ。割と直接的に聞いてきたな。技術を教えてくれる大工が欲しかっただけだが、ついでに他にも言ってみるか。


「そうだな。森の中に俺たちが住む村があるんだが、そこに建物を立ててくれないか?実は屋敷一つ以外全部間に合わせの小屋なんだ。資材も提供して欲しい。」

「村の規模はどれほどで?」

「二百人程だ。出来れば屋敷を使わずとも全員住めるようにしたい。ついでに内の奴に建築技術を教えてくれると嬉しい」

「では、我が国の大工を二十人程。資材は石材を幾らか提供させて頂きます。それで今回の事は許して頂けますでしょうか?」

「ああ。良いぞ」


 かなりすんなりと要求が通った。もしかしてもっと搾り取れたのだろうか?フィアが交渉材料を飯に変えた事を俺もあまり言えないかもしれない。

 まあ、とにかくこれで俺たちの住処を獲得した。これで隙間風も怖く無い。


「ありがとうございます」


 ベニバナが頭を下げてそう言った。

 後ろでは老人が安心したように肩を下ろして息をついていた。緊張があったのだろう。俺もそうだ。

 俺も力を抜いて酒を味わいつつ舞を見た。


 演目が次に和太鼓に変わった。数人の屈強な男が並んび、腹に響くような音を叩き出す。

 それを聞きつつ話をしていると、ベニバナが提案をしてきた。


「そういえばジン様。明後日からこの国で武闘会をするのですが参加しませんか?優勝者には商品も用意しています」

「へ~。どんな大会なんだ?」


 訊いてみると、ベニバナが胸を張って答えた。


「夏に備えて雨が降る事を願う祭りが開催されまして、その祭りでは毎年武闘会が開かれるのです。一般人は予選から募っていますが、本選出場決定者はこの国の四天王と言われる四つの名門流派でそれぞれ名前を襲名した者と、他一名です」


 四天王か。偉く凄そうなのが出てきたな。


「商品は何なんだ?」

「金貨千枚です」


 千枚か……凄いんだろうな。この世界の金銭感覚が無いので良く分からんが。


「予選からですがどうですか?」

「う~ん。そうだな……」


 チラッと後ろを見る。模擬戦大好きルインがいる。たぶんこいつなら喜んで参加する。

 別に急いでいる訳でもないし良いだろう。


「それなら俺らから何人か出させて貰おうかな」

「そうですか!!きっと盛り上がるでしょうね!!」


 パンッと手を合わせて笑顔のベニバナ。嬉しそうである。


「それではしばらくはこの城にお泊まりください。武闘会までは城下町を見て回る事をおすすめします」

「ありがとう。それじゃあしばらくは泊まらせて貰う事にする」


 そう約束した後、宴会は進んで行ってやがて終わった。


「それではお部屋へ案内します。こちらへ」


 そう言ってベニバナの後ろにいた老人に案内されたのは、障子による区切りが中央に一つある広めの部屋だった。

 クロナが安全の為に部屋は一つにするべきだと言ったが、男女別にすべきだろうという考えで仕切りのある部屋となった。


 中に入って座ると皆も座り込んだ。


「楽しかったっすね~。特にあの舞は良かったっす」


 思い出してうっとりとした表情をするルイン。皆も頷いて賛同する。


「一番初めの演目は驚いたな。まさか能力で一瞬であっても気分を高揚させられるとは」


 クロナは少し困ったような顔でそう言った。


「そう言えばセキト。お前話せるのか?」


 流していたが、セキトは声が出ていた。実は話が出来るのかもしれない。


 セキトは俺の質問には答えず、ただ顔を手で覆っている。

 それを見てクロナが代わりに答えてくれた。


「セキトは自分の声が嫌らしくてな。なかなか話さないだけで声は出せる」

「そうなの?でも綺麗な声だったわよ」


 確かに綺麗だった。声だけ聞けば男とは思えない。鈴を転がした様なとても美しい声だった。


「そうだ。使わないと勿体無いぞ?ほら何か言ってみろよ」


 軽く促して見る。だが、首を振って断られた。


「恥ずかしいなら何か好きな言葉ならどう?」

「ああ。いいかもな。それで行こう」


 フィアの提案を実行するべく、俺達はセキトに促してみる。


「ほら、好きな言葉を言ってみるっす」

「何でもいいから言ってみて。ほらほら」

「セキト。長年そのままだったが話せる方が良いぞ。観念しろ」

「何か言ってみろよ。な?」


 全員でセキトを見つめると、急に後ろを向いて逃げた。


「させないぞ?」


 俺はジトカ草と一体化し、素早く蔓をセキトの足に絡ませる。

 するとセキトは勢いで転んだ。その体勢ままズルズルと引き摺ってこちらに寄せる。そして俺が持ち上げて座らせる。


「はい。言ってみようか」


 体を丸めて追い詰められた小動物のように涙目で震えるセキト。ブンブンと首を振る。


「やはり今回もダメか……」


 クロナが大きな溜め息を吐いた。

 恐らく何度か話すようにしようとしたのだろうが、失敗してきたのだろう。


 う~む。何か無いものか……あっ。そうだ。


 俺はホノサウルスの肉を手に取り出し、一体化を変えて熱で肉を焼いた。

 その肉をセキトが見る。


「お前肉好きだよな?お願いできたらやろう」


 手の中で肉をコロコロと転がしながらそう言うと、セキトは何かと戦うように頭を抱えて体を捻っている。

 先ほどまで宴で大量に美味い物を食べたので効果は薄いかと思ったが、ホノサウルスの肉には十分な力があったようだ。

 やがてセキトは顔を俯せて静かになった。そして──


「…………い」

「ん?もしかして何か言ったか?」


 おお。何か言おうとしてるっぽいな。これは行けそうだ。


「頑張れ。言えたらもう一個焼いてやってもいいぞ」


 俺の言葉にセキトは拳に力を込める。そして耳まで赤く染めながら恥ずかしそうに、消え入るような声を絞り出した。


「お……おに、く……を……くだ、さい」


 部屋に静寂が生まれた。それをセキトはまだ足りないと思ったのか、もう一度声を出した。


「おにく、を、ください」


 鈴が鳴り響くような、澄んだ美しい声で。恥ずかしそうに途切れ途切れながらもセキトはそう言った。


 俺はセキトに新しく焼いたものを含めた二つの肉を渡してやり、全員でセキトを褒めてやった。

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