39話 初の同郷
「な、何を言っているのかな~?」
営業スマイルが崩れかけたが、すぐに持ち直した。
反応から見て訊かれたくなかったか。
ほぼ確実に偽名。そして、元の世界で聞いた事の無い芸名。
だから本名が気になって訊いてみた。
訊いてから気付いたけど、称号狙いの偽異世界かもしれないしな。
という訳でさらに突っ込んで訊いてみる。
「元の世界で星月って名字を俺は聞いた事が無い。キラリってのは今時ならあるかもしれないけどな」
たまに凄い名前の奴がいるので、キラリは割と有り得る。だが、名字が星月というのは怪しい。少なくとも俺は前世の内に聞いた覚えが無い。だからあるとしても珍しいと思う。
「えっ?……元の…………っ!!」
何かに気付いたように目を見開くと、バッと音がしそうな程首を一気にベニバナに向ける。
「……キラリ様どうかしましたか?」
不思議そうに首を捻るベニバナ。
「いえ。ちょ~っとこのお客さんをお借りしても?」
「ミクモさんがよろしければ構いませんよ」
「そうですか。では……」
そう言って俺の肩に両手を置いた。そして少し不気味な雰囲気を纏った営業スマイルを向けて小声で言った。
「キラリと二人っきりでお話しましょう。ね?」
最後にウインクまでつけてきた。正直不気味さが増したように感じる。ちょっと怖い。肩とかもギチギチなってる気がする。
これは付いていきたく無いな。
「ここじゃだめなのか?」
「なっ!?」
何故か後退りされた。
「どうした?」
「どうしてヒャッホーとか言わないの!?」
「どうして言わなきゃなんないの!?」
今の不気味な笑顔で喜べとか結構な無茶である。
「キラリ様。恐らく空の黒騎士殿に貴方の能力は聞きませんぞ」
ベニバナの後ろにいた老人がそう言った。
ふむ。つまり俺はいま何かされかけたと。おそらくクロナやセキトだやられた類の物だろう。俺を力ずくで連れて行く気だったとは、更に付いて行きたくないな。
「嘘!!私の【超人気物】を抗拒出来る程の強さなの!?」
驚いた顔で目を泳がせている。
【超人気物】って……。アイドルだからか?まあ頑張ればスーパースターとかルビ振れそうだけどな。
まあ恐らくは俺が元に持っていた【人気者】の上位称号だろう。俺の場合は【畏怖されし者】という恐怖を与える能力へと進化したが、こいつの場合は興奮でも与えているんじゃないだろうか。
例えるなら、俺がお化け屋敷気分を味合わせる能力。こいつはライブ気分を味合わせる能力だろうか。
人を楽しませられる能力とは羨ましい。俺なんて酷いと失禁されるんだぞ、コノヤロー。
「そうでしょうな。正確な実力は分かりませんが、スザクですらどうなるか分かりません」
「えっ!?スザクでも……」
目を丸くして俺を見てくる。足先から角まで念入りに三回程。そして俺の両手を握り、口を開く。
「私のファンクラブに入らない?特別に副会長になれるように手回ししてあげるからそれに──」
「結構です」
遮って断る。
俺は知っている。セールス等は早めに断った方が良いのだ。お隣のお爺ちゃんがそう言ってた。
「どうして!!私凄く可愛いでしょ?」
さも当然のように可愛いって言いやがった。ちょっと引くわー。
いや。まあ可愛いけどね。こう、小動物的な可愛さがある。目の前で見たら、可愛い子だなって普通なら思うレベル。
しかし今、俺は少し普通の感覚が鈍りつつある。
何故かと言えば、俺の周りには美男美女がやたら多い。
この国に来てほぼ確信したが、俺が進化させた奴は顔が良くなる。まあ、俺が関係無くてもそうかもしれ無いが。
ここに来るまでは異世界は美男美女率がやたら高いのかもしれないと思っていたが、そうでは無かった。
この国に入って周りの人々を見てみれば、普通の人が殆どだ。まあ、少しは前の世界より顔の作りが良い奴が多い気もするが。
とにかく、俺の進化はそう言った事も可能。そして俺の配下は全員進化を受けている。
つまりだ。内の配下は差はあれど、全員顔が良い。俺は怖い見た目なのに。羨ましいなコノヤロー。
まあそんな訳で、俺の目の前の奴も内の村に来れば普通扱いされる可能性は高いのだ。
なので今更そこではなびかない。
「まあ可愛いけど内の村に来ると……」
「村一番より弱いって事ね。でも二番目くらいにはなるでしょ?」
「そうだな……」
ふむ。順番か。どうだろう?村全体で投票をしたとしたら、一番は全員一致でフィアだと思う。二番は……う~ん。幹部辺りが行きそうだな。ミュリエルとルインもそこに入るな。
今思えば強い奴はレベル高いな。そこも関係あるかも。
後は名前もよく覚えていない部下たちだが、この中にも結構な美人はいる。この中にも二番争いに入れそうな奴はいたはずだ。となれば……
「二桁は行けると思う」
まあ女の人は内の村に二桁だが。
「二桁!?自分で言うのも恥ずかしいけど結構自信あるのよ!?どんな村よ!!そいつ等連れてきて!!」
ああ。恥ずかしくはあったのね。
「ほら。あそこに三人」
指をフィア、ルイン、クロナに向ける。
「ぐっ!!た、確かに凄い……」
苦虫を噛み潰したような顔で後退る。もう営業スマイル忘れてるな。話し方もぶりっ子っぽいものから変わった気がする。
悔しそうな表情を見た後、俺も目を向ける。
クロナは少し恥ずかしそうに顔を赤くして俯いている。でも尻尾はパタパタしている。恥ずかしいけど嬉しいみたいなものだろう。
フィアとルインはドヤ顔。ちょっとうざい。
そしてその後ろ。セキトもついでに目に入った。尻尾を元気に振りながら凄く美味しそうにご飯を食べている。頬にはご飯粒。そして何故か獣耳にもご飯粒。
わざとなのか?もしも天然ならどうやったんだ?
「ま、まあファンクラブは今のところはファンクラブは諦めるわ。けど、歌と踊りをもっと見て、入りたくなったら来るといいわ」
「分かった。で、名前は?」
逸れた話しを元に戻す。すると片眉だけがピクンと跳ねた。器用だな。
「とりあえず。二人で話しましょう?ね?」
「いや、ここで──」
「ね?」
俺を遮った『ね?』を言う時の顔が一瞬真顔になった。怖い。
仕方無い。ここは聞いてやるか。
「分かった」
「ありがとう!!キラリ嬉しい!!」
という訳で案内されたのは広い一室。どうやら自室らしい。明るい色が多く。ファンシーなぬいぐるみとか多い。
イメージとしては女の子が和室を無理に改造したような感じ。クマのぬいぐるみのかかれた障子とかがその無理を感じさせる。
「一応確認。貴方が住んでいた国は?」
「日本」
「名前は?」
「日本では三雲仁」
「日本食で好きな食べ物は?」
「天ぷら」
「犬も歩けばの続きは?」
「棒に当たる」
全てをほぼ即答で答えた。偽物かもしれないと思ったのだろうが、これで疑いは晴れるだろう。相手も頷いている。
「次は俺からだ」
「どうぞ」
俺も似たような質問をした。どうやら本当に同じ世界の人のようだ。
「こっちに来てから初めて元の世界の人と会ったわ」
「俺もだ」
しばらく俺たちは自分達の事を話し合った。
アイドルを名乗るこの少女。本名を大川京子と言うらしい。漫画みたいな派手な名前を使って見たかったため、この世界でアイドル中はキラリ・ホシヅキで通しているのだとか。
因みにアイドル中はこの名前以外で呼ばれたくなかったらしく、さっきもあの場で本名を言いたく無かったらしい。ちょっと怒られた。
この世界に来た時に手に入れた称号は【異世界人】と【超人気者】だったらしい。
年齢は十六で、元の世界ではアイドルに憧れるだけの隠れオタク高校生だったらしい。しかしこの世界に来て夢が叶ったとか。
能力で人気取って良いのかと思って聞いてみれば、初めは使っていたが、人が増え始めてからはか何か無い限りは使わないようにしているのだとか。力に頼り切りにならないとは偉いな。
この世界には急に光に包まれて来たんだとか。それは家でお茶を飲んでいたら起こったそうだ。俺と違って平和だな。
で、その送られた場所が城の庭の池だったらしく。水の音で気付かれてすぐに保護。そして住み着いたき、アイドルやってると。
俺と全然違うな!!おい!!俺なんて死にかけトリップからの転生。次に結界破壊の為に戦闘の連続だったぞ。
で、次に俺の話をした。口をポカンと開けている。
「あ……あんた凄いわね……」
「自分で言うのも何だが、波瀾万丈だと思う」
そう言って兜を持ち上げて中を見せてやった。京子はギョッとしていた。
「ところでさ。その人形ってお前が作ったの?」
兜を片手で設置しつつもう一方の手で指差す。
そこには人間程の大きなテディベアがあった。だが、所々上手くできていない。目になっている大きなボタンは取れかけ、綿は所々はみ出ている。腹の中央からでている長細い綿は見ようによってはグロい。
「うん。この国じゃ和風の物が多くて、ああいった物が売ってないの。だから作ってみたんだけど、上手く出来ないのよ。私不器用で」
テヘッと舌を出す京子。先程と違って自然である。話し方や仕草や今のような違和感の無い感じの方が俺は好きだ。
「俺が直してやろうか?」
「出来るの?鎧の手で」
「任せとけ。この手での裁縫はもう慣れた。皆を長く待たせるのは悪いから、出来る範囲で直してやるよ」
と言ってから十分ほど。
「凄い!!お店で売ってる物見たい!!」
「ふっ。俺がやる気になればこんなもんだ」
蔓を出して人形を固定。そして縫う時には[覚醒]による身体強化でミシンの如きスピードを出す。
今までは出来なかった技を駆使して作った。うむ。爽快であった。
「ありがとうね」
人形を抱きしめて笑顔をこちらに向ける。
ふむ。自然体の笑顔のほうが営業スマイルよりも随分良い。これなら内の村でも上位陣に割り込むのは十分ありえるのではなかろうか?
「今のお前綺麗だぞ」
「へ?」
キョトンとする京子。少しの間の後、俺は気付いた。パッと出てしまった言葉だったがかなり恥ずかしい。
「ちょっ!!違!!咄嗟に出たんだよ!!その、ナンパとかじゃ無いからな!!」
慌てる俺を見た京子は、少し頬を染めながら小さく笑った。そして笑顔で口を開く。
「そっか。咄嗟の言葉だったんだ。嬉しい。ありがとうね」
俺は恥ずかしいので顔を逸らしながら頷いた。




